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流星の泪  作者: 退廃さん
9/22

現実

ガチャリと玄関をあける。


家に上がると昨日の事が夢の様に現実が夏生に容赦なく降りかかる。


散らかったリビング。


妙に静かだ。いつも酒を飲みイビキをかく父親の姿がない。


夏生は少しほっとしたようにキッチンに向かい冷蔵庫を開け麦茶をコップに注ぐ。麦茶を口にしながらリビングを徘徊すると、放り投げられたタバコを見つける。手に拾い中を確かめると開けたばかりの様にタバコが十分に入っていた。


(らっきー)


コップを薄暗いリビングのテーブルに置き、手慣れた様にタバコを取り出す。


「ライターは、と」


タバコを銜えたまま散らかったリビングを探す。


「お、あったー」


酒瓶と一緒に転がったライターを拾いタバコに火をつける。


「はあ、」と紫煙を吐き出しながら夏生はため息をついた。


夏生がタバコを吸っている事は昴は知らない。


別に隠しているつもりはないが、昴がいればタバコは要らない。


「俺がなにしたってゆーんだよ、」


静かなリビングに夏生の声が響く。


夏生が住む家は父親の両親が建てた家だ。本来なら一緒に住んでいる筈の家。だが父親が前妻と離婚し、再婚した今の母親とはうまがあわず、祖父母は家を手放し。地元へと帰ってしまった。


昔づくりの家は無駄にでかく、猫の額ほどだが庭があり、いつも開けるリビングとは反対方向に襖で閉まった縁側がある。そこから日が差す縁側が夏生は好きだった。


小さい頃、いつもここでおばあちゃんと遊んでいた頃を懐かしく思う。


まさかこんな事になるとは想像もつかなかった。


タバコを灰皿にネジ消し麦茶を口にする。


夏生はリビングの襖を開け久々に縁側に出る。


朝の清々しい太陽の日差しが差し込んでいた。


使われずに閉められていた縁側は奇麗だった。


夏生は一度、自分の部屋へと階段を上りクッションを取り上げ、縁側に戻る。ポスンとクッションをおき僅かに窓を開けた。


春風がすり抜けていく。クッションを下に暫く春風に身を委ねる。


さわさわと髪が風に舞い上がる。


(昴)


本来なら学校に行き、屋上でサボるか図書室で本を読みながら居眠りしている筈だった。


(そもそも勉強を真面目に受けていないしな、)


ホームルームが終わった頃にクラスにはいり席につく。そこからノートを広げ欠伸を漏らす。ペンを器用に回しながら机に腕をつき退屈になると席を立ちクラスを後にする。


一番落ち着くのは図書室。禁止されてる窓を開け日差しが心地よくスート吹き込む図書室の奥の席が夏生のお気に入りだった。


そして思い出の場所でもある。


この図書室の席で昴が告白した場所。顔を赤くしながら瞳は揺れ動き、はきだす声は言葉にならずしどろもどろとしている。放課後のチャイムが鳴り、その音とかぶった様に、


「お前が好きだっ!・・・・へっ、返事はいい、ダメなら、図書室を、でていってくれ、」


見詰める昴は顔を合せず下をむいたまま黙っている。


夏生は、ふっ、と笑みをこぼした。


ピクっと昴の肩が動く。時間が経つ、もう下校の時間だ。


夏生は動かない、そっと顔を上げた昴の瞳は夏生の顔を見、そしてまたそらす。


「返事、」


「え?」


「出ていかなかっただろ、」


「・・・・あ、」


ふふ、と夏生は笑う。


「・・・・ま、まじ?」


「まじ、」


「っ・・・・!は、は。」


「俺、男だよ?」


「せ、性別は関係ない、」


「でもお前女子にモテモテじゃん。好きな人いないの?」


「いる、夏生、お前。」


「ふうん。・・・・俺も好きだよ、昴。」


その言葉が昴を突き抜ける。


「・・・・。」


「りょーおもい、」


「ほんとか、」


「うん、」


舌を出し悪戯に笑うと夏生は頷いた。


「ヨロシクね、」


「よ、よろしくお願いします、」


そこから離れた事はなく学校でも一緒だった。




「懐かしいな・・・・、」


呟いて夏生はクッションに頭におき、日差しが心地よく静かな縁側で瞳を閉じた。


柔らかな風が吹く。いつの間にか寝てしまった夏生の口から、スゥと寝息が聞こえた。



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