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流星の泪  作者: 退廃さん
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日常

もうすぐ日が暮れる。


夏生の手を引きながら昴は歩く。


少し俯きかげんに歩く夏生。足元も不安定だ。


これからどうすればいいのか分からない。目の先は真っ暗だ。


「夏生、」


顔を覗く。昴を見つめる瞳は不安に揺れていた。


どうしようもできない精神がズレていく。


昴は夏生を引き寄せ抱きしめる。


「夏生、俺がいるから、早く帰って温かい飯でも食べようぜ。母さんには夏生が来ること言ったから。」


「今日の夜飯ハンバーグだって。母さんお前が来ると嬉しそうだしな。お前ちゃんとしたご飯食べてないだろ?」


夏生のご飯はカップヌードル、パン、コンビニのお弁当だ。


それらの食費は義理の母親が月に一度渡してくれる二、三万の現金で賄っている。


「ほら帰ろううぜ、夏生。」






「ただいまー、」


ガチャリと鍵を開け玄関に入る。


「お帰りなさーい」


リビングからスタスタと玄関まで来る足音が聞こえる。


「なっちゃんお久しぶりねえ、ホラあがってあがって。」


「母さん、俺たち上に居るから、」


「何言ってんの!私もなっちゃんとお話ししたいの、アンタはなっちゃんの着替えの準備でもしてあげて、」


ご飯を食べて帰るだけのつもりだったが、いつの間にお泊りの話ができあがっているんだ。「あの、」「泊っていくよな、夏生、」


昴の声が夏生の言葉を遮った。


「じゃあ母さんよろしく、」


「あがって、なっちゃん、」


「お邪魔します、」


夏生は靴を脱ぎ揃え用意されたスリッパに履き替える。


「また、昴が無理やり連れてきたんでしょう?」


「そ、そんな事ないです。」


夏生を見て微笑む昴の母親。優し気な目元は昴と似ている。


リビングへ通されソファーに座られさせる。


昴の母親は両向かいに腰を落とすと、夏生を見つめる。


「なっちゃん、お家は大丈夫なの?」


「、はい。ダイジョブです。」


「ちゃんとご飯はちゃんと食べられてるの?何か、困った事はない?」


心配そうに母親は尋ねる。


「お家に帰りたくなかったら、いつでもこうゆう風に泊まりに来ていいんだからね、気を使うだろうけど、気にしないでいいのよ、」


「ありがとうございます、俺は大丈夫です。・・・今日は泊まらせてもらいます、」


ペコリと頭をさげる。


昴の心配性は母親譲りだな、と夏生は思った。




あれはいつだったか、父親の暴力で顔に痣ができ、そのまま、登校した時だった。昴は夏生の顔を見るや否や詰め寄り夏生の肩を揺らした。


「保健室いくぞ!」


「お大袈裟だよ、チャリでこけただけだってば、」


いう言葉とは裏腹に口元は紫に腫れている。


夏生が学校に来ない時も時々あった。夏生宅に寄りチャイムを鳴らして出てきた夏生の顔は案の定、瞼を腫らし顔に体には痣ができていた。心配する昴に平然とした夏生の態度。


「だいじょーぶだよ、」


口元が痛いのか少し引きつった笑い顔を見せる。


(大丈夫な訳がない。どうしたらいい、どうすればいいんだよっ!)


昴は夏生の手を強引に引っ張り、昴の家へと足早に歩く。


「ちょ、昴、なにすんの。ドコ行くんだよ、」


歩調の合わない足取り。昴は握った手を離さない。


「俺んちだよ、全然大丈夫じゃねぇじゃねーか、」


昴の口調が強くなる。


「なんで、なんで、そんなに平然としてんだよ!なんで何も言わないんだよっ!!お前風邪って言ってたじゃねーか、」


昴は急に立ち止まる。夏生の手を握る昴の手が震えていた。


「ちくしょ、なんで気付かなかった。なんでそんなに痣だらけなんだよ、なんで何も言わえーんだよっ!!俺たち親友だよな?それ以上だよなっ!!」


叫ぶ昴は涙を零した。夏生の両手を握りしめる。


「なんで、なんで、」


どこへもいけない、昴の怒りと悲しみ。


「昴、手がいてーよ、」


「嫌だ、離さない、」


「分かっただろ、どうしよーもないんだ。これが俺の世界なんだよ。」


「知らねーよっ!」


「分かったから、俺は大丈夫だから、」


涙を流す昴の両手をゆっくりと離し昴を抱きしめる。


そして軽くキスをする。


「な、俺は大丈夫。」


今にも泣きそうな夏生の震えた声。それでも夏生は泣かない。


「ごめんな、俺、自分ちに帰るから、」


「嫌だ。」


涙を無理やり拭い、妙に穏やかな夏生を抱き寄せる。胸に抱えて昴は夏生の頬に顔を寄せる。


「俺んち帰ろ、」


「いいよ、おばさんが俺見たらびっくりするだろ、」


「連れていく。」


再び夏生の手を無理やり握り返す。


そして昴宅につくと顔を見せた昴の母親が声をあげる。


「なっちゃん!どうしたのお!?」


昴は言葉には出さなかったが、母親には伝わった。


「ほら、なっちゃんあがって、手当しなきゃね、大丈夫?」


「お邪魔します、だいじょうぶです、」


少しよろけながら夏生は靴を脱ぎ準備されたスリッパに履き替え、昴の母親の後を着いていく。


ソファーに座らせられる。昴は二階の自分の部屋にいったらしい。


昴の母親はワタワタとリビングの棚をあさりやっと見つけた救急箱を取り出し、夏生の隣に座り消毒液や湿布、塗り薬を手際よく治療し夏生の肩に手を置く、「強がりはダメよ。今日は泊まりなさいね。ご飯作るから、」




「夏生ー、母さんもう終わった?」


「大丈夫よ、」


頬に湿布をはられ絆創膏だらけの夏生を見る。


「母さん、ありがと、」


「昴でかした、」


「うん、」


「夏生部屋行くぞ、」


「うん、おばさん、ありがとうございます、」


頭を下げた夏生の頭を昴の母親は撫でる。


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