指切り
「ごちそーさまでした、」
「ごちそうさまでした、」
両手を合わせ食器をキッチンへと運ぶ。
「あら、だいじょうぶよ、お風呂はいってらっしゃい。」
「昴、なんかあんた楽しそうね、何かあったの?」
「夏生と風呂、」
「またあんたは、・・・・なっちゃん困らせないでよ」
「はいはい、」
「先に入るから、あとでな、」
「分かった、」
ご機嫌な昴を後に夏生は先に風呂に向かう。
髪を洗い身体を洗って夏生は湯船に浸かる。
入浴剤を入れた湯船は乳白色に染まる。
「すばるー、」
洗面所で待機してた昴はわくわくと服を脱ぎ風呂場のドアをあける。
カラカラとした音に夏生は反応して肩まで浸かる。髪が湯船にゆらゆらと揺れる。湯気に染まった浴室。
夏生を背に髪を洗う昴の背中を見つめる。
まっさらな背中。泡が伝う。
(こいつの背中こんな広かったっけ、)
「・・・・夏生?」
不意に振り向く昴。
「な、なんでもない、」
夏生は気恥ずかしさに視線を逸らす。
ぶくぶくと泡を立てドギマギする心を落ち着かせる。
昴は体を洗い流し濡れた髪を搔き上げる。
「あ・・・・、」
ドキッとしてしまった。
(これじゃあ・・・・女子に人気があるはずだ、)
「どうした?」
「う、ううん、どうも、」
「夏生はいっていい?」
なるべく合わせないように夏生は平常心、平常心と心に言い聞かす。
「もう少し、前、」
「う、うん、」
湯船に浸かった昴は「はあ」と大きく息をついた。
「なあ夏生、」
「なに、」
「なんで目逸らすんだよ、もっとこっちきて、」
「え、ちょ、ちょっとまて」
「いいから、」
昴の腕から逃げる様に夏生は体を丸める。
「・・・・もしかして恥ずかしいとか?」
水を弾く白い肌。昴は腕を夏生に絡ませると体を引き寄せる。
夏生の耳がほんのりと赤く染まる。
「可愛いなあ、お前は、」
「可愛いとかゆうな」
「誰にもわたしたくねえ」
「お前みたいな物好き、ほかにいるか、」
「はあ、お前自分がどんな目で見られてるか知ってるか?」
「・・・・陰キャのぼっち、陽キャなお前と一緒にするな」
「ああ、これだからお前はああ、」
「まあ、いいや。俺に勝てる奴なんて他にいるわけないしな、」
「・・・・随分な自信だな、」
「当たり前だろ、俺、カッコいいだろ、」
「・・・・はい、」
「よし、認めたな。俺は、」
「努力してるんだもんな。」
「そう、お前を誰かに取られたくない、お前のその目は俺だけを見ていて欲しい。」
夏生の細い首筋に唇をあて、手を絡ませる。
昴の手が夏生の頤をつかみ、頬を滑らせ唇にキスをする。
「愛してる」
「・・・・お前は?」
「俺も・・・・愛してる」
「・・・・のぼせる」
呟いた後、ぐったりと夏生は昴の身体にもたれる。
「な、なつき!?」
「もうむ、り」
元々、恥ずかしさを誤魔化していた夏生。
ドキドキしてしまい、動悸は上がりっぱなしだった。
それに昴の髪を搔き上げた顔が止めを刺した。
「まったく昴あんたは、」
昴のベッドに夏生は寝かされ額には冷たいタオルがあてがわれている。
「すいません、」
「いいのよ、ほらお水。」
夏生は体を起こしコップに口をつける。
「夏生、悪かった。・・・・母さん後は俺がやるから、」
「おばさん、すいません、」
「大丈夫?」
「はい、」
「何かあったら呼んでちょうだい。」
「はい、」
「母さんありがと、」
「もうバカ息子・」
「う、ひどい、」
「まったく誰に似たのかしら。じゃあ、昴、なっちゃんを頼むわよ、」
「分かった、お休み、母さん。」
「はいはい、お休みなさい。」
トントンと階段を降りる音を確かめ、昴は夏生の髪に触れる、
「大丈夫か?ごめんな、」
「謝んなくていい、お風呂、気持ちよかった。」
「座れるか?」
「うん、」
「こっち来い。頭拭いてやる。」
「ん、」
夏生はベッドに腰掛け、ごしごしと頭を昴に拭かれる。
「・・・・昴、」
「んー?」
「・・・・浮気するなよ」
「ふ、お前を超える奴がいるかよ、」
昴は笑うと、愛おしそうに夏生の頭に額を付ける。
「お前がいれば何もいらない。お前にはずっと笑っていて欲しい、」
「うん・・・・俺もお前と一緒。」
『ずっと一緒』
2人小指で交わした約束。




