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妖精とよく似た彼女の話  作者: 群青アイス
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第3話 クソ宗教とクソ女

とある廃工場の中、複数人の男たちがロープで椅子に縛りつけられた2人の男を中心に囲んでいた。

『てめぇらが北高の田宮真広と下司圭吾かぁ! 』

一人の大男が2人の前まで歩いてきた。

『うちの1年坊主負かして俺の顔にまで泥塗りやがって…… 』

大男はそう言いながら真広の胸ぐらを掴みあげた。

『…… 』

真広は無言で大男に唾を吐きかけた。隣の圭吾はその様子を見て鼻で笑った。

『き…… 貴様ぁ! 』

大男は真広の胸ぐらを離し、横腹に蹴りを喰らわせた。

『てめぇらでコイツらをタコ殴りにしてここに置いとけ 』

大男は顔を拭きながらあたりの男に指示した。周囲の男たちはその後、しばらくの間2人に暴行を加え、廃工場を後にした。

『クソ野郎共がぁ…… 覚えとけよマジで…… 』

真広は廃工場の出口を睨みながら言った。

『今すぐこのロープちぎってぶっ飛ばしに行くからなぁ 』

『ねぇねぇマヒロ、 いい事教えようか 』

恨み節の止まらない真広に圭吾はニヤッと笑いながら話しかけた。

『あ? 』

『ここから出てあいつらに痛い目見せる方法…… 』

『そんなんあんのか!? 』

『まずはね―― 』


「あぁ…… あ? 」

真広が目を覚ますとロープで椅子に縛りつけられられていた。

「そうか、俺気絶してたのか…… 」

「あ、おはよマヒロ 」

隣から圭吾の声がした。圭吾の方を向くと同じくロープで椅子に縛りつけられており、頭には包帯が巻かれていた。

「コイツら律儀に治療までしやがったぜ 」

「我々はおふたりにお話を聞いて欲しいのですよ 」

前から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「田辺ぇ…… 」

真広は田辺を睨みつけた。

「いやぁ、 流石にこれは降参だぜマヒロ 」

周囲は数十人の信者が囲んでいた。気絶前より人数が増えている。

「多くねえか? 」

「元々建物の中にこの位いたらしい 」

「マジかよ 」

「それではただいまより我々マレディクシオン教会の歴史からお話しましょう! 時は13世紀ヨーロッパ、 そうあの忌々しい魔女狩りの時代まで遡ります―― 」

田辺はスクリーンに映し出された映像に合わせて力説を始めた。

「――であるからして全ての厄災の原因は人類にあるのです! 人類は憎むべき悪なのです! 」

「もうかれこれ2時間は話してんじゃねえか? 」

真広も圭吾も田辺の長い話を聞きながしていたものの流石に狼狽してきていた。部屋に唯一付いている小窓の向こうはすっかり暗くなっていた。

「いやぁ、 すげえ共感したっす…… なんでこの縄解いてもらってもいいっすか? 集中して聞きたくなってきたんで 」

圭吾は作り笑いをしながら田辺に話しかけた。

「おお! それは素晴らしい! 確かにそれでは集中出来ませんね! 解いて差し上げよう! 」

田辺は上機嫌で2人に近づいた。

「ダメです田辺さん 」

ふと横から女性の声がした。真広と圭吾を勧誘した高山だ。

「どうしたのですか高山さん 」

田辺は歩みを止め、高山に微笑みかけた。

「こいつらまだ隙をみて逃げ出す気です、 もうしばらく様子を見ましょう 」

「チッ、どうしてわかったんすか? 」

圭吾は不貞腐れた表情で高山の方を見た。

「私はこれでも心理学を専攻してるのよ 」

「そこは神からの力とかそんなんじゃねえのかよ 」

真広は呆れ顔で呟いた。そしてそれを聞きなるほどと言いたげな表情を浮かべた高山を見てコイツらひょっとして馬鹿なんじゃないかと思い始めた。

「ま、まあいいじゃないですか、 それでは次のプロセスに行きますか 」

