落とし物?
少々短めです
「ランド君、それは落し物とは言わんでしょ?」
「あ、やっぱりそうですか?」
サンライトの駐在年数20年の中年兵士は白髪交じりの頭を抱えて溜息を付いた。
それはそうだ。
“売る”と明言されて置いていかれた品物を落し物とは言えない。
「そいつが盗品とかなら分からんではないが……」
「ええ!?」
「仮にその男が盗賊なんかだったら、むしろ高額に売りつけようとするだろ?二束三文、ましてやタダでいいなんて言うもんかい」
中年兵士は指輪を光に当てて見るとギラリと強く光った。
「・・むしろこんな宝石を何で金も取らずに手放すか、気になるがね・・」
「え?」
手袋をはめた手で光を透かして見る駐在さんの目は疑惑に彩られている。
「何かの曰くでもあるんじゃないのか?それとも相当に嫌な事が起こって、コイツはその象徴か何かだとか?」
『このおっさん、鋭い!』指輪は内心で動揺した。
しかし、文字通り中年兵士が呪い的な疑いを持っていたのだが、道具や店長ランド君は兵士の言葉を全然違う方向に受け取っていた。
「そうか・・・亡くなった奥さんの形見・・とかですかね?」
「・・・あん?」
「亡くなった故人の私物、見ていると思い出して悲しくなるから処分した・・そんな所でしょうか?」
悲しそうに言うランドを兵士のおっさんは微妙な表情で見ていた。
「私はそういう意味で言ったんじゃないんだがな・・」
「でも!だったら尚更この指輪は処分しちゃ駄目です!今は悲しみの象徴かもしれません。でも、年月が立てばそれは思い出に変わって行きます。その時、あの人は手放してしまった事を絶対に後悔します!」
既に駐在さんの言葉を聞いちゃいない。
『そう』と決め付けて眼をキラキラと輝かせて語るランド君。
「はは・・君はそう考えるか。全くお人よしだな、わが町の道具屋は・・」
兵士のおっさんは布袋に指輪は入れなおしてランドへ放って寄越した。
「だったら、そいつは君が預かるべきかな?持ち主が現れるまで・・」
「・・そうですね、本当の所有者が取りに来るまで、サザナミで預かりましょう」
ある種の使命感を漂わせてそういうランドに袋の中で呪いの指輪は口も無いのに、開いた口が塞がらない気分だった。
『なんなんだ・・コイツは・・真性のバカか?』
所有を認めず『預かる』とされた事で指輪は人生初の『停滞』を味わう事になった。