第1話 転生、ってこれ俺の望んだ世界じゃねぇっ!?
ロボット大好きな少年が、ロボットのロの字も無いようなファンタジー世界で、何とかロボットらしいものを作ろうと奮闘しながら冒険したりする物です。
ある日、1人の少年が満面の笑みを浮かべながら帰路を急いでいた。それはもう、今にも鼻歌を歌い出しそうな程の笑みを浮かべながら。
『ふふふっ!あぁ早く帰って作りてぇ!ネット予約限定の数量限定のプラモッ!さっき母ちゃんから届いたってメールが来てたし、あぁっ!早く帰りてぇっ!』
彼は俗に言うオタクであった。ロボットやSFが大好きな少年だった。そして今日、彼が楽しみにしていたアニメの限定プラモデルが彼の家に届いたのだ。
今も彼は、横断歩道で信号待ちをしながらも、頭の中はプラモデルの事でいっぱいだった。
『幸いな事に今日は金曜日で明日は休みっ!今日は徹夜かな~♪』
ウキウキ気分で待っていると、信号が青に変わった。信号を待つ人混みの最前列に居た彼は、信号が変わるのと同時にすぐさま駆け出した。
『キィィィィィィィィィィッ!!!!!』
「え?」
そんな彼が最後に目にしたのは、信号無視で突っ込んでくる大型トラックだった。
~~~~
「あ~~。そういうわけでな。大変申し訳ないのだが、お主は本来、今日死ぬ人間では無かったのじゃよ」
所変わって、どこか幻想的な世界。先ほどトラックに撥ねられたはずの少年の前に、老人がいて、更に周囲には背中に羽を生やした女性達、『天使』の姿があった。
先ほどトラックに撥ねられた少年に対して老人、『神』は説明をしていた。『彼』は今日死ぬはずではなかった事。それが人の世界を管理している神と天使達の手違いであった事などをだ。
それまで、話しについて行けず呆然としていた少年だったが、話を聞き終わると、俯きプルプルと震えだした。
その姿に神や天使達は思った。『きっと突然の死を受け入れられず困惑しているのだろう』と。だからこそ彼を慰めようと、神は静かに少年へと歩み寄った。
「ざっけんなゴゥラァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!」
『ドゴォッ!!!!!!!』
「げふぅぅぅぅぅぅぅっっっっ!?!?!?!?!?!?!」
「「「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?!?!?!?!?」」」」」」」」」
次の瞬間、少年の放ったキレッキレの、渾身のボディーブローが神様の脇腹に突き刺さった。突然の痛みで困惑しながらも、腹を押さえてその場に崩れ落ち震える神。天使達は突然の事に叫び、呆然としていることしか出来なかった。
「マジでふざけんなぁっ!どうしてくれる俺の楽しみをぉっ!折角バイトしてお金貯めてっ!競争倍率激ヤバのウルトラレアプラモッ!それをネットの予約競争を制して手に入れたのにっ!折角貯めたお金の9割を突っ込んでまで手に入れたのにっ!折角帰ったら作ろうと思ってたのによぉっ!!!」
少年は涙ながらに怒りの表情で神の襟首を掴んで前後にカックンカックンと揺らしている。
「こ、これっ!離せっ!離さんかっ!そ、そんなに揺らすと頭が揺れ、てっ、うぅっ!き、気持ち悪いぃっ」
「はっ!?み、皆っ!神様を助けますよっ!」
「は、はいっ!!」
ようやく我に返った天使達が慌てた様子で少年と神を引き剥がす。
「離せオラァッ!!!趣味を邪魔されたオタクの怒りの凄さっ!ここで見せつけてやろうかぁっ!!!!」
結局、天使達に取り押さえられた少年が落ち着くまで、実に1時間近く掛かってしまった。
「フーーッ!フーッ!!」
しかし、天使達に取り押さえられている少年は息も荒く、血走った目で神を睨み付けている。相手が神とは言え、鬼をも怯ませそうな程の殺気と怒りを前に神や天使達は戸惑っていた。
「やれやれ。今まで理不尽な死で多くの者を転生させてきたが、殴りかかってきた者はお主が初めてじゃわい」
冷や汗を流しながら抑えられている少年の前に立つ神。
「のぉ、とりあえず最後まで話を聞いてくれんかの?お前さんにとっても決して悪い話ではない」
そして彼の前にしゃがみ込んで神はそう言った。それからしばらくは彼も鼻息が荒かったが……。
「……分かったよ」
ようやく落ち着いたのか、小さくそう言った。
それを聞いた神が目配せをすると、彼を抑えていた天使達が離れた。とは言え、いつでも押さえ付けられるように、彼の後ろに控えたままだが。
