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彼は近所の壊人屋(かいじんや)  作者: 上代 迅甫(かみしろ じんすけ)
第1章 どうも、私は壊人屋
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第1話 近所に出来た奇妙な店

第1章 どうも、私が壊人屋


第1話 近所に出来た奇妙な店


 ワタシの近所に奇妙な店ができた。奇妙というか、奇天烈(キテレツ)というか、以下にも不思議で不思議な店なのだ。とても、店と呼ぶには似つかわしくない店で、名前だけ見ればそれこそ悪目立ちしそうな店なのだが、しかし何故かそこの雰囲気に溶け込んでいる。溶け込み過ぎて、違和感すら感じない。それは、店名に異質があっても、周囲のスーパーや住宅に似た造りの店構えになっているという、あくまでの外観の影響は多少あるかもしれないけれど、それにしてはどうも何かが違う。異質なものの目立ちはしていない、このどこか矛盾しているような店の存在感は奇しくも、ワタシの好感度センサーに見事な引っかかりを見せたのである。


 周りの雰囲気に溶け込んでいる、とは言ったが、ここは別に鉄筋コンクリートで固められた重々しいビル群の一角ではないし、逆に田畑で埋め尽くされた住人と案山子の数がどっこいどっこい、みたいな田舎でもない。普通の地方の住宅地である。この辺には二階建ての一軒家が多く、ワタシの家もそれである。近所にはコンビニがポツポツと見られ、ワタシは家から二番目に近い、行きつけのコンビニから帰っている途中だったのである。一つの看板にワタシの自転車を漕ぐ脚はピタリと止んだ。

 この地域には子供のいる家庭が多く、コンビニ同様、学習塾もちょくちょくある。ワタシは塾に通ったことはないが、その店もそれの外装だった。三階建てで、周りの住宅よりは少し頭が飛び出ているが、それでもその隣にある新築の一軒家よりかは、この地域に幾分か馴染んでいた。馴染み過ぎていた。勿論、そんな店は三階建ての建物の全てを占拠しているわけではない。二階部分が今回の例の店だ。


 しかし、一体どういうことなのだろうか。


 ワタシは冒頭でその店が「できた」とは言ったものの、正確にはそこに「あった」と表現する方が適正だろう。その店は恐らく以前からあったのだ。

 だが、この店には謎が多い。ワタシは普段からこの道を使っている。それは一週間に数回とかそういったペースではなく、ほぼ毎日だ。ここはワタシの通学路なのである。毎日通う高校までの通学路、それがここであり、その道中にあるのがこの建物である。もし、新しい店が出来ているならその毎日の通学で確認出来ているはずだが、ワタシはたった今気付いた。ワタシの目に疑いはない。やはり今初めてこの看板を見たのだ。

 建物自体は以前から知ってはいた。そんな幽霊屋敷みたいな洋館が急に現れた的な超常現象的何かが起きわけではない。それにワタシはそういうのは信じていない。けれども、そこにその店が存在していたのは、知る由どころか、店があることすら思いもしなかったのである。外から見れば二階の明かりもついていたし、どうやら営業はしている模様だ。

 周りを見渡すが新しい店が出来た時の「はなわ」といったものが見られない。しかし、以前には無かったこの店はどうも違和感がなかった。新店舗と言うには、やはり存在感が薄すぎる。以前からあった廃墟(はいきょ)の所為かもしれないが、歩行者の量が多いこの道でも、目に留め足を止める人はワタシ一人であった。


 そんな不思議で変哲のない謎だらけの店だが、一番の驚きはその店名である。「コワレビト」と読むのか「カイジン」と読むのか、とにかく不吉であるのは見ての通りだ。

 人を壊す?

 あるいは壊れた人かもしれないが、どちらかと言えば前者の方が店らしい意味合いだ。しかし、どんなサーヴィスをしているか、(いささ)か気にかかる。「人を壊す」だなんて、マイナスイメージしか浮かびえないからだ。一体どんなことを生業としているのだろうか。ヤクザみたいな荒らし屋か? それこそ、市や県はこんな店をどうして認め、放置しているのだろうか。無駄に気なって仕方なかった。


 店の名前からすれば、依然として、普通は入店するべきではない。だが、ワタシはその興味に負けた。負けざるを得なかった。ワタシがワタシだけが気に留めず、今まで気付けなかっただけかもしれないが、そこに以前からあった存在感と厄介事の発生は不可避だがその奇妙な店名の真意に、ワタシは惹かれてしまった。

