第6話 第1の問題解決にむけて
楽しんで頂ければ幸いです。
ゴーレムを改良しロボットを作る為、ルインは最初の協力者を求めてレトシアの妹、エリカを頼った。男性に関してトラウマがあったエリカだったが、ルインの言葉を聞き、彼に協力する事を決めたのだった。
握手を交したエリカとルイン。
が、直後。
「る、ルイン様っ!とりあえず座って下さいっ!」
「うぉっ!?何だよメリルッ、引っ張るなってっ」
立っていたルインの袖を引っ張り、少々強引に椅子に座らせるメリル。
「ど、どうしたんだよ?」
「どうした、ではありませんルイン様っ!今の言葉使い、旦那様達が聞かれたら卒倒してしまいますよっ!?」
「え?……あっ!やっばっ!」
メリルに窘められ、ルインは先ほどの自分の口調を思い出す。
それはどう考えても貴族男児の言葉使いではなかった。
「す、すみません先ほどは失礼をっ!好きな事となると、どうしても口調が素に戻ってしまってっ!」
ルインは顔を赤くしながらエリカに頭を下げた。
「い、いえ。どうかお気になさらず。む、むしろその、とても男気があって、あぅ」
「ん?」
エリカは顔を赤くしながら話すが、恥ずかしいのか後半の言葉は声が小さく、ルインは聞き取ることが出来なかった。
「んんっ!」
その時レトシアが咳払いをして皆の注目を集めた。
「ルイン様。今日ここへ来たのは話し合いの為ですが、まぁとりあえずルイン様と妹のエリカの協力態勢が出来た、と言う事でよろしいのですね?」
「あっ、はいっ。こちらはそのつもりですけど。……良いですよね?エリカさん」
「は、はい。これからは、一緒に、ゴーレム開発を、していくつもり、です」
「分かりました。……それでルイン様?他に何か、話す事はありますか?」
「あ~~えっと。そうですね~。……あっ、そうだ。今後一緒に開発していく訳ですけど、場所はどうしましょうか?」
「と、言うと?」
ルインの言葉にエリカが首をかしげる。
「ほら、ゴーレムを開発するにしたって、動かして試せる環境は必要じゃないですか。となるとある程度広い場所とかは必要ですし。幸い私の家なら裏庭とか十分なスペースがあるので問題無いのですが、エリカさんの都合もありますから」
「そ、そう、ですね」
ルインの言葉にしばし、う~んと小声で唸るエリカ。やがて……。
「じ、じゃあ、ルイン様。もし良ければ、我が家の試験場を使いません、か?」
「え?試験場、とは?」
「じ、実は私、お父様に頼んで、ゴーレムを作ったり出来る場所を、作って貰ったんです。そこなら、ゴーレムを作るのに丁度良い岩や鉱物とか、色々ありますから。ど、どう、ですか?」
と、彼女が問いかけると……。
「是非っ!是非使わせて下さいっ!」
目をキラキラと輝かせながら、ルインがエリカの両手を取った。
「ふぇっ!?」
いきなり異性に手を握られ、エリカは顔を真っ赤にする。しかもルインの顔が目の前にあるのだ。彼女の心臓はドキドキと高鳴り、顔はトマトのように赤くなる。
「あ、あのっ、ルイン、様?」
「ルイン様っ!」
「ぐえっ!?」
戸惑うエリカだったが、その時マリルがルインの襟首を掴んで引っ張り彼女からルインを引き剥がした。
「いきなり女性の手を取るなんてっ!失礼ですよっ!」
「わ、分かったから手を離しっ、ぐえぇぇ首閉まるぅっ!?」
数秒してルインから手を離すマリル。
「げほげほっ!ま、マリルさん?一応俺、君の主なんですけど?何か扱いヒドない?」
「ここ最近、ルイン様はゴーレム関係となると暴走する癖があるのは旦那様も奥様もご存じでしたので。もし暴走してエリカ様などに失礼があった場合は、力尽くで止めて良いとお二人から許可を貰っておりますので」
そう言って『フンスッ』を荒い鼻息を漏らすマリル。
「たはは、二人には敵わねぇなぁ」
苦笑を浮かべながら椅子に座り直すルイン。
「あ、あのっ」
そこに声を掛けるエリカ。すると皆の視線が集まり、彼女は恥ずかしそうに俯きながらも話す。
