表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖精とよく似た彼女の話  作者: 群青アイス
6/6

第6話 5月の洞窟探検

真広と圭吾は千歳に指定された場所をみて唖然とする。

「なあ…… あいつの言ってた場所さ、ここじゃあねえよな? 」

「いやいやマヒロ、 さすがにここじゃないよ 」

2人は洞穴の前におかれた初代理事長の墓と書かれた木製の立て看板に背を向ける。

「だよな? さすがにあの女でも墓荒らしの真似事はさせねえよな、近くにあるそれっぽい場所これしかねえけどさすがに―― 」

「2人ともお待たせ 」

現実逃避する真広たちの前に千歳が手を振りながら現れた。後ろには大きな荷物を背負った山城がいる。

「マヒロ……、俺たち墓荒らしになるみたい 」

「…… 」

「ふぅー重かったわ」

山城はその大きな荷物を2人の前に置いた。

「さて、下司くんにまひろん! ここは初代理事長の墓よ!」

「あー…… そっすね…… 」

「さてここでしてもらうことは、初代理事長のお宝!イマノリ=ジチョーノ=カツーラよ! 」

「それただのカツラだろ! 宝でもなんでもねえよ! いやよく考えたら初代のでもねえなあ!? 」

「てかあの理事長やっぱカツラだったんすね…… 」

「まあお察しの通り、今の理事長のカツラを隠してきたからそれを取ってきて 」

「隠してきたって…… 」

「山城が一晩でやってくれたわ 」

「えぇ…… 」

「あたしいつかこの子の命令のせいで死んじゃう気がするわ…… 」

真広と圭吾はじゃあなんで言うこと聞いてんだよと心の中で呟いた。

「そんなでかい洞窟でもないしすぐ終わると思うからがんばってね 」

そう言い残すと千歳は手を振りながら来た道を戻っていった。

「あのクソ女、何の説明もなく帰りやがった 」

「あの子いくつになってもあんな感じだから許してあげてね 」

「山城先輩ってお嬢との付き合い長いんすか? 」

「小学校のころからだから10年くらいかしら 」

「よくあんなやつと仲良くなれましたね 」

「おかまにも色々あるのよ 」

そんな会話をしながら2人は山城が持ってきた服に着替え、洞穴の中に向かっていった。

「それじゃ行きますか 」

「頑張ってね~ 」


「中は思ったより広いな 」

洞穴の中は人ひとりが立って歩ける程度の広さがあった。

「にしてもあんだけ拒否ってたマヒロがまさかこのサークルにはいるとはなあ 」

「お前が裏切ったからだろ 」

「それだけじゃないっしょ 」

真広は図星をつかれたのか少しの間、言葉を詰まらせる。

「どうしたんだよ黙りこくってよ 」

「……似てたんだよ 」

「え? 」

「ガキの頃の幼馴染とあいつが似てたんだよ 」

「えー、何それ初耳、その人とは今もあってるの? 」

「いや……小学校入るより前に行方不明になったまま帰ってきてないな 」

「そっかぁ…… 」

圭吾は気まずくなったのか口を噤んだ。

「何勝手に気まずくなってんだ、昔の話だから気にすんな 」

「うぅ…… すまん 」

「そんなことよりあれが理事長の墓だろ? 」

真広は少し先のライトで照らされた場所を指を差す。

「その言い方だと今の理事長が死んでるみたいじゃんか、ってほんとだあれかな? 」

圭吾は真広の肩越しに指差された方向を確認した。よく目を凝らすと一部土が盛り上がっており、その上には丁寧に理事長のかつらと書かれた張り紙の書かれたかつらが見えた。

「なんか意外とあっけなかったな 」

「まあ最初はこんなもんでしょ 」

「こんな本格的なセット用意するくらいだから絶対深いと思ったんだが…… 」

「まあ確かにそれは思ったけど 」

2人は肩透かしを食らったような気分でもと来た道を戻っていった。そして洞穴の出口が見えてきたあたりで真広が急に立ち止まる。

「なあケイゴ…… やっぱおかしくね? 」

