第2話 無いなら作れば良いじゃないっ!
楽しんで頂ければ幸いです。
『トレストリア伯爵家』。それは『聖ローディオス王国』に使える王侯貴族の1つだ。聖ローディアス王国の北部に領地を持つトレストリア伯爵家は、領地内部での林業などを通して財を成していた。領地もそこそこ潤っており、大きな問題も無くトレストリア伯爵領は今日も平和だった。
そんなある日、トレストリア伯爵家の屋敷の中を一人のメイドが歩き回っていた。メイドと言っても、見た目は9歳前後の幼い少女だった。少女と言っても、彼女の家は代々トレストリア家に仕えてきた。だからこそ彼女もまた、将来使えるべき相手の家で、今はメイド見習いとして働いていた。
専用に作られた小さなメイド服に身を包み、銀色のショートヘアを揺らしながらその翡翠色の瞳で探しているのは、彼女、『メリル』の主だ。彼女は今、この家の長男坊を主とし、彼の身の回りの世話などをしている。
「う~ん、庭にもお部屋にも居ないとなると、やっぱりあそこかな~」
主を探すこと数分。一通りの場所は見て終わったので、彼女は主が良く居る場所へと向かった。
彼女が向かったのは、屋敷の一角にある書庫だ。そこにはマックスとアリシア、更に彼女達の親が集めた無数の本が収められている。言わば知識の倉庫だ。
『コンコンッ』
「失礼いたしま~す」
ドアをノックし、小声で呟きながらそ~っとドアを開けるメリル。書庫へと入り、お目当ての人物を探していると、見つけた。
「あっ!居ましたっ!ルイン様っ!」
「ん?」
窓際のテーブルに本を置き、傍の椅子に腰を下ろして本を読み漁っていた少年、ルイン・トレストリア。メリルが使える主であり、このトレストリア伯爵家の長男にして次期当主と目される少年。……そして、異世界からの転生者である。
「何だメリル。俺に用か?」
本を読んでいたルインはそれを閉じてテーブルの上に置くと彼女の方に向き直った。
転生して早10年。父親譲りの燃えるような赤い髪と母親譲りの青い瞳が特徴のルイン。見た目的には十分イケメンなのだが、彼自身はまるで覇気ややる気が感じられなかった。
「何だじゃないですよルイン様っ!もう魔法のお勉強のお時間ですよっ!先生もいらっしゃってるんですからねっ!」
「あぁ。そうだったか。すっかり忘れていた」
メリルの言葉を聞き、思いだした様子のルインは立ち上がった。
「ほらっ!行きますよっ!」
「あぁ分かった。分かったからそう急かすな」
「急かしますよっ!もう遅刻してるんですからっ!」
主を引っ張っていこうと手を取るメリル。しかし対照的にルインはめんどくさそうな表情を浮かべていた。ルインは、気怠げにメリルに手を引かれたまま廊下を歩いていた。
彼がルイン・トレストリアとして転生してから10年以上の歳月が流れた。しかしルインは小さな子供の頃から覇気の無い少年だった。あらゆる事に興味を示さず、ため息ばかりついていた。周囲の大人たちは、『ルインには何か不満があるのでは?』と考えた。だからこそ親であるマックスとアリシアは幼少期のルインに『何か欲しい物はあるかい?』と聞いた。が、帰ってきた言葉は『ロボットが欲しい』だった。
しかし、ロボットが何かも分からない2人は頭を悩ませた。ロボットとは何か?と2人は色々考えたが、ルインの望む物は用意出来なかった。結局、『もう良い』とルインが言うまで、2人はロボットがなんなのかを考え続けた。
彼が日々無気力な理由。それは言わずもがな、『この世界にロボットが無い、存在しない』からだ。
≪どれだけ文献を読み漁っても、ロボットのロの字も見つからなかった。希望として、古代に発達した科学技術を持つ古代文明があって、その遺産としてロボットがどこかにあるのでは、なんて夢を見て、歴史書なんかを数年掛けて何十冊と読み漁った。が、結果はパー。そう言った文明があった痕跡1つ無かった≫
