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次の一歩

R15ぽい雰囲気注意。

春。暖かい日差しが夜の間に冷えた部屋を温める。

黒鷲隊隊長ゴライアス・マクレガーは、規則正しくも何時もの時間に目を覚ました。

しかし、自分が寝ている場所は王城の訓練施設にある男臭い仮眠室では無い。

丸太のように太くて硬い腕の中には、柔らかな妻が穏やかな顔で眠っている。


少し寒いのか、ピタリと寄り添う妻を、筋肉で温めるかのように抱き寄せる。自分より冷たい肌は、火照った身体を冷やしてくれており、大変心地良い。


ああ、昨日は愛娘が迷子になり、奇しくも白鷹隊の隊員が救助したのだった。

その後、夕飯に招待した隊長を夜遅くに帰して。


そして1週間ぶりに愛しい妻の身体を堪能したのだった。

その前に義姉が文句を言っていたが、新婚(四年目)の夜を邪魔するのは如何なものか。白鷹隊の隊長としては優秀ではあるが、あの妹至上主義は戴けない。

特に、二人の運命的な出逢いを扱き下ろす言い方は赦せない。

昨日言われた事を思い出し、思わず妻を抱く腕に力が篭もる。


「ん…あなた?」


苦しかったのか、妻…カレンが目を覚ます。ゴライアスの強面を恐れず、ふにゃりと笑う。

…愛しい…妻に出来て本当に良かった…テレサも世界で二番に可愛い(一番は妻である。これは我が娘であろうと譲れない)。自分は幸せ者である。


そんな事を思いながら、未だ寝ぼけ眼な妻に何度もキスをする。


「んっん…あなた、朝から恥ずかしい…テレサももうすぐ起きちゃうわ。服を着させて?」


「まだテレサが起きるには早いだろう…もう少し…」


テレサが起きるまで、一回は出来るな。と、ゴライアスは思う。何が出来るかとは言わないが。


カレンの瞳がとろりとして来た。もう一押しと、彼女の身体の上に、自らの巨体を置いた時。

愛娘の侵入防止の為に鍵を掛けていた扉が開いた。というか、壊れた。


カツン…と、蝶番が床に落ち、内側に倒れた扉の上に立っていたのは…


「おはようカレン!今日も可愛いよ、我が妹よ!清々しい朝だ一緒に朝市へ行かないか!?姉様が何でも買ってやろう。……おい、ゴライアス・マクレガーその無駄に大きくて男臭い身体を退けろ。小柄なカレンが窒息する。」


すらりとした脚でベッドへ近づき、馬鹿力で巨体を退ける。

上半身裸の男を目前に全く躊躇していない。そもそも、夫婦の寝室に許可無く入るのは如何なものか!

一言物申してやろうと、口を開いた時。


「マァマ…パパ…おはよぉ」


馬鹿力女こと、アザレアの影から愛娘がひょっこり現れた。

流石のゴライアスも、娘を邪険には出来ない。のそのそとベッドの上に上がろうともがく娘を抱き上げて、傍で固まる妻の腕の中に置いてやる。


「ママ…おっぱい…」


まだ眠いのだろう、カレンの胸元に顔をこすり付けて甘える娘は何と可愛いことか。絶対嫁に行かせない。


ゴライアスは今にも二度寝しそうな娘の頬にキスを贈る。そして、姉の突然の乱入に呆ける妻の唇にサッとキスをしてからベッドを出た。

残念だが…非常に残念だが続きは今夜までお預けである。乱入したアザレアを一睨みして、床に落ちていたシャツを羽織る。一度昂ぶった身体を抑えるには運動が一番である。鍛錬を行うため、寝室の窓から庭へ出る。


「ね…姉様…扉が…」


「うん?ああ、申し訳ない…朝からカレンと出掛けられると思ったらつい嬉しくて。さあ、支度をして朝市に出掛けよう!テレサは…まだ眠いだろうから、ゴライアスに任せて。たまには姉妹二人で出掛けよう!」


妻の胸にくっつく娘をそっと剥がし、横に寝せ、先程ゴライアスがキスをした頬をそっと拭って上書きするようにキスをする。

嫌みか。ゴライアスの眉間に深い谷ができる。



「さあ、カレン支度をして!出掛けよう!」

「で…でも、ゴライアスとテレサを置いて…」


「大丈夫、テレサが起きる前に帰ってこよう。ゴライアスは明日まで休みだが、私は今日の午後から仕事だ。たまにしか会えない妹と少しでも一緒に過ごしたいんだ…」


先月開かれた王城の舞踏会で、貴族の娘共にダンスを頼まれた際


「マドモワゼル。本当は踊りたかったのですが、今日は仕事中なのです…残念ですが」


と憂い顔で断り、娘共を赤面させたうそ臭い顔をカレンに披露する。


窓越しにその顔を見て、ゴライアスは苦い顔をする。カレンは、あの顔にきっと逆らえない。現にカレンはしょうが無いと、苦笑して支度を始めていた。


「テレサが起きるまでよ?きっと1時間後にはお腹が空いて起きてくるわ。それまでに朝ごはんのおかずを買いに行きましょう?」


「そうだね!昨日ご馳走を作ってくれたカレンも、たまには休息も必要さ!良く食べる男の為に朝から大量の食事を作るなんてカレンが可哀相だもの。」


お 前 が 言 う か!


手にしていた竹刀がバキィっと壊れる。その音に気付いたアザレアは、小馬鹿にした顔でのたまう。


「脳筋隊長、私はこれから愛しい妹と買い物に向かう。帰ってくるまでに、その馬鹿力で昨日ヒビを入れた机を直し給え。」


「あなた、少し行ってきます。テレサが起きるまでには帰るわ。机、直してくれると嬉しい!」


何時の間にか着替えを済ませ髪を三つ編みにした妻が庭に来ており、行ってきますのキスをするために背伸びをしている。

自分の胸元より下にある妻の頭に手を添えて、チュッと音を立ててキスをする。


「うむ。気を付けて行って来い。白鷹隊長、妻に傷一つ付けてみろ。今度の合同修練で地獄を見せてやろう」


「私を誰だと心得る。国王を守り、治安維持を担う白鷹隊の隊長であるぞ。」


「喧嘩は駄目!さあ、姉様、行きましょう!早く行かないと美味しいものが売り切れてしまうわ!」


不穏な空気を察し、カレンがアザレアの腕を引っ張る。

小柄な体で懸命に動く姿に、愛しさが募る。

さあ、彼女が帰ってくるまでに鍛錬を終わらせよう。彼女が素敵だと褒めてくれる筋肉を維持するには、日々の努力が必要なのだ。

その後はビビの入った机をさっさと直して、テレサの可愛い寝顔を堪能しよう。


ゴライアスは、今日も一日妻と娘が幸せで有るようにと祈り、鍛錬へと戻った。


その後、机を直した直後にテレサが目を覚まし、抱きついて恒例の頬ずりをしてくれた時、


「パパ、おひげいたい…あしぇくしゃいの…やーよ。」



と言われて抱っこを拒否される事になろうとはつゆ知らず。


ゴライアスは自慢の身体を維持する為、今日も鍛錬に励むのである。

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