田辺がそう仕切り直した瞬間、 プロペラの回転音が響いた。

「何事だ!? 」

信者達がざわめく中、部屋のドアを勢いよく開け、1人の信者が現れた。

「田辺さん! 外にヘリコプターが! あと変なオカマが! 」

「はぁ!?」

田辺達は外の様子を伝えに来た信者と共に外へと向かい、真広と圭吾は部屋に取り残された。

「おいケイゴ、 チャンス到来だ 」

「他校の豚野郎に捕まった時を思い出すよねぇ 」

「全くだわ 」

「やり方覚えてる? 」

「バカにすんなよ 」


『で、どうやんだよその縄抜けって 』

『いいか? まず大きく息を吸い込んで上半身を膨らますように力を入れるんだ 』

『はぁ?』

『そんで息を吐き出しながら力を抜く…… そうすると―― 』

『お! 少しだけどロープが緩んだぞ 』

『あとは身体をよじらせるだけだよ 』


「あーマジ疲れた、やっぱ座学ってクソだわ 」

「つまらねえ座学のお礼、100倍にして返してやる 」

「いや、流石にあの数はやめときな? 」

そう言いながら2人は同じ部屋に置かれたバインダーと荷物を見つけた。

「あいつらやっぱバカ―― 」

「それ以上はよせマヒロ、 その馬鹿に捕まった俺らはそれ以下になってしまう 」

圭吾はバインダーに挟まれているのが自分達の個人情報であることを確認し、カバンの中に入れた。

「まあ俺らに逃げ出されるよりここに置いてた方が安全だって考えたんかもな、 それより 」

2人は小窓を見つめた。小窓は鉄格子で塞がれていた。

「どうやって抜け出す? 」

「大広間は? 」

「ダメだわあいつら大広間は鍵かけたとか言ってた 」

「他の部屋もこんな感じって考えると…… 」

「上等じゃねえか、 正面から堂々と逃げてやらぁ 」


「な、何者だ君は! 」

外に出た田辺の目の前に立っていたのは身長2mはあろうかという女性のようなメイクをした大男だった。

「あらやだいい男! この前会った1年の男の子達の方がタイプだけどあなたでも全然OKよ 」

大男はそう言いながら田辺にウインクを送った。

「ひっ…… 」

怯える田辺を他所にヘリコプターからハシゴが降りてきた。

「お嬢様! 私はこの後旦那様になんと言い訳すれば! 」

ヘリコプターの運転手の男は同乗している銀髪の少女に話しかける。

「安心しなさい! 減給処分で済むわ! 」

そう言い残し少女はヘリコプターのハシゴを降り始めた。

「そんな…… 」

運転手は肩を落とした。

「田辺さん! ヘリコプターから女性が! 」

「ええい! 次から次へと! 」

「あ、あの人達は! 」

高山が声を上げた。

「た、高山さん、 ご存知なのですか 」

「あの変態は山城康一、 元柔道サークルのオカマです! そしてあの女の人は…… 」

「あら高山ちゃん! 変態なんて酷いわ! 」

高山は山城の不服そうな訴えを無視し続けた。

「うちの大学の四大財閥の1人です! 通称高飛車、矢車千歳さん! 」

「矢車ってあの矢車財閥か! 」

「まずいですよ! どうしますか! 」

千歳の名を聞いた信者達は焦りの表情を浮かべた。そんな信者達を他所にハシゴから降りた千歳は信者を指差した。

「白服の皆さんこんにちは! ここに田宮真広っていう子が遭難しに来てると思うからだして! 」

「「「え? 」」」

千歳の意外な一言に信者達は目を丸くした。

「誘拐ではなく山で遭難したのだと勘違いしている様ですね 」

信者の1人が田辺に耳打ちする。

「あの2人を田宮くんと下司くんのいない部屋に案内して待機しててもらおう、 あとはさっき同様気絶させればいい 」

「しかしあのヘリは 」

「我々が送り届けると言えばどうにかなるさ 」

「なるほどではその様に―― 」

「「おらクソ宗教共がぁ! 道開けろやぁ!」」

田辺と信者がヒソヒソと話しているとコンクリートハウスから怒号が響いた。縛っていたはずの真広と圭吾が玄関から荷物とバットを持って現れたのだ。バットを振り回す2人から逃げるように信者たちは道を開ける。

