第8話 第1回発表会・前編
更新が年単位で滞っており大変失礼しました。楽しんでいただければ幸いです。
第1の問題解決にむけてアイデアが閃いたルイン。早速それを元にしたテストを行う事になったのだが、ひょんなことから、ルインやエリカの両親たちに対して彼らの開発の成果を発表する事になった。そして準備が整ったために、ルインたちは彼らが生み出したゴーレムの発表会をすることになったのだった。
今、ルインたちがゴーレム開発のために借りていた試験場の一角に無数の人間が集まっていた。
用意されている仮設のテントの下、同じく用意された椅子に座っているのはルインやエリカの両親、つまりマックス達だ。さらに傍には給仕のためのメイドも待機しており、傍にはテーブルが用意されお茶まである。
そしてそんなテントにいる彼らの視線の先には、動きやすい恰好のルインとエリカが立っていた。少し離れた所からそれを見守っているレトシアとメリル。
「え~おほんっ」
やがて、ルインがわざとらしい咳払いを一つすると、みんなの視線が彼に集まる。それによって一瞬委縮するルインだったが、すぐに目を閉じ、『スゥ、ハァ』と深呼吸をして、改めてマックス達の方へと視線を向けた。
「それでは皆様、本日は私とエリカさんの、ゴーレム開発の成果発表を始めたいと思います」
『『『『パチパチパチ』』』』
すると、マックスや傍に控えていた執事たちから小さな拍手の音が響き渡り、驚きながらもルインは咄嗟に一礼をする。
「まずは、今回の発表の概要を説明させていただきます。第1に説明するのは、『そもそもゴーレムを強化する理由』です。第2に説明するのが『我々がどのような強化案を思いついたのか』。第3の説明は、実際に強化したゴーレムを交えて『強化案によって、既存のゴーレムがどのように進化したのか』。以上の3点を今回の発表のメインとさせていただきます。現時点で、何か質問などがありましたら、挙手を願います」
ルインがそういって周囲を見回すが、誰も挙手する事なく、彼の話の次を待っている。
「では、まずは第1の説明を始めさせていただきます。なお、適宜質問がある方はその都度、挙手を願います。では、早速説明に入らせていただきます」
彼はそう言って、一度息をつくと、マックス達を真っすぐ見つめながら話し始めた。
「ではまずは、私がゴーレムを強化する理由から説明を始めたいと思います。そもそも私がゴーレムを強化しようと思った理由は、ゴーレムを素体として『ロボット』と言う存在を再現したかったためです」
「ロボット?ねぇあなた。ロボットって何かしら?」
「うぅむ。何だろうねぇ。私もさっぱりだ」
ルインの言葉を聞いたものの、やはりロボットについて知る者はルイン以外には居なかった。リーネがシモンズに問いかけているが、彼も首をかしげるばかりだ。
「念のために、ここで簡単にロボットについて解説させていただきます。私の言うロボットとは、簡単に言えば鉄で出来たゴーレムです。加えて、現在この世界で活躍するゴーレムよりも、より硬く、より速く、より強く、時に強力な武器を持つゴーレム。いわば、今の物よりも数段、いえ。数十段は進化を重ねたゴーレム、とでも言える存在です」
と、ルインが説明をしていると、怪訝そうな表情でシモンズが手を上げた。
「よろしいかな?ルイン様」
「なんでしょうか?」
「ルイン様は今、そのロボットと言う物が、武器を持つとおっしゃいましたね?」
「はい」
確かめるような彼の言葉に、ルインは迷わず頷く。
「では、それはつまり、ロボットとは戦闘に用いられる存在、と解釈してよろしいのですかな?」
真剣な表情で問いかけるシモンズ。戦闘に用いるとはすなわち、兵器であるという事だ。
「はい」
「ではルイン様は、私の娘を兵器開発に協力させているという解釈も、間違いではないと?」
「はい」
シモンズが鋭い視線で、もはや睨みつけるように見つめる中でルインは静かに頷いた。娘が兵器、もっと言えば人を殺すかもしれない道具の開発に関わっている、ともなれば父親として彼の態度も当然だ。しかしルインは、冷静な態度を崩さない。
「ですがシモンズ様。言い訳のように聞こえるかもしれませんが、私の話をお聞きください」
「話、ですかな?」
「はい。俺がエリカさんと開発を進めるであろうロボットは、確かに扱い方を間違えれば、戦争で使われる兵器にもなりえます。それほどのパワーがあるのです」