「そ、それでその、実験とかは私の家の、庭という事で、良いんです、か?」
「えぇもちろん。俺の家よりも設備が整っているのなら願ったり叶ったりです。……あっ、でも使わせて貰うんだから何か変わりに提供した方が良いですか?お金とか魔石、後は何か物資とか」
「え、えと、そ、そう言うのは大丈夫、です。……私も、私の意思で、ルイン様に協力したいので」
「そうですか。そう言って貰えると助かります」
そう言ってルインは嬉しそうに笑みを浮かべる。しかしそれを目にしたエリカが微かに頬を染めている。
「それでルイン様。この後はどうされますか?もう少しエリカ様とお話しでも?」
「いや。流石に今日はもうこれで失礼させて貰うつもりだよ」
「え?よろしいのですか?」
マリルの言葉にルインは答えたが、それが予想外だったのかレトシアが問い返す。
「えぇまぁ。今日の目的はあくまでもエリカさんに協力して貰えるよう承諾を貰う事でしたから。それにいきなり話すにしても準備とかありますし」
「でもよろしいのですか?ルイン様はあまり時間を掛けるのはお好きでは無いようですが?」
「そりゃまぁ人生は有限ですから?可能な限り時間は有効活用したいですよ。でもこれから話すったってエリカさんの方が準備も何も出来てないじゃないですか。それに俺だって今日はあくまでも話し合いをして、どうやって説得するかって事ばかり考えてましたから」
「成程。では、今日はもうここまでで良いと?」
「はい。……っと、エリカさんは何かありますか?俺に聞きたい事とか何か?」
「え?え~~っと、う~~ん」
しばし顎に手を当てて考えるエリカ。やがて……。
「え、えと。じゃあ、次にお会いできる日は何時にしますか?」
「そうですね。個人的にはまぁあんまり時間を置きたく無いので、可能であれば明日などどうでしょう?」
「明日ですか?なら、大丈夫です。時間は何時頃?」
「でしたら朝の、そうですね。昼前くらいには一度伺います。それで構いませんか?」
「はい。大丈夫です」
「ありがとうございます。では、今日の所はこれで」
そう言って立ち上がるルインと、彼に続いて同じく立ち上がるマリル。
「では私は馬車を用意させてきます」
更にそう言ってレトシアが立ち上がり部屋を出て行った。それを見送るルイン。しかし彼は何かに気づいたようにエリカの方へと歩み寄る。
「エリカさん」
「はい?」
何だろう?と言わんばかりの表情で彼女は立ち上がり彼と向き合う。
そんな彼女に、ルインは右手を差し出した。
「今日はありがとうございました。話を聞いてくれて。そして、協力者になってくれると言ってくれた事。とても感謝しています。改めてこれから一緒に、よろしくお願いします」
笑みを浮かべる彼の姿を見て、彼の言葉を聞いて、エリカは頬を赤く染め笑みを浮かべながらも彼の手を取り一言。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
こうして、ルインは最初の協力者を見つけたのだった。
その後、ルインとメリルは、見送りという事で同行してくれるレトシアと共に馬車でトレストリア伯爵家へと戻っていった。
そして、その日の夜。トレストリア伯爵家の夜食の場で、ルインは両親にエリカから協力して貰える事を報告した。
「そうか。クリスフォル家のエリカさんから協力をして貰えるようになったんだね」
「はい。正直、断られるかと思って居ましたが何とか」
「それは何よりですわね、あなた」
「あぁ。そうだね」
二人とも、ルインの夢が一歩前進したとあって、我が事のように嬉しそうに笑みを浮かべている。その姿に、ルインも自然と笑みがこぼれた。……しかし。
「あぁ、そう言えばルイン。エリカさんやレトシアさんの前で随分乱暴な口調になっていたそうね?」
『ギクッ!』
母アリシアの言葉にルインの体が強ばる。恐る恐ると言った様子で彼はアリシアに目を向ける。肝心の母アリシアは、困ったような表情を浮かべていた。
