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第3話 始まりは小さな一歩から

楽しんで頂ければ幸いです。

ルインのテストから丸1日が経過した翌日の朝。既に太陽は昇り、ルインの寝室のベッドの上では部屋の主である彼がぐっすりと眠っていた。


「うへ、うへへ。これが俺の、最強のロボだ~~」


何やら趣味全開の寝言を呟きながらも未だ眠ったままのルイン。が、しばらくして……。


「うぇ?」

寝ぼけ眼で目覚めるルイン。彼はしばし、寝起きではっきりしない意識のまま呆然と体を起こし、周囲を見回す。


「あれ?俺、なんで寝てるんだっけ?確かテストがある、って……」


寝ぼけた表情のままに独り言を漏らすルイン。が、次の瞬間。『テスト』という単語が脳裏をよぎった。


次の瞬間、彼の意識は覚醒した。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!そ、そうだテストッ!テストはどうなったんだっけっ!?何か受けたような記憶はあるがっ!?えっ!?まさか夢じゃないよねっ!?『テスト受かりましたわ~いっ!』って感じの記憶があるけど、夢オチじゃないよねっ!?違うよね俺っ!?」


寝起きと数日の徹夜で記憶が曖昧な彼は慌てて寝間着姿のまま部屋を飛び出した。そして丁度近くを歩いていたメリル。

「あっ。おはようございますルインさ」

「あぁメリルっ!ちょうど良い所に居たっ!」

朝の挨拶など忘れて彼女の両肩を掴むルイン。


「えっ!?る、ルイン様っ!?」

「メリルっ!教えてくれっ!俺テストは受けたのかっ!?寝る前の記憶が曖昧なんだっ!あのテストは夢だったのかっ!?」

「で、でしたら夢ではありませんよ?」

若干目が血走ってるルインに詰め寄られ、メリルは戸惑い苦笑を浮かべながら答えた。


「ルイン様は確かにテストを受けられましたし、無事合格されていました。夢ではありません」

「ホントに?」

「ホントです」

「マジで?」

「マジです」

「really?」

「り、りありー?意味が分かりませんが、大丈夫ですよ」


やたら発音の良い英語に戸惑いながらも頷くメリル。そして彼女の言葉を聞くと……。


「良かった~~~~~~~~」

手を離し、まるで力が抜けたようにその場にへたり込んでしまった。

「だ、大丈夫ですか?」

そんな彼に戸惑い、少しオロオロしているメリル。


「あぁ。大丈夫だ。もしあのテストが夢だったらと思うとぞっとしてさぁ。あ~良かった~」

と安堵し息をつくルイン。


『グゥゥゥゥゥッ』

すると直後、安心したのかルインの腹の虫が大きな声を上げた。


「あ~、何か腹減った~」

「まぁ無理も無いですね。ルイン様は丸1日眠ったままでしたから」

「えっ!?俺そんなに寝てたの!?」

「はい。それはもうぐっすり、すやすやと涎を垂らしながら眠っていました」

「ま、マジか~。ってか俺、涎垂らしてたの?」

「はい。何やら寝言で『俺の専用機の完成だ~』と言って笑みを浮かべながら、垂らしておりました」


「マジかよぉっ!恥ずかしいなぁおいっ!って、それ見たのメリルだけだよなっ!?」

「はい。見たのは私だけです」

「あ~~~~なら良かったぁぁぁっ!」


『グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!』

安堵したのも束の間。再び彼の腹から自己主張の強い音が響く。ルインは顔を赤くしながらメリルの方に視線を向けた。


「もうすぐ朝食のご用意が出来ますので、着替えてお越し下さい」

「お、おう」

顔を赤くしながらも、ルインはイソイソと自分の部屋に戻っていった。


その後、着替えて身だしなみを整えたルインは食事をするいつもの部屋に向かった。そこでは既に、両親であるマックスとアリシアが朝食を食べていた。


「おはようございます、父さん、母さん」

「おぉルイン。ようやく目を覚ましたのかっ」

