第12話 決勝戦
「これから、決勝戦を開始致します!」
闘技場のアナウンサーが開始を告げると、ワァァァァァ! と会場に歓声があがった。大会は一番の盛り上がりをみせている。
「まずは赤コーナーから紹介致します。名はルイス・ギブソン。彼は元、デストリュク王国本部、第六番隊副隊長に君臨していた猛者。今は冒険者として活躍中。素晴らしい剣捌きで決勝まで駒を進めてきた。今大会、優勝候補の一人です!」
「次に白コーナーの紹介。名は夏目凪。無名選手であり、今大会のダークホース。準決勝では苦戦を強いられたものの、決勝まで駒を運ばせた猛者です!」
歓声の煩い声に耳を塞ぎたくなる気持ちを抑え、白コーナーから入場する。正面を見ると、紹介されたルイスが既に立って待っていた。
「おう。誰かと思ったら、バイオレットと一緒にいた奴じゃねぇか」
向かい合った途端、いきなり馴れ馴れしく喋りかけられた。
「ああ」
俺は目を逸らし、適当に促した。正直、苦手なタイプだ。
「まさか、お前もバイオレットを狙っているのか? ははは。だとしたら辞めておけ。実際、俺の方が強いし、顔も俺の方がいい」
「わはははははっ!」
「な、なにがおかしい?」
同調して笑ったら、ルイスの機嫌を損ねてしまう。どうやら、愛想笑いの度合いを誤ってしまったようだ。
「同意したつもりだぞ。どっちが強いかは戦ってみないとわからんが、顔は間違いなく、お前の方がいい。容姿対決ならお前の圧勝だ」
「貴様。俺をバカしているのか!」
褒めたはずなのに、何故かルイスは怒っている。情緒不安定な奴だな。
「それでは試合開始!」
話しの途中で突然、試合開始の合図がかけられた。途端、更にワァァァァァァァ! という歓声が響き渡る。
「先程の愚弄。後悔させてやる!」
ルイスは怒った形相をしている。激おこ状態。これは気を付けなければならんな。
小手先は一切なし。ルイスは真っ向から突っ込んでくる。俺は相手が振る剣先を見ながら避けるも、さすがに全部は避けきれないので、最終的には剣で受け止めた。
「どうした? 挑発してきたわりには大人しいな」
「いや。だから、挑発したつもりはないのだが」
「黙れ! まだ愚弄を続けるつもりか」
ルイスはバックステップし、距離を取ると剣に手を当てた。
「正直、この技は使いたくなかったが、お前の顔を見ているとムカムカする。早めに決着をつけさせてもらうぞ!」
途端、ルイスの剣に赤い炎が纏う。
「フェニックスバスター!」
ルイスがそう叫び、剣を振り下ろすと、炎の塊が俺の方にめがけて飛んでいた。
嘘だろ、飛び道具は禁止じゃないのか?
面食らっている内に炎の塊は俺の体めがけ飛んでくる。
「ミュール」
迷っている暇はない。俺も防御の為、魔法を唱えた。
ミュール。それは防御魔法。バイオレットと修行しているさなか、こっそりアテナに伝授してもらった防御魔法。体の前に緑色の障壁が出来、炎の塊はその壁により消滅した。
「なっ。お前……防御魔法を使えるのか」
俺の防御魔法に面食らうルイス。面食ったのはこっちの方だが。
「審判。確かこの大会、飛び道具は禁止じゃなかったか?」
俺は審判に異議を申し立てる。審判は確かにという顔をし、ルイスに注意しようと目を向けるが「そういうこいつも魔法を使っていただろ」と、審判に減点される前にルイスは言い逃れをする。
「二人共。次、違反行為をしたら減点するからな」
結果、審判は俺とルイス、両方に注意を促す。どうやら同罪扱いにされたようだ。
「手加減はここまでにするぜ」
えっ、今まで手加減してたの? その割にルイスさん、めっちゃ、息はぁはぁしてるんですけど。
ルイスは呼吸を整えた後、両手で剣を持ち、上に剣を構える。
上段の構えか……。
バイオレットには実戦以外にも、剣術の構えについて一折教えてもらった。確か上段の構えは攻撃型の構えになるらしい。この構えを見に付けるには相当な自信と度胸、腕力が必要となるようだ。ともすれば、ここは様子見で防御に徹した方が良いだろう。
俺は剣を両手で構え、逆に相手の攻撃を警戒し、防御体制に備えた。
ルイスは構えた状態のまま、じりじりと歩み寄ってくる。俺は動かず様子を窺った。
そして、お互い剣を振れば、体に当たる距離にまで縮めたところ――。
ルイスが真っ先に剣を振り下ろす。とっさに俺は腕を上げ、剣を受け止めた。
ガツン! と鈍い音が響き、腕にずっしり重みを感じる。
単調な動きの為、最初は軽く捌いてはいたが、段々と手が痺れてくる。その為、最後に振り下ろされたルイスの剣を受け止めた途端、腕が持ち上がり、体勢を崩してしまう。
「もらったぁ!」
一瞬、ガラ空きになった俺の顔めがけ、ルイスは剣を振り下ろすが、俺はその剣を避けて後ろに下がった。
「ふん、命拾いしたな」
ニヤリと笑みを浮かべるルイス。その目は好機に輝いていた。
「なぁ。一つ聞いていいか?」
俺は質問を投げかける。ルイスは不意を付かれたような顔をしたが、また先程と同じような笑みを浮かべた。
「ふん、ここで時間稼ぎか……まあ、いい。なんだ?」
「お前、三年前はバイオレットと同じ部隊にいたんだよな。その時、同じ副隊長だったと聞いているが」
「ああ。それがどうした?」
「いや、さっきからずっと腑に落ちなくてな」
「腑に落ちないだと。どういうことだ?」
俺が言いたい真意がわからず、ルイスは訝しげに眉を顰めていた。
「いや……なんでもない」
無駄な詮索だな。俺は頷き、話しを終わらせると、剣を脇に構えた。
「構えを変えて動揺させる作戦か」
「想像に任せるさ」
ルイスの強さは大体わかった。どんなものか終始、様子を見ていたが、これ以上目新しいものはなさそうだ。色男とはいえ、野郎の顔をずっと見ているのは気分がいいものではない。もう終わりにさせよう。