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第4話 ぶち当たるは最初の壁

楽しんで頂ければ幸いです。

テストを受け合格したルインはレトシアからゴーレムについての授業を受けた。彼自身の執念と才能もあってか、殆ど初めてでもゴーレムを作る魔法、≪ゴーレム・クリエイト≫を習得したルインだった。



午前中にレトシアからゴーレムに関する授業を受けてゴーレム・クリエイトを身につけた後、昼食を挟んで午後もゴーレムについて授業を受けたルイン。


そして数時間後の夕食時。

「土のゴーレムじゃ強度が低すぎるな。かといって全身岩のゴーレムじゃ柔軟性0で動くのだって難しいし。まず、最初の課題はゴーレムの改良だな。強度と柔軟性を併せ持ったゴーレムの開発。あぁそれに見た目も考えないとな。ゴーレムの見た目まんまじゃロボットとは言えないし。ハァとなると設計段階で見た目、柔軟性、強度の3つを考慮しないと。いやこの際まずは強度と柔軟性の問題解決が優先か。……しかしゴーレムの操作は、遠隔操作の思考制御って所。個人的にはレバーとペダルなんかの操縦席を期待してたが、まぁそれは今後出来ればって所か。それに武器の開発もなぁ。……ゴーレムサイズのクロスボウ?それじゃあ夢が無いなぁ。ビームライフルとは行かなくても、最低でも単発のキャノン砲は欲しいなぁ。それにスラスターの開発も……」


夕食の席でルインは小声でブツブツと呟きながら目の前にあるメインディッシュのステーキに視線を落としている。


しかしその目にステーキは映って居らず、ブツブツと呟きながらただ下を向くルイン。


「う、う~ん、これはどうしたものか」

これまでとうって変わって集中している様子のルインを見守りながらも戸惑った様子のマックスとアリシア。まともに食事せずブツブツと考え込んでいる10歳児、となれば親としては心配するだろう。