「さっきも話した通り。お前さんの死は事故じゃ。責任はこちらにある。故に我々の力でお主を転生させる」
「……蘇生、じゃなくてか?」
それは今、彼が転生するよりも渇望している事だった。
今の彼には転生などどうでも良かった。そんな事をするくらいなら、今すぐ元の世界に戻りたかった。今の彼の言葉が、如何に元の世界で思い残したことがあるかを如実に物語っていた。
「……残念ながらそれは無理じゃ。お前さんはトラックに轢かれて死んだ。肉体は既にボロボロ。お前さんの魂が戻る事の出来る肉体は無い。それに、仮にお前さんの体が無事だったとしても、蘇生とはあらゆる世界で普遍的な生と死のサイクルを否定する事。それだけは神であっても覆すことは出来んのじゃ」
「……つまり、俺が俺であるまま生き返るには、転生しか無いって事か?」
「左様。お前さんの今の魂を、新たな器、つまり赤子へと入れる。そうすることでお前さんは新たな人生をスタートさせると言う事じゃ」
「だったら、俺が生まれる世界を事前に決められるのか?正直、こっちはお楽しみを永遠に取り上げられたんだ。それくらいして貰えないってんなら、また暴れるぞ?」
そう言って神様を睨み付ける少年。
「安心せい。こちらに非があるのは百も承知。お前さんの望む世界へと、その魂を導いてやろう」
「ッ。だ、だったら、俺の居た世界より、時代よりっ、もっと技術が進んだ世界が良いっ!この際種類は問わないっ!過酷でも良いっ!それでも、本物のロボットが動いてる世界に行きたいっ!!」
それはオタクとしての彼の夢だった。プラモデルとして売られるそれらの多くは、空想の世界、アニメや漫画という世界の中で、時に戦う兵器であったり、時に人々の生活を豊かにする道具であった。
だからこそ少年は憧れた。本物のロボットが存在する世界を。
鋼の巨人達が戦う世界にロマンを抱いた。
鉄で出来た隣人達と共に生きる世界を憧れた。
鉄で出来た友人と共に生きる人生を夢見た。
少年にとって、無くした者は多い。好きな物を、家族を、置き去りにしてここにいる。だからこそ、だからこそ『だったら』と彼は望む。
鋼鉄の巨人達、ロボット達が住まう世界での第2の生を。
「良かろう」
神はそう言って頷いた。すると何も無い場所から杖が現れた。それを手にする神。
『トンッ』
そして神が杖の底で地面を軽く叩いた。直後、少年の足元に純白の魔法陣が現れた。
「お主の願いは聞き届けられた。神々の手違いでこのような事になってしまったこと、深く謝らなければなるまい。せめてもの償い。お主の望んだ世界で、好きなように生きるが良いっ。行け!人の子よっ!」
『トンッ』
もう一度神が杖を突いた次の瞬間、少年の意識が、視界が、白く塗りつぶされていく。
「お主の第2の人生に幸があらん事を」
彼はそんな中で最後に、神からのエールを聞いたのだった。
~~~~
「おぎゃぁっ!おぎゃぁっ!」
そして、少年は生まれ変わった。
≪これが、転生か。俺、マジで転生したんだよな≫
新しく生まれ変わった少年は、どこか他人事のように聞こえる新たな器、新たな自分の泣き声を聞きながら内心呟く。
≪ははっ、赤ん坊になってるせいか、意識ははっきりしてるのに体が思うように動かねぇ。……けど、俺は来たんだな。ロボットのある世界に≫
感慨深い思いを胸に、内心では笑みを浮かべていた。
「おぉ、生まれたのかっ!我が子よっ!」
その時、声がして生まれ変わった少年、つまり赤ん坊を1人の男性が抱き上げた。
「よしよしっ!生まれたぞアリシアッ!私と君の子だっ!元気な男の子だぞっ!」
「あぁあなた。私にも顔を見せて」
妻らしき女性の声を聞き、赤ん坊を抱いていた男性は彼女の傍へと歩み寄る。そして、男性と女性の2人が赤ん坊の顔をのぞき込んだ。
「あぁ、私達の子供なのですね、マックス」
「そうだアリシア。私と君の子供だ」
嬉しそうに赤ん坊の顔をのぞき込む2人。
≪……この人達が、今日から俺の新しい両親なのか。何か実感湧かないなぁ≫
そう考えていた彼の脳裏に、前世に残す形となっていた両親や祖父母の顔がチラつく。
≪俺、結構な親不孝しちまったなぁ。まぁ、悪いのは神様なんだけど。……母ちゃんたち、どうしてるんだろう≫
彼の中でそんな疑問が顔を覗かせていた。
「今日は生まれてきてくれてありがとう。私達の子よ。お前は今日から私達の、いや。我が家の子だっ!お前は我がトレストリア伯爵家の子っ!『ルイン・トレストリア』だっ!」
≪もう少し親孝行でもしてやれば………………。んっ!?!?!?!?≫
