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 町の外れにある丘の上。

吹き抜ける風が心地良いその場所からは眼下に草原が広がっている。

 スコップ片手に一仕事終えたミノマイは、そんな絶景を見下ろして一息ついていた。


 ついこの前までは何とも思わなかったであろう景色なのに、今ではどんな衣服や宝石よりも美しく見えるのだから不思議な物である。

 ミノマイがそんな事を考えていると背後から一人近寄ってきた。


「こんな所にいましたか・・ミノマイさん・・」

「ランドさま?」

 ゆっくりした足取りでランドはミノマイに声を掛けた。


「言ってくれればお手伝いしたのに・・」

 そう言うとランドはミノマイの手前、彼が材木を組んで作った歪な十字架の前に持参した花束を置いた。

「いえ、皆様からすれば彼はただの極悪人、ブランさま達にしてみれば怨敵でしかないでしょうから・・」

 ミノマイは自嘲気味に笑う。


「・・・それでも、私にとっては初めての同僚でしたから・・」

「・・・そうですか」


 それは散々サンライトの町に、武器屋の姉妹に、そしてあらゆる人々に恐怖と憎悪を与えてきた『反逆の闇』本名カッコン伯爵の墓であった。

『生前の所業を考えれば彼の死を悼み、埋葬する者はいないだろう』そう考えたミノマイは一人で埋葬しようと思い立ったのだった。


「・・この方は、もしかしたらなっていたかもしれない・・私自身の未来です・・」

「は?」

 唐突に言うミノマイにランドは間の抜けた声を上げてしまう。

「・・貴族である事を傘に着て、領事長の父の威光にすがり、傲慢で我侭で、自分が足り無い事を人のせいにして、自分を高める事を何一つせずに他者を貶める・・。やっていた事の大小はあっても、以前の私となんら変わりはありません・・」