彼が入ってくると、2人とも席を立って彼の傍に歩み寄る。


「もうルイン。私達はとても心配したのですよ?突然気を失ったように眠ってしまうし、丸1日目を覚まさなかったんですから」

「ごめんなさい母さん。でも無事テストには合格しましたから」

「それとこれとは話が別ですっ」

ルインの言葉にアリシアはそう言って少し怒ったような表情を浮かべている。


「確かにテストに合格した事は、母としても微笑ましい事です。でも代わりに何日も寝ないで、挙げ句の果てに倒れるように気を失って」

そう言って彼女は静かにルインに歩み寄ると、彼の肩に手を置いた。


「あまり母を心配させないで」

「ごめんなさい母さん。以後、気をつけます」

心配そうなアリシアに、ルインも反省の色を浮かべながら頷いた。


確かにルインは趣味に生きる人間だが、周囲の気持ちを疎かにしようとは考えていなかった。何より、アリシアとマックスはルインにとって第2の両親だ。今回は行き過ぎた気合いのせいで暴走しかなり無理をしてしまったが、やはりルインは2人の子。彼等を心配させるのは本意では無かった。



その後、自分も食事を取るルイン。

「それでルイン?お前はテストに受かった訳だけど、これからはどうするんだい?」

「とりあえず、まずはゴーレムについてレトシア先生から教わるつもりです。ゴーレムからロボットを作るにしても、経験も知識も技術も、今の俺には何も無いですから」

「そうだな。しかし、ルインがここまでの活気を見せてくれるのは嬉しい限りだ」

「そうねぇ。レトシアちゃんには、感謝してもしきれないわね、あなた」

2人とも、ルインに活気や生気が戻ったことでとても嬉しそうだ。


「は、ははは」

まぁ肝心のルインは苦笑を浮かべる事しか出来なかったが。



そして朝食後。ルインは自室で魔法に関する本を読み漁っていた。

『コンコンッ』

「ん?は~い」

ドアがノックされ、彼は本を閉じて立ち上がった。


「失礼します。ルイン様、レトシア先生がお越しです」

ドアを開けて入ってきたのは、レトシアを伴ったメリルだった。


「おはようございますルイン様。もうすっかり起きられた様子ですね」

「えぇ。まる1日ぐっすりと寝ちゃいましたけど」

そう言って、彼は恥ずかしそうに苦笑を浮かべた。


「って、それよりも今日先生が来たって事はっ!」

「えぇ。ルイン様念願の、ゴーレムについての講義を始めましょう」

「ッ!お願いしますっ!!!!」


ついに夢の第一歩、と感じ彼は満面の笑みを浮かべながら頭を下げるのだった。



その後、レトシアによって少し汚れても良い服装に着替えた後、ルインとレトシア、それとルインの侍女であるメリルは屋敷の裏手にある林の中の開けた場所に足を運んだ。


「あの、レトシア様?こんな所で授業をなさるのですか?」

主であるルインに付いて来たものの、若干戸惑い気味のメリル。彼女にしてみれば、これまで部屋の中での授業だったのが、いきなり野外授業に変わって戸惑っているのだろう。


「えぇ。ルイン様の性格、と言うか気概からすると、ちまちまと中で勉強するより見て覚えた方が良いかと思いまして。どうです?ルイン様としては?」

「断然そっちの方でお願いしますっ!実物ありきの方が俺も燃えますからっ!」

「分かりました」

相変わらずの、趣味に対する彼の熱気にレトシアは苦笑しつつも、持ってきていたポーチの中から何かを取り出した。


取り出したそれは、ワインレッドの宝石のようにも見えたが……。


「これは。魔石ですか?」

「えぇ。正解ですルイン様。これこそ正しく魔石。魔物やモンスターと呼ばれる怪異の体内からのみ採取される謎の鉱物。『魔石』」

「これが……っ!実物を見るのは初めてですっ」


ルインは興奮気味に、彼女の手の中にある魔石に目を向けていた。


そしてこの魔石を宿した存在、『魔物』やモンスターと呼ばれる怪異とは、通常の生物とは異なる姿形をした存在の事だ。多種多様な魔物がこの世界には存在し、時に人々の生活を脅かす脅威となっている。