「ハァ」
諦めきれる訳が無い中、必死に探しても何も見つからなかった現実を思い返しながら彼はため息をついた。
「もうっ!またため息をついてるんですかルイン様っ!そんな風にため息をついていると幸せが逃げるって私聞いた事がありますよっ!」
「そうかよ。……って言うか、俺の場合とっくに幸せが逃げてるよ」
「それって、またあのろぼっと、とか言う物の事ですか?」
「あぁ。……どれだけ望んでも絶対に手に入らないであろう、俺の夢だ」
「むぅ、どうして望んでも絶対手に入らないのに、ルイン様はそのろぼっとの事を知っているんですか?奥様と旦那様も不思議がっています。子供のルイン様が一体どこでそんな物の事を知ったんだ、と」
「……事情があるんだよ。色々な」
ルイン自身は前世のことを誰かに話すつもりは無かった。普通に考えれば『頭おかしいのでは?』と思われるからだ。そうして誰にも理解される事の無い、諦めきれない夢を抱えながら鬱屈とした日々を10年近く過ごすハメになったのだ。彼が日々無気力なのも無理は無かった。
と、メリルに引っ張られながら歩いていると、1つの部屋にたどり着いたルイン。
『コンコンッ!』
「失礼しますっ!ルイン様を連れてきましたっ!」
ルインを連れて部屋に入るメリル。
「ハァ、やっと来ましたねルイン様」
部屋の中で待っていたのは1人の女性だった。
亜麻色のロングヘアに掛けた眼鏡が特徴的な若い女性。前世を持つルインからすれば、仕事が出来る女性、キャリアウーマンと言ったイメージを抱く相手だ。
彼女の名は『レトシア・クリスフォル』。トレストリア伯爵家と親交のある名家、クリスフォル家の長女であり、今現在ルインの『魔法の先生』を務めている女性だ。
彼女はため息をつきつつ、ようやくやってきた教え子であるルインの方へと歩み寄る。
「それでルイン様?今日『も』遅れた理由は、また書庫ですか?」
「はい。書庫で本を少し読み漁っていました」
彼女の質問に、ルインは悪びれる様子も無く答える。
「ハァ。……ルイン様。これで何度目の遅刻ですか?ルイン様は将来、このトレストリア家の当主になるお方ですよ。これまで何度も申してきましたが、もう少し自覚を持って行動して下さい。でなければ、お父様とお母様の顔に泥を塗ることになりますよ?」
ため息をつき、ルインを窘めるレトシア。
「分かってるよ。分かってるけど」
「……やる気が出ない、ですか?」
ルインのその言葉をレトシアは何回も聞いてきた。
「親父や母さんには感謝してるよ。生んで貰って、こんな良い暮らしをさせて貰って。もちろん感謝してる。……でも、どれだけ裕福だろうがここじゃ俺の望んだ物は絶対に手に入らない。それが分かりきってるせいか、おかげでずっと無気力なままだ」
「ルイン様の言う、鉄で出来た動く巨人、ロボット、でしたか?それについて諦める事は出来ないのですか?絶対に手に入らないと分かっているのですよね?」
「分かってるよ。分かってるけど、あれは俺の生きる気力そのものと言うか、俺の好きの塊みたいな物なんだよ。だから捨てられない。それに、ロボットへの思いを捨てて諦めたら、俺はきっと俺で無くなる」
「「…………」」
絶対に手に入らないと分かっていても、彼は前世でロボットを愛していた。好きだった。それを今更捨てるなど出来る訳がない。好きな物を嫌いになる事は出来ない。『手に入れる事は不可能』と分かった程度で、好きを諦めきれる程、彼のロボットへの愛は軽くは無かった。
そしてだからこそ、ロボットのロの字も無いこの世界で彼は生きる意味を半ば喪失し、こんな風に覇気の無い日々を送っていたのだ。
手に入らないと分かっていても諦めきれない、と言う矛盾した彼の様子に2人はいつも戸惑い、今のようにどう声を掛けて良いか分からなくなる。