彼の言葉に、シモンズは眉を顰め、傍にいたマックス達も緊張した面持ちで彼とルインの話を見守っていた。
「しかし、私はロボットを戦争の道具にするつもりはさらさらありません」
「……仮に、ルイン様にその意思があったとしても。例えば邪な考えを持つ者が、ルイン様や娘のエリカが生み出したそのロボットのパワーを知った場合は、どうなさるおつもりですか?例えば、この国の軍の人間などです。軍の中には他国との戦争に積極的な輩もいると聞きます。万が一にでも、そのような連中にロボットの存在を知られれば……」
「えぇ。十中八九、ロボットの開発データなどを寄越せと迫ってくるでしょう。ですが、私にはそれを渡すつもりなどありません。いざとなれば、最悪の場合として研究データを抹消し、私もこの国を去ります」
「「「ッ!!!????」」」
彼の言葉に、ルインの両親やマリル、エリカやレトシアが息をのみ、表情を驚愕の色で染めた。マックス達など、今にも声を荒らげそうだったが、今はルインとシモンズが話しているからか、ぐっと声を堪えた様子だ。
「ルイン様。それは、本気なのですか?」
シモンズも、今の言葉には少し驚き、問い返した。
「えぇ。本気です。……もちろん、最悪の場合の最終手段ですが。しかしそうなってしまった場合、すべての責任があるのは私です」
ルインは、シモンズを真っすぐ見つめながら答えた。誰の目にも、ルインの言葉が『本気』なのは今の彼の表情を見れば分かる事だった。 そこまで言うと、彼は一度息をついて、マックス達を見回す。
「皆さん。今回の発表には含まれていませんでしたが、私の持つロボットに対する『思い』を、ここで話す事をお許しください」
ルインは、両親やシモンズとその妻、更に自分の傍にいるエリカなど、一人一人の顔を見ながら話し始めた。
「私の持つロボットへの思いは、趣味から来ています。初めてその存在を知った時、胸を躍らせたのを今でも覚えています。だからこそ、それを生み出したい。そのためなら努力を惜しまないつもりです。ですが、だからと言ってロボットを『兵器』として、『戦争の道具』として扱おう、またはそんな事のために量産しようなどとは微塵も考えておりませんっ」
皆、静かにルインの言葉に聞き入っていた。そんな中で彼は自分の思いを声に出して伝える。
「確かに、俺の考えているロボットは、兵器として十分なスペックを備えるかもしれません。ですが、それはロボットの『一側面』であって『本質』ではありません」
「ロボットの、本質?」
彼の言葉に、傍にいたエリカが首をかしげながらぽつりと呟いた。
「ロボットの本質。それは『人に寄り添いその力になる事』、です」
「どういうことなのですか?ルイン様」
彼の言う事がいまいち分からない、と言わんばかりの表情を浮かべたシモンズがそう問い返す。
「ロボットとは、鉄で出来た体の中に人を収め、中から人がロボットを操作するタイプもあれば、遠距離から操作するロボットもあります。他には自らの意思のような物、自我のような物を持ち、人をサポートする物もあります。彼らはいつだって、人に寄り添い、人の力になる存在なのです」
「成程。しかし具体的にはどのような?」
「例えば、人が立ち入るのが困難な場所での作業などです。中に人を乗せて作業する事で、中の乗り手、『パイロット』を様々な危険から守る事も出来ます。他にも、自立式のロボットであれば人の指示を聞き、これを補助するのです。具体的に言えば、高齢者への介護の補助や、人手が特に必要な場合、その数の不足を補う存在としても有効活用が出来るでしょう」
「ふむ。つまり、ルイン様がおっしゃりたい事とは、『ロボットが我々人間の生活をより豊かにする』。そういった類の事でよろしいのですかな?」
「そう取ってもらって構いません。そして、それこそが私の、俺の目指すロボットです」
「例えそうだとして、ルイン様の目指す未来は、どのような物なのですか?」
「……まだ、明確な未来のビジョンがあるわけではありません」
少し、迷っているような表情を浮かべながらルインはそういって話し始めた。
