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五歩目

新人コリン君の受難編終了です。


沢山の料理を胃に収め、コリンは満足げな溜息を吐いた。

どの料理も絶品で、店を出せる位である。更に量も多く、体力勝負でよく食べるコリンでも満腹になった。その2倍近くの量を食べたのが、目の前の隊長達だが。

ゴライアス隊長はわかる。その体格を維持するためには多量の食事が必要だろう。しかしアザレア隊長はそのほっそりとした体型からは想像出来ない程も食べていた。化け物か。


食後には、デザートと暖かいお茶が出た。お茶すらも美味しいとは、カレンの料理の腕前は素晴らしい。


再び満足げな溜息を吐いたが、ふと、食事中小鳥のさえずりのように話し掛けていたテレサの声が聞こえない事に気付いた。横を見れば小さな頭がこっくりこっくり動いている。


「テレサ?もうおねむかしら?」

カレンがテレサを抱き上げれば、幼女は豊満な胸に顔をこすり付け、本格的に寝始めた。

…カレンさん、小柄なのに出るとこ出てるなぁ。


コリンがそう思っている事など知らないあろう。カレンは、申し訳なさそうに眉を下げコリンに断りを入れた。


「ごめんなさいコリンさん。今日はテレサが本当にお世話になりました。…テレサ、疲れて寝てしまって。ちゃんとしたお礼が出来ず申し訳ないです。」


「いえいえ!テレサちゃんが無事にカレンさんと出会えて良かったです。俺は白鷹隊の隊員として当たり前の事をしたまで!ゆっくり休ませてあげてください!」


そう言って敬礼すれば、カレンはクスクス笑い再びお礼をして奥の部屋へと入っていった。きっとそこに子供部屋があるのだろう。

あんな奧さん欲しいなぁ。あんな奧さんが居る旦那さんてどんな人なんだろう…


「コリン隊員…俺の妻に何か?」


俺の妻…そう口にしたのは、目の前に座っているゴリラである。そうだ、あの美女の旦那は世界最強の名を欲しいままにしている、ゴライアス隊長である。


その横には同じくこちらを睨む麗人。


「コリン隊員、“私”の妹に邪な目を向けるな。」

「…私の妹?ふん“俺”の妻だろうが。」

「何だと?私はまだ認めてないぞこの変態が。私の妹に勝手に懸想して、巡回と称して妹の働く花屋に入り浸り、営業妨害をしたのを忘れたのか。治安維持を担う白鷹隊として、貴様を逮捕しても良かったのだぞ!」

「勝手に懸想だと!?聞き捨てならん!カレンは俺の愛を最初から受け入れてくれていた!」

「一般国民が、爵位ある奴に逆らえるか!その顔と巨漢で妹を脅して蹂躙したのだろう!この筋肉ゴリラ!」

「蹂躙だと!?貴様!表へ出ろ!切って捨ててやる!」

「その言葉、そっくり返すぞ!」


もう、何なんだこの二人は。仲が悪すぎる…入隊式の時はそんな雰囲気微塵も感じられなかったではないか…

もう帰りたい…が、


「ゴライアス隊長!アザレア隊長!喧嘩はいけません!テレサちゃんが起きますよ!」


その場で殴り合いを始めてしまうかのような雰囲気に、コリンは間に入る。下っ端も下っ端であるコリンの言葉に、二人の隊長はハッとして椅子に座る。

険悪な雰囲気はそのままであるが、何とか殴り合いだけは回避出来たと、コリンは安堵した。


「しかし、ゴライアス隊長の奥様がアザレア隊長の妹さんだとは…田舎から出て来たので知らなかったです…その…ゴライアス隊長が妻子持ちとは…」


そう、コリンは白鷹隊に憧れて田舎から出て来た為に、実は王都の噂にはまだ疎い。相方もまた、同じ境遇のためゴライアス隊長達の間柄を知らなかったのだろう。

コリンの様子に、アザレアは少し冷めた茶を一口飲み、ニヤリと笑う。街の女性が見たら失神する程に魅力的な顔である。


「ふむ。この辺りでは有名だぞ。変態の黒鷲隊ゴライアス隊長が、可憐な少女に五年間懸想した挙げ句、終ぞ手籠めにしたという醜聞がな」


「…」


五年間…カレンさん幾つの時の話しだ。

そして、ゴライアス隊長はもしかして…


「コリン隊員、貴殿の考えが手に取るように判る…切るぞ」

「っ!失礼致しました!」


視線だけで、百人居た盗賊を蹴散らしたというゴライアスの眼力に一隊員のコリンは為す術もなく、敬礼する。


もう、早く帰りたい…

険悪な雰囲気に泣きそうになった時、奥の部屋へ続く扉が開き、女神が助けに来た。


「あら、もしかしてまた喧嘩したの?もう!仲良くして下さい!姉様も、そろそろ妹離れして頂戴!あなたも、有事の時は姉様と協力するのでしょう?日頃から仲良くしていないと、いざという時協力出来なくなりますよ!」


腰に手を当てて、ぷんすか怒る美女。しかし、二人よりも小柄で小さな彼女が怒るのはただただ可愛らしいだけである。


他者のコリンはそう思うが、当事者二人はそう思わないらしい。慌てて彼女を取り成すよう、言い訳を始めていた。


「カレン、すまん。しかし、アザレアにお前との出逢いを馬鹿にされて、ついカッとなってしまったんだ…」

「卑怯だぞゴライアス!カレン、可愛い妹を野蛮な同僚に取られた悲しみのあまりにカッとなってしまったんだ。愚かな姉を許してくれたまえ…」


さり気なく互いを下げつつ、カレンに縋る隊長二人。こんな姿、白黒それぞれの隊員が見たらどう思うのか…コリンは他人事のように思う。


「んもう!二人とも仲良くして頂戴!テレサは二人が喧嘩するのは嫌だっていつも言ってるわ。私だって、大好きな二人が喧嘩するのは嫌よ。」


「「カレン…」」


「お願いだから、これからは仲良くしてね。優しい二人が好き。大好きよアザレア姉様、あ…愛しています、ゴライアス様…。」


赤面するカレンに、普段キリッとした顔の隊長達からは想像出来ないような顔へと変貌する。

ツッコミするのも疲れてきた。コリンはそう思う。


「カレン…私の名前を先に出してくれて嬉しいよ。やはり血の繋がった姉妹は特別なのだな」

「好きの上が“愛している”だぞ。アザレア隊長。カレン、俺も愛してるぞ…」

「ゴライアス貴様!」

「ふん!女の嫉妬は見苦しいぞ!アザレア」


「ちょっと二人とも!私の話理解して!?」


そして再び始まる喧嘩。

もう駄目だこの二人……


たった一日でコリンの憧れていた隊長達のイメージが崩れた。

ああ、完璧で軍神と名高い二人も人間なのだな


もう…帰りたい…



コリンが実際に帰宅出来たのは、喧嘩勃発から一刻後の事であった。





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