流れ
昴の家に泊まってから4日になる。
気を使わなくていいと昴の母親は言うが、気を使わな方が何倍も気を使ってしまう。なるべく昴の部屋から出ずに静かに過ごす。
当たり前に出てくる温かい手料理。お湯に満たされた湯船。
これが普通で当たり前の暮らしだと夏生は複雑な気持ちでいる。
時々様子を見に昴の母親がドアを叩く。
「退屈じゃない?」
尋ねるが夏生は首を振る。
「大丈夫です、」
「そう、・・・・じゃあ、後でデザートでも食べましょう、用意するからまっててね、」
「はい、すいません、」
「また、それ。全然気にしてはいないわよ、お茶の相手ができておばさん、嬉しいわ、」
昴の母親は鼻唄交じりに階段を降りていく。
「はあ、」
元々、少し人見知りのある夏生、重苦しくため息を吐く。
「・・・・なんかないかな、」
ごそごそと勉強机、本棚をかき回す。
「エロ本はー、」
ベッドの下に手を伸ばす。手当たり次第に探していく。健全な男子高生なら絶対あるはずのエロ本。
「・・・・あいつはないな、」
自分へと向く昴の愛情は、ときにうっとおしいくらいだ。
「俺って愛されてるー。」
付き合い初めて半年、それ以上に濃密な時間をすごしている。
トントンと部屋のドアが叩かれる。
「なっちゃん、いらっしゃい。」
「はい、」
トントンと階段を降り、ソファーにすわる。
カチャカチャと音を立てながらティーカップをテーブルにおいていく。
「なっちゃん、甘いものは平気かしら?」
「はい、平気です、」
「よかったわ、昴も父さんも甘いの食べないから。」
母親は言いながら冷蔵庫からケーキを取り出す。
「紅茶でいいかしら?」
「はい、」
「じゃあどうぞ、」
「いただきます、」
ケーキを口にしながら母親はぼやく。
「あの子、なっちゃんにへばりついて何か迷惑かけてない?」
「・・・・えと、俺の方が迷惑かけっぱなしです、」
「あら、そんなことはないわよ、あの子いつもなっちゃんの事しか話さないんだから、」
「そ、うなんですか、」
恥ずかしさを誤魔化すように夏生は紅茶に口をつける。
「一番大変なのがバレンタインデーなのよ、」
「・・・・両手いっぱいのチョコ。モテモテなのは母親としては嬉しいのだけどね、全部捨てちゃうのはもったいないでしょ?なっちゃんはどちらからでも貰えそうね。」
「ないです、俺、」
「あら、こんな可愛いのに、女の子も見る目がないわねえ」
くすくす、と母親は笑う。照れた様に夏生は笑みをこぼす。
「そう、その笑顔!もったいないわ、」
「え、と。そ、そんなことないです、」
「そんなことあるのよ、えーと、なんていうのかしら・・・・そうねえ、今風に言えば小悪魔って言うのかしら、」
夏生はブンブンと首を振る。
「こ、こあくまって、違います、」
「ふふ、こんなに楽しいデザートタイムは久しぶりよ、」
「あら、もうこんな時間ね、」
ふと時計を見上げると夕方の四時を過ぎている。
「楽しいのはあっという間ね、なっちゃんありがとうね、」
「いえ、ごちそうさまでした。」
夏生は食器を持っていくのを手伝いながらキッチンに持っていく。
「あの、おばさん・・・・、」
昴の母親はうん、と振り返る。
「俺・・・・自分の家に帰ります。・・・・このままじゃダメだなと、」
言葉を探す夏生を見つめて昴の母親は言う。
「自分の気持ちと戦ったのね・・・・、」
「はい・・・・、」
頷く夏生。覚悟は決まった、とゆうように手の平を強く握りしめた。
「そう、分かったわ。・・・・でもなっちゃん約束して頂戴。何かあったら昴でもいい、おばさんでもいいから言いなさいね。。」
「はい、わかりました、ありがとうございます。」
「でも今日は泊まっていきなさい、急になっちゃんがいなくなったら昴に叱られちゃうわ、・・・・ね?」
「ありがとうございます、」