「ほ、ほらルイン様っ!もうこの際、勉強に集中しましょうっ!ねっ!?」
「そうね。とりあえずここでそのロボットとやらについて話をしていても始まらないですし。ほら、授業を始めますよ」
沈んだルインの気持ちを少しでも切り替えようとするかのように、そう言って彼に勉強を促すメリル。レトシアもそれに便乗したように、授業を始めようとしていた。
「……はい」
相変わらず気力は無いが、彼もどうせ考えても始まらないか、と言わんばかりに少しは気持ちを切り替えて、勉強をするのだった。
そうして、無気力な日々を過ごすルインだったがある日の事だった。
今日も今日とてレトシアがルインに魔法の事を教えていた。
≪魔法≫。それはこの世界における超常の力であり普遍的な存在だ。人々は自らの内にある力、魔力やマナと呼ばれるこれらを、言葉である詠唱を使い魔法として作用させる。
魔法を車に例えるのなら、魔力がガソリン。詠唱はエンジンを掛ける鍵だ。ガソリンだけではこれといった使い道は無く、また鍵である詠唱だけでも大した意味は無い。2つが揃うことで車が動くように、魔法が発動する。
この世界にある魔法には、いくつかの属性がある。火、水、土、風、雷、光、闇、無の8個の属性に分けられる。とは言え、まだ若いルインは今、魔法の基礎的な事を教わっていた。まずは本人の得手不得手を理解するために、ルインの得意な属性、苦手な属性の割り出しを行っていた。
一応、結果としてルインは全属性をそつなくこなせると言う才能があった。……まぁ、それでも彼の心が晴れる事は無かったが。
そんなある日。
「ハァ」
もはや癖になりつつあるため息を、授業の休憩の合間に漏らすルイン。
「もう、またため息ですか?癖になるといけませんよ?」
そんな彼にやれやれ、と言わんばかりのレトシア。
「メリルちゃんではありませんが、ため息ばかりしているとネガティブな感情のままになってしまいますよ?」
「分かってるよレトシア先生。……でも、望んだ物が手に入らない現実ってのは、何年経ったとしても受け入れられないですよ」
相変わらず無気力なままの返事を返すルイン。
彼はこの世界に来て数年の間、必死にロボットの存在を探し、無いと知った。その次に考えたのは、『自分でロボットを作る』という選択肢だった。だが彼は早々にそれを放棄した。
『この世界でロボットを作るのはまず無理だ。装甲やフレーム、ジェネレーター、スラスター、搭載する兵装。それにコントロール用のOSに操縦方式の確立。いや、そもそも電装品の類いだって全部1から作り出さないと無理だ。何せこの世界は、俺がいた前世よりも更に技術レベルが低い。……これだったら前世の方がまだロボットの現実味があったくらいだ。と言うか、そもそもな話俺はロボットが好きだが、設計開発が出来る程の膨大な理系の知識は持ち合わせていない。だから、例え俺が不老不死で何千年掛かったとしても、この世界でロボットを作る事は不可能だろう』
それがルインの、『自分でロボットを作る』という選択肢への答えだった。だからこそ、彼はロボットが一生手に入らないと考え、無気力化した。
しかし、転機というのは存外、不意に、唐突にやってくる。
「ハァ、何度も聞いていますが、鋼鉄の巨人、ロボットですか。まるで土魔法で作るゴーレムですね」
『ピクッ』
「ゴーレム?」
ルインは不意に聞こえた単語に反応した。
『ん?反応しましたね。これは珍しい。ですがまぁ、私の仕事は彼に魔法を教える事。これをきっかけに魔法への興味を持ってくれれば幸いですし』
更に彼の反応を見たレトシアは、これ幸いとばかりに小さく笑みを浮かべた。
「そうです。魔法には属性がある事は教えましたよね?ゴーレムはこの中でも土属性の魔法を用いて生み出される土、岩石、金属などで体を構成する巨人の事です」
