表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/135

我が主

 ――――今から二十年ほど前。



 ルーシャがそれを祖父から継承したのは、リィケと同じ5才の時。


【宝剣レイシア】


 ケッセル家に代々伝わる家宝で『魔王殺し(サタンブレイカー)』の象徴だ。


 ルーシャはその頃までに、何度かレイシアに触れて刀身を現せることには成功している。


 本来なら、ルーシャの父親に渡すはずだったのだが、父親はある出来事で亡くなっており、同じ名を持つ祖父からルーシャに受け継がれることになった。



「俺はお前には厳しくしなければならない。今日から『宝剣レイシア』を持つお前が、事実上の魔王殺し(サタンブレイカー)なのだから」


 元々厳格なケッセル家の当主である祖父は、その日からルーシャに対してますます稽古が厳しくなったのはいうまでもない。








 そして現在。


 廃墟の教会の聖堂では、ロアンが青白く光るショートソードほどの『宝剣レイシア』を手に悪魔と対峙していた。



「…………なんで、あの子が“レイシア”の刀身を出せるんだ…………?」


 ルーシャでさえ、初めて触った時にはナイフ程度の刀身しか出現させられなかった。

 直系の者以外は宝剣は反応もしない。親戚の中でケッセルの直系に近いレバンでさえ、宝剣を触っても何も起きなかったのをルーシャは見ていた。



 …………あのロアンって子は、何者なんだ?



 ケッセル家にああいう子供がいたという記憶はない。


 ライズは彼を『レイニール』と呼んでいたが、その王子様とやらは単なる他人の空似なのだろうか?


 知性の(インテリジェンス)(ソード)を操り、見掛けよりもかなりの腕力と戦闘力を備えているのは何故か?


 レイラの姿をした【魔王】らしき悪魔を『ははうえ』と呼んでいるのは?


 そして、まるで息を吸うように『神の欠片』を使い慣れている…………


 リィケ以外の【サウザンドセンス】



 再びルーシャの脳裏には、街道でリィケがベルフェゴールに連れていかれそうになった時のことが浮かぶ。


 今度はロアンがリィケを連れていくのではないか?



「……それは、駄目だ。絶対に」

「お父さん……?」


 ルーシャはリィケの肩を掴んで自分に引き寄せる。掴んでいないと、また自分の元からいなくなるような気がしてしまう。




「きえろ、おまえは、()()()にかえれ」

『「ガキがぁぁぁっ!!」』


 ロアンが“レイシア”を振り、デス・サイズへ切先を向け祭壇から飛び降りた。

 “モア”と“ダグ”は暴れるデス・サイズを尚も押さえ付け、(ロアン)が止めを刺すのを待っている。



 刃はまっすぐに悪魔の本体へ――――


 ガイィィィンッ!!


「――――えっ?」


 鈍い音と共にロアンが声をあげた。


 まるで切れ味の悪い包丁で固い肉を叩いたように、デス・サイズに刺さるはずの“レイシア”は弾かれて、刀身に振り回される形でロアンは数歩後ろによろめいた。


「………………なんで?」


 ロアンが呟く。

 それは独り言というよりは、“レイシア”に向けられた台詞のようだ。


「…………そう、わかった」


「「「…………?」」」


 ロアンが顔を上げるとルーシャと視線がぶつかる。無表情なロアンがプクッと頬を膨らませて、不満そうに“レイシア”を投げた。


「うわっ!」


 サンッ!!


 ルーシャの足のすぐ真横、石の床に“レイシア”はいとも簡単に突き刺さる。


「お前、何す……」

「『われはしゅごしゃ。ひかりをしめすもの』……」


「へ……?」


「『わが、あるじとおなじちからなくば、われをもって、まをたつことゆるさん』……だって……そのこに、いわれた」


 言われたって……?