「その事についてあなたをとやかく言うつもりは無いのだけど、ルイン。あなたも貴族の子なのですから、言葉使いには気をつけなさいね?乱暴な言葉使いになれてしまうと、つい口から出てしまって、相手を傷付けたり怒らせたりしてしまうかもしれませんよ」
「た、確かに。以後、気をつけます」
母の言葉にも一理有る、と言う事でルインは静かに頭を下げるのだった。
一方その頃、クリスフォル家の邸宅では。
レトシアとエリカ、更に2人の父親であるシモンズと母親の『リーネ・クリスフォル』の4人が食卓を囲っていた。
「エリカ。レトシアから聞いたよ。トレストリア家のルイン様に、協力するらしいね?」
「あ、う、うん」
彼女は父シモンズの言葉に静かに頷く。
「まぁそうなのエリカッ?これは良い事だわっ」
その事が初耳だった母リーネは我が事のように笑みを浮かべながらも驚いている。
「それで?何を協力するのかしら?」
「えと、ルイン様がね。今あるゴーレムよりも、もっと強くてかっこいい、ゴーレムを作るんだって。だから、そのために力を貸して欲しいって、私に」
エリカはあの時の握手と彼の言葉を思いだし、頬を赤く染めながら話す。
「まぁそうなの?ふふっ、良かったわね~エリカ。同じ趣味の人に出会えて」
「う、うん」
「それで?ルイン様、次は何時いらっしゃるの?」
「明日。ゴーレムについて、色々話すしたり、試験場で色々するつもり」
「そう。頑張ってねエリカ。何か手伝える事や、力になれる事があったら何でも言いなさい?良いわね」
「うん」
彼女は母の言葉に、笑みを浮かべながらエリカは頷いた。親であるリーネとシモンズは、娘であるエリカの今後を心配していたのだ。殆ど引きこもりに近かった状況もそうだが、男性に対する苦手意識もどうにかしたいと思って居た。そんな折りにルインと一緒に何かをする、と言う話になったのだ。2人が喜ぶのも自明の理だった。
そうして、翌日。ルインは動きやすい服や自分なりに集めたゴーレム関係の資料と、これまでの実験の結果をまとめたレポートなどを大きな鞄に詰め込み、メリルと共にトレストリア家の馬車でクリスフォル家へと向かった。
屋敷に到着するとすぐに執事のクレトに案内されて、向かった先は屋敷の裏手にある広い場所だった。その近くにあった東屋で、ルインと同じように動きやすい恰好のエリカが待っていた。
「エリカお嬢様、ルイン様をお連れしました」
「あっ、ありがとうクレト。何かあったら呼ぶから、下がって良いよ」
「かしこまりました」
そう言うとクレトは離れていく。残ったのはルインとそのお付きのメリル、そしてエリカの3人だけだ。
「それじゃあルイン様。どうぞ掛けてください。お付きの、えっと。メリルちゃんも」
「はい」
「ありがとうございますエリカ様。失礼いたします」
彼女に促され、2人は丸テーブルを囲む椅子に腰を下ろした。
「さて、じゃあ、えっと、ルイン様?まずは何をしましょう、か?」
「そうですね。とりあえず、俺がこれまで失敗した実験の状況とかをまとめて来たので、それに関してまず話すのと、次はエリカ様から完全なロック・ゴーレム。或いは、金属で出来たゴーレムを作る事に関しての意見を聞きたいんです」
「分かりました。じゃあまずは、ルイン様のお話から」
「はい。まず最初に話すのは、今行った通り俺の失敗のデータです。俺は先日まで、何とかまともに動けるロック・ゴーレムを作ろうとしていました。しかし、失敗しました。まずはその辺りの報告からさせてもらいます」
「分かりました」
彼の言葉に頷くエリカ。
「まず、俺が作ろうとしたのは、ダート・ゴーレムに岩の装甲を纏わせる事でした。これ自体は成功しました。……が、全身岩のロック・ゴーレムに比べれば纏った岩の装甲の厚さはたかが知れてるもの。更に可動域の関係で膝や肘、腕の付け根といった関節部に装甲を廃する事が出来ず、完璧な防御は不可能でした」