「さて、ここでルイン様に問題です。この魔石は魔物から採取されますが、魔石の主な使い道は何でしょうか?」

「えっと、確か『魔導具』や『マジックアイテム』と呼ばれる特殊なアイテムの動力源やエネルギー源、って所ですよね?」

「正解です。現在我々の生活にとって魔導具は欠かせない物です。夜道を照らす明かりであったり、火打ち石などを使わずに簡単に火を起こすことができる便利な道具です」

「成程」

『しかし、改めて聞くともろ俺の前世の家電だよなぁ。懐中電灯とかライターとか』


と、心の中で前世を思い浮かべながら頷くルイン。

「魔導具は魔石の中にある残留魔力を使って動きます。そしてこの残留魔力の量は、魔石は持ち主である魔物の強さに応じて変化します。高位の魔物であれば魔力量は膨大ですし、逆に低位の魔石では、容量など高がしれています。よって、高位の魔物の魔石ほど高値で取引される傾向にあります」

「成程。つまり魔石にもランクやスペックの差みたいな物があるって事ですね」

「有り体に言えばそうなりますね。……そして、ゴーレムを語る上で欠かせないのもまた魔石なのです」

「ん?どういうことですか?魔石が欠かせないって」


「まぁそれは実演して見せた方が早いでしょう。見ていてください」

そう言うとレトシアは2人から少し距離を取った。彼女の様子を静かに見守る2人。


彼女は魔石を手に持ち、集中するかのように目を閉じた。

『ポワァッ』

すると、魔石から淡い光が漏れ出したではないか。

「魔石が、光ってる?」


ポツリと言葉を漏らすメリル。その隣でルインは、彼女の一挙手一投足を見逃すまいとばかりに真剣な様子でレトシアを見つめていた。


『パッ』

レトシアは光っていた魔石を手放した。重力に引かれて落下しながらも光を放つ魔石。それが大地の上に落ちた。


「『出でよ、大いなる土の巨人。我が駒となりてその屈強な四肢で、敵を叩き潰せ。≪ゴーレム・クリエイト≫』」


更に彼女は魔法にとっての起動キーとなる文章を『詠唱』した。すると、地面に落ちた魔石の辺りから急に土が盛り上がり始めた。独りでに動き出した土が、魔石を取り込み次第に人型となっていく。


そして出来上がったのは、成人男性より二回りほど巨大な土で出来た巨人だった。

「おぉっ!!先生、これがゴーレムですかっ!?」

「そうです。これがゴーレムです。今回は動きやすさを考えて土で作ってみました。まずは動きを見ていて下さい」


興奮するルインを後目にそう言って、レトシアはゴーレムに右手を翳した。すると彼女の掌から、無色のオーラのような物が放たれ、それがゴーレムの背中に命中。そのまま体の中に入り込んでいった。すると……。