その後、アリシアが注意すると意識を戻して食事を再開したルイン。しかしある程度食べ終わると……。


「すみません父様、母様。俺自室で今後について1人でゆっくり考えたいので。お先に失礼します」

彼はそれだけ言うと足早に部屋を出て行ってしまった。


しかし、何かを考え込んでいるその姿にマックスとアリシアの2人は心配そうな顔をしていた。その時、メリルも主を追って部屋を後にしようとしていた。

「そうだっ。メリル」

それに気づいたマックスが彼女を呼び止めた。

「はい、なんでございましょうか、旦那様」

「メリルは今日ずっとルインと一緒だったな?」

「はい」


「なら教えてくれないか?ルインは今日、どのような感じだった?」

「では、順を追って説明させていただきます」


そう言ってメリルは今日の出来事を話始めた。



~~~~~

時間は遡って、昼食の後。ルインはレトシアからゴーレムについての授業を引き続き受けていた。午後は人間の数倍はある巨大なゴーレムの生成練習と操作練習という事になった。


並々ならぬ執念もあって、すぐさまゴーレム・クリエイトを使い、土のゴーレムや岩石で出来たゴーレムを作り出せるようになったルイン。


彼は早速、二つのゴーレムを好きなように動かしてみた。まずは土から出来たゴーレム、『ダート・ゴーレム』だ。全体が土で出来ているダート・ゴーレムは、動きはのそのそとかなり遅いが人間に近い動きが出来た。


「……遅いですね」

「仕方ありませんよ。ゴーレムは全身が土や岩石で出来た超重量の存在。その超重量を支えた上で速度を上げるのなら、コアである魔石から魔力を取り出してパワーを上げるしかありませんが、それでは燃費が悪く魔石に貯蔵された魔力を瞬く間に使い果たしてしまいます」

「へぇ、魔石でゴーレムのパワーとかを調整出来るんですね?」

「えぇ。ただ先ほども言った通り、一般に流通しているレベルの魔石となると、内部にある魔力量は決して多くはありません。ですから魔力を活動だけではなくパワーにまで回してしまうと……」

「魔石の魔力が尽きてゴーレムを維持出来ない、って事ですね」

「そうです」


しかしその時、ルインはふと疑問に思った。

「あれ?でも魔力が減っていくのなら、召喚者が外から魔石に魔力を供給する事は出来ないんですか?そうすれば、稼働時間の延長が出来ると思いますけど?」

「その点に関して言えば、不可能ではありません。現に、魔力が枯渇したゴーレム内部の魔石に、召喚者などが魔力を送り込んで応急的に稼働時間を延長させると言う技があります。……しかしこれは、あくまでも応急的な物です」

「どういうことですか?」


「魔石には魔力が溜まっていますが、魔石にも許容できる限界があると言う事です。例えば水の入ったコップを思い浮かべて下さい。飲んで水の減ったコップに、外から水をつぎ足せば水が無くなる事はありません。しかし飲んで減少する量と、注ぎ足す量の差があった場合、そして注ぎ足す量が多いと、どうなりますか?」

「コップから水が溢れますよね、そりゃ」

「そうです。そしてそれは魔石も同じ。魔石の許容限界を超えて魔力を注ぐと、魔石が砕け散ってしまうのです。そうなればゴーレムも倒れ本末転倒です」


「成程。だからあくまでも、稼働時間の延長という応急的な技術、なんですね」

「はい。それに、魔力が溢れないように注ぎ足し続けたとしても。魔石も物でありコアとして使用を続ければ劣化します。更に、魔石に魔力を、激しく出し入れする行為を行うと魔石が急激に劣化してしまうと言う研究結果もあります」

「へ~。じゃあ一度作ったゴーレムを何度も使う、ってのも無理ですね」

「そうですね。あぁでも、確かゴーレムの内部にある魔石を交換する術があったはず。私は詳しく覚えては居ませんが、それがあれば、一度作ったゴーレムを繰り返し使うと言うのも不可能ではありません」

「成程」


『ってか、今の話を聞いてると魔石ってバッテリーだよな。スマホとかのバッテリーも、使い続けると劣化して交換が必要になるし』

などと考えつつ、ルインはダート・ゴーレムを動かしていた。やがて、彼は先ほどレトシアがやって見せたように思いっきりダート・ゴーレムに木を殴らせた。


『ドォォォンッ!!!』という大きい音がして、殴られた木の一部がへこみ、無数の葉がヒラヒラと落ちてくる。


威力そのものは、超重量のゴーレムらしいものだった。しかし……。


「脆っ!?」


殴ったダート・ゴーレムの右拳が、もはや原形を留めないレベルで壊れていた。指のいくつが第2関節の辺りからこぼれ落ち、残った指も変な風に変形してしまっている。