 ホント、好奇心って怖いものね。もしかしたら、ワタシは好奇心が為に死んでしまうかもしれないのかな。


 ■■■


 階段は薄暗く、一段一段と高さを増す度に、感じていた不信感が膨れていく。

 やはり間違いでしかないのだ。こんな以下にも「悪業やってます」と口語しているような店に、単独の女子が潜入するなんて無謀の他ならない。空手とか柔道とか、そんな武術派の人間でもないし、ましてや今は武器すらない。自転車まで戻れば、コンビニで買ったものがあるが……、雑誌とジュースで一体何が出来るのやら。いや、でも例え武術を極めていても、結局大人数で囲まれれば、それで終わりだろう。

 それなら、尚更、ワタシは一体何をしているのだろう……。


 しかし、そんな考えを持っていながらも、ワタシの好奇心とやらは歩きを止めない。気付けば、ワタシは例の店の入口らしき扉の前にいた。


 緊張していないと言えば嘘になる。なんせあんな危険を堂々と告示している店に入るのだから、そりゃあ緊張の三つや四つは浮上する。ワタシは知りたがり屋ではあるが、小心者なのだ。けど、それならそうと別に誰かに頼まれたわけではないし、強制されてもいないし、直ぐに帰ればいい話なのだが……。ワタシは一度決めたら後戻りをすることが出来ない、小心者でもあった。


 扉に手を差し伸べたワタシはノックを三回行った。緊張のためなのか、店なのだからノックもせずにすんなり入ればいいのに、ここは丁寧になってしまった。オマケに「失礼します」なんて言っちゃって。ここは職員室ではないのにな……。ワタシの言葉に対し、中から返事はない。逆に反応があればと思うと、この方が良かった。恥ずかしい……。穴があったら入りたいくらいだ。だが、明かりはついていたのだから、人はいるはずである。しかし、ドアの向こうからは人気が一切しなかった。まるで突然の来客に驚き、逃げ出したかのようだ。まぁ、そんなことはないと思うのだが……。

 鍵は勿論開いていた。店だからそんなのは当たり前なのだが、いやはや名前が名前なので、普通ではないのは承知だったのだ。扉が開かないこともあるかもしれない。もしかすれば、扉がないのかもしれない。……、いや、それは言い過ぎだが、セキュリティドアなら、ワタシには開けられなかっただろう。とは言え、このドアは普通だった。

 ギイィィィィ という古い音と共に中の光が視界に飛び込む。暗い階段から、明るい部屋へ。


 パッと中の情景が頭に投影される。


 ワタシがこの部屋で受けた第一印象。それは何よりも、店の奥で(いびき)をかいて寝る、一人の男性であった。


 ■■■


 ワタシは呆気に取られ、ただ呆然としていた。そこにいたのは年齢二十代前半の若い男性が一人、しかも大きく口を開け、アイマスクをつけ堂々と爆睡していたのだ。辺りを見回すが、彼以外に人影はなく、隠れられるスペースもない。

 内装としてはとても店と呼ぶには相応しくないものがあった。「店」というよりは「事務所」に近い。だが、リフォームをしているのか、元学習塾の面影はなく、床がフローリング、壁は板張りでどこか温かみを感じだ。革のソファーやガラスのローテーブルなどの家具を除けば喫茶店に近い。事務所なのに落ち着くというこれまた不思議な雰囲気であった。

 ここがホントにあの物騒な名前の店かと問われれば、一瞬詰まるところがある。なんせ、ワタシの想像していたヤクザのイメージとは、一ミリどころか一ミクロンも見当たらないのだ。「事務所」と言えば探偵や弁護士の印象がパッと浮かんだが……。それにしてはどうも人手がいなさ過ぎではないだろうか。探偵や弁護士にしても、助手や秘書くらいはいるだろうし……。もしかすれば外出中なのだろうか。にしては事務机が一つしかないような……。


 とは言え、相手が寝ているのなら好都合だ。別にワタシは何かを買いにきたわけでも、依頼しにきたわけでもなく、ただ気になって入った冷やかし人間なので、相手に気を遣わなくて済む。そもそも、買い物帰りだったので、何かを買えるようなお金も殆ど残っていないし……。とにかくワタシは中を一通り見た後、彼が心地よく快眠をしている間に帰ってしまおうと算段を立てた。

 そろり、そろりと彼を起こさないようにワタシは忍び足で出口へ向かった。なんか泥棒になった気分だ。ホームセキュリティーとかない時代の人々は、こんな緊張感があったのか。事の難しさとプレッシャーに思わずしてはいけない感心をしてしまった。


