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現実的充実者爆破予告(爆ぜろリア充)

完全にサブタイトルが落ちになってます。

 神鍛冶師の称号、それは国王から王国内で最も優れた鍛冶職人に送られる名誉であり、平民にとっては立身出世の希望の象徴だ。

 なにしろ爵位ではないが王国内で確固たる注目を集め、しかも場合によっては王侯貴族ですら名工である神鍛冶師の武具を求めて頭を下げる事すらある。

 ある意味で平民が貴族などより偉くなる事の出来るチャンスなのだ。


 だからこそ神鍛冶アルゴスの元には弟子志願である若者が後を立たないのだが、その内わけが平民だけであるかと言えば、実はそうではない。

 神鍛冶の称号は爵位とは違うステータスを持つため『王侯貴族よりも高いステータスを得る』チャンスとして『神鍛冶師』を自分の勢力に取り込もうとする貴族の輩もいるのだ。


 最初のうちは多額の給金で自分のお抱えにしようと画策する者が多かったのだが、頑固一徹であるアルゴスは首を縦に振らず、それどころかそういった手合いの貴族連中を嫌って一時期『貴族様注文お断り』の事態に発展しそうになった。


 それからは『なるべくアルゴスを怒らせないよう』という暗黙の了解が貴族間で伝わっている。

 しかしなんとかして自分の勢力、もしくは『自分の家名に“神鍛冶の名”を引き入れる事は出来ないものか』と、とある男爵は考えたのだ。

 そして白羽の矢が立ったのは男爵家において跡目争いからは完全に外れたところにいた三男であった。

『何としてでもアルゴスの娘を娶り、神鍛冶の名を我が家に』

 アビゲイル男爵家三男であるジムはそんな勝手な使命をおびてアルゴスの元に『弟子』として入り込んだのだった。


 そうしてアルゴスの弟子に納まったジムではあったのだが、基本的に自分に回ってくる仕事は雑用ばかり。

 アルゴスはおろか兄弟子たちですらまともに何かを教えてはくれなかったのだ。

 更に後から入ってきたはずの連中にはある日突然『鍛冶場に入れ』と声がかかる。

 平民である者が多数を占める中、平民に置いていかれる事は貴族のジムにとっては屈辱的な日々であった。

 そんな日々の中で、駆け足で自分を追い抜いて行ったのが年端も行かぬ彼の娘であった事で彼は大いに間違った見解をしてしまう。


『そうか、神鍛冶アルゴスは身内には目をかける。つまり自分が貴族だから気に入らず、同じ出身の平民を取り立てているのか……おのれ……』


 そんな事を思って、陰からアルゴスや追い抜いて行った連中を睨む日々。

 実際のアルゴスは昔気質の職人で『技術は教えるものじゃない。盗むものだ』の考えを持っていたので、貴族出身で実家では教育は受ける物といった思考であるジムは考え方が明後日なだけだったのだが……。

 

 これで諦めるのならまだ良かったのだが、利己的なプライドをこじらせた貴族様は一味違っていた。

『身内に入る事が出来れば気に入られるし、尚且つ『神鍛冶アルゴス』の義理の息子となればアビゲイル男爵家にアルゴスの名を取り込む事が出来る。


 そんな事を考えた彼は鍛冶の修行など御座なりにあからさまにアルゴスの長女エリシエルへのアプローチを始めた。

 しかし、当然ながら男勝りで『職人気質のアルゴスの娘』エリィが鍛冶を無いがしろにする男を了承する筈も無く、むしろ求婚されていた事にも気が付いてはいなかった。


 だがジムはめげずに今度はアルゴスにエリィとの結婚を持ちかけた。

 怒りを通り越して呆れたアルゴスに一言『アイツが了承したら勝手にしろ』と。

 実際には『本人に直接振られて来い』と言われた事に気が付かないご都合主義の男は『父親の了解を得られた』と勝手に解釈、エリィ婚約者になったのだと思い込んだ。


 そんな折、神鍛冶アルゴスの姉妹は王都から少し離れた『サンライト』に店を構える事になったのだ。


 5年前にアプローチのチャンスを失ったジムは何とか接点を失うまいと毎日のように手紙をしたためてエリィへ送っていた。

 実際にはジムのたくらみが透けて見えるリリィによって暖炉の燃料にしかなっていなかったのだが……。


 王宮から神鍛冶アルゴスに『剣の修復』の依頼が舞い込んだのは数日前。

 それは片手で触れる程の短刀~片手剣の中間ほどの刀身で、尚且つ刀身には金で装飾が施されていて、中央には縦に五つの宝石が並んでいた。

 赤、黄、青、緑、紫の宝石をはめ込んだ剣は装飾品や儀礼上では良いのかも知れないが、実戦では全く役に立ちそうも無い。

 更に刀身は錆だらけで、装飾の金も5つの宝石もキズだらけで輝きも鈍い。


 ハッキリ言うとボロかったのだ。

 