『ピカッ!』

何も無かった、のっぺらぼうだったゴーレムの顔に赤いモノアイのような光が灯った。

「光ったッ!モノアイみたいだなっ!」


興奮気味にゴーレムを見上げているルイン。レトシアは興奮した様子の彼を一瞥し、小さく笑みを浮かべるとゴーレムに思念を、つまり命令を送り込んだ。


するとゴーレムが指示に従って動き出した。ズズン、ズズンと足音を響かせながら手近な木へと向かうと、拳を振りかぶって、木に叩き付けたっ。


『ドォンッ!!』と大きな音が響き、メリルは怯えた様子で『ひゃぁっ!?』と悲鳴を上げて耳を塞ぎ、その場にしゃがみ込んでしまった。


殴られた木の幹は大きくへこんでいる。が、土のゴーレムの方も無傷とは行かず、拳が少し歪んでいた。


だがそのパワーは常人を遙に上回る物だった。


「ははっ、すげぇ……っ!」


ゴーレムを見上げるルインの瞳は、キラキラと輝いていた。顔にはどこか獰猛な笑みを浮かべている。

「これがゴーレムッ!俺の夢を形にするための存在っ!」

「如何ですか?ルイン様」

ゴーレムを前にして興奮するルインにレトシアが声を掛けた。


「はいっ!凄いですっ!感動ですっ!今すぐゴーレムについての情報が欲しいですっ!」

「分かりました。では、早速始めるとしましょうか」


興奮しているルインに対し、レトシアは笑みを浮かべながら授業を始めた。



「まずは私が先ほど行った事を、順番に実践しながら説明していきましょう」


そう言うと、彼女はポーチの中から2つ魔石を取り出し、1つをルインに手渡した。

「まず私が行ったのは魔石への『契約』です」

「え?魔石って、つまり無機物との契約、ですか?」

思わぬ単語に首をかしげているルイン。彼の後ろのメリルも、どういうことだろう?と言わんばかりに少し首をかしげていた。


「契約というと少し語弊があるかもしれませんね。正確には、この魔石の所有者が自分であると、魔石に思わせるのです」

「どういうことですか?」


「今、私とルイン様が手にしている魔石は死した魔物から採取された物です。魔石の元の持ち主は魔物ですが、それが死んだ今、この魔石には主、もっと言えば持ち主がいない事になっているんです。分かりやすく言うと、この魔石に対して『お前は私の魔石だ』、と分からせるような物です」

「成程。つまり、魔石を自分の所有物にするって事ですね?」


「そうです。魔石から魔力を取り出す方法ですが、大まかに分けて2つあります。1つは特殊な魔法陣の上に魔石をセットする事です。魔導具の場合は基本的に、魔法陣を介して魔石の魔力を取り出して使います。もう一つが、今私が言ったように魔石を、文字通り『自分の物』にして魔力を取り出す方法です」

「成程」

『となると、俺の前世で言うID登録とかみたいな物か』


「ゴーレムを生成する時は魔法の使用者の魔力を使います。しかし完成したゴーレムを動かす魔力は、核となる魔石から得るのです。そしてゴーレムの召喚者は、魔石を介してゴーレムを操ります。この時、魔石と召喚者が契約していなければゴーレムを操れません」

「成程」

『って事は前世の俺の知識からしたら、魔石は俺の指示をゴーレムに伝えるアンテナであり、動力源であるバッテリーみたいなもんか。しかしそのアンテナとしての機能は魔石の登録作業を済ませてないと出来ない、と』


「それでレトシア先生。この魔石を俺の物にするには、どうすれば良いんですか?」

「はい。これに関しては簡単に見えて意外と難しい、最初の難問なのです」

「ん?どういうことですか?」


「魔石を自分の物にする方法。それは魔石に自分の魔力を流し込みながら、自分と魔石が一体化するイメージが必要なのです」

「俺と魔石が、一体化?」

アバウトな話に首をかしげるルイン。


「そうです。もっと言えば魔石と自分の間に繋がりを作る、でしょうか?この、魔石を自分の一部としてイメージし、魔石と自分を繋ぐ。これが最初の関門なのです」


そう言うと、レトシアは先ほどと同じように魔石を握った。そして数秒するれば、掌の中から光が漏れ出す。


「このように魔石が淡い光を放てば、魔石が自分の支配下になった証です。魔石が自分の一部になる、なんてイメージが湧かなくて戸惑うかも知れませんが、やってみて下さい」

「分かりました」


レトシアの言葉に頷いたルインは、自分の掌の中にある魔石に視線をとした。そして数秒、魔石を見つめた後、彼は目を閉じ、魔石を握りしめる。


『魔石は俺。魔石は俺。俺は魔石。俺は魔石』


彼は意識を集中し、必死にイメージを浮かべる。魔石を自分の一部だとイメージする。自分が魔石の一部だとイメージする。そして……。


「お前(魔石)は、俺だ。俺は、お前(魔石)だ」


ポツリと言葉を漏らすルイン。

『ポワァッ』

「えっ!?」

直後、彼の手の中から淡い光が漏れ出し、それを目にしたレトシアが驚いて手にしていた魔石を落としかけた。


「う、嘘っ!?1回でっ!?私だって結構訓練してやっと出来るようになったのにっ!」

ルインの傍で戸惑っているレトシア。

「あ、あの。レトシア様。魔石との契約ってそんなに難しいんですか?」

「え、えぇ」

ルインの方を見ながらも、問いかけてきたメリルに彼女は答えた。


「本来人の内、つまり中に備わっていない物。全くの異物。それを自分の一部だと考え受け入れる事って想像以上に難しいの。それはある意味、今の自分が別の自分に変化する事を受け入れるのと同義。私は何年も訓練して、ようやく今のレベルまでなったのに。……まさかこれが、ルイン様の素質なの?」