「えっ!?脆すぎじゃねっ!?一発殴っただけでこれっ!?」

「仕方ありませんよルイン様。魔力を使って固めたと言っても所詮は土。強度が低いのは仕方ない事です」

「いやでもっ!一発殴ったら壊れるってっ!戦闘じゃ使い物にならないでしょうっ!?」


「それについては、後から召喚者の魔力を使って修復する事が可能です。丁度良いですから試して見ましょう。まずは私がお手本を見せますね」

そう言うと、まずレトシアは自分のダート・ゴーレムを創り出し、意図的に右手を破壊すると、修復作業を始めた。


「ゴーレムの修復は、壊れた部分にコアを経由して魔力を流し込みます。そして周囲の物質、この場合はゴーレムの素材である土や岩石を引き寄せるイメージをしてください。そして、引き寄せた素材で元通りの姿をイメージすれば……」

彼女がそう言うと、大地から吸い上げられるように無数の土がゴーレムに近づいていき、傷付いた指に纏わり付いて指が元の形に戻っていった。


「と、この通りです」

「お~~~」

すっかり元に戻ったゴーレムを前にして声を漏らすルイン。

「なお、この時に損傷部分に魔力を多めに流しておくと、修復後の強度が上昇します」

「成程。でも、どうして強度が上がるんですか?」

「ゴーレムを動かすのは魔力です。当然、今のゴーレムのこの形を維持しているのも魔力です。ですから、その形を維持のために魔力を注ぎ込めば強度が増すのでは、と考えられています。一説には、コアからゴーレムの中に魔力が張り巡らされ、それが人間で言う血管であると同時にゴーレムの形を維持する骨に近い役割を果たしているのでは、なんて話も聞いたことがあります」

「へ~~」

『つまり、四肢に魔力を行き渡らせればそれだけ強度、つまり防御力が上がるって事か』

「しかし、魔力を注ぎ込むって大丈夫なんですか?コアの許容量を超えるなんて事は?」


「それは大丈夫です。修復や四肢への魔力の伝達は、あくまでも『コアを介して行われる』。つまりコアに魔力を溜める訳ではないので」

「成程」


と、何だかんだで修復方法を教わったルインはレトシアにレクチャーされながら魔力を使って自分のゴーレムを修復する術を学んだ。が……。


「……ダート・ゴーレムじゃ戦闘に使えませんね。全体的に脆すぎるって言うか。これで戦うとなると、戦いながら壊れた所を修復し続けないと」

「はい。ですので、ダート・ゴーレムが戦闘に使われる事は殆どありません」

「じゃあ何に使われてるんですか?」

「そうですね。家を建てる際に重い資材を運んだり持ち上げたり、でしょうか。確かそう言った使い方が一般的だったと、ゴーレムに詳しい妹から聞いた事があります」

「成程」


『って、それじゃあモロ俺の前世で言う重機じゃねぇか。……って言うか』

「レトシア先生って妹が居たんですね?」

「え?え、えぇまぁ」

『ん?何かちょっと言い淀んでる?』


少し苦笑を浮かべているレトシアに内心首をかしげているルイン。しかし彼には今現在集中したい事もあった為、深くは追求しなかった。



そして、ダート・ゴーレムがダメなら、と今度は岩で出来たゴーレム、『ロック・ゴーレム』を生み出して動かそうとしたのだが……。


『バキバキッ!』

「いや固ったっ!!!?何だこれっ!?手足がまともに動かねぇじゃねぇかっ!!」


ルインがゴーレムを動かそうとしたが、手を上げようとすると腕のあちこちからバキバキと音が響き、足を動かそうとすれば足の付け根などに罅が入る。


「ちょっ!?先生これどうなってるんですかっ!?ロック・ゴーレムってまともに動かないんですかっ!?」

「はい。実はそうなのです」

ルインが戸惑い、声を荒らげる一方でレトシアは冷静だ。彼女はこうなる事が分かっていたのだ。


「実は、ロック・ゴーレムには欠点があります。それは、ダート・ゴーレムと異なり全身が強固な岩で形作られている為、人間や動物のような関節を持たず、まともに動く事が出来ないんです」

「えぇぇぇっ!?」


ルインは驚き声を上げた。が、それにも理由がある。

『何だそりゃっ!?確か俺の見たアニメやゲームじゃ岩石のゴーレムとか結構人間らしく動いてたぞっ!?』

前世で培った(?)アニメなどの知識と違ったからだ。

『……ってそりゃアニメとかの話かっ!……クソッ、ミスったな。思ってたのと全然違うっ』


もっと柔軟に動けると思って居たルインだったが、予想外の欠点にぶち当たってしまったと言う訳だ。


「先生。何とかダートの柔軟性と、ロックの堅牢性を兼ね備えたゴーレムって無いんですかっ?」

その欠点を克服する方法は無いのかっ?とレトシアに詰め寄るルイン。

「……今の所、ありません」