「ルイン様の話は、過去にもゴーレム関係の研究者が試した試み、です。ダート・ゴーレムの柔軟性と、ロック・ゴーレムの防御力を合わせようと、したんです。でもどっちも中途半端で。防御力は上がったけど、完全じゃないし。重くなった分、更に機動力も落ちる、から」
「あ~~。やっぱり俺以外にも試してる人居たか~」
納得した様子で言葉を漏らすルイン。
「そ、それに関節とかは脆いままだから、狙われやすいし」
「ですよね~~。って、報告報告っと」
ルインはため息をつきつつも、気持ちを切り替えた。
「その後は、今のアイデアを発展させまて試験を行いました」
「と、言うと?」
「ダート・ゴーレムを人間の骨、もっと言えば生物の骨格に見立て、その骨であるダート・ゴーレムの上から体全体を覆うロック・ゴーレムを被せたんです」
「成程。つまりゴーレムの上にゴーレムを、と言う事ですね?それで、結果は?」
「それが、ダメでした」
エリカの問いかけにルインは苦笑を浮かべながら首を左右に振った。
「さっきの鎧としてダート・ゴーレムに着せたのと、同程度の厚さの岩石を装甲として纏わせるのが関の山でした。それ以上の質量となると、骨格の役割を果たすダート・ゴーレムが装甲の重みに耐えられず、瓦解したり。立っているのがやっとという状態でした。重さもあるため、満足に動く事すら出来なかったのが現状です」
「そうですか。……残念ですね」
「えぇ」
エリカの言葉に、ルインは静かに頷く。
「……結局、俺だけでは問題を解決する事は出来ませんでした。なので、エリカさんに伺いたいんです。現状、最も『ロック・ゴーレムをまともに動かせる術はないか?』と。今の話を踏まえた上で何か知りませんか?」
「う~~ん」
彼の問いかけにエリカはしばし悩んだ。彼女の答えを待つルイン。
やがて……。
「正直、今のところ最もまともな話が、無い訳でもないんです」
「と言うと?」
「少し前にゴーレム関係の研究者の人が発表した物で、ゴーレムの各部に丸い球の形の関節を埋め込むんです」
「つまり球体関節、ですね?」
「はい。本によればイメージ元はデッサン用の木の人形、だそうです」
「成程。……あれ?でもそうなるとどうやって固定するんです?人形の球体関節だって、中で針金とか通して固定してるんですよね?でもロック・ゴーレムなんて体全体が固いんですから、中に針金のような物は通せないんじゃ?」
と、思った疑問を口にするルイン。
「はい。ルイン様の言う通りです。ですからここで、必要になってくるのが、魔力、です」
「え?魔力?何でまた?」
「そもそも、ルイン様はどうしてゴーレムが形を保っているのか、理由は分かりますか?」
「え?いいえ」
「そ、そもそも、ゴーレム研究者の間では、魔力がある種の糊、接着剤のような役割を果たしているのでは?と考える人もいるん、です」
「魔力が、糊?」
「はい。ルイン様、初めてゴーレムを作られた時、様子はどうでしたか?」
「様子?そりゃぁ、初めてなもんでイメージがまとまらず、砂が崩れては引っ付くを少しばかり繰り返しましたけど?」
何故そんな事を?と言わんばかりに首をかしげながら問いかけるルイン。
「では、その引っ付いた砂や土をゴーレムの体に定着させているのは、何ですか?」
「ッ。そっかっ、魔力かっ!」
「そう、です。魔力は、いわばゴーレムの全て、です。形を作る鍵、であり動かす動力でもあるん、です」
「成程。そう言う事かっ」
感心した様子で何度も頷くルイン。
「ゴーレムは魔力によって形作られる。その『形』を支え維持しているのも、また魔力って事ですね?」
「はい。その通り、です。そして、だからこそ球体関節でも、魔力によって、体の各部とゴーレム自身を繋げる事が出来るんです」
「そうかっ、だったら物理的につながってる必要は無いって事かっ」
『イメージとしてはプラモデルの関節に近い。あれみたいに、肩や腰に開いた穴なんかにはめ込む必要は無い。何故なら、例えば肩の関節は魔力を通してゴーレムのボディ、この場合は胴体と繋がっているからだ。見えない糸で関節と体が繋がっていると言えば良いか。……だがこれは、確実に有益な情報だっ!』
