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流星の泪  作者: 退廃さん
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ぬくもり





「おばさん、ありがとうございます、迷惑かけてすいません、」


「そんな寂しい事言わないで、おばさんはお節介よ。」


ニコニコと笑う昴の母親。


「ご飯できたら呼ぶから、ね、」


「はい、」


「ホラ早く。母さんありがと、」


「はいはい、」


昴に手を引かれながら夏生は階段を上がる。


「はあ、やっと落ち着いたー」


部屋に入るなり昴はベッドに身を投げ出す。


「夏生、こっち」


「え、ヤだよ。」


「なんでだよ、いいじゃん。」


さっきまでの弱弱しい態度が微塵もない。


「お前ね、相変わらずツンデレね、さっきまで泣いてたくせに。」


夏生はベッドに沈む昴の放り投げた昴の膝を跨いで座る。


グイッと夏生の手を取り昴は夏生を抱きしめた。


昴の胸に耳を寄せた。(落ち着く、)


夏生は目を閉じる。(幸せだ、)


ずっとこのままが良い。これ以上の幸せはない。この手を離したくはない。


ジワリと夏生の瞳に涙が滲む。


嗚咽を漏らさないように夏生は唇をかむ。震えた夏生の肩。


それを昴は見逃さなかった。


抱きしめる昴の手に優しい力がこもる。


その瞬間、夏生の目から自然と涙が零れた。


やがて聞こえ始めた泣き声。ギュウッと昴に抱きしめられる。


「・・・ごめん、」


夏生は涙声で呟く。


「大丈夫だよ、夏生。」


ずっと「夏生』と呼んでいて欲しい。こんなにも切ない願いはない。


カチコチと時計の音だけが響く。


夏生はスンと鼻をすする。


「泣き虫だな夏生は、」


「うるさい、」


身を起そうとする夏生の手を取って昴はまた抱き寄せる。


「もう、昴、」


不意に顔を近づけてきた昴は夏生にキスをする。


「ああもう!なんでそんなに可愛いんだよっ!」


「はあ?なんだよそれ、俺を可愛いなんて言うな。」


昴から体を起こし、昴めがけて枕が飛ぶ。


「だってしょーがねーじゃん、俺の一目惚れ、まさか告白をオーケーしてもらえるなんて思ってなかったしよー。奇跡だろ、」


「奇跡ってお大袈裟な、」


昴の膝に座ったまま、枕で昴に叩きつける。


どたんばたんと抗戦が続く。暫くすると階段のしたから昴の母親の声が聞こえた。


「昴、なっちゃん、ご飯よー、」


その声にふと我にかえる。


枕で殴られ続けられた昴の髪はぼさぼさで、夏生も夏生で目を泣き腫らしている状態だ。


わしゃわしゃ、と手ぐしで髪を整える昴。泣き腫らした夏生の目はどうしようもない。




「今行くーーー、」


昴は声を上げ、夏生の手を取る。


「お返し、」


振り向きざまに夏生にキスをする。


「ばか、」


「はいはい、照れた顔も可愛いよ、」


からかう様に昴は言う。


「お前、階段から落ちろ、」


足で昴を蹴る。


「早くしなさーい、」


部屋のドアを開けると美味しそうな匂いがしてくる。


すると、ぐう、と夏生のお腹がなる。


「笑うなよ、」


「分かりました。」




トントンと階段を降りリビングへと向かう。




テーブルに並べられた手料理。


ハンバーグにサラダにスープとご飯。


「さ、なっちゃん席に座って。」


「ありがとうございます、」




久しぶりのまともな食事。


夏生は手を合わせて、ハンバーグを口にする。


「、おいしい、」


不意に零れた言葉。


満足そうな昴と母親。


「おかわりあるからね、」


口にてをあてながら、夏生は頷いた。


「おいしいだろ?これ母さんの得意料理、」


「昴、余計なことを言わないの、」


「でも、凄く美味しいです、」


「あらぁ、嬉しいわ。」


昴の母親は嬉しそうに微笑む。




「ごちそうさまでした、」


結局ご飯をおかわりしてしまった。


「美味しかったです、」


「ありがとう、なっちゃんはいい子ね。」


夏生は少し照れた様に笑う。




「夏生、風呂はいるだろ、」


「いいの?」


昴と母親の声が重なる。


「当たり前だろ『でしょ』」


「え、と、ありがとう、です、」




「食器の片づけはやるから、なっちゃんはお風呂はいっておいで。」


「じゃ俺も、」


「絶対ヤだ。」


「あら、フラれたわね昴。」


「ええーなんでよ、」


「イや。」


「だって、じゃあなっちゃんお風呂どうぞ、昴は食器を片づけてね、」


あからさまに肩を落とす昴。(一緒にはいりたかったあ)昴は心で叫び用意された洋服を手に取りお風呂場へと向かう夏生の背中を見つめる。


ふと夏生は振り返り、昴に向けて舌をだす。


「なんだよそれぇ・・・」


項垂れる昴。


「ほら昴、片付けてつだって。」


「ああ、もうっ!!」


(後で覚えとけよ夏生、)




