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サンライト日記 ~呪いのアイテムに愛された異世界道具屋~  作者: カタリ
一品目 因果応報の指輪
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不幸の都市伝説

それから数日経過した、残念ながら噂は沈静化していなかった。

それどころか宝石商の旦那が誇張された噂を訂正してくれたのは良かったのだが、誇張でない本当の話が広がってしまい、さらにはプロが鑑定した事でハクが付いてしまったのだ。

 そんな訳でここ数日、道具屋サザナミは『それ』目当ての客が増えていた。

 しかしあくまで興味があるのは噂の宝石のみ、他に用事が無いのだから儲けにも何もなりはしない。正直な所、迷惑な話である。

 そもそも買い取ったつもりの無いランドは外部に公開する気はサラサラないので、拝観料なんかを取れば儲けになりそうなものの、そんな事もしていない。

 さらに客でもないのに不満を言う連中にコーヒーをサービスしたりしていた。

実質赤字である。

ランチタイムに店に来たリリィには「金も落さない連中にそこまでしなくても・・」と呆れられているくらいだ。

まあ、そんな中でしっかり金を払ってコーヒーを飲みに来てくれる辺り、彼女もなんだかんだお人よしである。

そんな昼下がり、リリィがコーヒーのお代わりをオーダーした時、サザナミの店前に一台の馬車が止まった。機動力と言う物を極限まで無視し、見た目を高そうに見せる為だけにゴテゴテにした悪趣味な馬車である。