 ルーシャは床に刺さる『宝剣レイシア』に視線を固定した。




 “我は守護者。光を示す者

 我が主と同じ力無くば

 我を持って魔を絶つこと許さん”




「“レイシア”は、『ほごしゃ』のこと、だいすき……みたい」

「そう……なんだ……?」


 ルーシャが宝剣を引き抜くと刀身が青白く光り、いつもの大剣の姿になる。


「おかえり……」


 ロアンから言われたせいもあって、ルーシャは宝剣が生きているものに見えてきた。全体的に緩く瞬く光が『ただいま』と言っているようだ。何だか昔飼っていた犬を思い出すルーシャである。



『ギィイイイッ!!「ぐぁああ……!!」』


「っ!?」


 ルーシャが少し感慨に耽ってしまった間に、デス・サイズが半身を起こしていた。


 しかし、ベクターだった部分がおかしい。どんどん体が萎んでいき、大鎌を床に立てたまま倒れていく。


 悪魔の腕と大鎌がほぼ同化していて、血管が通るように脈をうっている。どうやら、ベクターは大鎌に魔力を吸収されていると思われた。



 死神の大鎌(デス・サイズ)であった大鎌単品(デス・シザーズ)が、利にならないと判断した使い手(ベクター)を見限ったのだ。



「お父さん、悪魔が…………」

「分かってる……」


 どんな悪魔でも、悪魔を使うということは油断できないものなのだ。同じ悪魔でも利害が一致しなければ、弱っている者はより強い者に食われる。



 リィケが数歩下がったのを確認したルーシャは、改めて宝剣を構えた。いつの間にか、リィケの横にはロアンが立っている。


「モアとダグ……さげる。あくま、たおして」

「……わかった。下げるタイミングは任せた」


 やることだけ……倒すことだけを考えた。


 ロアンやこの世界、そして悪魔のことなど……ロアンに詰めよって聞き出したいことは山ほどある。だが、今だけはルーシャは雑念を追い払うことにした。







 こくんと、ロアンは固い動きで頷き、リィケとライズの服を引っ張った。リィケは素直に従うが、ライズはかなり戸惑いながらロアンに向き合う。


「あの、その……俺も、戦えるが…………」

「このせかい『しゅごしゃ』いちばん、つよい。おにいさん、『しゅごしゃ』?」


「??? どういう意味だ、リィケ……」

「ライズさん……僕も分からないんです」


 一度、分からないままロアンに答えて、ルーシャを攻撃されたことがある。下手に何か言うより従った方がいいと、リィケは肌で感じていた。


 しかし、一部腑に落ちない。



「……でもロアン、お父さんは守護者じゃ…………」

「しゅごしゃ、いるよ。()()()


「……まさか…………“レイシア”?」

「うん。じぶんで、いったよ」


 “我は守護者”…………確かに言っている。


 リィケはルーシャが構える『宝剣レイシア』に目を向けると、青白い光は剣全体からルーシャの手元までを覆い強く輝いていた。





 知性の(インテリジェンス)(ソード)に押さえ付けられても尚、デス・シザーズは膨張を続ける。使い手はすっかり大鎌に吸い上げられ、柄の途中にぶら下がるストラップになっていた。



 普通ならあのサイズの奴は『上級悪魔』だ……。


 ルーシャは宝剣に法力を溜めながら、恐ろしく冷静に悪魔を見据える。


 精霊や悪魔の力が付与されている『魔法武器』を持つ“使い手”は、武器の力を最大限に引き出せる者が相応しい。それと同時に、武器の意思に同調こそするが飲まれてしまってはいけない。



 ――――“我が主”