「おかしいって何が? 」

「頭のネジ全部引っこ抜いたかのようなぶっとび女がこの程度で終わるのか? 」

「おいおい、いくら何でも疑心暗鬼になりすぎだぜマヒロ、さすがのお嬢も俺らの身に危険が及ぶ様なおふざけはしないって 」

「どうだか 」

真広はのんきに笑いながら洞穴の出口に向かう圭吾の後ろを警戒しながらついていく。


「な? 何もなかっただろ? 」

「はぁ…… 」

大学校舎内に戻るまでずっと気を張り続けていた真広であったが、結局アクシデントの1つも起こらず戻ってこられた。

「とりあえずこれどうしようか 」

とカツラ片手に廊下を歩いていると遠くのほうから男性の声が聞こえてきた。

「ん? なんだ?」

2人が後ろを振り返ると遠くのほうからこちらに向かって走ってくる小鳥遊の姿があった。その表情からは鬼そのものであった。

「なあケイゴ、俺嫌な予感すんだけど…… 」

「やっぱ親友だから考え方に通うのかな、俺もいい予感しないんだよね 」

「理事長の私物を盗んだのはお前らか! 」

小鳥遊の声が聞こえた二人の顔色が一気に青くなる。

「なあケイゴ、お前さっきなんて言ったっけ 」

「あっとなんだったかなあ 」

「俺たちの身に危険がどうちゃらっていったよなケイゴ 」

「あははマヒロ、あれは俺たちの探検成功を祝おうとしてくれてるんだよきっと 」

「いかれてんのか! どうみても殺す勢いじゃねえか! 」

2人は恐ろしい勢いで走ってくる小鳥遊から背を向け一目散に走り出した。

「待たんか不良ども! 」

「待てって言われて待つ馬鹿がどこにいんだよ! 」

そんなテンプレな返しをしながら小鳥遊から逃げていると向かいから見覚えのあるピンク髪が見えた。

「あなたたち! 廊下を走るな! 」

財力だけでこの大学に風紀委員会を設立した女性、烏間すいせいは到底大学生には見えないその体を精一杯広げ、二人の行く手を阻もうとした。

「くっそ面倒なのがさらに出てきやがった 」

「マヒロ、俺に任せて 」

圭吾はそう言うと烏間の前で減速し、少し離れた場所にいる小鳥遊のほうを指さした。

「すみません、烏間先輩…… ところで生徒の見本たる小鳥遊自治会長も走っておられるのですが…… 」

烏間は圭吾たちのことなど忘れたかのように広げていた手を下ろし、小鳥遊のほうに近づいて行った。

「小鳥遊さんあなた全生徒の見本である生徒自治会会長であるにも関わらず廊下を走るとどういう事ですの? 」

「ナイスだケイゴ 」

烏間に邪魔され小鳥遊が足を止めている内に2人は再び走り出した。

「確かに廊下を走るのはよろしくないことかもしれないな、すまなかった 」

「ふん! あなたがそんなんじゃこれからの小鳥遊家は落ち―― 」

「ところであの2人、理事長の私物を盗んできるのだが 」

「…… 」


「とりあえず小鳥遊先輩のことはあのガキにまかせるとして 」

「そこの2人、まちやがれですわ 」

2人がその声につられ背後に目をやると烏間は小鳥遊の行く手を阻むどころか一緒になって追ってきていた。

「もう寝返ってんじゃねーか 」

「小鳥遊家と烏間家の絆には勝てなかったか…… 」

「さっさと止まりやがれですわ! 」

「誰が止まるか! 」

「てか廊下は走っちゃいけないんじゃないの烏間先輩 」

「そんなもの超法規的措置ですわ! 」

結局、校舎内を熟知していた烏間と小鳥遊によって2人は捕まり生徒自治会の部屋に連行され、2時間ほど説経されることとなった。

「うーんクッソ怒られたなー 」

「くっそ大学生の貴重な2時間を奪いやがって…… 」

「2人だから合計4時間ね 」

「懐かしいな小学校の頃担任にそれ言われてめっちゃむかつい―― 」

突如2人の背後からひょこっと千歳が顔を出した。

「うわあ突然顔出すなよ! 」

「あ、お嬢お疲れ様っす 」

「彼らにつかまるなんて2人ともまだまだね 」と笑いながら冷えた缶ジュースを差し出した。