 だが、そんな苦労も全て水の泡となった。


「ふわぁぁぁぁ、よく寝たよく寝た!今日も快眠快眠♪」

 ドアに右手を差し伸べたとき、後ろから元気そうな声が聞こえた。

 まさかと思い、振り向くと案の定、当然の如くその男性が大きな欠伸(あくび)と悠々とした背伸びを行っていたのである。

 まだアイマスクを付けていたため、まだこちらの存在には気付いていない様子だった。なので、そのままゆっくりとドアノブを捻り、何事も無かったかのように部屋から出ていこうとした。

 静かに、慎重に、ゆっくりと、落ち着いて────。


「ん? 誰かそこにいるのか?」


 ビクッと身の毛が弥立つ。見えていないはずの相手がそんな急にそんなことを言い出したら、そりゃあ驚きもするだろう。

 見透かされたようで、どうも怖くなったワタシは思わず「スミマセン」と震えながらに謝罪した。このまま無視して帰る手もあったが、それはそれで小心者のワタシにはどうも恐ろしかったので、結局、彼に捕まる破目になってしまったのだ。


 ワタシが脱走を諦めると、彼は目元のアイマスクをたくし上げ、ワタシの方に視線を向けた。

 よく見ればそれなりの顔つきの人だった。それなりというのは良い意味での方でのそれなりだ。キリッと整った輪郭にまるで様々なイケメンから選りすぐったような綺麗なパーツが並べられている。私以外の女子高生なら一目惚れまっしぐらをさせられるような人だ。と、そう言っているワタシでさえ「カッコイイ」と思ってしまっている。まぁ、小心者のワタシにはアプローチする勇気どころか、好意を持つ自信さえもないが……。


「ほう、これまた可愛らしい客人が僕のトコロに訪ねてきたもんだ」

「えっ、あっ、あの、……違いま」

「すまないねぇ。昼寝をしていて気が付かなかったよ。やっぱり来客用のベル的なものを設置するべきかなぁ」


 それにしても、彼は剽軽(ひょうきん)だった。事務関係と決まったわけではないが、事務を営む人はお堅いイメージがあるので、とてもそのようなことをしている人には思えなかった。見えなかった。こんな陽気で大丈夫か、とさえ思うほどだった。

 ワタシを客と認識するや否や、彼は鼻唄をしながら紅茶を煎れ、実に楽しそうで嬉しそうな表情を浮かべていた。まるで子供のようだ。ごっこ遊びでノリノリのお客役が入ってきた時のそれだ。いや、ごっこではないが……。まぁ、要するにこの人はワタシと対立する「陽キャ」というやつだろう。苦手だ……。

 しかし、決して悪そうな人ではなかった。イケメンだからといって悪人ではないとは偏見だが、悪そうなことをしそうな人間の雰囲気でななかった。というか、そういうのとは感じが縁遠いのだ。実際、ワタシへの接客は印象の良いものだったし、ホテルのウェイターのようだった。容姿からしても。スーツではあるが……。


「こちらへどうぞ」

「あっ、え、そのぉ、……あ、ありがとう、ございます」


 小心者のワタシには本音が言えなかった。たった一言、「ちょっと立ち寄っただけで」と言えばいいのに、それが出なかったのだ。なんて情けないのだ。

 一方でワタシを流している彼の顔を見やる。優しそうで、陽気で、嬉しそうな笑みだ。流石にこんな純粋な人に嘘をつくわけにもいかないし、きっちりとホントのことを話させてもらおう。早く退出したいのもあるが、申し訳ない。


 ワタシがそう思って口を開こうとした時だった。


 彼の発言がワタシの言葉を遮った。その言葉は実に軽々しく、そして恐怖を喚起するものだった。かつ、店の名前を再び想起させた。今思い出しても、背筋に寒気が走る。それほどインパクトさえもあった。




 ようこそ壊人屋(かいじんや)へ!


 さて、()()()()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()


 君はどっち側の人間かなぁ?────




 その日、ワタシが出会っていたのは紛れもない「怪人」だった。

どうも今回、この作品を書かせて頂いた上代迅甫です! まだ2作品は終わってない、しかも1作品に至ってはプロローグしか書けていない状況ですが、また新しい作品にチャレンジしてしまいました。自分に生意気。

不思議な雰囲気の店「壊人屋」。次回はそんな店に依頼が入ります! どんな仕事をしているのか? 彼は一体何者なのか? それが次回明らかになる! ……かも?

良ければ次回もご覧下さい。そして、コメントの方を宜しくお願いします!

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