彼女は戸惑い冷や汗を流しながら彼を見つめていた。


『……思いのほか簡単に出来たなっ!?某ロボットアニメの台詞とか設定をイメージに使ったが、まさかの有効だったっ!?』

と、内心ルインはルインで驚いていた。


「え、え~っと、レトシア先生?それで次は?」

「あっ、え、えぇとですね。次は魔石を地面に置いて下さい。また、地面に落とすでも構いません。魔石にもそこそこ強度がありますので、土の上に落としたくらいで割れるような事はありませんから」

「分かりました」


そう言って、適当な地面に魔石を置くルイン。それを確認するとレトシアも魔石を地面に置いた。


「さて、次に重要なのは魔法の最重要部分である詠唱。そしてゴーレムのイメージです」

「イメージ?」

「そうです」

首をかしげるルインに彼女は頷いた。


「ゴーレムを作る際、どのような形にするのか。それを決めるのは召喚者のイメージです。例えば先ほどの私のように、土で出来た巨躯の人型。変わり種ですと、4本腕のゴーレムなどもあります」

「へ~~」

『つまり姿形は俺のイメージ次第って事か。それ自体はありがたいな。体そのものを作るのに綿密な設計とかが不要なのは助かる』


「さて、次は詠唱です。詠唱とは本来、自分の使う魔法をイメージするための補助なんです」

「補助?じゃあ詠唱そのものは無くても魔法は発動可能なんですか?」

「はい。熟練の魔法使いであれば、得意な魔法や簡単な魔法などは詠唱無しでも発動可能です。ですが初心者などは詠唱を謳う事は殆ど必須事項です」

「何故ですか?」

「魔法というのは、数多くの種類があります。属性1つをとっても20や30では効かない程の数です。その全てを扱い切れていない状態で、詠唱無しで魔法を発動しようとすると、イメージが安定せずに明確な魔法発動のイメージが出来ず、魔法が失敗する事が多々在るからです」

「成程。つまり詠唱は魔法発動と魔法のイメージの補助として必要なんですね」

「その通りです」


そう言うとレトシアはポーチの中から1枚のメモ用紙サイズの紙を取り出し、ルインに差し出した。

「ここにはゴーレム・クリエイトの魔法の詠唱文が書かれています。まずは私がもう一度行いますので、よく見てて下さい」

「分かりました」

そう言うと、彼女は地面の上で光る魔石へと目を向けた。


「『出でよ、大いなる土の巨人。我が駒となりてその屈強な四肢で、敵を叩き潰せ。≪ゴーレム・クリエイト≫』」


魔石を見つめながら先ほどと同じ詠唱を詠う。すると魔石をコアとして、今度は小さい、人間の掌に乗る程度の小さな土の人形が誕生した。先ほどのゴーレムと違い、手足も指さえ無い簡単な作りのゴーレムだった。


「小さい、ですね」

「えぇ。まぁ最初のお手本のような物ですから。ルイン様、ルイン様も詠唱を詠い、私が作ったこの小さなゴーレムと同じような物をイメージしてみて下さい。それが次の課題です」

「分かりました」


ルインは頷くと、地面の上で輝く魔石に目を向け、レトシアから渡されたカンペに目を向け、しばしブツブツと詠唱の言葉をリピートし覚える。


「ぃよしっ!やるかっ!」

そして一字一句を覚えた彼はカンペをポケットにしまい、魔石に目を向け数度深呼吸をする。


「『出でよ、大いなる土の巨人。我が駒となりてその屈強な四肢で、敵を叩き潰せ。≪ゴーレム・クリエイト≫』」


覚えた詠唱を詠うルイン。するとそれに答えるように、周りの土が魔石に纏わり付き始めた。ただ、レトシアと違い初めての事でイメージが安定しないのか、魔石に付いた土が所々、ボロボロと崩れては再びくっついてを繰り返している。