「・・・・・・・・」

「もしも我が家に『聖女の神衣』があったら、もしもあの時ランド様たちに出会えていなければ・・・想像すると恐ろしいです」

 草原を撫でる風がいっそう強くなって来た。


「・・だから・・このお墓は私が守るべきなのでしょう。悪しき未来の自分を葬り去る意味でも・・」

「・・・そうですね・・」

 ランドは笑顔でそう言うと、その場で踵を返した。

 それはミノマイ自身が己で考え決めた行動。

 ここで何か口を挟むのは野暮であろう。

 そう思ってランドは振り返らずにヒラヒラ手を振った


「機会があったら“今度こそ”庶民のコーヒー飲みに来て下さいね・・」

「ハハ・・・お人が悪い、ぜひ行かせて頂きますよ」


                  *


 サンライト一の大衆酒場『ファイア・ワイン』そこは本日貸切となっていた。


『反逆の闇』の撃退とエリィの救出成功を祝して宴会が催されていた。

 なんと今回の企画と出資を行ったのは人一倍鐘管理に厳しいリリィである。

 皆は恐縮して「幾らか出すよ?」と持ちかけたのだが、「ここで出し惜しみをしていては女が廃る!」と頑として聞かなかったのだ。

 少々遅れたランドが酒場の扉を潜った時には宴は既に始まっていた。


 主に参加しているのは今回協力してくれた冒険者たちと駐在の兵士諸君、兵士長のノールもジョッキを片手に高笑いで部下たちと肩を組んでいた。


「おう!店長遅かったじゃねぇか!」


 聞いた事のある野太い声が聞こえた先には、既に真っ赤になったガルスとブランの屈強戦士コンビ、二人とも上機嫌のようだ。


「お二人とも・・・既に出来上がってますね・・」

「ガハハ! ったりめえだろ店長! こんなめでたい時に飲まねぇで、いつ飲めってんだ?」

 ランドはジョッキをかっ喰らう二人に一礼する。


「お二人とも、今回はありがとうございました。お陰でエリィさんも無事でしたし・・」

 だが重ねて礼を言おうとするランドをブランが手で制して遮った。

「よせよ店長、礼だったら武器屋姉妹にも散々言われたし・・何よりお互い様だしな・・」

「ブランさん・・・」

「おかげで・・・やっと俺もあの娘の墓参りに行ける・・・サンキューな、店長」

 ブランはそう言うと手に持ったジョッキを一気に煽って叫んだ。


「さあ! 本日はタダ酒だ! 限界以上飲むぞコラ! ネーちゃん、ワインあと十杯追加だ!」

「はーーーい、ただいまーーー」

 ブランの声に忙しそうなミリンの声が返ってきた。


『本日は酒場の兄妹もてんてこ舞いだろうな・・』そんな事を考えていると、何故か給仕をしている人の中に店員ではない見慣れた顔を発見した。

「あれ? インガ君、それにリリィちゃん? なんで?」

「アタシもいるわよ~」


 ランドが疑問を投げかけると、インガの腰に下がっていた剣『惨殺の裂傷』がカチャカチャと自己主張をした。

 ランドの疑問にインガは嫌そうに、リリィは顔を膨らませた。


「なんで・・じゃねぇよ店長・・」

「未成年はお酒が飲めないから店を手伝え~って、無理やり借り出されたのよ!」

 二人とも結構エプロンが様になっているのだが、不満は不満らしい。


「未成年・・って、リリィちゃんはしょうがないけど、インガ君は実年齢僕よりも上じゃ?」

「実年齢はな! でも体は十二・三歳で固定されてるから酒は受け付けないんだよ。残念ながら・・・」

「あ~そうなの?」


 ランドが二人の愚痴を聞いていると『惨殺の裂傷』が話し出した。

「こ~ら、文句は後にしなさい、バイト代は出るんだから・・」

「「は~い・・・」」

 二人は明らかにやる気の無い声を上げた。


「あ・・そうだレッシィさん・・・・」

「・・な~に~」

「色々・・ありがとうございました・・」

 礼を言われた呪いの剣『惨殺の裂傷』はインガの脇でカチャカチャと鳴り響く。

 どうやら笑っているようだ。

「・・呪いの剣のアタシを有効活用した男は初めてだけど・・礼を言った男も初めてだわ」

 しばらくの間剣はカチャカチャ鳴っていた。

 よっぽどツボに入ったようである。



 いつもの所にいつもの女性、エリィはカウンターの一番端に座っていた。

 でもジョッキを傾けている訳でもなく、カウンターに突っ伏している。

 こんな早々に潰れるような人では無いのだが・・・はて?。

「エリィさん?どうかしたんですか?」

 心配したランドが声を掛けると、エリィは体をビクリと動かして目だけを覗かせる。


「・・・ランド君・・」

「どうかしたんですか?まさか石化の影響が何か残って・・」

「・・・違うわよ・・」

 流石にこのままではランドに無用な心配を掛けると察したエリィは頭を持ち上げた。

 ただ顔に覇気が全く無い。


「じゃあ・・・なんでそんな感じに・・」

 エリィはため息を一つ付くと白状した。


「・・・恥ずかしいのよ・・」


「え?」

 今度はそっぽを向くエリィ、どことなく顔も赤くなっている。

「・・意気揚々と妹を守るつもりで・・でも実は狙いは自分のほうで・・囚われた挙句にみんなに迷惑掛けちゃって・・」

 エリィはチラリとランドを見た。


「・・ごめんね・・ランド君、心配掛けて・・」

 弱弱しく言うその姿は、いつもの気丈さが無い。

 本来切符が良くて腕っ節にも自信のあるエリィにとって、今回の事件は命の危険以上にショックでもあったのだ。

 ランドは一息付くとそんな彼女に満面の笑顔を見せた。


「何を言っているんですか水臭い、僕らはご近所さんで、商売仲間で、飲み友じゃないですか。今更一人で晩酌なんでゴメンですよ?僕は・・」

 それはランドなりの励ましの言葉。

 そんなさりげない彼の優しさが、今のエリィには素直に嬉しかった。

「・・・ランド君・・ありがとう・・」


 その後、徐々に調子を取り戻したエリィと一緒にしばらく飲んでいたランドであったのだが、今回の事件で気になっていた事を一つ思い出した。

「・・そう言えば、何でエリィさんが狙われたんですかね? 絶対リリィちゃんの方だと思っていたのに・・」

 