彼女は静かに顔を左右に振りながら答えた。


「過去、その問題に多くの人が立ち向かい、いくつかの策は生まれましたが、完全ではありません」

「と言うと?」

「例えば、ダート・ゴーレムの四肢の上に岩の鎧を身につけさせるのです。それによってある程度の防御力を向上させる事、戦闘を行う事は可能です。ですが肩や肘、膝、足の付け根と言った関節部分には岩の鎧を着ける事は出来ません。また、重い鎧を身に纏う事で、ただでさえ鈍重なゴーレムの俊敏性をより劣悪な物に変えてしまいます。更に悪いのは、重い鎧を纏う事で、ゴーレムを動かすために魔力をパワーに振らなければいけない事。そうすると……」

「魔力の消費量が増加し、稼働時間が低下する、ですね?」

「その通りです。更に言えば、岩の鎧を纏ったと言っても、全身岩のロック・ゴーレムに比べれば、防御力も低いと言わざるを得ないでしょう」

「ハァ。何だそりゃ。メリットに対してデメリットが多すぎるだろ」


並べられたデメリットにため息をつき、頭を掻くルイン。そして彼はレトシアに背を向け、立ち尽くしているゴーレムに目を向けた。


「……最初の壁は、これって事か」

「はい?」


ルインの呟きに首をかしげるレトシア。


「俺の夢の最初の壁って事ですよ。ゴーレムでロボットを再現するにしても、俺が目指しているのは戦えて、人間並みの動きが出来て、そこそこのスピードで動き回れるロボットですからね。今のゴーレムじゃ到底及ばない」

「ルイン様、そうは言いますが、では何をなされるつもりですか?」

「そりゃぁ決まってるでしょ」


そう言って、ルインは彼女の方に振り返った。


「『改良』するしかないじゃないですか」


そしてただ一言、そう言い放ったのだった。



それから数時間、ルインは思いつく限りの改良案を試しては失敗してを繰り返し、日が暮れてきたので今日はそれで終わり、となった。


そしてメリルは、その一部始終をマックスとアリシアに伝えた。


「むぅ。そう言う事だったのか」

メリルから事情を聞いたマックスは納得しつつも戸惑った様子だった。まぁ、10歳の息子がゴーレムを改良するなんて言い出したのだから仕方無い。

「でもあなた?ゴーレムの改良なんて、そんな簡単に出来る事なのかしら?」


「いや。普通に考えて無理だろう。それこそどれだけの知識が必要な事か。……また根を詰めないと良いんだけど……」

と、マックスは心配そうに呟くのだった。



それから数日。ルインは暇さえあれば、使い道が無くたまっていたお小遣いで、使用人に買ってきて貰った魔石を使ってゴーレムを作り、ゴーレムの改良を試みては失敗するを繰り返していた。


「ダァァァメだぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

そして数回に及ぶ失敗によって、壊れたロック・ゴーレムの残骸を前にしながら草原に寝っ転がるルイン。


「る、ルイン様っ!そのような事をしてはお召し物が汚れてしまいますよっ!」

「あ~~。そんな細かい事気にするなよメリル~」

「気にしますよっ!って言うか汚れたの洗うの私達なんですからねっ!」

「……それもそっか」


と言って体を起こすルイン。

「しっかし、これで何回目だ失敗するの。ハァ~~萎えるわぁ」


ゴーレムの残骸を前にしながらげんなりした様子のルイン。しばし彼は、ゴーレムの残骸を前にしながら考えにふけっていた。


と、そこへ。

「ルイン様」

「ッ。レトシア先生」

屋敷の方からレトシアがやってきた。


「今日もゴーレムの改良、ですか?」

「えぇまぁ。最も、失敗してますけど」

そう言ってルインは苦笑を浮かべる。それに釣られてレトシアも、壊れたゴーレムへと目を向ける。


「何かに一生懸命取り組む姿勢は、私も凄い事だと思いますが、あまり根を詰めてご両親を心配させないようにしてくださいね?私も今さっき、ルイン様のお父様とお母様から息子を気に掛けて、必要なら注意してやってほしい、と言われましたので」

「ははっ、まぁ分かっては居るんですけどねぇ」


そう言って彼は苦笑を浮かべる。


「……好き勝手にやれる子供のうちに、行ける所まで行っておきたいんですよ」

「ん?それはどういう意味ですか?」

少し真剣な表情で呟いた彼の言葉にレトシアは首をかしげた。


「え~っとですね。突然ですがレトシア先生に質問です。『60年』。この数字の意味、分かりますか?」

「え?60年、ですか?……うぅん。人間の寿命、でしょうか?あぁでも。もっと長寿な人もそこそこ居ますし」

彼女は少し頭を抱えたが、答えは出なかった。


「……降参ですルイン様。答えはなんですか?」

