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二歩目

大国クローディア国の王都は、大国の名に相応しく常に賑やかである。装飾が成された店が道を彩り、沢山の人々が行き交う。

そして今は夕刻。日が沈む前に用事を済ませようと、せわしなく店を廻る主婦。仕事終わりの客を呼び込む為に酒場からは良い匂いが漂う。

そんな王都を、白い制服に身を包んだ若者が二人。人々が楽しい1日を終えられるように、治安維持に勤める国軍に所属している新米二人である。


「あー!今日は街の見回りだけで終わりか!コリンは明日は休みだろ?俺もだから終わったら飲みに行かないか?」

「良いねぇ!大通りに出来た新しい飲み屋に行こうぜ」


新米二人は他愛ない話をしながら、平和な街を見回る。滅多な事は起こらないが、もしもの事に備えて人気の無い裏通りを重点的に確認する。こういった所を隅々まで見回る事で、悪人への抑止になる。

庶民出身の白鷹隊隊長は、入隊式で新米達にそう語った。

「しかし、あの隊長は本当凄い人だよな。弱冠28歳で隊長職。しかも女性だぜ?憧れるぜ」


コリンは、少し乱れた隊服の襟元を正しながら自分達が所属している隊の隊長を賞賛した。憧れの白鷹隊に入隊出来た。それだけで田舎から出て来た甲斐があった。

それに同調した相方は、陰になっている建物と建物の間を覗き込みながら頷く。


「アザレア隊長だろ?あんなに格好いいのに女だなんて…神様は不公平だ。そういえば隊長の出身てこの辺なんだろ?」

「そうらしいな…なんか、凄い美女な妹がいるらしいぞ……ふぐぁ!!」


コリンは膝裏に衝撃を受け、無様にもその場で転がった。

すわ!襲撃かと相方が腰元の剣に手を伸ばすが、転けたコリンの足元にしがみついていたのは…


「マァマ……パァパ…あーちゃん」  


蒼い瞳にたっぷり涙を浮かべた、小さな小さな女の子だった。


「いってぇ…あぁ…制服が汚れた……ん?女の子…?」

「テレシャ…ママとこ行きたい…パパあいたいぃ…あーちゃんどこぉ」


足元にしがみついて大粒の涙を流す女児は、大変可愛らしい。何処をどう見ても迷子である。

平和な街であるが、何があるかわからない。迷子を放っておく白鷹隊が何処に居ようか。


「君は迷子かい?僕達は白鷹隊っていうんだ。迷子を助けるヒーローだよ。君は何処から来たの?御名前は?」


コリンは土に汚れた制服を払い、泣く幼女を抱き上げる。白鷹隊に入隊を許された持ち前の顔の良さを存分に発揮し、優しく語り掛ける。


「テレシャね、ママとおかいものきたのよ。テレシャね、もう3しゃいのれでぇなのよ!」

「テレシャちゃん3歳ね。ママとお買い物?お母さんは何処に?」

「テレシャじゃないの!テレシャ!きょうねパパとあーちゃんがいえにくるのよ!それでね!それでね!テレシャ、ママといっちょに、マリーおばぁちゃまのおみせに、おはなをかいに…かいに…ふぇ」


抱き上げられた幼女…もといテレシャ(?)は一瞬ぱっと笑顔を見せ、一所懸命話しをするが徐々に自分が迷子であることを自覚して再び涙する。

名前と年しか解らず、何処から来たのか訊いても「おうち」としか答えない。どうしたものか途方に暮れていると、横で考えていた相方があっと声を上げた。


「マリーおばさまのお花?マリリアン婆さんの花屋か?」

「知ってるのか?」

「いや、この辺に確かにマリーって呼ばれる婆さんが居てな、夫婦で花屋やってんだよ。俺、彼女の誕生日にそこで花買ったんだよな」


こっちこっちと相方は、幼女を抱えるコリンの腕を引っ張り大通り出る。

泣いて首に縋り付く幼女の背中を撫でながら、相方に連れられるまま歩くと、道端に彩り豊かな花が入った箱が見えた。彼処が花屋かと思っていたら、店の前に店主らしき老婆が女性を慰めていた。


「テレサ…おばさまどうしよう…テレサに何かあったら私…私…」

「大丈夫よぅ…旦那が駐在さんと他の店の人と一緒にテレサちゃん探してるから、きっと見つかるわ。もしかしたらテレサちゃんがひょっこり戻って来るかもしれないわ。だから、私達は此処で待ってましょう」