「よしっ!これを上手くブラッシュアップさせる事が出来れば、関節の問題はどうにか出来るっ!」
「えぇ。……でも、別の問題があります」
「え?」
喜んだのも束の間、エリカは難しい表情を浮かべる。
「『魔力によって球体関節をゴーレム本体と繋ぐ』、という事は、出来るんです。でも、そうするとゴーレムの稼働時間が、極端に落ちるん、です」
「えっ!?」
一瞬驚いた直後、すぐさまルインは思考を巡らせ、気づき、ガタッと音をさせながら椅子より立ち上がった。
「あっ、もしかして。ゴーレムを召喚している時は、その関節の接続を、もっと言えば繋がりを維持し続けなければいけないから、ですかっ!?」
「そうです。関節を設けた場合、各関節は魔石、或いはゴーレムの召喚者からの魔力供給を受けて、接合状態を維持、します。ですがグレードの低い魔石を使った場合、各関節を維持しながらロック・ゴーレムが動ける時間は、およそ2分、と聞いてます」
「に、2分っ!?たったのっ!?」
「そんなに短いんですかっ!?」
思わぬ数字に、ルインだけではなくメリルまで驚いている。
「それほどまでに、関節の維持には魔力が必要なんです」
「……なんてこった」
戸惑いの色を見せながら、ルインは椅子に座り込む。
「あ、じ、じゃあ魔力を維持するために、大量の魔石をゴーレムに内蔵する、とかどうでしょうか?」
すると話を聞いていたメリルが挙手しながらアイデアを口にする。
「成程。動力源の数を単純に増やす、か。エリカさん、メリルのアイデアはどうです?」
「……悪くはない、んですが、問題があります」
「えっ?」
「問題と言うと?」
戸惑うメリルを一瞥しつつも彼は静かに問いかける。
「今メリルさんが言った事を、前に試した人がいるんです。結果自体は、成功でしたが、大きな問題点があるん、です。それは、エネルギー源である魔石を一か所に集約すると、そこを破壊されただけでゴーレムは機能を停止してしまう事。それと、その状態で魔石を一個でも破壊されると、魔石から漏れ出た魔力に他の魔石が反応。不安定化し、連鎖反応で爆発してしまうそうです」
「ッ」
爆発、という穏やかじゃない単語にルインは息をのんだ。
「……参考までに聞きたいんですが、その爆発の規模って、どれくらいなんですか?」
「私が、本で読んだ限りでは。ランクの低い5個程度の魔石でも、半径5メートルを吹き飛ばし、クレーターを作れる、とありました」
「……危険極まりないですね」
話を聞き、ルインはため息交じりに思った事を口にした。
「えぇ。だから、ゴーレムの一か所に複数の魔石を埋め込むことは、危険だと言われているんです。下手をすると、ゴーレムが一種の爆弾になってしまうので」
「成程」
『確かに、岩の塊が内側から爆発したりしたら、石片が周囲に飛び散る事になる。それもかなりの速度で。……そうなればもう、ゴーレムは歩く手榴弾かクレイモア地雷って所だ。危険極まりない、としか言えないな。どうしたもんか』
「じゃあ他に、何かいいアイデアは無いのですか?」
「無い、訳ではありません」
考え込むルインの傍で話を進めるメリルとエリカ。
「魔石はグレードが高い物ほど、多くの魔力を内包しています。それを使う事が出来れば、稼働時間を延長する、事が出来ますが……」
「それはダメですね。グレードの高い魔石は入手が困難だし、そもそも買うにしても競争相手が多いだろうし金もかかる。とても研究目的で大量に使える物じゃない」
エリカの言葉に彼はそう答えた。
「それなら一体、どうすれば……」
「「……」」
悩み下を向くメリルに、エリカとルインもしばし押し黙った。
が、やがて……。
「エリカさん」
「はい」
「今の状況で、ロック・ゴーレムを柔軟に動かすために、一番可能性がある選択肢は何だと思いますか?忌憚無き意見をお願いします」