「うっ、くっ。安定しない……っ!」

上手く形が出来上がらない事に、苛立ちと焦りを覚え表情を歪ませるルイン。

「落ち着いて下さい、ルイン様。あそこにある私のゴーレムと同じ物を、頭の中で強くイメージしてください」

そこに後ろから聞こえるレトシアの声。


「わ、分かりました」

言われるがまま、彼女の小さなゴーレムを目に焼き付けたルインは、目を閉じ、その姿を必死に脳内でイメージする。


『イメージしろ。イメージだっ!細部まで思い描けっ!体の隅々まで、脳裏にイメージを描けっ!』

彼の中でイメージが固まっていく。するとそれに呼応するように、土がこぼれる事無く魔石を包み込んでいく。


そして魔石を核とした土くれの人形が出来上がった。それはレトシアが作ったのと同じ、小さな土の人形だった。


それは何も出来ない人形だ。何かを持ち上げる事すら出来ない、ゴーレムとしての力を持たない。ただの動く人形に過ぎない。


「ッ~~~~!よっしゃ出来たぁぁぁっ!」


しかしそれでも、その小さな人形は、ルインが初めて生み出したゴーレムだ。初めてのゴーレムの完成に彼は喜び、声を上げる。


「ふふっ、ルイン様。喜ぶのも分かりますが、まだ終わりではありませんよ?」

「はっ!?そ、そうだったっ」

ルインのはしゃぎようが、まるで欲しかった物を貰えた子供のようで、微笑ましそうに笑みを浮かべながら指摘するレトシア。肝心のルインは、指摘されて恥ずかしいのか顔を赤くしている。


「さて、ここまでくれば、最後の一工程です」

そう言ってレトシアは、先ほど作った小さな人形に右手を向けた。すると先ほどのように、彼女の掌から無色のオーラが放たれ、ゴーレムに注ぐように入って行った。


すると、のっぺらぼうだった人形の顔に、これまた先ほどと同じように光が灯る。そしてレトシアが指を指揮棒のように振るうと、そのゴーレムが彼女やルインに対して小さな手をパタパタと振っている。


「おぉっ!動いたっ!」

「そうです。これが最後の行程である、ゴーレムとの契約のような物です」

そう言うと、レトシアはゴーレムの方に視線を向けた。


「これまでの行程でゴーレムそのものは作りましたが、この契約前ではまだ、ゴーレムは動きません。言わば眠っているような状態です。そして次、つまり最後の行程はゴーレムを起こすのです」

「起こす?」


「そうです。ゴーレムは体内にある魔石の魔力を糧に、召喚者である我々の意思を、魔石を介して受け取る事によって動きます。が、今の私達は魔石と契約こそ完了していますが、今の状態では魔石を介してゴーレムを操る事が出来ません」

「どうしてですか?魔石との契約は完了してるんですよね?」


「そうです。確かに契約を完了していれば、我々術者は魔石から魔力を取り出す事が可能です。ただしそれは、触れている状態ならば、です」

「ん?どういうことですか?」

「先ほどの契約の事を覚えて居ますか?」

「はい。そりゃもうちゃんと覚えてますよ?要は魔石を自分の一部と認識し受け入れるんですよね?」


「そうです。しかし人の認識にも限界があります。自分の体の一部である、と言う認識の中ならば、最悪ポケットなどに入れている状態でも魔石から魔力を取り出す事が可能です。しかしゴーレム内部にある魔石は、『自分の一部なのに自分から離れた触れられない場所にある』、と言う矛盾が生じています」

「あっ、そっか」

「そのため、今言った矛盾のせいかゴーレム内部にある魔石を介してゴーレム自身を動かすには、魔石ともう一度繋がる必要があるのです」

「それがさっきの、無色のオーラみたいな物なんですか?」


「そうです。あれは言わば、魔力で作られた糸です。人によっては『魔糸(まし)』とも呼びます」

「魔糸。魔力で出来た糸、か」

「えぇ。そしてゴーレムを操る上での最終行程が、この魔糸をゴーレムの体内にある魔石と繋げる事です。そうする事で、人は魔糸を通して魔石に指示を伝達。更に魔石からの指示を受けたゴーレムが動く、と言う事です」

