春の嵐
サブタイトル:軍人達の受難。
クローディア大国には、他国から観光客が集まる祭りが幾つか存在する。
一つは、水祭り。
暑い夏を振り払い、少しでも涼しく過ごせるよう、様々な地区で水が撒かれ、噴水は勢いよく吹き上がり、氷菓子が跳ぶように売れる。
暑い日差しに、水滴が煌めく様子に観光客はずぶ濡れになりながらも大人子供関係なく大はしゃぎするのである。
そして降誕祭。建国の父であるクローディア王の生まれた日を祝う。冬の寒い季節にあるその祭りは、国中がクローディア王が好きな色であった赤色に染まり、暖かい部屋で家族や恋人とまったりと過ごす。白い雪と赤い装飾を見に、他国からも観光客が訪れる。
もう一つは、収穫祭。秋の日にその年の豊作と来年の豊作とを祈り、国中が呑めや食えやの大騒ぎ。王都では様々な地区の名物が揃い、たくさんの人々が安寧な世の中を楽しむのである。
そして、最も盛り上がる祭りが春の軍神祭である。
クローディアが誇る二大国軍の白鷹隊と黒鷲隊が互いに剣を交え、戦いの神へ、その気高い精神を捧げるのである。
また、上下関係なくクジ引きで組み合わせが決まるため、若い軍人達は少しでも勝って名声を挙げようと、また上の立場の軍人達はプライドを掛けての真剣勝負なのである。
優勝した暁には、歴代の優勝者の名が刻まれた石碑に名を残すことを許され、王からは報奨金が。軍からは実力に見合った地位が。そして、その年の“春姫”と呼ばれる女性から祝福のキスを貰える。
その年の春姫は、見物に来た25歳までの女性から、これまたクジ引きで選ばれる。春姫となった女性にはその年一番の幸せが舞い降りる為、その祝福の一部を優勝者に分けるという意味合いでキスが贈られる。
そしてこの年の春姫となったのは……
「あら…」
クジ引き箱をもった黒鷲隊に所属する軍人二人は、ぽかんと口を開けている。
周囲の人間も、ザワザワと騒ぎ立てる。
自分達の目の前で春姫が決まった。ほっそりとした手に、赤いマークが付いた棒が握られている。艶のある黒髪を、編み込んでまとめた美しい女性は、国中の有名人である。名は、カレン・マクレガー。
自分達の上司の上司の上司である、ゴライアス隊長の妻である。
「今年の…春姫は…」
「マクレガー隊長の…」
わなわなと震える図太い声に、女性はあらまぁとクスクス笑い、足下に居た幼女に、赤い印のついた棒を返す。
そう、“返す”のである。見事今年の春姫になる権利を引き当てたのは……
「ママ!テレシャ!テレシャ、はるひめしゃまになるー!」
「「「マクレガー隊長の娘さんが春姫に!」」」
その叫びに、周囲の人たちは小さな春姫に大きな拍手を贈り、近くに居た軍人達は慌てて上司に報告に行く。
可愛らしい春姫の誕生に、一般人が喜ぶ中、祭りの主人公たる軍人達は恐怖に震えていた。
奴らが、奴らが参加する…と。