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次の三歩目

カレン視点。

家族が待つ家の扉を開けると、最愛の夫が下半身にタオルを巻いた状態で迎えてくれた。その鍛え上げられた身体を惜しげも無く晒し、その太ましい腕には小さな娘が居る。


「ママ、あーちゃんおかいり!」

「テレサ、“おかえり”だ。カレンおかえり。楽しかったか?」


夫に抱かれた娘の頭を優しく撫でてやれば、娘は幸せそうに笑う。姉も娘の頬にキスをして、買った日用品を置きに奥の部屋へ向かう。


娘が可愛い。どの子供も可愛いが自分がお腹を痛めて産んだ子は格別である。

しかし、娘の髪の毛がしんなりと濡れていたのが気になった。


「テレサ、パパとお風呂に入ったの?あなた、暖かくなってきたけれど、風邪をひいては困るわ。テレサ、パパはお洋服を着るから、その間ママのお手伝いしてくれる?」


「パパね、あせくしゃかったのよ!でね、テレサ、一緒にはいったのよー!ママ、だっこ!」

「うふふ。甘えん坊さんね。可愛い…」


柔らかい体を抱けば、ふんわりと石鹸の香りがする。そこに幼児特有の甘い香りが加わり、カレンを幸せにしてくれた。


「ママ、おなかすいた!テレシャ、たくさんたべるよ!それでね、あーちゃんみたいになる!」

「まあ!じゃあ好き嫌いせずに食べないとね」


「うん!」


無邪気に笑う娘。昨日は、自分の不注意でこの子の手を離してしまった。小さなわが子が居ない事に気付いた時は、あまりの恐怖に体が震えた。

治安の良さは国内一だが、完全に悪人が居ないとは言えない。馬車も行き交う大通りもあり、事故もある。


娘に何かあったら…あの恐怖は一生忘れられないだろう。しかし、テレサの恐怖心はもっと大きかったろう。思わず、娘を抱く腕に力が入る。


「ママ?」

「テレサ、昨日は恐かったよね?ごめんね。ママ、もう絶対お手々離したりしないからね。テレサはママが守ってあげる…」


「ママ…」


「お前達は、全身全霊を掛けて俺を守ってやる。害を成す奴は、成す前に半殺しだ。」


いつの間にか着替えて来たのだろう。夫が後ろから抱きしめてくれる。その逞しい身体に抱き締められると、とても安心する。それは娘も同じなのだろう。母を抱く父の腕に手を伸ばして、ぎゅっと袖を握っている。

ああ…頼れる素敵な旦那が居て、可愛い最愛の娘が腕に居る。こんな幸せがあって良いのだろうか。


夫の顔が近付く。そっと娘の目に手を当てて、唇が合わさるその瞬間。


「カレン、朝ごはんを食べよう。テレサもお腹が空いたろう?あーちゃんが食べさせてあげよう。其処をどけゴライアス。朝から不埒な奴め。」


白い隊服に身を包んだ姉が、夫の背後に立っていた。ゴライアスの眉間に皺が寄る。屈強な軍人ですらその顔を見れば震え上がるだろう凶悪さだが、心底から彼に惚れているカレンからみれば、一層精悍な顔立ちに見える。

カレンフィルター凄い。


「あーちゃん!テレシャ、あーちゃんにあーんしたげる!」


「なんと!ならばあーちゃんもテレサにあーんしてやるぞ!」


仲の良い叔母と姪は、手を取り合って食卓へ進む。朝市で買ってきたおかずを取り出し、昨日の昼に焼いておいたパンをテーブルに乗せ、少し遅めの朝食ができあがる。


甘い雰囲気を壊された不機嫌そうな夫の腕に、チュッとキスをする。国民を護る為に剣を振るう腕。自分達家族を抱き締めてくれる腕。

日に焼けた逞しい腕は、カレンの愛する彼の一部である。


「ママァ!パパァ!はーやーくー」


さあ、お腹を空かせた我が子に美味しい御飯を沢山食べさせなければ。


カレンは夫の手を握り、食卓へ向かった。






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