「それでも、先ほども言ったように戦争の道具を作るつもりはありません。正直、戦うためのロボット開発のビジョンが無いわけではありません。ですが、それはあくまでも『守るための力』です。戦争の道具ではなく、『人々の生活を守るための力あるロボット』です。俺の目指すロボットは、人々の生活を豊かにするための存在です。その目的をメインにして、ロボットを開発していくつもりです」
彼は、シモンズを真っすぐ見つめながらその言葉を口にした。しばし、真正面から視線を交差させるルインとシモンズ。やがて……。
「分かりました」
シモンズが静かに口を開いた。
「ッ、それは、つまり……?」
「今のルイン様を見ていれば、金などに目がくらんで兵器開発をするような男ではないと分かります」
そう言うと、彼は息をついて鋭かった表情を柔らかな物へと変えていった。
「誠に申し訳ない。些か、意地の悪い事を聞いてしまいましたな」
「いえ。お気になさらず。シモンズ様の危惧も、ごもっともです」
柔らかな表情に、ルインも息をつきつつそう答えた。
「ルイン様」
そこへ、レトシアが近づいてきて彼に耳打ちをした。
「幸いお父様の了承も得られましたし、発表に戻りましょう」
「はい、分かりました。では、改めて。んんっ」
気分を切り替えようと、咳払いをしてからルインは改めて、観客であるマックス達へと向き直った。
「さて、いろいろ話がそれてしまいましたが、発表に戻りたいと思います。まず先ほども軽く触れた第1の説明。なぜゴーレムを強化するのか、と言う物ですが。これは単純な理由です。まず、ゴーレムでロボットを再現しようとすると、あらゆる物が不足しているからです。稼働時間、パワー、機動性、防御力。文字通り、あらゆる物が不足しているのです。だからこそ、ロボット開発にはゴーレムに関する『技術革新』が必要でした」
「一つ良いかな、ルイン?」
「なんでしょうか父様」
すると、話を聞いていたマックスが手を上げた。
「ゴーレムを元にしてロボットを作る、と言うのは分かった。しかし具体的にはどれほどの強化をするつもりなんだい?」
「そうですね」
彼の言葉に、ルインは口元に手を当て、しばし思案した。そして数秒後。
「現在のゴーレムの値を1や2とするのなら、私の満足するゴーレムは精々100か150と言った所でしょう」
「ひゃっ!?ほ、本当なのかい?」
その値が予想外だったのか、マックスは素っ頓狂な声を上げて驚いた様子だった。
「えぇ。正直、今回私たちが披露するゴーレムでさえロボットには程遠い物です。今後も適宜改良と改造を加えていく予定です」
「ず、随分と根気のいる夢になりそうだね」
「そうですわね、あなた。ルインが、そんな大きな夢を追うなんて……」
マックスはルインの言葉を聞き、苦笑を浮かべている。隣にいるアリシアも、どこかルインを心配している様子だ。
「とりあえず、今の質問の答えにはなりましたか?父様」
「あぁ。大丈夫だよ、ありがとうルイン」
「では、続いて第2の説明、『我々がどのような強化案を思いついたか』、これについて説明していきますが、その前に事前情報として現在のゴーレムが抱えている問題について、軽くお話しておきたいと思います」
マックスの言葉を聞くと、ルインはこくりと頷いて解説に戻った。
「また、ここからは私にご協力いただいているエリカ様と、レトシア先生にもご協力をお願いしております。お二人には、より皆さんに分かりやすく説明を聞いていただくため、魔法を用いた実演をしていただきます」
ルインがそういうと、近くに控えていたレトシアと、恥ずかしそうに頬を赤く染め、俯き気味のエリカが彼の傍に歩み寄る。二人が揃ってマックス達にお辞儀したのを確認すると、ルインも視線を前へと戻した。
「では、改めて説明に戻ります。まずゴーレムが現在抱えている問題ですが、土で出来たダート・ゴーレムであれば『強度』。逆に岩石で出来たロック・ゴーレムであれば『柔軟性』にそれぞれ問題を抱えています。と、折角ですのでここで実演したいと思います。エリカさん、お願いします」
「は、はいっ」
ルインの言葉を聞き、エリカは緊張した面持ちながらも、ポケットから魔石を取り出した。取り出した魔石に集中し、数秒もすれば魔石から光が放たれる。魔石がエリカとリンクした証だ。エリカはそれを地面に置くと数歩下がる。
「い、『出でよ、大いなる土の巨人。我が駒となりてその屈強な四肢で、敵を叩き潰せ。≪ゴーレム・クリエイト≫』ッ」
彼女は少し緊張した様子ながらも、魔法を発動。魔石を核として4メートルほどの大きさのダート・ゴーレムを作り上げた。
