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流星の泪  作者: 退廃さん
3/22

現実

リビングのカーテンを開けタバコを吸う夏生。


春の緩やかな風が頬を撫でる。


(昴は塾か、)




ふと夏生は昴と出会った頃を思いだす。




昴は俗に言う優等生で顔も整っている上に人渡りが上手だ。


誰彼構わず昴は人に囲まれている。だが当の昴本人は殆ど聞き流して頷いているだけの道化。


あれは昨日の事の様に思い出せる。




学校の図書室。


窓を開けるのは原則として禁止されてるが、開いてるのかカーテンが風になびいていた。


昴は何気なく立ち寄った図書室で窓を開け椅子にもたれ掛り眠る少年を見つけた。


少し長い前髪を緩やかな風に揺らしながら少年は眠っていた。


放課後はもう過ぎている。昴は声をかけようかどうしようかと悩みながら、髪を揺らし眠る少年に、確かに見惚れていた。


昴の気配に気づいた少年はフッと目を開く。髪をかきあげながら昴を見る。


「ごめん、邪魔した、」


踵を返す昴を少年は呼び止める。


「今、何時限目?」


「えっと、もう放課後、」


「ふうん、てかお前誰?」


ツリ目気味の大きな瞳に見つめられて昴はドギマギしながら応えた。


「昴、東屋昴、き、君は?」


若干声が震えた。


「君って、お前で結構です。俺は夏生、日向夏生。」


「何組?」


「二年三組、」


「二年って俺と一緒か、」




机に散らかった本をまとめ本棚にほいほいとなおしていく夏生。


その本の殆どが天文学や星座や星々が載っている。


「そ、それ。星が好きなの?」


「えーそうだけど、なんで?」


少し長めの前髪越しに昴を見つめる大きな瞳。


昴のドストライクな少年だった。


「え、と。星が見渡せる丘があるんだけど一緒にいかない、かな、と。」


「デート?」


夏生はからかう様に言う。


「ち、ちがくて、そんなのないない、」


しどろもどろにたじろぐ昴を見て夏生はいたずらに微笑んだ。


「おーけー、連れてってよ」


昴はホームランボールを受け取った。


「よろしく、昴。」


「よ、よろしくお願いします。」


初対面で心惹かれ、ドギマギしながら一度目の約束へと繋いだ。


それからあれやこれやで仲良くなり、いつの間にか一緒にいる。




外は夕暮れに染まりつつある。ドアを閉め、タバコを灰皿にネジ消しキッチンへと向かう。


父親は相変わらず眠りこけている。


ふと見つけた、ぐしゃぐしゃに丸め込まれた紙を拾う。


広げた紙はハンコの押された離婚届。


夏生は一瞬、息につまる。そして呆然と立ち尽くした。


紙を広げる手が震える。


なんだかんだと言いながらも学校まで通わせてくれていた義理の母親。


(マジか...)


夢か冗談だと言ってほしい。


だが、手に取った紙が真実だ。


(うそだろ、うそだろ。)


一番に気を取られたのは昴にはもう会えないのかという事。


「いやだ、」


ピンポーン


玄関のチャイムが鳴った。一度目は居留守を使った。




『夏生ー』


チャイムと同時に昴の声が聞こえた。


その瞬間、夏生はガチャガチャと鍵を開け勢いよく昴に抱き着いた。


昴はバランスを崩しながらも夏生を受け止める。


「え?ええ?夏生、どうした?」


「もう、会えないかと思った、」


「なにがなにが?会いに来ただろ、」


昴は腕にうずくまる夏生の頤を両手で持ち上げた。


いつも勝気で弱さなど見せない夏生。


腕の中で昴を見上げる大きな瞳が不安そうに揺れていた。


「おれ、学校、もう行けない、これ、」


昴は夏生の手に握られた離婚届の紙を広げる。


「昴、もう一緒に学校にいけない、おまえと会える時間、なくなっちゃう、」


昴は夏生を胸に抱き寄せる。


「そんなことはしない、お前が学校行けなくなっても俺は会いに行く、休みの日はずっと一緒にいる、塾だって関係ない、俺はお前に会いに行く」


「だから、そんな顔するなよ夏生。俺の気持ち知っているだろ?」


抱きしめられながら昴の胸の中で夏生は頷く。


「俺の一目惚れだったんだしさ。」


「俺、夏生が好きだよ、どんなになっても気持ちは変わらない、だからな、夏生、こっちむいて、」


「うん、」


少し顔を上げた夏生の唇に昴は軽くキスをする。


「ん、昴。」


「ダメだった?」


夏生は涙を拭いながら照れた様に、お返しのキスをする。


(ああ、もう愛おしい、)


急に早くなった動機を抑え昴は夏生の手を引く。


「俺んちいこーぜ、母さんお前の事心配してんだよ、」


「え、なんで?」




手をひかれながら夏生は尋ねる。




「お前んちこの辺りでは有名だからな、でけぇ家あるのに人がいないとか怒鳴り声がするとか、母親は派手で、家にいない、子供、お前が可哀そうとか、なんとか、」


「マジか、知らなかった」


泣き顔から一気にキョトンとする夏生。




「まあいいだろ、俺ン家行くの久々だろ?」


「大丈夫、下心はない、」

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