父、『マックス・トレストリア』の言葉を聞き、後悔の念に苛まれていた元少年、ルインは思考を切り替えざるを得なかった。
≪ちょっと待てっ!?このおじ、あぁいやいやっ!新たな父親だがそれは良いっ!良いとして親父殿は今なんて言ったっ!?トレストリア『伯爵家』っ!?って事はまさか、貴族ゥっ!?≫
まさかの情報に彼は戸惑っていた。貴族と言えば、彼の中ではファンタジー世界。魔法とモンスターの世界だ。そして、彼が望んだSF世界とは対極的とも言って良い世界だ。
科学技術が発達したSF世界と、魔法やモンスターと言ったおとぎ話にも似たファンタジー世界。
≪た、確かに、室内を見渡してみれば、調度品とかベッドとか、人の服装とかファンタジー世界っぽいような。って言うかメイドさんが何人も居ないかっ!?≫
上手く動かない体ながらも、何とか視覚から情報を収集するルイン。
彼の言うとおり、それはファンタジー世界をベースとしたアニメなどで見た、貴族の部屋という感じの場所だった。更に傍には数人のメイドが控えている。
≪ま、まさか俺、ファンタジー世界に転生したっ!?い、いや待てっ!落ち着けっ!いくらファンタジーのように見えるからってロボットが無いって考えるのは早計だ。そ、そうだよ。ファンタジーとSFが融合した作品だってゼロじゃない。それを考えれば、親父殿たちがファンタジー風な格好をしていたとしてもおかしくはない。長い歴史の中で貴族社会が復活して、見た目はそれっぽいが実はハイスペックな服とか何とかって話もあるくらいだっ!そ、そうだっ!きっとそうに決まってるっ!≫
ルインは心の中で必死に願い、本当かも分からない推察を並べていった。だが、そうしなければならなかった。もし、ここが彼の望んでいないファンタジー世界ならば、彼自身多くを犠牲にして転生した意味が無いのだから。だからこそ推察を並べて否定していく。
『ここはファンタジー世界な訳がない』、と。
「あなた、ルインに見せてあげて。この世界の広さを」
「あぁそうだなっ」
しかし困惑するルインを他所に、彼を抱いたマックスは部屋にあるテラスへと歩みを進めた。そして開かれたドアの先に広がっていたのは……。
「見てご覧ルインッ、これが世界だっ!世界へようこそ、我が息子よっ!」
大きな屋敷の2階にあるテラスから見える景色。
屋敷の庭では、庭師が庭の手入れをしている。敷地の向こう、金属製のフェンスを越えた先に見えるのは、見るからに中世の雰囲気が溢れる町並み。そしてその更に奥に見えるのは広大な緑の森。
≪あっ、なっ≫
ルインは内心、絶句していた。
彼が望んだロボットの姿はどこにも無い。
彼が夢見た未来のような道具は影も形も無い。
彼の夢だったSFのような存在は、どこにも存在していなかった。
この世界は、紛れもないファンタジー世界だった。
≪そん、な≫
心の中で絶句するルイン。そして……。
「う、うぅぅぅっ!おぎゃぁっ!おぎゃぁっ!おぎゃぁっ!!」
「おぉどうしたルインっ!?」
彼の心の動揺を表すかのように、まだ赤ん坊の彼は声を上げて泣き出した。慌てて中に戻るマックス。
突然泣き出した息子に戸惑うマックス。だが、肝心の息子、ルインは……。
≪あんの駄目神ィッ!!!魂の送り先間違えてるじゃねぇか~~~!ザケンナァ~~~!≫
完全に箍が外れて怒り狂っていた。
「おぉアリシアッ!ルインが泣き出してしまったんだっ!ど、どうすればっ!」
「ふふ、大丈夫よあなた。私に任せて」
彼女はマックスからルインを受け取り、優しく抱きしめる。
「大丈夫よ。あなたのお母さんは、私はここに居るから」
優しい声と表情で赤ん坊のルインを宥める母アリシア。やがて数秒すると、泣きじゃくっていたルインが落ち着いてきた。そしてそのまま、赤ん坊のルインはウトウトと眠そうな顔をし出した。
「生まれてきてくれてありがとう。私達の愛おしいルイン」
「そうだねアリシア。今日からこの子の成長が楽しみだ」
ウトウトするルインを前に優しい笑みを浮かべる2人。
ただ、彼の中では……。
≪あの神ィッ!次会ったら絶対殴ってやるゥゥゥゥゥゥッ!!!!≫
2人の事など忘れてめちゃくちゃ神に怒り心頭で荒れに荒れまくっていたのだった。
こうして、神の手違いで命を落としたロボットが好きな少年は、何の因果かファンタジー世界へと転生してしまうのだった。
第1話 END
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