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サンライト日記 ~呪いのアイテムに愛された異世界道具屋~  作者: カタリ
一品目 因果応報の指輪
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仕事の後の楽園

道具屋サザナミの営業時間は日没まで。

日没と同時に店の後片付けを終えたランドは店の看板を『本日終了』にひっくり返した。

「さ~てと、今日はエリィさんいるかな?」

週に何回かペースでランドは町の酒場へ晩飯もかねて行く。

サザナミから徒歩でしばらく行った所、大通りに面した店の名前は『ファイヤ・ワイン』サンライトで一番大きな大衆酒場だ。

ランドが店の扉を潜ると、そこは本日も大賑わい。

地元の顔馴染みから旅人のよそ者連中まで多種多様な人々が飲み食い騒いでいた。

そんな喧騒の中、トレイに大量のジョッキを乗せた看板娘ミリンがランドを見つけた。

「ヤッホーランドさん、いらっしゃーい!」

「こんばんわ、今日も大盛況ですね」

「アハハ、商売繁盛嬉しい悲鳴ってね。ランドさんもご協力よろしくね!」

言いながら喧騒の中に埋もれようとした矢先、ミリンは思い出したように振り返った。

「あ、相方ならいつもの所にいたよ!」

相方と言われて少々顔を赤らめるランド君。

奥に進むといつもの場所、カウンターの一番奥にその相方は座っていた。

紅く長い髪を後ろで縛り、飾り気の無い白いシャツ、チラッと見えるのは作業の邪魔だからと豊満な胸をきつく縛ったサラシ、ダブダブな作業ズボンを履いてジョッキを傾けている女性、切れ長の眼の明らかに男勝りな、しかし確かな美人がランドに気が付いた。