「成程。……ってか、結構ゴーレムの操作とかって複雑なんですね」


「そうですね。『自分から離れた所にある自分の一部』、と言う認識は、中々どうして人間に出来る物ではありませんからね」

「……そりゃそうか」

と、レトシアに納得するルイン。


例えばの話。自分の指が1本、物理的に離れた所にあって、更に物理的に繋がっていないのに神経が通っていて動く、と言う状況なのだ。普通に考えて、早々頭で理解出来る訳がない。


『俺の前世風に言わば有線接続って事か。魔糸は言わば接続のためのケーブル。例えるなら、俺というサーバーとゴーレムというPCを繋ぐために必要なケーブル。しかも聞く限り無線接続、つまり魔糸を使わないゴーレム操作はできないって言うのがこの世界の、今の所の常識のようだな』


と、前世の事柄に当てはめて考えているルイン。


「さぁルイン様。とにかくまずは、やってみましょう」

「っと、はい」

そこにレトシアが声を掛けてきたので、ルインは気持ちを切り替えた。


「良いですか?魔糸は魔力で出来た糸です。自分の中にある魔力を、糸に変換して下さい。そして、それをゴーレムに向けて放つのです。魔石の位置は、大体分かりますよね?」

「は、はい。さっきの契約のおかげか、ゴーレムの体内にあって見えないはずなのに、どこに魔石があるか何となく分かります」

「なら大丈夫です。あとは魔糸を生成し、魔石と自分を繋げるだけです。さぁ、頑張って下さい」

「は、はいっ」


『これが最後の行程だっ!何が何でも成功させて、今日中にゴーレム生成の基本はマスターしてやるっ!』


ここまで来たんだ、と言わんばかりの気合いに満ちた表情のルイン。そして彼は目を閉じ、集中した。そしてイメージする。自分の中にある魔力を糸に変換しようと。


『魔糸を、掌から放つ。だったらあれだ。ロボットとかじゃないが、某蜘蛛男をイメージしろ。掌から糸を放て。あそこのゴーレムの中に魔石目がけてっ!』


そう彼が頭の中で叫び目を開いた直後、彼の掌から無色のオーラが放たれた。

「ッ、まさかこれも、1回目で成功するの?」

ルインの傍で少し驚いているレトシア。

「ルイン様、頑張って……っ!」

少し離れた所で応援しているメリル。


「いけ、いけ……っ!」

ルインは空中を漂うオーラに向かって声をかけ続ける。レトシアのそれとは違い、不安定さを表すように少しばかり蛇行気味のオーラ。だが、それでもオーラは確実にゴーレムへと向かっていく。


そして、オーラがついにゴーレムへと到達した。と、次の瞬間。

『ブゥンッ』


ゴーレムの顔に、光が灯った。

「ッ!?で、出来た、のか……っ!?」

しかし初めての事で成功したのかどうか分からないルイン。


「ルイン様。何かを頭の中で指示あげて下さい。ゴーレムがあなたと確かに繋がっているのなら、貴方様の思うとおりに動くはずです」

「は、はいっ」

『お、俺の思ったとおりに動くのなら。そうだな。とりあえず無難な所で、≪手を触れ≫』

繋がった魔糸を通してルインが指示を送った。


『パタパタッ』

すると指示を受けたゴーレムが小さく右手を挙げ、ルインの方に向かって手を振っている。

「ッ!?う、動いたっ!思った通りに動いたっ!って、事は……っ!?」

「えぇ。おめでとうございますルイン様。初日で早速、≪ゴーレム・クリエイト≫の魔法を習得されましたね」

そう言って笑みを浮かべるレトシア。

「凄いですルイン様っ!最初から習得出来るなんてっ!」

更に見守っていたメリルも、パチパチと拍手をしながら彼に微笑んでいる。


「ッ!や、やったっ!やったぞぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」


初日にして早速ゴーレム・クリエイトの魔法を使えた喜びから、彼は思いっきり天に向かって叫ぶのだった。


     第3話 END

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