 武具に関しては一貫して『実用主義』であるアルゴスはこの手の剣を扱う事が無い。

 しかしこの剣に関しては弟子たちの予想に反して依頼を受けた。

 そして一言「コイツは俺がやるべき仕事じゃねぇな……だれかエリィに持って行ってくれねえか?」と言った。


 何としても彼女との接点を作りたかったジムは“コレ幸い”とばかりにサンライトへの運搬に挙手。下心満載でサンライトへと向かった。


 しかし到着して久しぶりに会った神鍛冶アルゴスの娘は……男勝りな性格はそのままに、だが確実に王都を出る時とは違った表情をしていた。

 嫌な予感は紹介された道具屋の店長を確認した時の彼女の表情を見た時確信に変わった。


『まずい! あの男勝りが『女の顔』になってる!!』


 内心あせったジムは自分の紹介と共に牽制するつもりで言う。

 威圧し同様を誘う為に、貴族の名と婚約者という偽りのの立場を。



 突然の婚約者宣言にエリィはあっけに取られ、リリィは『何勝手な事を言っている』と怒りの表情を浮かべる。

 そして言われた本人であるランドはみるみる内に顔面を蒼白に変えて行く。


「こ、婚約者……エリィさんにそんな人が……」


 うわ言のように呟いたランドは武器屋姉妹の否定の言葉よりも早く、がバッとその場に平伏、というか土下座していた。


「も、申し訳ありません! まさかエリィさんにそんな方がいらっしゃったなんて……」


 その様は卑屈そのもの。

 その姿を見下ろしたジムは『家名を聞いて平伏した平民』と受け取り、ついぞ感じる事が少なかった貴族の優越感に浸る。

ランドが『恐れ多くも貴族の女に手を出していた』事実に恐れおののいたと。

 反対にジムに対して不快感があったリリィはランドの態度に一瞬失望を感じてしまう。

『所詮貴方も』と。


 だがこの時、一番彼の事を知っているエリィだけはこの瞬間、彼に感じた違和感の後に気が付いた。

 彼が“ごまかしなんて出来ない好青年”であり、同時に彼が今“何に対して『自称婚約者』に謝罪しようとしているのか。


「ダメ! ランド君、言うな!!」

 慌てて立ち上がったエリィに構わずランドは口を開いた。


「婚約者の方がいたとは露知らず、わたくしは彼女の“初めて”を強引に奪ってしまいました!!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・空気が止まった。


 ランドの言葉は限りなく真実である。

 ただ、曲解させるには十分すぎる一言。

 女性から初めてを強引に奪いました……など行き着く結論は『ファーストキス』ではありえない。


「な……な……初めてを……奪った……だと?」


 見る見るうちに上から見下ろしていたはずのジムの顔が青くなって赤くなる。

 同時にエリィはランドの発言に爆発、リリィは口元を思いっきり吊り上げて「流石私のお義兄ちゃん!!」と呟いた。


「ハイ! 酒宴の席での事ですが、わたくしは彼女の了承も得ずに強引にいただいてしまいました! これはわたくしが欲望のままに行動した愚行であり、決してエリィさんに非はございません! 咎は全てわたくしに……」

「ちょちょちょ! ちょっとランド君!!」

 あんまりにもあんまりなランドの暴走謝罪にエリィは慌てて止めに入るが、ランドの謝罪は止まる事が無い。


「申し訳ありません! 大切に守ってきた初めてを……。あの日は色々あったせいかエリィさんを独占したい欲望に身を任せてしまい……」

「わ、私を独占!?」

「ここで行かなくては自分の者に出来ないと隙を突いて強引に……いて!」


 聞き様によっては情熱的な愛の告白である。

『貴方を自分だけの者にしたい』だなど。

 たまらなくなった頭から煙を出しそうな気分でエリィは思いっきりランドの頭を叩いた。


「少し待ちなさい! 謝んなくてもいいから!!」

「し、しかし僕が貴方を強引に……」


 尚も言い募り謝罪しようとするランドにエリィは真っ赤になりながら心の底から叫んだ。


「あ~~~~も~~~~強引でもいいの! 私も初めては君にあげたかったんだから!!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・またも空気が止まった。


 この空気からいち早く立ち直ったのはリリィであった。

「流石は私のお姉ちゃん」と呟いて、この空気を利用する。

 空気を読まぬお邪魔虫を駆除する目的で。


「言うじゃないお姉ちゃん……まあ当然よね~」

 にや~っと努めて嫌らしい笑顔を浮かべてリリィは姉に語りかける。

「り、リリィ?」

「あの日以来仕事が身に付かないし、時々思い出したみたいに唇に手を当ててボンヤリしてるし、そんなにあの夜が良かったの?」

「な! なな!!」

 嘘は一つも言っていない。

 事実エリィはあの日以来仕事に身が入っていない。

 危ないから鍛冶仕事をリリィから禁止されているくらいだ。

 リリィはさらに畳み掛ける。

 唇をわななかせるジムに聞かせる意味で。


「私はあの日にお姉ちゃんがいつ帰って来たのか知らなかったけど、そんなに情熱的だったんだ……へええ~~」

 これも嘘では無い。

 臨時バイトをしていたリリィは姉が“自分よりも早く帰っていた事”をさっきまで知らなかった。

 だが傍から聞くと“あの日エリィは帰ってこなかった”と思われるワケで……。


 身を引かせようと牽制のつもりで自分で発言した言葉が全球『ピッチャー返し』で返って来たジムは精神的にボコボコの状態。

 しばらく何かを言おうとして百面相を繰り返していたのだが、おもむろに立ち上がるとサザナミから出て行った。

「この件はアルゴス殿に報告させていただく!!」という何とも情けない捨て台詞を置いて。


 しかしこの時のランドとエリィはジムどころかリリィの事も、静観していたインガの事も目に入っていなかった。

 言葉の意味を理解したランドも、そして言ってしまったエリィも真っ赤になって見つめあっていた。

 …………床に直接座ったまま。


「エリィさん……それでは……」

「ラ、ランド君……だからその……」


「……バカップルね」

「バカップルですね~」


 二人の外野は呆れたように、しかし同時に『やっとか……』という思いで溜息を付いた。

 店の中では黙っていた骸骨杖がカタカタという軽い音を鳴らしている。

 おそらく大笑いしているのだろう。

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