「オーッス、ランド君今日は遅かったね」

気さくに話すこの女性はエリシエル、通称『エリィ』朝買い物に来た武器屋のリリィの実の姉である。

ランドは仕事終わりに酒場で彼女と飲む事を楽しみにしているのだ。

それはエリィも同じようで、カウンターの奥の2席は2人の特等席になっている。

暗黙で店側も席を取っておいてくれているのだ。

「色々と会計事がありまして・・というより、エリィさんの方が早いんじゃない?」

エリィは傾けたジョッキを空にして一息つく。

「ん~今日は大仕事が無かったからね~。どっちかって言ったらリリィの手伝いをしてたんだけどね・・・『お姉ちゃんがやると仕事が増える!』って追い出されちゃった」

「アハハ」と笑うエリィ。

職人の姉と経営の妹、武器屋ソードアイランドはそうして成り立っている。

金関係にシビアである妹に対して、職人一本槍な姉はどうしても経理に疎い。

今日も伝票を先月と今月の出納を一緒にしてしまって妹に激怒されたのだった。

「リリィちゃんも大変ですね・・・」

「いや~不出来な姉で申し訳ない・・」

ランドは適当に「ワインジョッキで、あと何か腹に溜まる物」と注文、エリィも便乗してもう一杯ワインを注文する。

カウンター越しにマスターの「あいよ~」と威勢の言い声が聞こえてきた。

「武器屋の売り上げの方はどうです?最近は『冒険者』と自称する旅人が増えてますから繁盛しているんじゃないですか?」

ランドの言葉にエリィはハムを一枚摘んで渋い顔を作る。

「うんにゃ、来客は確かに増えてるけど・・ド素人が多いからなぁ~」

「ん?どういう事です?」

「明らかに『合ってない』はずの武器防具を『カッコイイから』って理由だけで買おうとする輩が増えてんのよね・・」

「あ~なるほどね・・」

よろずを扱う道具屋と違って武器屋は『戦い』に特化した専門店だ。店主としては客とはいえ色々言いたい事も多いのだろう。

「形格好で剣や鎧を欲しがっても、それなりに訓練を積まないと扱えない事を『知らない』人に売るのはどうかな~って思っちゃって・・」

「・・結果売る事が出来ないと?」

エリィは弱弱しく頷いた。

単純に利益優先であるならド素人だろうが売れば良いのだ。

しかしエリィの店『ソードアイランド』はそういう売り方は絶対しない。

武器とは命がけの場面での生命線、その時に使えないでは意味が無いのだ。

そもそも知らない者は剣や鎧がどれほど重量があるのかすら分かっていない。

売り場で手に持った重量と実際の現場で振り回した時の重さの違いを理解していない者は、恐らく戦場では格好の的になってしまう。

実際新米の冒険者や傭兵が命を落す典型的なケースの一つだ。

それが分かっているからこそエリィは『こいつには扱えない』と判断した武器は絶対に売らない、経営的な事にうるさい妹リリィもその辺には文句を言わない。

結局はエリィもリリィも武器屋のプロなのだ。

だからこそ売り上げにも響いてくるのだけど・・。

「今日も坊やの戦士に売却拒否したら真っ赤になって怒っちゃってね、リリィも宥めるのが大変だったみたいだわ」

「・・その坊やは何を買おうとしてたんですか?」

エリィは「ん~?」と腕を組んで上を向いた。

サラシで抑え切れていない胸が盛り上がってランドは目のやり場に困ってしまう。

「鋼鉄製の戦斧、細腕で足元が安定していない状態でも『コレが良い』って言い張ってて、お仲間を困らせてたわ・・まったく・・」

溜息を付くエリィにランドは若干の違和感を感じた。

彼女の言い方は自分もその件に関わったような呆れた話し方である。

「・・・まさかエリィさん・・・」

ランドがジト目で見るとエリィは口元をニカッと上げて決まりが悪そうに頭を掻いた。

「あ・・・バレた?・・だって納得しないんだもの、あの坊や」

「・・・可哀相に・・」

ランドは血気盛んな新米戦士の安否を祈った。

ようするに納得しない新米戦士の『扱えない理由』をリリィが口で言っても伝わらない場合、エリィが体で教えるのだ。平たく言うと指導だ。

武器の鍛錬をするエリィはあらゆる武器の扱い方を知っている。

そのせいで彼女は並みの戦士では太刀打ちできない位に強い。

どんなに態度がでかくてもお客様、決して怪我をさせる事は無いのだが、合ってない重たい武器を使わせて自分は木の棒のみで極限まで振り回すのだ。

 「3回振り回すのが限界だったね。汗だくになって泣いてたわ、あの子」

 格下と思っていた店の店員に完膚なきまでに実力の差と自分の浅はかさを見せ付けられたのだ、その戦士の屈辱と恥辱はハンパでは無いだろう。

 「その坊やもプライドズタズタだろうね・・可哀相に・・」

 「・・そのくらいの挫折で止める位なら止めた方がいいのよ、職業戦士なんて・・」

 複雑そうだがそう言い放つエリィ。

冷たいようだがコレが彼女の優しさである事をランドは知っていた。

前述の通り武器を使う機会は敗北は直結して『死』だ。

 自分が恨まれる事で生存者が増えるのであればそれで良い。

 自分が障害となる事で強くなる事が出来て生き残れるならそれで良い。

 ランドはそんな彼女のプロとしての優しさが気に入っていた。

 話が一区切り付いた時、カウンター越しにマスターが注文の品を寄越した。

ジョッキのワインが二つに、ソーセージとベーコンをたっぷり使った特性ナポリタンを大皿に一杯盛っていた。

 「うお!マスター盛り方景気いいねぇ!」エリィの感想にマスターは笑った。

 「なーに、プロは一杯食ってプロの仕事をしてくれや。そんで毎晩うちに来てくれりゃ俺の店も繁盛するんだからよ」

 どうもカウンター越しにこちらの話を聞いていたらしい、ランドとエリィはジョッキを持ってマスターに礼を言う。

 「ほんじゃ、明日への英気のために!」

 「ついでにプロのマスターのために!」

 「「かんぱーーーい」」

 二つのジョッキは景気よく鳴り響いた。

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