「マヒロ! いたいた田辺! それと俺たち殴ったやつ! 」

「殺す! 」

2人は鬼の形相で田辺達に近づいてくる。

「あいつら…… どうやって! 」

「ねぇ千歳ちゃん! これってもしかして! 」

山城が千歳に話しかける。

「遭難じゃなくて監――」「監禁ね! 」

山城は最後まで言わせて貰えず肩を落とした。

「ケイゴ! 俺はあの田辺ぶっ飛ばす! 」

「オッケー! あの不意打ち野郎は俺が! 」

「やばい! 誰か盾に―― 」

「「死ねや! 」」

2人のフルスイングは田辺達にクリーンヒットした。

「ん? あの人たちは…… 」

「あの時のオカマと矢車嬢だね 」

バットをフルスイングしてスッキリした2人は山城と千歳がいることに気付いた。

「こ、コイツら…… 良くも田辺さんを! 」

信者達が真広と圭吾に怒りを向けた。

「いやあなた達、助けようとしなかったじゃない 」

「…… 」

信者達は山城の一言を聞くと目を泳がせた。

「2人とも! はやくヘリに乗り込んで! 」

いち早くヘリコプターに乗り込んだ千歳が真広と圭吾に呼びかけた。

「流石にこの人数は無理だしここは逃げるよマヒロ! 」

圭吾はヘリコプターのハシゴを登り始めた。

「な! 行かせるか! 」

信者達も慌ててヘリコプターに向かって走り出す。

「山城! その人たち近づけさせちゃダメよ! 」

「私の熱い抱擁とキッスを受けたい子からかかってきなさい! 」

そう言いながら投げキッスをする山城を見た信者達は足を止めた。

「田宮真広! 何してるの! 早く来なさい! 」

千歳はヘリから身を乗り出し言った。

「いや……でも…… 」

真広は入学式にあったことを思い出し、進めずにいた。

「安心しなさい真広ちゃん 」

そんな真広に山城は声を掛けた。

「あの子はあんなちゃちな事、気にしないわ 」

「オカマ…… 」

「分かったら早く行きな! 」

そう言いながら山城は真広の背中を押した。そして真広は押された勢いで走り出す。

「くっ! 待て! 」

「うっふん 」

「うっ…… 」

信者達も追いかけようとするが山城の誘惑に足を進めることが出来なかった。

「よしいいわ! 山城も早くきて! 」

「結局誰も来なかったわね、 控え膳なんとやらよ 」

山城はそう言い残し、ハシゴを登って行った。信者達は逃げていくヘリをただ見ることしか出来なかった。


「すっげえ広い部屋だな…… 」

「これが金持ちか…… 」

無事逃げきれた2人は山城と共に千歳の住む屋敷に案内された。現在部屋には真広と圭吾だけである。

「とりあえずどうする? 」

圭吾は周りを見渡しながら訊ねた。

「電話しとくわ 」

真広はそう言いながらスマホを取りだした。

「電話って…… 警察? 」

圭吾はムッとした表情を浮かべる。

「お前の前で警察になんか電話しねえよ 」

「じゃあ誰? 」

「神野原教授 」

「お前いつの間にあの教授の電話番号聞いたんだよ! 」

「最初の講義の後にな 」

『もしもし神野原です、 どうしたんだい真広君 』

「あ、お疲れ様です、実は―― 」

『なるほど大変でしたね、 詳しいことは後日お聞きして私から上の方に伝えてましょう 』

「お願いします 」

『あと一応このことは暫くご内密にお願いします、 混乱は避けたいので 』

「分かりました、それではお願いします 」

電話が終わった真広は電話の内容を圭吾にも伝えた。

「マヒロが尊敬するだけあっていい教授っぽいじゃん 」

「まあな 」

2人がそんな話をしていると部屋のドアが勢いよく開いた。

「おまたせ2人とも! 」

千歳が満面の笑みを浮かべ部屋に突入してきた。山城の姿はない。

「まずは2人とも助かってよかったわ! 」

「あ、あざす…… 」

2人は軽く頭を下げた。

「警察には連絡した? 」

訊ねてきた千歳に対し、真広は先の電話の内容を伝えた。

「なるほど! じんちゃんにも考えがあるのね! 」

