表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユナイト・ザ・ワールド  作者: 結城智
第1章
12/50

第10話 元同僚

 闘技大会当日。遂にこの日がやってきた。


 参加者は百人満たないというバイオレットの言葉通り、出場者は俺も含めて96名。比べて闘技場はかなり大きい。観客もざっと見て、千人は軽く超えているだろう。


「凄い観客だな」


 俺は出場のエントリーを終えた後、観客の盛り上がりに躊躇した。


「まあ、今日の大会は国の人達からしても、大イベントだからな」


 隣りにいたバイオレットは俺とは対照的に、観客の盛り上がりを楽しんでいるように見えた。さすが隊長。肝が座っている。


「大イベントの割りに参加人数が少なくないか?」


 これだけの盛り上がりを見せる大会なら、もっと参加者が集いそうな気がするが。


「この大会の優勝者は魔族国に行かなければならない。賞金が出て、はい終了とはならないからな」

「魔族ってそんな危険なのか?」

「以前も話したが、力こそ強大ではあるが、無益な争いは嫌う種族だ。しかし、それを知っているのはごく一部の人間だけ。実際、市民には凶悪な種族という、なんの根拠もない噂が流れてしまっている。残念だが、種族が異なるというだけで人は色眼鏡で見てしまうのだな。だから、この大会に出場する者は危険を顧みず挑む勇気ある者か、自分の力を過大評価しているバカな奴。どちらかになるだろう」


 成程。確かに賞金は金貨500枚と高額だが、支払いは交渉を終えた後の後払いになる。魔族国に行って、命の危機を感じる者も多いだろう。


「ま、精々頑張ってくれ。凪なら結構、いい線いくと思うぞ」


 さらりとした口調でバイオレットは言う。完全に他人事だな。


「優勝は厳しいか」

「うーん、なんとも言えないな。出場者がどんな奴等かはわからない以上は」


 ずいぶん、淡白な回答だな。


「バイオレットは俺と一緒に旅したくないの?」


 俺ってもしかして嫌われてる? そう思い、直球で尋ねてみた。


「なっ、馬鹿か! 私は騎士として同行するのだぞ。別に凪である必要はない。この試合に優勝した猛者であれば、誰であっても構わない」


 バイオレットは、ふざけるな。という口振りだ。なんだよ、釣れない奴だな。


「あれ、バイオレットじゃないか」


 二人で言い合いをしていると、離れた位置から声が聞こえてきた。視線を移すと、顔立ちが整ったイケメンが立っていた。

 バイオレットと同い年くらいだろうか。服装から見るに冒険者。筋肉質な体をしており、腰には剣を差している。


「ルイス! 何故、貴様がここに?」


 バイオレットは動揺した声を漏らし、後退りする。


「なんだよ、三年振りだって言うのにずいぶん釣れないな。昔、一緒に汗を流した仲じゃないか」


 ルイスと呼ばれた男は笑みを浮かべ、バイオレットの肩に触れた。


「馴れ馴れしく触るな! 貴様、のうのうと私の前で顔を出せたものだな」


 触れられた肩の手を振り払うと、バイオレットは不愉快な顔を露骨にする。

 なんだ、一体。いきなり険悪ムードになったな。元カレの登場か? あれ、でもバイオレットって処女じゃなかったっけ?


「仕方ないだろ。あのまま騎士を続けていても、きついだけで大した金にもならなかったし。冒険者になった方が稼げるってわかったんだよ」

「金だと。貴様、騎士としての誇りはなかったのか」

「バイオレット。お前、隊長にまで昇格したのに、まだそんな感じなのかよ。いい加減、大人になれよな。でも、俺が抜けて良かったじゃん。俺があのまま部隊に残っていたら、今お前は隊長じゃなかったかもよ?」


 ルイスが嫌らしい笑みを浮かべると、バイオレットは苦虫を嚙み潰したような顔をした。


「まあ、仲良くしようぜ。今回、魔族フリーデンに行く騎士はお前だって聞いている。これから一緒に旅をするんだからよ」

「ちょっと待て。貴様、まさかこの試合に出場するのか?」

「ああ、そうだ。今の魔族はかなり友好的であると聞いている。そいつら相手に交渉して、帰ってくるなんて余裕だろ。その後は金貨500枚。一年は仕事しないで済みそうだ。それに性格はどうあれ、お前と二人旅。悪いくない仕事だ」


 凄いな、こいつ。この二、三分の会話でここまで自分をゲス野郎です、ってアピール出来るなんて。ある意味、才能かもしれんぞ。


「それに俺だって遊んでたわけじゃない。冒険者として三年間やってきたんだ。精々、強くなった俺を見ていてくれ」


 そう言って、ルイスという男は横にいた俺には目もくれず、その場を去って行った。


「元彼か?」

「そんなわけあるか!」


 冗談のつもりが、結構ガチな顔で怒られた。どうやら奴との溝は深いらしい。


「悪い、凪。少し気分が悪くなった。その、試合頑張ってくれ」


 バイオレットの額には汗が滲んでおり、顔色も真っ青になっていた。

大丈夫か。と、声をかける前に、バイオレットはそのまま、フラフラと背を向けて去って行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