「正解はですね、『人間が最大限趣味に割ける時間』です」

「はい?」


彼女は予想外過ぎるルインの答えに首をかしげながら聞き返してしまった。


「これは俺の持論なんですが。人間の平均的な寿命は、食生活などに気を遣っても精々70年から80年って所。しかし仮に70代まで生きたとしても、その頃になると恐らく誰かの介護など無くしては生きられないレベルまで体が衰えている可能性もあります。ってかほぼ確実に衰えてるでしょうね。で、そうなると、当然自分の趣味についてやりたい事があっても肉体がそれに付いて来れないでしょう。それを考えると、人間が趣味に没頭出来る時間は、最大でも60年程度です」

「で、でもそれは……」


「えぇ。人間たる物、衣食住に金は必要です。そして金は仕事をして稼ぐ物。現実的に考えて60年間全てを趣味に割り当てる事は不可能。親のすねをかじって生きていけるような大金持ちのボンボンならもう少しは違うでしょうが。まぁ俺としても、趣味にだけ没頭して親の迷惑になる真似はするつもりはありませんからね。成人したりすれば、親父の後を継ぐのは俺でしょう。それにもう少し成長したら、俺も貴族同士の顔合わせとかありますし。確か12歳になると、貴族同士の顔合わせパーティーがあるんでしたよね?」


「え、えぇ。そうです。貴族や名家などは、お互いの繋がりを作ると言う事で、年に一度、その歳に12歳になる子供達を集めてパーティーを行います。これには王族も参加することがあるほど、大きな物です」

「要は、成人した後の横の繋がりの為の、挨拶パーティーみたいなもんですよね?」

「まぁ有り体に言えばその通りですが……」

身も蓋もないルインの言い方に苦笑するレトシア。


「それを考えると、12歳を迎えたら俺には貴族として色んな連中と付き合いを持たなきゃいけなくなる。それにパーティーのために作法とかの授業も来年から始まるらしいし。それに親父の後を継ぐための勉強だってし始めなきゃならない」


そこまで言うと、ルインはハァ、とため息を漏らした。


「趣味に生きる、なんて言っても実際には仕事に人間関係とか色々あるし。現実的にいってそれは無理。仕事に人間関係諸々いろいろ合って、それを考えると一年で趣味に何日費やせる事やら。今の俺が10歳。60歳まで趣味が出来たとしても、残り時間は50年。けどその50年を全部趣味に費やせる訳も無く。諸々考えると、成人してから趣味に割ける時間はきっと多くは無いですよ」

「だから、今のうちに?」


「えぇ。子供の内に出来るところまで研究や改良などをしておきたいんですよ。大人になってからじゃ、趣味に時間もそう多くは取れないでしょうし」

ルインはそう言って立ち上がった。


「どんだけ趣味に没頭したくても、それは無理。人生も時間も有限。他にもやらなきゃいけない事がたくさんある。大人になったら趣味に割ける時間だって激減する。……となれば、まだガキの内に全力でやらないとでしょ。例えどんなに小さかろうが、一歩でも前に。夢は待ってたら来るもんじゃない。自分から全速力で向かっていかないとでしょ」


そう言って彼はニッと白い歯を見せながら笑みを浮かべた。


「成程。そう言う事ですか。……しかし気をつけて下さいね?ご両親が心配されているのも事実なのですから」

「分かってますって。さ~て休憩も出来たし、また改良案考えてやってみっか~」


そう言って、ルインは再びゴーレムの改良案を考え、片っ端からテストをしていった。


しかし、物事はそう簡単ではないため、無数のゴーレムの残骸が積み上がるだけだった。



「は~~~~。まだまだ上手く行かねぇなぁ~~~」


もうすぐ空がオレンジ色に染まる中、盛大にため息をつくルイン。


「ルイン様。もうそろそろ戻られてはどうですか?私もそろそろ、失礼しますので」

「そうですね。分かりました」

レトシアもそろそろ戻る、と言う事や日も暮れてきた事もあり、流石のルインも今日は切り上げる事にした。


そして屋敷に戻る途中で。


「レトシア先生。先生の身近にゴーレムについて詳しい人とか居ませんか?」

「居ない、と言う訳ではありませんが。何故です?」

「いや~。俺はゴーレムを作れるようになったとは言えまだまだ魔法の初心者ですし。10歳かそこらのガキじゃ知識の深さって奴も高がしれてますし。長年ゴーレムについての研究とかしてる人ならゴーレムに関して造詣が深いんじゃないか~と思いまして。そう言う人達の手助けをして貰えないかな~って思いまして」


「成程。しかし、ちょっと難しいですね。数年前までは近くの領地にゴーレムに詳しい男性がいたと思いますが、確か彼は家督を息子に譲ってゴーレム研究の為に遠方に1人で引っ越してしまったとか」