「じんちゃん…… 」

真広は自分の尊敬する教授がそう呼ばれていることに驚きを隠さなかった。

「あの…… 質問なんすけど 」

圭吾は恐る恐る手を挙げた。

「よし! 発言を許可する! 」

千歳は圭吾を指差し言った。

「あ、ありがとうございます…… あのどうやって俺らの事助けに来たんすか? 」

圭吾は2人が抱いていた1番の疑問をぶつけた。そしてそれを聞いた千歳はゆっくり真広を指差し言った。

「GPS 」

「じーぴーえす? 」

圭吾は素っ頓狂な声を上げた。

「そ! 本当は盗聴器付けたつもりだったんだけど間違えちゃった 」

千歳は満面の笑みのまま答えた。

「は、はぁ!? てめえいつの間に…… あっ 」

立ち上がった真広は入学式の後の階段での出来事を思い出した。

「てっめぇまさかあの時! 」

「田宮真広19歳、9月17日生まれ、 田舎の高校で喧嘩に明け暮れ少年院までとは行かないものの自宅謹慎を繰り返す、 そのせいで1年留年する 」

千歳は手元の紙を見ながら話し出した。

「しかしとある大学に自分と同郷で尊敬する神野原誠三が居ると知り一念発起、 一気に学力を挙げ、無事本校合格、好きな食べ物はラーメンで嫌いな食べ物は特になしか、 好きなAV女優が―― 」

「なんでそんなに知ってんの!? 」

真広は何が何だか分からない顔をしている。

「あなたのこといっぱい調べたの、人に突き飛ばされたの初めてだし、 何よりあなたに興味が湧いたから 」

笑顔で話す千歳に対し、だからってGPSまで使うのかと真広は恐怖心を抱いた。

「まあ調べられたのは高校生から今までの分だけだけど 」

千歳はがっかりしながら近くの椅子に座った。

「で、本題なんだけど…… 私のサークル入ってくれるわよね? 」

「は? 」

「あなたのこと調べたけど妖精否定派の要素がさっぱりだったのよね、 だからあなたのこと間近で観察したいの! 」

そう言いながら千歳は椅子から立ち上がり、自身の顔を真広の顔に近づけた。

「ちょっ…… ちか…… 」

真広は顔を赤らめる。

「もちろん隣の君もよ! 」

千歳は圭吾を指差しながら言った。

「あ、俺もすか…… 」

「さぁ、答えを聞かせて? 田宮真広 」

「嫌に決まってんだろ 」

真広の即答を聞いて千歳の口から「えぇ……」っと不服そうな声が漏れる。

「意外か? いや…… 助けてもらったのは感謝してる 」

「じゃあどうして? 」

「妖精とかいういないやつ追い回しても仕方ないだろ 」

そう言いながらGPSとか使ってくるの怖いと言う本音は心の奥底にしまった。

「ちなみに君は? 下司圭吾君 」

「勿論断るさ、 俺1人入ったら真広の立場もないしさ、 恩知らずになるなら2人で一緒にだ 」

「…… ふーんそう 」

2人の答えを聞いた千歳から先程までの柔らかい表情が消え、 冷たい視線を2人に送る。そして手を2回叩いた。すると再びドアが開きガタイのいい黒服の男が数人入ってきた。

「は? 」

2人はキョトンとした。

「仕方ないから、 あなたを軟禁します田宮真広、ついでに下司圭吾 」

「おれも!? 」

「観察するにはこれが1番いいと思うのよ、 ちなみにここにいるSPはあなた達の力を調べた上で呼んでるわ 」

「俺たちより強い奴ら連れてきたってことか? だが俺とケイゴが合わさればそれいじょ―― 」

「探検サークル! 是非! お願いします! 」

真広が喋っている途中に圭吾が答えた。

「あ! てめぇケイゴ! 見捨てんな! 」

「助けてもらった恩もおるし? 暴力は基本ダメだし? 軟禁とか嫌だし? 」

圭吾は千歳の横に移動した。

「す、 すみません、 我々もお嬢様の意見には逆らえなくて…… 手荒な真似は出来ればしたくないのですが…… 」

黒服の男の1人が申し訳なさそうに真広に言った。

「こ…… このクソ女共がぁ!!! 」

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