「てか俺らあんたの罪背負って2時間も怒られたんだけど 」

「あはは、それはごめんなさいね 」

「マジ勘弁してくださいよお嬢…… 」

「まあまあ、私がおいしいごはんおごってあげるから 」

そういいながら上機嫌で歩き出そうとする千歳の肩を何者かがつかんだ。

「へっ? 」

「はっはっは!矢車ァ……、捕まえたぞ 」

後ろを振り向いた矢車の目に映ったのは先ほどまで真広たちに説教をしていた小鳥遊であった。

「いやー2人とも感謝する 」

「いやいや小鳥遊先輩と俺らの中じゃないっすか 」

小鳥遊、真広、圭吾の3人は邪悪な笑みを浮かべながら握手しあった。

「けーご?それにまひろん……これはどういうことかな 」

「いやなに、彼らの話を聞くとどうも真犯人は別にいたみたいでな 」

「ぶっちゃけ2時間の内ほんとの怒られたのは30分くらいなもので残り時間はどうやってお嬢を嵌めるか考えてたんすよね 」

「俺らに嵌められるとかまだまだっすね 」

「やってくれるじゃないけーご、まひろん、覚えてなさい…… 」

「それじゃ2人とも協力ありがとう 」

2人は小鳥遊が矢車を引きずり自治会室に入っていくのを見届け、その場を後にした。

「なあマヒロ 」

「どうしたケイゴ 」

「今のお嬢のにらみつける表情に興奮してない? 」

「埋めちまうぞまじで 」

「冗談だって、もういい時間だしこれから飯いかね? 」

「いいね肉食おうぜ肉 」


「まったく、あの2人後でどうしてやろうかしら 」

千歳は自治会室で2人への恨み節を延々と呟いていた。そんな彼女をみて小鳥遊は小さくため息をついた。

「お前なあ…… 後輩はもっと大切にしろよ 」

「なによ、流石の私も悪いかなと思っておすすめのお店予約してあげてたのに 」

千歳は2人にしてやられたのがショックだったのか口をとがらせ拗ねてしまっている。

「しかしなんだな、お前が山城以外にあんな笑顔を見せるのは意外だったな 」

「お前の笑顔は俺だけのものだってこと?キャー恥ずかしい襲われる助けて 」

「誰もそんなこと言っておらん! 」

小鳥遊は千歳の茶化しに対し顔を赤く染める。その様子を見た千歳はにやけながら続けた。

「はいはい、あなたが好きなのは私じゃなくてあの烏だもんねーこのロリコン 」

「なっなにを言っている! 烏間とは何ともない! 」

「ええー、2人が付き合ってるってひそかに噂になってるのにー? 」

「ええい黙れ黙れ! そういうお前は山城とはどうなのだ! 今でこそあんなだが昔はお前達にもそういう噂が立っていただろ! 」

小鳥遊はいじられた反撃と言わんばかりに言い返す。

「……会長って常識人ぶってますけど結構デリカシーないことありますよねー 」

「何の話だ 」

「あ、お腹すいたので帰りますねー 」

そう言い残し千歳は手をひらひら動かしながら自治会室を去っていった。

「なんなのだ 」

廊下に出た千歳は小鳥遊の発言を思い返していた。

「山城以外に笑顔を見せるのは、ね…… 」

「あ、いたいた千歳ー! 2人にちゃんと謝ったの? 」

そう呟くと遠くのほうから山城がこちらに手を振り歩いてきていた。

「あの時以降あなたはあまりいい顔しなくなったねそういえば 」

近づいてくる山城に聞こえないよう小声でそう呟く。

「ん?今何かいった? 」

「ねえ聞いて山城! 私けーごとまひろんに嵌められたの! おかげで会長にひどいこと言われちゃった! 」

「あなたを嵌めるなんて勇気あるわねあの2人 」

「でせっかく予約したレストランに誘えなかったから一緒に行きましょ! 」

そう言いながら千歳は階段に向かって歩き出した。空いている窓から入ってきた心地いい風が千歳の銀色の髪をたなびかせる。

「きれい…… 」

山城はその後ろ姿にただただ心を奪われていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