とぼとぼと片付ける昴。




渡された洋服を手に取り夏生はそっと風呂場のドアをあける。


いつもシャワーで済ます夏生は湯船にはったお湯を見つめる。


「たまにはいっか、」


呟き夏生は服を脱ぐ。


浴槽にはいるとシャワーで髪と体を洗い流し、僅かに楽しみしていた、湯船へと足を入れる。


チャポンと肩まで浸かる。夏生の白い肌が湯船の温かさに軽く蒸気しほんのり赤く染まる。


「おふろさいこーー、」


声が浴室に響く。暫くの間湯船で体を温める。


そろそろのぼせ始める頃、夏生は湯船を後にする。


(気持ちよかったあ)


久々にお湯に使った夏生は用意されたバスタオルで体を拭く。


髪をタオルでゴシゴシと拭くと、洗面台にうつる自分の姿を見た。


「髪、長くなったな、」


肩につく毛先。前髪は搔き上げても目にかかる。


「ま、いっか。」


呟いて下着に足をとおしズボンを穿いた時、がらりと洗面所のドアが勢いよくひらいた。


「はああああ、」


「す、昴?」


「遅かったあーーー!!」


ガクンと壁にもたれ掛る昴。


「ちょっと、着替えてんですけど、」


「知ってるよおお、」


上着に手をかけ着ようとした瞬間、あらわになった夏生の上半身の体に昴は反応する。


上着を手にする夏生の腕を引っ張り抱きしめた。


ポタポタと髪から水滴が落ちる。


上半身の夏生の身体。昴は夏生の首に咬みつく。そして強く吸い付いた。


「なになに、何してんだよバカ昴。はーなーせー」


「待って、もう少し、」


「何言ってんのお前、」


上半身の夏生に抱き着く昴。


「後で出来るだろ、もう離せって、」


「後で?」


「そう、後で!」


「言ったからな?」


「言ったから、出ていけ、」


「分かった、」


すんなりと夏生の身体から離れると、おとなしく昴は出て行った。


「はあ、」


洗面台の鏡にうつった夏生の細い首筋、咬まれた跡がまるで自分のモノだと言うように赤くなっている。


「え、ちょっと待て、後でって何、後で・・・怖い怖い。」


ササっと上着に手をとおし、夏生は洗面所からでた。


「お、っとビビった、昴何してんだよ、」


ずっと待っていたのか、腕組した昴がいた。


「お前の風呂待ち、」


「ああ、ごめん。」


「いいよ、」


すれ違いざまに昴は呟く。


「後で、な」


「お、おう。」


何が後なのか夏生には分からない。


(俺、なにされるんだ、)


ビクビクと夏生は両肩を抱きしめる。




「あら、なっちゃん。お風呂きもちよかった?」


「こっちにいらっしゃい、」


おいでと手を振られる。


「何か飲む?」


ソファーにまたしても座らされる夏生。


「ハーブティーとかどうかしら?」


昴の母親は夏生の返答なしでお茶の準備を始める。


(ハーブティーってなんだろ、)


カチャカチャと食器を鳴らしながら、夏生が座り込むソファーへと運ぶ。


「はい、どうぞ。」


ティーカップにそそがれたハーブティー。


フワリと華やかな香りが鼻に香る。


「お砂糖は好きにいれてね、」


角砂糖を渡される。


「ハーブティー飲むの初めてかしら?」


「初めてです、いただきます、」


そっと初めてのハーブティーに口づける。


「どお?カモミールってゆうお花のお茶、」


「心をリラックスしてくれるの。」


「いい香りですね、・・・砂糖入れても、」


「いいわよ、なっちゃんには少し早すぎたかしら、」


ふふ、と笑う昴の母親。


ハーブティに角砂糖を数個いれて、夏生は口に含む。


「あ、」


「いいかげんかしら?」


「はい、ハーブティ不思議な感じです。」


「ならよかったわ、」






「なーつーきー」


いつの間にか風呂から上がった昴はタオルで頭を拭きながらリビングへと登場する。


「もーあんたは、二人だけのティータイムが台無しよ、」


「じゃ俺もまぜて、」


「父さんはまだ?」


時計の針は夜の九時を回っていた。


「残業みたいね、」


「ふうん、」


昴の父親は大手会社のサラリーマンだ。


昴の母親は父親が帰って来るまで起きている、良妻だ。


「母さん、無理しなくてもいいのに、」


昴の心配をよそに『大丈夫よ,』と微笑む。


「ほらもう寝なさい、」


「なっちゃん、ありがとうね、」


「いえ、ハーブティごちそうさまでした、」


夏生は頭を下げる。


「疲れたでしょ、ゆっくりお休みなさい、」


「おやすみなさい、今日はありがとうございました。」


「いいのよ、いつでもいらっしゃい」


「はい、」


「じゃ母さん先に寝るね。お休み。」


「はい、お休みなさい。」




昴の後を歩く。階段を上がり、昴の部屋に戻る。




後で、な、夏生」

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