 ロアンが言っていたこととはいえ、宝剣が自分のことをそう呼んでいたのだ。ルーシャは口の端を上げる。


 宝剣の法術の言葉を唱えると、刀身の光が一層濃くなっていく。



『汝、我の力の道標なり

 悪しき暗闇より道を探し

 汝が咆哮 愚者を祓い

 光の道を指し示せ』



「祓え!! “光を示す者(レイシア)”!!」


 宝剣の名を叫ぶ。



 上から下へ。

 宝剣が辿った軌跡がそのまま、前方のデス・シザーズへ向けて走りだす。


 “モア”と“ダグ”が素早く横へ飛んだ。


 縛めが解けた悪魔の正面には――――――


『ギィアァァアアアアッ!!』


 宝剣から放たれた青い光線が、悪魔全体を突き抜けていく。




 聖力の塊である法術の光をまともに受けたデス・シザーズは、その場で激しく床を打ち、苦しむようにめちゃくちゃに動いた。


 ピシピシピシ…………


 やがて、小さな音が連続して聞こえてくると、細かいヒビが大鎌全体に広がり、パラパラと体を破片に変えて消えていく。





 廃墟の聖堂に静寂が戻る。


 悪魔がいた床に残ったのは、錆びたハサミなどの欠片だった。


「……消えたか…………」


 言うとため息が出る。

 気が抜けたせいなのか、ルーシャの手に握られている『宝剣レイシア』は、元の金の十字架に戻っていた。



「お父さんっ!」


「えっ……?」


 ホッとして祭壇の前に立つルーシャだったが、不意にリィケの声に我に返る。


 リィケが強張った表情でルーシャを見ていた。


 ロアンがリィケの腕を掴んでいることから、最初はリィケがルーシャに助けを求めているのかと思ったのだが、どうやらロアンは慌てているリィケを押さえているだけのようだ。


 横にいるライズもルーシャの方を見て銃を構えている。



 ――――後ろ……?



「これは、ずいぶんと人の子が入り込んだものだ」

「……えっ!?」


 ルーシャの背後すぐ近くから、低い女の声が響く。


 この……声は…………


 弾かれるように振り向くと、夕陽を弾くような鮮やかな金色の髪の毛と金色の瞳が、ルーシャの目に飛び込んでくる。


「レイラ……」

(こうべ)を下げよ、無礼者!!」


「――――――っ!?」


 周りの空気が鉛に変化したように、急激な重さと圧迫感をもってルーシャを床へ叩き伏せた。


「うっ…………」


 ルーシャはその場に座り込み、なんとか体を起こそうと両手も床から離すことができなくなる。


 魔法? いや、魔力による圧迫か!?


 ほとんど土下座に近い体勢で、妻によく似た悪魔の顔を見上げるしかなかった。




「ね……姉さん……?」


 ガシャン……!!


 普段、けして放すことがない銃が床へ落ちる。

 少し離れた場所で、ライズは祭壇の前の人物の姿を呆然と見つめた。


 ルーシャの妻のレイラはライズの姉である。

 死んだはずの姉に瓜二つの顔が急に現れたため、ライズの思考は停止するしかなかったのだ。





 妻や姉……レイラによく似た悪魔は、ライズからリィケとロアンに視線を流し、再びルーシャへ向く。



「……ふん。ロアンがここへお前たちを連れ込んだか。まぁ良い……低俗な悪魔どもはこれで消えた。我が来るまでもなかった……だが……」


 金色の目がルーシャを見下ろしている。


 レイラの片手が何もない空間を撫でると、ルーシャの前にバラバラと何かが落ちてきた。


 床の上に散らばったのは、ルーシャが捕まる前に身に付けていたコートやブーツなど一式。



「……邪魔だから引き取れ。我は()()だけを返してもらえればよい」


 手には白いヴェールが握られている。


「それ……は……」


 オレの上着にしまっていたっけ…………


 先ほどから変わらず、身体全体が見えないもので押さえ付けられているため、顔だけを必死に上げレイラを見上げ続けた。


 ルーシャが気を抜くと、意識も身体も下に沈みそうになる。




「ふん……悪魔と渡り合おうとする人間が、ずいぶんと間の抜けた顔をするものだ……」


「く…………」


 身動きの取れないルーシャを見てスゥッと目を細めると、おもむろにしゃがみ込み、少しだけ口元に笑みをこぼす。


「そうだな……我らの面倒に巻き込んだ詫びと、ロアンが世話になった礼はしなければならないな」


 白く指の長い手がルーシャのアゴに添えられた。

 金色の瞳をしたレイラの美しい顔が至近距離にある。


「え…………?」



 一瞬だけ。

 ふわりと空気が動く。



 ルーシャは何が起きたのか、すぐには理解できなかった。



「っ…………!?」


 やっと解ったのは、自分の唇に暖かい同じものが重ねられている……ということ。




 頬に掛かる金色の髪の毛からは、喪ったはずの懐かしい香りがした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読み頂き
ありがとうございます!

ブクマ、評価、感想、誤字報告を
頂ければ幸いです。


きしかわせひろの作品
Thousand Sense〈サウザンドセンス〉

不死<しなず>の黙示録
― 新着の感想 ―
[一言] 両親・姉夫婦の情事を目の当たりにしてしまった、リィケとライズの心境やいかに!w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