〜プロローグ〜(山主side)
「あぁ、最高」
そんな言葉が出てしまう程に、今の私の目の前には美味しそうな料理が目の前にある。今日は、念願の「国産、牛ほほ肉のワイン煮込み」が食べられる。この一品を食べる為に、ありとあらゆる欲を抑えて…もはやプチ断食と言ってもいいと思えてしまう。匂いを鼻で感じると口の中の唾液が溢れて、思わず、ゴクリ…飲んでしまった。心の中で『早く食べたい早く食べたい早く食べたい……etc』囁く言葉に押され気味になりながら、スプーンを取る前に静かに手を合わせて。
「頂きます」
その一言は、忘れずに。それが終われば、もう私の手にはスプーン。もう片手はお皿に添えられて、ゆっくりゆっくりスプーンを近付けて、お肉とデミグラスソースを捕らえます。乱切りされた人参、ペーストされたじゃがいもは後で。スプーンの中で揃っている彼等を先ずは1口。あぁ!デミグラスソースの濃厚な味が私の舌を怒涛の様に喜ばせてくる!と同時にお肉の存在感が舌越しに伝わってきて、歯で優しく噛むと旨味がぎゅわっと溢れて……目が糸目に。優しく、優しく、数回噛んでから飲み込むと。
「ふぉ…」
感嘆のため息が出る程の美味しさの後は、乱切りされた人参を1口。甘くて、ホクホクなのでお肉とは違った優しい味わいで舌がまったり、ペーストされたじゃがいもも、ほんのり塩気があり食べやすくて、デミグラスソースとお肉と一緒に食べれば口の中がパレード状態。時々、自分のほっぺたに手を当てて首を傾げてしまう程に、本日のお料理には大満足した私です。
「ご馳走様でした」
美味しく幸せにさせてくれた料理と作り手の方々に感謝を忘れずにこの言葉が言えたら、私はまったりとはせずにお会計を済ませてお店を後にします。…何せ、人とは余り話はしたくないのが本音で、私が休めるのは、四畳半、台所も一緒で、トイレもシャワーが有るだけ部屋のみ。
そう思って、私は、満腹になったお腹で来た道を帰ろうとしてた。あの赤信号の交差点で立って……ものの数分後。物凄い衝撃があったと思ったら、私の視界は反転してる。手も動かせない、ジンジンする、視界も徐々に細くなる、幸せの後はこんな事になるなんて思いもよらなかった。
悲しいのか、なんなのか分からないこの気持ち……もう、何も聞こえない。私の視界は、真っ黒い闇になって力が抜けていく感覚に身を任せるしか無かった。