「それって結構遠いんですか?」

「手紙の往復だけで何週間かかるか分からないくらい、は確実にありますね」

「う~わそれじゃあ遠いな~。他には居ません?」

「う~ん。……元々ゴーレムが好きな人は多くは無いので、ちょっと」


「え?ゴーレム好きな人って少ないんですか?」

「はい。ダート・ゴーレムなどは建設作業などで使えますが、ロック・ゴーレムは知っての通り動かすのも一苦労する代物ですからね。好んで研究と改良をしようとする人は、多くは……」

そう言って難しそうな表情のレトシア。

「そうですか~」

それに対してルインもどこか落胆したような声を漏らしている。


が……。


「ん?あれ?そう言えばさっき、先生言ってませんでした?『ゴーレムに詳しい妹が居る』とか何とか?」

「えっ?!た、確かに話しましたが……」

「じゃあ紹介してくれませんかっ!お願いしますっ!」

突然の話題に、何やら戸惑った様子のレトシア。しかしルインは少しでもゴーレムに詳しい協力者が欲しいためか、グイグイと押し気味に頼んでいる。


「え、え~っと。ルイン様。私としては妹を紹介することはやぶさかではないのですが……」

「がっ!?何ですっ!?」

「何と申しますか、妹は見知らぬ人とのコミュニケーションが、『超』という時が付くほど苦手と言いますか。正直、男性を怖いとすら思って居るようで……」


「えっ!?」


男性が怖い、と言うのは流石に驚いていた様子のルイン。それに彼にだって良識はある。

「じ、じゃあ俺に協力してもらうのって、無理そう、ですか?」

「う~ん。不可能、ではないかもしれません。ちょっと、以前色々あって男性を怖がってしまったようで。……それから何年も経っていますから、トラウマも少しは軽減されているかもしれませんが。正直、姉の私でも最近は仕事の関係で彼女と話すことが少なくて」


と、悩んだ様子のまま語るレトシア。そんな彼女にルインはしばし考え込んだ様子だった。


彼にとって、自分以上の知識を持った者の協力は欲しい所。そして現在、すぐにコンタクト出来そうなのはレトシアの妹だけである。遠方の者と手紙でやりとりしていたら、何日消費するか分からない上に、迅速な意思疎通も不可能だ。


となると、ルインの答えは決まっていた。


「レトシア先生。お願いがあります」

「お願い、と言うと?」

「一度だけで構いません。先生の妹さんと話をさせて下さい」

「ッ。本気ですか?妹を侮辱する訳ではありませんが、ゴーレムに詳しい人物は彼女以外にも居るかと思いますが?」


「確かにそうでしょうが。俺の夢の道のりは険しく、遠方の相手と手紙などでやりとりしていたのでは時間が掛かりすぎます。たった1秒でも無駄にしたくないんです。……もちろん、無理にとは言いません。完全に拒絶されれば、俺は妹さんに協力して貰う事を諦めます。……でも、話をしてみなきゃ協力してくれるかどうかも分かりませんから。あとで『やっぱり彼女と会ってみれば良かった』、なんてバカな後悔をするくらいなら、むしろ完全に拒絶でもされて『彼女から協力は得られない』ってはっきり分かった方がスッパリ諦める事が出来ますから。……だから、お願いします。一度で良いから、妹さんと話をさせて下さい」


そう言ってルインはレトシアに頭を下げた。その様子にレトシアと傍で見守っていたメリルが少し驚いている。


立場上、年の差があるとは言え、貴族であるルインと名家の娘であるレトシアの2人は、家のことを考えた場合ルインの方が立場は上だ。だからこそレトシアも日々彼に敬語で接している。


なのにルインが頭を下げた事に驚いていたのだ。


「それは、お願いなのですか?」

だからレトシアはそう問いかけた。

「えぇ。強制では先生や妹さんから、本当の意味でも協力は貰えませんから。……誰だって強制された仕事なんてやりたくないでしょうし。これから力を貸して貰おうって相手に反感持たれるなんて。愚策中の愚策ですから」

「ごもっとも、ですね」


ルインの言葉にレトシアは頷き、少し考えた後。


「分かりました。正直、妹がルイン様に協力するかは分かりません。それでも、構いませんね?」

「はい。今の俺には、ゴーレムの知識を持った協力者が必要なんです」


レトシアの言葉にルインは真っ直ぐ彼女を見つめながら頷いた。


夢への第1歩。そして早速立ち塞がる壁。その壁を突破するためにルインは動き出す。まずは、協力者を得るために。


     第4話 END

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