最強のエルフ
「本当にどうしてこの子は魔力が弱いのかしら?」
「うちは代々魔力が多く力が強い者ばかりなのに…」
僕の家はエルフの長だ。皆、魔力が多く強い。なのに…僕は魔力が弱い…何が違うのだろう…皆と同じ様にやっているのに…泣いてはいけない…けど…僕はほんとに弱いの?
「そこの坊主こっちにおいで」
と、長老から呼ばれた。頭を撫でられる。目の前には大きな水晶の玉が置かれている。
「長老、僕は上手く力が使えない。本当に魔力は無いのかな?」
…涙が零れる。
「おまえには膨大な魔力が見えているよ。皆のようにやってはその力は出せまい。私が直接指導するとしようかね。おまえには底知れね者の力を感じるのだ」
周りは勿論止めた。高齢な身体だ。皆が心配するもの分かる。
「いいのですか? 貴方の汚点になりますよ」
周りの仲間達が言う。
「この子の引き取ろうと言う者はいないのだろう? なら私の所に来させるといい」
その後は家事や洗濯など、家の片付けが主に僕の仕事になっていた。
それでも、仕事を貰えるだけ有難い。そんな毎日が楽しい。
ある日、長老の知り会いが訪ねてきた。僕に用があるって…なんだろうか?
「その子か…成る程ね。これは他の者では分かるまい。この子の魔力は膨大すぎる。この子は無意識にそれを押さえている」
「やはりな」
と、長老は言う。
「大きすぎる力は使い方が難しい。出し過ぎると破滅する」
とそう言われた。
「この子は私が預かるよ。老子には荷が重いだろう。扱いを間違えれば……この大陸すべてを闇が覆う」
その人は僕の頭を撫でて言う、
「私と一緒においで、力の使い方を教えよう」
僕はその人に付いて行く。いくつもの山を越えて遠くに来た。
「この森なら、少し無茶しても大丈夫だろう」
「まず、私を捕まえてごらん。それまで食事は無しだ」
そう言うといつの間にか空に浮かんでいた。僕は思い切り大地を蹴って飛ぶ、だが届かない。何度も飛ぶけれども遠い……どれだけ時間が過ぎただろう。お腹も空いて来た。やっぱり無理なのか……。
だが、諦めたら何の為にここに来た……足が痛い。重い。呼吸も苦しい。目の前が暗くなる
「苦しいだろうが、大きく息を吸ってしばらく息を止めてごらん。見えてくるはずだ」
その言葉通りにした。息を止めているから苦しい……。
「まだだ!」
苦しい……意識が遠のく……すると何かが見えた。
僕の身体から霧の様な物が出て来る。辺りはその霧が濃くなり視界を覆い隠す。
でも、僕には見えていた。あの人が。止めていた息をゆっくりと吐く。そして、ゆっくりと大きく息を吸う。そして飛んだ。僕はあの人を捕まえた!
「よく、やった」
その時には霧は消えていた。
「君の無意識が力を押さえていた。意識をコント―ル出来れば力もコントロール出来る」
それからも、厳しい修行が待っていた。
いつも意識を失う。気が付くと、いつも周りには沢山の穴が開いていた。僕がやったらしい……。
「後はどうやったら意識を保ったまま、力が使える様になれるかだな」
そんなある日、大きな野獣の声で目が覚める。外に出ると大きなドラゴンが叫んでいた。どうやら手負いのようだ。そのドラゴンは正気を失っていた。僕達を見ると火を噴く、師匠は僕を庇う。
「手負いは危険だここから出よう」
そう言った後、僕の手を引く。その時、ドラゴンの爪が師匠を引き裂く。ドラゴンは暴れる。
倒れた師匠は、焦る僕を見て言う。
「私は大丈夫だ。実体を持たないエルフだから力が削られただけだ」
「でも……」
僕は、気が動転した。暴れるドラゴンに殺意を持つ。
「ダメだ……殺意は持ってはいけない……ドラゴンは悪くない……怪我のせいで我を失っているだけだ」
怪我? そうか、ならその怪我を治せばいい! 何処だ。怪我の場所は……僕の身体から霧状の靄が出る。
足から血が流れているのが見えた。そこへ意識を集中する。暴れていたドラゴンが次第に大人しくなって行く。
僕はドラゴンの傷を治した。
そして、ドラゴンは去って行った。
「良くやったな。これで、君は史上最強のエルフだよ」
その後、僕は冒険者を始めた。魔法、剣術も使う。最強と言われた冒険者になった。
……うん? うたた寝をしてしまったか。山と積まれた書類に目をやる。随分と昔の夢を見たものだ。懐かしい、今ではギルドを束ねるギルドマスターをやっているというのにな、あれからもう二千年も経っている。
あの頃は若かったなあ。
今日も夢を持った冒険者がこのギルドにやって来る。さてどんな若者がやって来るのか、楽しみだ。