「金属の巨人、か」
頭の中に金属の巨人をイメージするルイン。それはもう、彼の知るロボットに近い物だった。
「ルイン様の言うロボット、と言う物は今も良く分かりませんが、もしかしたらゴーレムなどを使ってそれを再現したり、代替する事が出来るかもしれませんね?」
「ッ」
それはルインに反応し、息を呑んだ。
「そうか。この世界に技術が無いのなら、ある物で代替すれば……。それは本当のロボットとは意味合いが少し違うが。……いやこの際そう言った事は隅に置いておこう。となるとゴーレムを素体やフレームとして、他の魔法で武装や装甲を作成して。上手く行けばロボットだけじゃない。アンドロイドやパワードスーツなども製作出来るか?」
と、ブツブツと独り言を始めるルイン。
『ふむ。どうやら魔法に関して興味を持てたようですね。ふれーむ?とかぱわーどすーつ?と言うのは良く分かりませんが。これはこれで上々ですね』
小さく笑みを浮かべるレトシア。
「さて、ではそろそろ授業の再開を……」
とその時。
『ガタッ』
「ん?」
物音に気づいて振り返るレトシア。すると、すぐに眼前までルインが迫っていた。
『ガシッ!!!』
「へっ!?」
そしていきなり両腕を掴まれ、状況が飲み込めず素っ頓狂な声を上げてしまうレトシア。
「レトシア先生っ!」
「ひゃ、ひゃいっ!?」
「今すぐゴーレムに関する情報を知っている限り教えて下さいっ!!」
「え?い、今?」
「はいっ!!今すぐっ!」
これまでレトシアと接してきた無気力なルインの姿はどこへやら。
「個人的に夢の希望が見えてきた以上、もはや今から1分1秒も無駄に出来ませんっ!さぁ今すぐ教えて下さいっ!早くっ!」
「ちょ、ちょっと待ってっ!」
これまでの姿が嘘のような熱量を見せる彼にレトシアは戸惑っていた。
「い、いくらなんでもいきなり特定のことだけを教える訳には行きませんっ!私は魔法の様々な事を教えるようにと言われているんですっ!基本的な所は大凡終わっていますから、後は復習などを繰り返して、テストをして、それで良い点を取れれば考えなくも無い、ですが……」
「だったらテストをしましょうっ!それも可能な限り早急にっ!何だったら1週間以内にっ!」
「えぇっ!?ほ、本気で言ってるんですかっ!?」
「この目が嘘を言っているように見えますかっ!?」
戸惑う彼女にずいっと顔を寄せるルイン。
「うっ。わ、分かったっ!分かりましたからっ!離れて下さいっ!顔が近いですっ!」
10歳程度とは言え、異性の顔が至近距離にある為か赤面し彼を押しのけるレトシア。
「で、では、これでどうですか?今から、そうですね。5日後に魔法のテストを出します。問題は全部で100問。このうちの7割、つまり70問以上正解出来たらルイン様のお望み通りゴーレムに関して可能な限りの事をお教えしましょう。これで如何ですか?」
「分かったっ!ならそれで良いっ!」
「言っておきますが、簡単な物をさせるつもりはありませんよ?それに、7割以上正解出来なかった場合はまた数ヶ月、予習復習を行って貰いますからね?良いですか?」
「相応のリスクがある、と言う事ですねっ!上等ですっ!」
「……ハァ、では5日後に試験を行います。資料はありますから、ちゃんと勉強して下さいね?それでは私はこれで失礼させて頂きます」
「あれ?今日はもう終わりなんですか?」
「えぇ。流石に5日後にテストとなると、問題の用意がありますから。テストの日までにあった魔法関係の授業はお休みとします」
「分かりましたっ!」
「ではこれにて」
そう言って部屋を出るレトシア。そして彼女は周囲に誰も居ない事を確認すると……。
「ハァ~~~~~」
長いため息をついた。
「何なのあの子。急にやる気を出して。いやまぁ今まで無気力だったのに比べれば良いんだろうけど」
