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流星の泪  作者: 退廃さん
22/22

終わり

ふと、夏生は目を覚ます。


目覚まし時計は深夜の2時を回ってる。(ヤな時間に起きたな)


隣で寝ている昴を見る。長いまつ毛。薄い唇。整った顔。


(俺のどこがいいのか・・・・、)


昴は『可愛い』を何度も言う。嬉しいくないかと言えば噓になるが、自分のどこがいいのかなんて分からない。


母親に似た瞳。小さい夏生を家に置き、派手な服で出掛けて行く背中を何度も見送り泣いて恋すがった事か。夏生の学歴は小学生で止まっている。2度目に迎えた義理の母は、自分を嫌いながらも学校には行かせてくれた。


劣等生ではないが、夏生は授業を真面目に聞いたことはない。


名前を呼ばれるが夏生は手をひらひらと振り教室をでていく。長い前髪を揺らしながら授業中の静寂な中をぱたぱたと上履きの音を響かせ図書室に向かう。天体や星々の関連する本をいくつか持っていつもの様に窓を開け席につく。夏生のお気に入りの場所。


何度も見返した天体の本ばかり。夏生は飽きもせず見つくす。


フワリとカーテンが風になびく。そしていつの間にか寝てしまう。




(昴と会ったのも図書室だったな、)




頭がよく整った顔立ちをする昴。人渡りが上手なのか昴の周りにはいつも数人の人がいた。そして女子からはモテモテ。まるで青春ドラマに登場する主人公のようだ。


昴の名前は知っていた。一度廊下ですれ違った時、耳にした名前だ。ふと振り返る様な仕草をする昴を気にも留めず夏生は窓の方を見ながら歩き去っていく。すれ違いざまに見た昴の顔、(イケメンだ)素直にそう思った。


まあ自分には関係ないと、名前、顔まで薄れていく。


(まさか告られるとは、)


「俺のどこが好きなの?」と聞いた時がある。


答えは即答だった。


「全部」


特に夏生の顔が昴のドストライクに突き刺さった。




昔の事を思い出しながら夏生は昴の頬を撫でる。夏生はそっと布団から抜け出し、部屋のドアをあけ静かに一階に降りてくる。


冷蔵からジャスミンティーを取り出しタバコを拾いあげそのまま縁側の襖を開ける。


かちゃりと鍵をあけると夜風が夏生の髪を揺らしながら吹きぬけていく。タバコに火をつけ、息を吐く。


(そら・・・・あれがデネブ、アルタイル、ベガ・・・・)


夏生は指先で夜空の星座を綴っていく。


すっと星が流れる。


タバコの煙が夜風に紛れてかき消されていく。


(なあ、親父、アンタは幸せだったか・・・・?)


(俺はこれからどうやって生きていけばいい?)


(俺を一人残して、どこへいけばいい?)


見上げる夜空が滲む。


震える手でタバコを吸う。




「夏生・・・・、」


「ん、起きたのか?」


「何してるんだ、それタバコ。」


「うん、」


「未成年だろ、かせ、」


「いや、部屋に戻れ、」


振り向けば涙が零れそうだった。


「・・・・夏生。」


「いいから、部屋戻れって!」


「灰皿、消せ、」


表情を悟られないように差し出され灰皿にタバコをネジ消す。


「夏生、顔を見せろ、」


「は、なんで、」


「いいから!こっち向けっ」


夜風に揺れる髪。無理やり腕を引っ張り夏生の顔を正面から見つめる。


「は、はは、」


ぽろりと大粒の涙が不意に零れる。


俯く夏生。そして笑う。


「はは・・・・おれ、独りぼっちになっちゃった。」


涙がとめどなく溢れてくる。それでも必死に笑顔を作る夏生。


昴は夏生を抱きしめる。


「おれ、は、」


昂にすがる様にズルズルと床に座り込む。


「な、なあ俺はこれから・・・・っどうすればい、いのかな、どうやっていけばいいいかのな、・・・・ぜんぶ、全部なくなっちゃった、なくしちゃった。・・・・おやじ、卑怯だろ・・・・もう、もうなにもいえない、」


昴は座り込む夏生を胸に抱き寄せこれ以上ないくらいに抱きしめる。


「俺がいる。夏生、泣くな、俺の心臓に耳当ててみろ、」


そっと夏生は昴の胸に耳をあてる。


『トクン、トクン、』と心臓の音が聞こえる。どうしてなのかわからず、余計に涙が頬を伝う。


「お前が、俺が生きている証拠。・・・・なあ夏生、今から夜空の見える丘、行ってみよう、」


「もう、泣くな・・・・、」


「おの丘行って、お前の父さんにさよなら、伝えよう、」


昴の心音は安らぎに満ちている。


「・・・・さよなら、か。・・・・ん、」


昴は夏生の顔を両手をあて、夏生の涙に濡れた顔を見つめ、涙に滲む目元にキスをする。


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