流れ
「なっちゃん、どう?」
夕飯を作りながら母親は心配そうに昴に尋ねる。
「ぐっすり眠ってる、」
「そう、よかったわ。なっちゃん夕ご飯食べるかしら、」
昴は首をふる。
「今は寝かせてあげたい、」
「・・・・そうね、それがいいわ。」
「いきなり連れてきてごめん、」
「いいのよ。・・・・あの眠り顔、余程疲れていたのね、」
「うん、」
昴は冷蔵庫からお茶を取り出しコップに注ぐ。
[・・・・どうなってんだ、」
「・・・・かわいそうに、」
「早く見つけられたら、」
「なっちゃんのお父様は居なかったの?」
「うん、いなかった。生活感がまるでなし、」
コップのお茶を飲みながら昴は呟く。
「あいつ、一人だったのかな、」
(どうして、もっと早く見つけられなかったんだ俺は、)
「母さん、俺、今日の飯いらない、夏生の家行ってくる、」
「今から?」
「うん、ちょっと確かめたい事がある。」
昴の母親は困った様に昴を見つめるが、しょうがないと、頷いた。
「じゃあ、夏生の事、よろしくね、」
「分かったわ、気を付けて行くのよ、夕飯は準備してるから、」
「母さん、ありがとう。」
「うん、なるべく早く帰るのよ、」
「分かった、行ってくる」
玄関のドアを開け夏生の家へと昴は駆ける。
(絶対何かあるはずだ、)
夏生の家に着いた昂は玄関がカギで閉まっているのを確認し、縁側へと足を運ぶ。カラカラと開け、靴を脱ごうか考えたが、あの部屋の様子じゃ素足は危険そうだと思い「土足ですいませんと」呟き靴を履いたままリビングに向かう。
「電気は、と」
手探りで電気のスイッチをつける。
パチパチと音と共に電気がついた。薄暗かったリビングが電気を下に明らかになる。リビングは想像以上に散らかっている。
テーブルには食べかけの弁当や飲みかけのお茶やジュースがある。
床にふと目を落とす。夏生が吐いたのであろ嘔吐物が合った。
(夏生、)
どんな生活をしていたのか、所々に夏生が吐いたと思われるあとがある。
昴は言葉をなくす。
(もっと、早く気付いてれば、)
自分への怒りがこみ上げてくる。ドンと壁を殴る。
「どうして・・・・!」
呟きながら壁にもたれる。ズズズッと座り込む昴。夏生がどれほど酷い生活をしてきたのかと、涙が零れる。
「全然、平気じゃねぇじゃねーか、」
振り落した手にガサリと何かが触れた。
昴が拾い上げたそれは(お悔みの手紙)だった。
「は、なんだよ、これ、」
ガサガサと手紙を広げれば(日向省吾様。)と達筆な字で書かれていた。
(享年57才、4月28日。永眠。)
「省吾、夏生の父親、」
辺りを探ると数枚の(お悔みの手紙)を見つける。
「なつきーーーっ!」
昴は手紙を握りしめ叫んだ。ボロボロと涙があふれてくる。
「な、なつき・・・・、な、なにもないって、」
「俺、おれは、」
「なつき、一人で・・・・、」
床に頭をつけ昴は泣き叫ぶ。涙が止まらない。
夏生はずっと一人で何をしていたんだろう、どれほど思いでこの広い家に一人でいたのだろう。考えれば考えるほど自分の情けなさに涙がこみ上げてくる。
「・・・・恋人失格だな、」
早く、夏生の元に帰らなければと涙を拭い立ち上がる。
合いたい、抱きしめたい、愛してると言いたい、大好きだと言いたい、たくさんキスをしたい、思いっきり甘やかしたい。思いが昴をかきたてる。
1通の手紙を握りしめて、夏生の家を後にする。