急なアップダウンに戸惑っているレトシアは小さく愚痴をこぼした。
「ハァ、早く帰って問題を作ろ」
『変な約束しちゃったかな~』、などと若干後悔しながらレトシアは帰路についたのだった。
そして約束の5日後。レトシアは完成したテストの問題用紙と解答用紙を手にトレストリア伯爵家へと馬車でやってきた。
「お待ちしておりました、レトシア様」
そして入り口の前でメリルが彼女を出迎えた。
「おはようメリル」
短く挨拶を交した2人はその後、共にルインが待つ部屋へと向かった。今回のテストはルインの自室で行う予定だ。そして、カンニングなどの不正が無いようにレトシアとメリルがテストの間、彼を監視する事になる。
「それで。ルイン様はこの数日、どうでしたか?」
「あ、え~っと、それはその、何と言いますか」
レトシアの問いかけに少し歯切れの悪い返事を返すメリル。
「あら、歯切れが悪いわね。何かあったの?」
「え~っと、その、大変お恥ずかしい話ですが、旦那様や奥様が『別人かっ』と疑うレベルで勉強に打ち込んで居りました」
「えぇ?」
苦笑を浮かべるメリルの言葉にレトシアは戸惑っていた。
「ルイン様って、この数日そんなに見違えてるの?」
「えぇ。実際、この約束をされた当日から寝る間も惜しんで魔法の勉強をされていました。と言うか……」
「と言うか、何?」
「えと、お会い頂ければ分かると思います」
「???」
苦笑するメリルに、彼女は首をかしげる事しか出来なかった。
で、ルインの部屋にたどり着いて中に入った2人。しかしレトシアは中に入るなり驚いた。
『ブツブツブツッ』
部屋のあちこちに魔法の本が散乱し、ルインは2人に背を向けた状態でテーブルに向かって本を読んでいた。
「ルイン様、ルイン様。レトシア先生がお見えです」
「ん?もうそんな時間か」
メリルが声を掛けると振り返ったルイン。
「えっ!?る、ルイン様っ!?ど、どうしたんですかその目の隈っ!?」
しかし振り返った彼の目元には大量の隈が浮かんで居た。
「あぁこれですか?いや~。実は寝たら折角覚えた事を忘れちゃう気がして。ここ数日寝てないんですよ~」
そう言ってハハハ、と笑みを浮かべるルイン。
「えぇっ!?ここ数日寝てないって、どれくらいっ!?」
「少なくとも、ここ2日はお眠りになった様子は無いです」
驚くレトシアに、メリルがあきれ顔で答えた。
「大丈夫ですっ!まだ3轍目ですっ!もう2轍はいけますっ!」
「いや寝なさいっ!体に悪いでしょっ!?」
少し虚ろな目で語る彼に、さしものレトシアもいつもの敬語を忘れてツッコんだ。
「ダメですっ!寝たら忘れるっ!だから起きてるんですっ!幸い飯を食えば眠気は誤魔化せますっ!本気で眠くなったら机に頭突きして眠気を吹っ飛ばしますっ!物理的にっ!」
「ダメェっ!あなたは次期当主なんだからもっと体を大事にしなさいっ!」
「俺の趣味の今後に掛かってるんですよっ!命くらい賭けなきゃダメでしょうがっ!?」
「命を賭けちゃダメですっ!と言うか、そこまでしてテストに受かってゴーレムについて教わりたいんですかっ!?」
「当たり前ですっ!!俺はオタクですっ!『好き』の為なら、何だってやりますよっ!法に触れない範囲でっ!」
「出来れば常識の範囲で自分の事もいたわって下さいっ!」
と、喚き会う2人。と言うか、レトシアもレトシアで、ここまでの熱量や熱気を持ったルインを見た事が無いので少し戸惑っていた。すると……。
「あの~~。テスト、しないんですか?」
恐る恐ると言った様子でメリルが声を掛けてきた。
「「あっ」」
そして2人は、異口同音の声を漏らすのだった。
その後、レトシアが用意したテストが開始された。机に向かい、必死に問題を解いていくルイン。時折眠気が襲ってくるが、彼は自分で自分の頭を殴って強引に意識を保ち、問題用紙と格闘している。
