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ユナイト・ザ・ワールド  作者: 結城智
第1章
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第11話 バイオットの想い

 闘技大会は盛り上がりの中、大会も順調に進んでいった。ちなみにこの大会、武器は剣だけに限られる。殺してはダメのルールなので使う剣も全員、訓練用に使われる木刀使用となっていた。剣術の試合となる為、飛び道具となる魔法も禁止。決着はギブアップか、もしくは相手が戦闘不能になれば試合終了となる。


 一回戦目、二回戦目の試合はほぼ無傷で勝利した。いろんな選手と剣を交えて、俺は改めて実感した。バイオレットが相当、強いということを。


 バイオレットの素早い剣先、体の動きに比べれば、対戦相手のスピードはとても遅く感じた。準決勝こそは多少、苦戦したものの、俺は決勝戦まで勝ち続けた。そして、ルイスという男も口先だけではなかったようで、順当に勝ち続け、決勝まで駒を進めてきた。

 正直、億劫だった。ああゆうタイプ、苦手なんだよな。


「意外にも順調ね。空気の読めない凪なら、二回戦目くらいで負けると思ったわ」

「悪いな。期待に応えらなくて」


 準決勝の後、アテナは激励しに俺のところまで来た。右手にはビール。左手にはビニール袋を腕に掲げ、フランクフルトを食べていた。こいつ、人の気も知らずにめっちゃエンジョイしてやがる。くそ、また腹でも壊さねぇかな。


「そういえば、決勝の相手、確かルイスと言ったわね。そいつ、バイオレットの元彼なの?」

「知らん」

「でも、あの子、処女よ。キスだってまだなんだから」


 そうなの? てか、お前、なんでそんな事、知ってるんだよ?


「元カレかどうかは知らんが、以前職場で一緒だったらしい」

「ふーん。そうなの」


 アテナはフランクフルトをかじり、もぐもぐしながら何か考え事をしているようだった。


「いえね。バイオレットって凄くわかりやすい子だから。凪が勝つと嬉しそうな顔をする反面、ルイスという男が勝つと真っ青な顔をするの」


 ああ、なんとなく想像付くな、その絵面。バイオレットの奴、ルイスという男に相当なトラウマがあるようだしな。


「凪。アテナ。こんなところにいたのか?」


 噂をすればなんとやら。バイオレットが俺達の方に歩み寄って来た。


「凪。決勝進出おめでとう」


 アテナの言う通り、バイオレットの顔色は優れないようだ。


「相手はさっきの奴だな。強いのか?」


 バイオレットが来て早々、俺は質問を投げかけた。実際、奴のことはゲス男である情報以外、なにも知らない。


「ああ、そうか。なにも何も話していなかったな」


 大きな溜息を漏らし、バイオレットは億劫な顔をした。


「三年前、ルイスは六番隊副隊長だった。もっと言えば、その時、私も同じ副隊長だった」

「ということは三年前、バイオレットとルイスは同等の力だったと」

「いや、あの頃、ルイスの方が強かったと思う。それに奴は部下にはあまり好かれていなかったが、上官に媚びるのはうまい奴だったからな。次期、六番隊長はルイスになるはずだった」

「マジか」


 三年前はバイオレットより強かった。もし、ルイスとバイオレットの力が未だ互角、もしくはそれ以上だとしたら正直、勝つのは難しいだろう。俺は猛スピードで力を付けているが、バイオレットの力にはまだ及ばない。


「奴はこの試合でまだ本来の力を見せていないだろう」

「結局のところ、バイオレット。あなた、誰と一緒に行きたいわけ?」


 アテナは腕を組み、面倒臭そうな顔をする。


「……私は騎士だ。この試合で優勝した者と行く」


 目を逸らし、歯切れの悪い口調でバイオレットは答えた。


「私は建前を聞いているんじゃない。あなたの本心を聞いているのだけど?」


 真っ直ぐな目でアテナは問う。それは助けの手を差し伸べているように見えた。


「……私はルイスとは絶対、行きたくない」


 バイオレットは唇を噛み締め、涙目になる。


「あいつ、昔から私のこと嫌らしい目で見て来るんだ。大体、あいつは騎士でありながら、いつも酒場で女とイチャイチャしていた。ちょっと顔がいいからって調子に乗っているようだが、私はああゆう感じの奴は好かんのだ。私は男の顔に拘りはないぞ。結局、一番大事なのは性格だ。私の不器用なところをたまに指摘してくれながらも、最後はありのままの君でいいよと頭を撫でてくれるような……そんな人がいい」


 溜まっているストレスを吐き出すように、バイオレットは喋り出した。聞いてもいない恋愛思考までも。


「それに私は凪とアテナ、二人と旅をしたい。ここでお別れなんて絶対に嫌だ」

恥ずかしそうに上目遣いをするバイオレットに、俺はハッとしてしまった。

「惚れまうやろー」


 我慢できず、俺は叫んでしまった。


「そ、そんな……突然、惚れられても困るぞ。私にも心の準備というものがある」


 冗談を言ったつもりが、バイオレットの赤らんでいた顔が更に赤くなる。


「とにかく、凪。絶対に勝つんだぞ! 負けたら承知しないからな」


 バイオレットは捨て台詞を吐くと、逃げるように去って行った。

 ああ、しまった。失言だ。バイオレットは冗談が通じる相手ではなかったな。


「気を付けなはれや」


 最後、ノリのいいアテナが俺の胸を叩き、ツッコミを入れてくれた。さすがアテナ。アニメの神かと思ったが、お笑いにも適正があったようだ。

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