更に彼女は慣れた様子で魔糸を接続し、のっぺらぼうだった顔に単眼のように光がともる。
「さて、エリカさんに作っていただいたゴーレムはダート・ゴーレム。つまり土などを固めて作ったゴーレムとなります。ダート・ゴーレムのメリットはずばり、人に近い柔軟な動きが出来る事です。エリカさん」
「は、はいっ」
「試しに俺が今から色々ポーズをしますので、ゴーレムでそれを真似てください」
「わ、分かりましたっ」
緊張した様子で少し声を震わせるエリカを後目に、ルインはまず片手を上に突き上げた。すると、少し遅れてダート・ゴーレムが同じように片手を突き上げる。
それからルインは更に、ファイティングポーズや、サムズアップ。腕を回すと言った行為を行い、ゴーレムもそれを真似て手足を動かす。
「さて、今見ていただきましたが、ダート・ゴーレムの持つメリット。それは柔軟さです。今私のポーズを真似たように人に近い動きが可能と言う事です。無論、今のままでは人ほど俊敏に動く事は出来ませんが、この柔軟さはロック・ゴーレムには無い強みです」
ルインはそこで言葉を区切ると今度はレトシア、エリカの順に目くばせをした。二人はそれぞれ頷くと、エリカはダート・ゴーレムと共に少し脇に避ける。エリカと立ち位置を変わるように、今度はレトシアがルインの傍へ移動する。
「では、次にロック・ゴーレムをお見せしましょう。レトシア先生、お願いします」
「分かりました」
彼女は笑みを浮かべながら頷き、数歩前に出ると魔石を取り出した。
「『出でよ、大いなる土の巨人。我が駒となりてその屈強な四肢で、敵を叩き潰せ。≪ゴーレム・クリエイト≫』」
詠唱と共に魔石を地面に落とす。するとエリカの時と同じように魔石を核としてゴーレムが組みあがっていく。唯一の違いはその体を構成するのが土ではなく岩石だという事だ。完成したロック・ゴーレムに魔糸を通してレトシアが繋がり、その顔部分に光がともる。
「こちらがロック・ゴーレム。岩石で出来たゴーレムとなります。こちらのメリットは、何よりも材質が岩である事を生かした鉄壁と言っても過言ではない防御力です」
そう話すとルインはエリカとレトシアに目くばせをする。二人は頷くと、エリカのダート・ゴーレムがレトシアのロック・ゴーレムの隣までのしのしと足音を響かせながらゆっくりと歩み寄り並んだ。
「改めてまとめさせていただくと、ダート・ゴーレムの持つメリットはその肉体の柔軟性。一方のロック・ゴーレムは高い防御力を持ちます。が、双方にはそれぞれ欠点があります。それを今から説明させていただきます」
ルインは視線をマックス達からダート・ゴーレムへと変え、その巨体を肩越しに振り返りながら見上げている。
「ダート・ゴーレムの体を構成しているのは、一言で言って土です。ですので強度の面ではロック・ゴーレムには及びません。しかし一方のロック・ゴーレムは、全身が岩であるためまともに動く事が出来ません。レトシア先生」
「はい」
「何でもいいので、ロック・ゴーレムを少しでも動かしてみて下さい」
「分かりました。では……」
レトシアはロック・ゴーレムの方に手を向けた。すると思念操作を受けてロック・ゴーレムが動き出したのだが……。動く度にロック・ゴーレムの全身から岩に亀裂が走り、割れたような粉砕音が断続的に響き渡る。
「ありがとうございますレトシア先生。ここまでで大丈夫です」
「はい」
ルインが声を掛けると、彼女が頷きゴーレムの動きが止まる。
「今ご覧になった通り、このロック・ゴーレムは防御力こそ高いものの、全身が岩石で構成されているためまともに動くことが出来ない、と言う欠点を持ちます。そしてこの欠点は、柔軟に動く事が出来る反面強度に不安があるという、ダート・ゴーレムと対照的な欠点でもあります」
そこで言葉を一旦区切り、ルインはマックス達を見回す。が、誰も特に質問は無いようだ。静かに彼の話を聞いていた。
「さて、この2種類のゴーレムの弱点が分かった事ですし、次なる説明。つまり『我々がどのような強化案を思いついたのか』、と言う所について説明をしていきたいと思います。まず最初にですが、この2種類のゴーレムの問題を解決しようとしたのは私やエリカさんだけではありません。多くの人々が解決を試みて挑戦し、失敗してきました。そんな中で私たちがたどり着いたのは、『とある案に改良を加える』と言う答えでした」