「……そう、ですね。一番は、やっぱり関節を用いたゴーレムを生み出す事、です。今のところ、このゴーレムの問題は稼働時間の短さだけ、ですから。『魔石を一か所に集中させない』。『グレードの高い魔石を使わない』。これらの条件を、承知の上で稼働時間を何とか出来れば、ですけど」
「……しかし、かといってこれ以外に道は無さそうなんですよね?」
「はい。ダート・ゴーレムに岩の鎧を着せるのは、妥協案でしかないですし、今のところ他に良いアイデアも、浮かびません」
「結局、やるとしたらロック・ゴーレムの関節回りの改修計画が一番手っ取り早いって事か。さて、どうしたもんか」
エリカの言葉にルインはそう言って息を付き、静かに腕を組み俯いた。
それからという物、ルイン達3人は様々なアイデアを出し合った。例えば、魔石を即座に交換する方法を提案したり。外部から魔力を供給する方法は無いか?と話し合った。
しかし良いアイデアが出ないまま、日が傾いてきた頃。
「ハァ」
ルインは給仕の女性が持ってきてくれたクッキーを手にしたままため息をついた。アイデアがもう出ず、行き詰っていたからだ。視線はクッキーへと向いているが、考え込んでいたせいか、数分は握ったままだったクッキー。
「ルイン様。そろそろお暇しませんか?もうすぐ日が暮れますし、これ以上は……」
「……それもそうだな」
流石にもう帰らなければ家族が心配するだろう、とルインも判断しエリカの言葉に同意した。
『ハァ。……良いアイデアは出なかったか。明日に期待するしかないが、前世込みの知識を持つ俺でも、今日良いアイデアが出なかったんだ。明日良いアイデアが浮かぶ可能性は、低いよなぁ。……畜生っ』
数時間かけても良いアイデアが出なかった事から、内心悪態をつくルイン。そしてそれ故に指先に力が込められ……。
『パキッ』
「あっ、やべっ」
気づいた時には遅く、脆いクッキーは音を立てて割れ、テーブルの上に落ちてしまった。
もちろんルインの声は近くにいた2人にも聞こえていた。2人が彼の方へ向く。
「っと」
ルインは慌てて落ちた方を拾い上げる。
「ルイン様?クッキーを割るなんて、どうされたんですか?」
「いや悪い。考え事してたら指先に力入っちゃってさ」
メリルにそう言いながらも彼は割れたクッキーに視線を向ける。
「まぁ、割れても量とか味は同じだしっ」
そう言って彼は割れたクッキーをまとめて口に放り込んだ。その直後。
「ん?」
もぐもぐと咀嚼していたその時だった。
「ルイン様?」
首をかしげる彼にエリカが気づいて問いかける。
「ごくんっ。……バラバラになっても、味や量は、同じ」
彼はクッキーを飲み込むと、皿の上に残っていたクッキーを2枚、手に取った。
「バラバラになっても、味や量は対して違わない。一か所に集めるのがダメなら、バラバラに、分散させて……。待てよ?だったらいっそ関節その物に……」
クッキーを見つめたままブツブツと何かを呟いている。
「あ、あの?ルイン様?」
それを見かねたエリカが恐る恐る声を掛けると、彼はハッとした様子で我に返った。
「す、すみませんっ、ちょっと考えててっ」
「考えてて、って何を?」
「そりゃもちろんっ、ロック・ゴーレムの関節問題の改良方法ですよっ。俺、アイデアが一つ浮かんだんですっ!」
「「え?」」
アイデアが浮かんだ、という言葉にエリカだけではなくメリルまで驚いて疑問符を漏らす。
「そのアイデア、というのがですねっ!」
それから、ルインは思いついたアイデアを2人に語った。そして今からそのアイデアで実験をしようとしたのだが、流石に遅いからっ、とメリルに言われてしまった為、彼は渋々と言った感じで帰る事に。
結局、彼のアイデアを試す実験は明日以降に持ち越される形となった。
果たしてルインが思いついたアイデアとは、一体?
第6話 END
感想や評価、ブックマーク、いいねなどお待ちしております。やる気に繋がりますので、良ければお願いいたします。