「ブフ!」

 ランドの何の気ない疑問の言葉に、何故かエリィは噴出した。


「?・・・・どうかしました?」

「ん!?・・・ん~ん、何でも・・」

 エリィは口元を押さえて取り繕った。


「確か『反逆の闇』が狙っていたのは“純度の高い聖女”でしたよね・・・まさか!」


 そこまで考えたランドの脳裏にとんでもない結論が導き出された。

「リリィちゃんってば・・・まだまだ女の子だと思ってたのに・・・・まさか・・すでに・・」

「そんなワケないでしょ!!」


 向こうでウェイトレスをしていたリリィだったが、流石にその誤解は看過出来ないものらしく、俊足で突っ込みを入れた。

「純度が高いってのは言い換えれば『経験が少ない』って事でしょ、多分!」

 リリィは勢いで自らの姉を指差して言った。


「だってお姉ちゃん、キスもまだ・・・」


「りりいいいいいいいいい!」

 その情報は今度はエリィにとって看過できないものだったらしい。

 エリィは真っ赤になって妹を張った押した。


「な・・・なるほど・・だから純度が高い方・・」


 予期せずに自分の未経験をカミングアウトされてしまったエリィは再びカウンターに真っ赤になって突っ伏してしまった。

「も~~~~最悪・・・ランド君の前であの妹・・・」

「まあ、多めに見てあげましょうよエリィさん・・一番心配していたのも彼女ですし・・」

 それを言われるとエリィも弱い。

 実際無事に帰ってきた時、リリィは大泣きしてエリィに抱き付いてきた。

 いつもは気丈に振舞う彼女が、いかに姉の心配をしていたのか・・語るまでも無いだろう。


「それに・・僕だって・・あんな思いをするのは二度とゴメンですよ・・」

「・・・うん、ゴメンね・・今度からは気を付けるわ・・」


「いいえ、許しません!」


「え?」

 急にさっきと違う事を言い出すランドにエリィはあっけに取られた。

 そうするとランドは何かを決意してジョッキのワインを一気に飲み干す。


「いいですか? 今回の件でウチの店、『サザナミ』は相当な損失がありました・・・」

「はあ・・・」

「それについての追加料金を僕はまだ頂いていません!」

「はあ!? 追加料金?」

 余りに唐突なランドの請求にエリィは目を白黒させる。


「足りない分を今すぐに頂きたいのですが・・よろしいですか?」

「ええ!? ちょっと待ってよ・・手持ちでお金ないわよ・・今・・」

 非常に困った顔になるエリィ。


 そんなエリィにランドは顔を近付けた。


 本当はランドだってドキドキものだ。

 でも、やっぱり・・あんな思いはもう嫌だった。

 そして何より、コレを貰うのは自分だ。


 物凄く珍しい事に、ランドは自分勝手な結論を心の中で決める。


「頂くのは・・・貴方の“純度”の方です!・・・・」

「え?・・ええ!?・・・・んん・・・」


ランドは不意打ち気味にエリィから追加料金を徴収した。

それは彼女の・・・初めての・・・・・







ここまで読んでいただき誠にありがとうございます。

感想や意見などを頂ければ大変ありがたく思います。

一先ずここまでを一章として閉めさせていただきます。

今後の道具屋と武器屋の関係を純愛にしようかエロくしようか悩む次第です(笑)

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