と、ルインが説明しているとマックスが手を上げた。
「お父様、何か?」
「あぁ。そのとある案、と言うのに興味があってね。説明をお願いしても?」
「もちろんです」
ルインは静かに頷き答える。
「今まさに話したとある案ですが。その内容は各部に球体の関節を設置する、と言う物でした。見ての通りロック・ゴーレムには関節と呼べる物がありません。それゆえにまともに動けないのです。その問題を解決するため、過去にとある人物が人間の関節を模して、肩や肘、手首、腰、膝、足首などに球体関節を設置してゴーレムを作ろうとしました。この試み自体は成功したのですが、一つだけ大きなデメリットがあったのです」
「デメリット、と言うと?」
ルインの説明にアリシアが首をかしげている。
「それはずばり、稼働時間の極端な低下です。ゴーレムを動かすエネルギーは、生成時にコアとなる魔石です。ゴーレムはそこから魔力を抽出し動力源としていますが、球体関節にはとあるデメリットがあったのです。それは、関節などの接続に魔力を使用しなければならない、と言う事です。全体が岩石で構成され、文字通り全てが一体化している通常のロック・ゴーレムと異なり、球体関節式はそれぞれが一つのパーツとなっており、各パーツを接続しそれを維持するには魔力が必要なのです」
と、そこまで長々と説明してからルインは一度息をついた。
「結果、球体関節式のロック・ゴーレムでは魔力の消費量が尋常ではなく、物の数分で魔石の魔力を使い果たしてしまう程に燃費が悪かったのです。そして、ここからが本題ですが、私たちはこの球体関節式の問題点を解決する方法を発見することが出来ました。それが第2の説明、『私たちが考え付いた強化案』と言う訳です。そしてこれからは第3の説明を、その強化案が生み出した新型ゴーレムを交えながらしていきたいと思います」
ルインはそう言うと、近くにあったテーブルへと歩み寄り、その上に置かれていた無数の魔石を手で掬う。その数、14個。
「あれは魔石?しかもあんな大量に?」
その光景にシモンズは首をかしげていた。ゴーレムを作るというのに、あの数の魔石を使うのか?と。
ルインは魔石を掬うと元の立ち位置へと戻った。彼は数回深呼吸をしてから目を閉じた。すると、掌の上に盛られていた魔石が次々と光を帯び始めた。これはつまり、ルインと魔石が契約しているという事だ。
「なんとっ!?まさかあれだけの数の魔石と同時に接続をっ!?」
その姿に驚いたのか、シモンズが声を上げている。その傍ではマックスやアリシア達も、声こそ上げていないものの驚き目を見開いていた。
すべての魔石と接続したルインは、次いで掌を開くようにして、全ての魔石を大地の上へと落下させた。
「『出でよ、大いなる土の巨人。我が駒となりてその屈強な四肢で、敵を叩き潰せ。≪ゴーレム・クリエイト≫』ッ!!」
高らかに叫ぶルイン。するとその声に答えるように、地面に散らばった魔石たちが浮かび上がり、まずその表面を覆うように岩石が現れ、やがて球体となった。その球体の数は13個。だが変化は止まらない。
次いで球体が岩石を取り込みそこから手足が生えるように生成されていく。そして生成されたパーツ同士が合体し、最後にコアとなる魔石を取り込んだ胴体に接続されていく。そうして出来上がったのは、傍に立っているダート・ゴーレムやロック・ゴーレムより見た目が異なっていた。
ロック・ゴーレムと同じ材質ながらも、各部は流線形で形作られている。ごつごつとしたロック・ゴーレムとは対照的に、シャープな印象を見る者に抱かせた。更にその体つきは他のゴーレムよりも人間に近い形をしていた。
「おぉっ!これがっ!」
「えぇ。そうですシモンズ様。これが俺とエリカさんやレトシア先生の協力を得て生み出した全く新しいゴーレム。球体関節を各部に搭載した、今後俺が生み出していくであろうロボットのひな型となる存在。『マシンゴーレムシリーズ』の第0号機、『MG-0』ですっ!」
ルインは高らかに宣言するように、満面の笑みを浮かべながら叫んだ。それはまるで、新たな存在の誕生を祝福するかのように。
第8話 END
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