艶のある黒髪を三つ編みにし、小柄な身体を震わせたその姿はまさに可憐。


「ママ!ママ!」


腕の中で泣いていた幼女が、美女に向かって声を上げた。その声を聞いた美女は、顔をあげ此方を見る。ハッとするような美しい蒼の瞳から涙を流し、白くふっくらした頬を濡らす美女。

その美しさに、ボケてしまった白鷹隊二人をよそに、幼女はコリンの腕のポンっと抜け出して美女に駆け寄る。


「テレサ……テレサァ!何処に行っていたの!心配したのよ!」

「ママァァ!ごめしゃい!しろいねこちゃんがいたからテレシャね!」


拙い言葉で謝罪するに、母親が花屋の店主と話している隙に白猫を見つけてふらりと追いかけて行ってしまったらしい。

美女は幼女を強く抱き締め、怪我は無いかと幼女の頬や身体を確認する。


「怪我は無い?あぁ…ママもテレサのお手々を離してごめんね。怖かったよね。ごめんね…」

「ママ、あのね、あーちゃんがね、テレシャをたすけたのよ。」


あーちゃん?と美女が固まったままのコリンとその相方を見る。


「白鷹隊のお二人が…ありがとう御座います!娘を助けてくれて…本当にありがとう御座います!」


美女が幼女を抱き上げて、何度も頭を下げる。二人が漸く覚醒した時には、周囲の人々が集まり、「見つかったって!」「良かったよぅ…しかも白鷹が見つけてくれたとよ」「流石、白鷹隊だ」と二人を賞賛する。


途端に照れ臭くなり、背筋を正した二人に周囲の人々から拍手が贈られた。

その時、王城へ繋がる道の人ごみからどよめきが起こる。

ガシャガシャ鎧の音がしたと思えば…


「テレサ!!!!」


高く無く、しかし低くも無い独特の声。夕陽に輝く白い鎧。そして艶のある黒髪を一つに束ねた背の高い男性…いや、男装の麗人が此方へ走ってくる。

コリンと相方は、照れてにやけた顔を締め、即座に敬礼する。忘れもしないその姿は、入隊式で見惚れた姿。

国民から、特に女性から絶大な人気を集めている…


「アザレア・レイスピア隊長!!」


「コリン隊員!スキッド隊員!貴殿らがこの可愛くて可憐で天使な幼女を見つけたのか!でかした!礼を言う!」


隊長をこんなにも間近で見る事は初めてだった。しかし、二人は別の事に感動していた。

まさか最近入ったばかりの隊員の名前を覚えてくれているとは!その感動が大きすぎて、隊長の言葉の違和感には気付いていない。


「は!路地裏で迷子を発見し、母親へ渡しました。報告は以上です!」

「巡回ご苦労。貴殿らの真面目な勤務のお陰で、一人の愛らしい子が守られた。この事は貴殿らの上司に報告致そう。」


敬礼する二人の肩を叩き、尊敬する隊長は抱き合う女性と幼女へ歩を進める。

美女と美幼女と男装の麗人。この世のモノとは思えない美しい光景に周囲の人々の目が奪われる。


「テレサ、あーちゃんは心配したぞ。花屋の店主が白鷹の駐在に駆け込んで、お前が迷子になったと…情報が私の執務室まで入ったときは心臓が止まるかと…もう、買い物の時はカレンの手を離してはいけないぞ。あーちゃんと約束してくれ」


「あーちゃん…ごめしゃい…テレシャ、おやくそくする…もうこわいこわいは、いやよ。」


「テレサ…」


幼女が腕を伸ばし、母親から離れて隊長の腕の中へ潜る。

引き締まった隊長の顔がふにゃりと崩れた時、またしても周囲の人々からどよめきが起こった。少しばかりの女性の悲鳴が聞こえ、敬礼姿を解いた新米二人が、自分らの隊長と母娘を庇うよう前に出る。


隊員の姿を見た隊長は、涙の跡が残る幼女の頬にキスをしてから、母の元へ幼女を戻し、更に二人の隊員を守るよう前に出る。


そして、人垣が避けたその先には…



「パァパ!!!!」




黒いゴリラが居た。




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