要所要所の花や鳥や女神などの彫刻は精密であるのだが、コレでもかと彫りまくったせいか統一感がまるで無く、さらに散りばめた金銀宝石で全てを台無しにしている。

「うわあ・・・あれって、領事長の・・・・・」

「・・ええ、バカ息子の『バカバシャ』ね」

文字通りバカ丸出しなこの馬車は町民からはそう呼ばれていた。

オーダーメイドで作ったそうだが、金さえ積めば何でもやるような芸術家が製作を渋ったと言う逸話があるほどである。

「確か・・あの馬車を見かけるとその日は悪い事が起きるんだっけ?」

リリィが子供たちの噂を思い出して言うとランドは首を横に振った。

「違います、アンちゃんの話では降りて来た息子と目が合えば・・・」

ランドが屋外に目をやると丁度降りて来た悪趣味が悪趣味な格好を悪趣味に・・・と見事な悪趣味ゴテゴテキラキラな男が尊大な態度で降りて来た。

そして残念な事に目が合ってしまった。

「・・・不幸になりそうね・・・」

「・・はい、とても不安定になります・・」





悪趣味なゴテゴテキラキラは店内に入るなり顔を顰めた。

「・・く、何とも貧乏臭い所であるな。私のような高貴な人間が来るには相応しくない」

「・・・だったら来なきゃいいのに・・」

 リリィはコーヒーを啜りつつ呟いた。

「いらっしゃいませ、何かお求めですか?それともコーヒー?」

 一方のランドはどんな容姿でも客は客、変わらぬ営業スマイルを向ける。

 そんなランドを男は見下した目で「ふん」と鼻息を漏らし、金の髪を掻き上げた。

「高貴な私が下級な貴様らと同じ物を口にする訳は無いであろう、無礼な・・」

 男は趣味だけでなく態度も最悪である。

「貴様がラインフォードか? よもや私を知らぬ訳ではあるまい?」

「はあ、存じてはいますけど? 領事長さん家の息子さんですよね?」

 ランドが頬を掻きつつ答えると男はギロリと睨みを利かせた。

「次期領事長ミノマイである! そこを間違えるなよ!」

 ミノマイはさらに尊大な態度を強めた。

どうも領事長の息子=バカ息子と巷で言われている事は知っているらしく、相当気にしているようだ。

こういう態度がより噂を助長しているという事は本人は気が付いていないのだが。

「まあ、そんな事はどうでも良い・・」

『お前から言い出したんだろうが!』と突っ込みたい所だが、ミノマイ自身は全く気が付いていない。自分の発言が間違っているとは欠片も考えていないのだ。

「ところで、この店に貴様ら庶民が持つには不釣合いな宝石があると聞いて、こんな所まで私がわざわざ来てやった訳だが・・」

「あ~そうですか・・」

ランドは正直内心で『またか・・』と愚痴らずにはいられなかった。

噂が出回ってからというもの、当然ながら『宝石を見せろ』という連中の内訳は半数以上がタダの興味本位で、それ以外は買取希望の富裕層だった。

そしてそういった連中に限って対応が面倒くさい。

「早く持って参れ、私の眼鏡に叶えば貴様らが一生涯手に出来ぬ金額を払ってやろう」

不遜な態度を続けるミノマイにランドは深々と頭をたれた。

「・・申し訳ございませんが、件の宝石は当店で買い取った物ではございません。故に売り物でもない為お見せする事は出来かねます・・」

ミノマイはランドの言葉に目を見開いた。

「なんだと!貴様、私のような身分高き者が、わざわざこんな貧民層の道具屋へ来てやっていると言うのに、見せないとはどういう事だ!」

どう言うもなにも理由を説明しているのに自分の意にそぐわない事は聞こえないらしい。

「先日から同様の用件をおっしゃるお客様は多いのですが、皆様同様の理由でお見せした方はございません。誠に申し訳ございませんが・・・」

ランドは極力丁寧に説明するのだが、この言葉がミノマイの安っぽい逆鱗に触れた。

「貴様!私は次期領事長であるぞ!大衆共と一緒の扱いをするとはどういう了見だ!」

勘違いも甚だしい、偉いのは父親の方であって自分ではない。

こんな連中運限って『親の七光り』扱いを嫌うくせに、いざと言うと親の意向を頼りにするのだから。

そんなバカボンは腰の無駄にキラキラしている細剣に手をかけた。

その光景を見た店内は騒然とし、カウンターのリリィはギョッとして、従者の男はミノマイを慌てて止めに入った。

「お止め下さいミノマイ様! お父上にも街中で不用意に抜くなと言われている筈です!」

ミノマイは殺気だった目で止めに入った従者をにらめ付けた。

「様、貴様まで私に楯突くつもりか! ならば貴様から先に・・・」

「当店と致しましては!」

物騒な事を言い始めるミノマイの声を潰すように、と言うより意図的に潰すつもりでランドは変わらぬ笑顔で大きな声で話した。

「ご身分の違いがございましてもお客様はお客様です。人や立場によって対応を特別上げたり下げたりなど致しておりません。それは私共商人の矜持であると考えております」

「なんだと・・貴様・・」

「用件がそれだけであれば申し訳ございませんがお引取り下さい。よろしければ現在サービスでコーヒーをお入れしておりますが?・・」

殺気立つ男の前でも変わらず笑顔で応対する道具屋店長。

その内ミノマイは舌打ちをして振り返った。

「チッ!こんな店の茶など飲めるものか・・、行くぞ!」

従者を一瞥してからミノマイは扉へ向かう。

だがランドは一度呼び止めた。

「差し出がましいようですが・・・」

「・・・・なんだ・・」

「装飾の細剣と言えど手入れはした方が良いですよ?いざって時に使えませんから・・・」

ランドは手元にあったナイフの柄の部分を指差して見せる。

「目釘が抜けかけてて振り回すとすっぽ抜けます・・」

「!!」

慌ててミノマイが自分の剣の目釘を確認すると確かに抜けかけていた。

バカボンミノマイは私物を使用人たちに触られる事を嫌う。

特に装飾品にその傾向が強いのだが、剣すら装飾品と見ていて手入れをするという考えが無かったのだ。

「ちゃんと手入れしないと道具は裏切るし、ちゃんとやる事をやれば、道具はそれなりに答えてくれるものですよ?」

ランドはカウンターに乗った食パンを一枚ナイフで切って見せた。

「やかましい! 貴様! 今日の対応は父上に報告するからな! この店がどうなるか楽しみにしているが良い!」

そんな最後まで親の威光全開な発言を残してボンボン貴族は出て行った。

付いて行く際、従者の男は申し訳なさそうに店内に一礼して行く。

「いえいえ」とランドが手を振ると薄く笑い返したのが印象的であった。

バカのお守りも大変そうだ。



*



道具屋サザナミの店長ラインフォードの行動を知るのは非常に簡単だ。

近所の誰か2~3人に聞けばだいたい把握できてしまう。

日の出前から働いて日の入りと共に店を閉める、実に健全な日常である。

基本的に店と住居が一緒になっているサザナミでランドは寝泊りしている為、サザナミから離れる事は少ないのだが、唯一長時間確実に留守にする時間帯がある。

それは『相方と酒場で飲んでいる時』だった。

本日の業務も終了して店に鍵を掛けるとランドは酒場へと向かった。

「エリィさんきてるかな~?」と呟きながら。

そんなランドの独り言を物陰から聞いている者がいた。

「・・・心配しなくても、すでに出来上がってたぜ・・ごゆっくり・・」

エリィが酒場に入る所を確認していた男は黒装束に身を包んでニタリと笑った。




数時間後、黒装束の男はあるお屋敷の部屋で無駄に豪華な椅子に座る男の目の前で膝を付いていた。座っているのはボンボン悪趣味男ミノマイである。

ミノマイはニヤニヤと下品な笑い方で手に持った宝石を眺めていた。

大きな青い宝石に周囲が赤と緑の宝石をあしらった銀縁の指輪。

ランドが預かっている例の指輪だった。

「ふん、何が『商人の矜持』だ。このような美しい物を私の目から隠している事に何の意味があると言うのだ」

笑うミノマイに黒装束の男も下非た笑いを返す。

この男はミノマイが個人的に雇った泥棒経験のあるゴロツキだった。

「簡単な仕事でした。あの男、どんな厳重な仕舞い方をしてるかと思ったら、ただ引き出しに入れてるだけでしたから、すぐに分かりましたぜ」

場合によっては家捜しも考えていたゴロツキの男はむしろ拍子抜けしていた。

「おかげで家を漁る事もなかったし、あの道具屋、今晩は気がつかねえかもしれませんぜ」

「まったく、下等な輩は物の価値も知らんな・・」

ミノマイは左手に指輪をはめて月光にかざした。

「今日からコレは私の物だ!」

所有を認めた瞬間、指輪は怪しくギラリと光った。

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