そして、それを近くで見守るレトシアとメリル。しかし2人とも今のルインに驚いていた。
『執念』や『執着』にも近い意思だけで意思をつなぎ止め、こうしてペンを走らせているルイン。それは今まで彼女達が見てきた、無気力なルインとは真逆だった。その姿に2人は驚き、ただ静かに問題を解く彼の背中を見守っていた。
やがて……。
「お、終わり、ました」
震える手で回答用紙をレトシアに差し出すルイン。
「……すぐに答え合わせをしますから。もう少しだけ意識を保っていて下さい」
「ははっ、了解です。俺だって、結果を聞かずには、寝られません、よ」
既にその様子から、彼が起きている事も限界だと悟ったレトシアは、そう返すルインに無言で頷くとすぐに採点を始めた。
そして……。
「……終わりました」
「ど、どう、ですか?」
静かに呟くレトシアにメリルが代わりに問いかける。既にルインは起きているのがやっとの状態だったのだ。
しばし、レトシアは沈黙する。メリルもルインも、静かに彼女の言葉を待っていた。
そして……。
「文句なしの合格です」
彼女はそう言って笑みを浮かべた。次の瞬間。
「っっっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
『『ビクっ!?』』
突然のルインの、咆哮にも似た歓喜の叫びに2人は驚いた。が……。
「あっ」
しかしその喜びがトドメとなって緊張の糸が切れたのだろう。喜びから振り上げていた腕が力無く下がり、ルインは椅子に背を預けるようにして動かなくなった。
「ルイン様っ!?」
「ちょっ!?大丈夫っ!?」
まさかっ!?と思って慌てて彼の様子を伺う2人。まぁ実際は……。
『グー、グー』
殆ど気絶同然で眠りに付いただけだった。
「……寝ちゃいました、ね」
「えぇ。気持ち良いくらい、唐突に寝ましたね。ルイン様」
いびきを掻く彼を前に、やれやれと言わんばかりの2人。
その後、ルインはメリルによってベッドに寝かされ、レトシアはルインの部屋でメリルが淹れてきたお茶を飲んでいた。
「あの、レトシア様」
「ん?何?」
「時にお聞きしたいのですが、ルイン様、テストはどれくらい合っていたのですか?」
「あぁ。それはね。全100問中、91問よ」
「えっ!?そんなにっ!?」
どうやらそこまで正解していたのが予想外だったのか、驚いた様子のメリル。まぁ、以前は無気力な状態で授業を受けていたのだ。それがテストでここまで高得点を出したのだ。驚いてもおかしくはない。
「正直、私も驚きました。まさかここまでの点数を出すなんて」
そう言って彼女は笑いながらお茶に口を付ける。
「ルイン様の言って居たおたく、と言うのは良く分かりませんが、しかしそれでもルイン様の執念じみた意思には驚かされました」
「それは私や、旦那様や奥様、給仕の者達もです。普段はあんなにやる気の無いルイン様が、まさかあそこまで必死に何かに打ち込むなんて。あんなお姿、私は初めて見ました」
「あぁ、それは私もです」
2人はそう言って違いに微笑を浮かべていた。
やがて、レトシアはグーグーと眠るルインへと目を向ける。
「さて。では彼のお望みの物についての用意をしないといけませんね」
そう言って彼女は苦笑を浮かべながら立ち上がった。
レトシアは、今後の用意があるからと言ってトレストリア伯爵家を後にした。
「さて、これからどうなる事やら」
彼女は彼の変化に戸惑いながらも、小さく笑みを浮かべていた。
今後、ルインがどうなっていくのか期待と不安を覚えながらも彼女は彼に、どうやってゴーレムについて教えようか、と考えるのだった。
第2話 END
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