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出揃う切り札

 怒号を発しながら全員が『反逆の闇』へと殺到する。

「ク!!」

 その瞬間『反逆の闇』は咄嗟に空中へと逃れてそこから溶け消える。

 ランドはそれを確認すると、すぐさま叫んだ。


 「全員プランB!」


 ランドの号令で全員が隣り合った者と二人一組、背中合わせになる。

 次の瞬間、ノールの背後に現れた『反逆の闇』は逆に驚愕した。

 ノールの背後に現れたつもりが、“ガルスの正面”に出たのだから。


「甘えんだよ!」


 ガルスの剣は袈裟状に『反逆の闇』の体を薙いだ。

「がああ!何だと!」

 これもランドの考え出した『嫌悪の空間』への対抗策だった。

 相手の嫌な場所に自動で送る。

 一見便利で敵もいないように見えるが、前述の通り戦闘時で本能的に嫌なのは死角、それも大概背後だ。

 更に『反逆の闇』は毎回一人に対して嫌な所に現れていた。

 そもそも『いられると嫌だ』と感じる場所は各々違う。

 ランドが最終的にやられたのも『エリィがやられるのが一番嫌だ』と考えてしまったからだ。

でも、だからこそ『嫌悪の空間』は特性状『一対一』でしか使用は不可能だ。

 そこまで推論が出れば対抗策は一つ。

 一人の死角を一人がカバーできれば良いのだ。

 それだけで『嫌悪の空間』は『反逆の闇』にとって便利な道具から『自分を傷つける呪いのアイテム』に成り下がってしまう。


 さらに追撃を加えるガルスの攻撃を『反逆の闇』は何とか後ろに飛んで避けた。


「やった! 通用しているぞ、これなら・・」

 駐在兵士の一人、ノールの部下が歓声を上げる。

 しかしランドは油断無く正面を見据えた。

「気を抜かないで! この人は魔道具使い、全ての手の内を晒した訳ではありません!」

「・・・その通りだな」

 ランドの言葉に同調するかのように『反逆の闇』は懐からゴーグルを取り出して今かけている眼鏡と付け替えた。石化のアイテム『石工の瞳』に。


「!! あれは石化の!」


 前回アレにやられて石像になった兵士は緊張を露わにする。

だが、何とか震える体を抑える事はできた。

 何故なら道具の特性はランドから全員に通達されていたから。

 石化のアイテム『石工の瞳』の特徴は“正面から石化の光を見た者を石に変える”事だ。

 その事さえ分かっていれば対処方法は簡単だ。つまり・・


「・・・そうだ、正面から見なければいいんだ・・」

「そこに注意すれば・・」

 そうしていると『反逆の闇』は三度目の前から姿を消す。

 ランドは全員に叫んだ。


「見ないで振り回して!」


 号令と共に全員が後方に向けて“顔も向けずに”振り回すと、石化の光があらぬ方向に向かったと同時に、兵士の持った剣が『反逆の闇』に深々と食い込んでいた。


「ゴアアアアア!」

 確かな手応え、若い兵士はその事で一瞬緩みが生じた。


「よし、これなら!」

 しかし一瞬の余裕を見せた兵士に『反逆の闇』は苦悶の表情を隠そうともせず、食い込んだ剣の刀身を握り締めた。

パキ・・氷が割れるような軽い音が聞こえる。

「図に・・・・乗るな・・・」

「あ! この!」

 慌てて兵士は剣を引き抜こうとするが、既に遅かった。

 瞬時に亀裂の数を増した剣は『反逆の闇』の手の中で粉々に砕け散った。

 引き抜こうとしていた兵士は支えを失って尻餅を着く。

『反逆の闇』はそれを見届けると、自分に埋まっていた刀身を引き抜いて投げ捨てた。


「ぎ・・・ぎ・・ぎ・・確かに呪いの武器を使えば私にダメージを与える事が出来る。少々君たち人間を甘く見ていた事を詫びておこう」

 そう言うと『反逆の闇』は何やら懐を漁り始める。

「・・私もこの場をノーリスクで切り抜けようなど・・甘い考えであった・・」

「何だ? 負け惜しみか?」


 若い兵士は緊張感無くそんな事を言うが、ランドは緊張を隠せない。

 何しろランドがさっき言った通り、相手は手の内を全て晒してはいない。

「・・・相当の間、コイツには世話になってきたのだが・・止むを得まい・・」

 心底残念そうにそう言うと『反逆の闇』は懐から小さな手鏡を取り出した。

 何の事は無い何処にでもありそうな手鏡。

 だがこの男が持っている限り“ただの鏡”である訳が無い。


「・・光栄に思いたまえ、人間たちよ・・私にコレを使わせた事を・・」


 そうすると『反逆の闇』は何故か取り出した手鏡を床へと投げ捨てた。

 当然のように、パンと軽い音を立てて手鏡は砕け散った。

 その途端、割れた鏡の破片が聖堂の内部を侵食するように四方八方へと広がっていく。


「な、何だ?いったい?」


 ブランが驚きの声を上げる間にも侵食は広がって行き、ついには聖堂内部が全て鏡のような状態へと変化した。


『鏡? これは何の魔道具だ?』

 ともすれば“美しい”とすら思える光景にランドは思案を巡らす。

『いや・・そもそも何故鏡にする必要が・・・・』


 そこまでランドが考えた時、各所の鏡にそれぞれ『反逆の闇』が映りこんでいるのが“正面から”見えた。


 その瞬間たくらみを理解したランドは慌てて目を瞑る。

「ヤバイ! みんな、目を・・・」

 ランドの叫びは一瞬遅かった。


 全面鏡張りとなった聖堂内部に照射された『石工の瞳』の光は乱反射を繰り返して、聖堂内部にいる全員を“真正面から”襲った。

 そして周囲から、またパンと鏡の割れる音が聞こえた時、周辺は元の聖堂へと戻っていた。

 ただし、ランド以外の仲間は全て石像となってしまっていた。


「く・・こんな方法が・・・」


 真正面から見据えなければ石化は防げる、その考えが甘かった事をランドは今さらながら理解した。

 鏡を利用しての全面攻撃、こんな発想は完全に想像の外である。


「・・・やはり、君は残ってしまったか・・」

 だが、こちらに大打撃を与えた『反逆の闇』は余り喜んではいない、むしろ悔しそうにすら見えた。

『そう言えば・・こんな方法があるなら、何故今まで使わなかったんだろう?』

 その疑問は『反逆の闇』が掛けていたゴーグル『石工の瞳』にあった。

 いや、最早それはゴーグルにも見えない。

“石で出来たゴーグルの形をした何か”をゴーグルとは言わないからだ。

 『反逆の闇』は忌々しそうにそれを外し、投げ捨てた。

 それだけで『石工の瞳』はバラバラに砕け散る。


「・・さっきの鏡は『視覚迷宮』と言って、本来は逃走用に敵を撹乱する為の道具だ・・だがご覧の通り、『石工の瞳』と併用すれば広域、多人数に対して使用できる」

「・・・そのようですね・・」

「だがこの方法は諸刃の剣でね、『石工の瞳』の光を『石工の瞳』自体が正面から見てしまって・・自らを石化してしまうのだ・・」

「・・なるほど」


 ランドは『反逆の闇』がこの方法を嫌がっていたのか理解した。

 つまりこの方法は彼にとっての奥の手だ。

 使った瞬間、石化の能力を失ってしまうのだから。


「だが・・・な!」

『反逆の闇』は右手の『蟲毒爪』を構えてニタリと笑った。

「例え・・貴様が呪いの剣を使おうと・・所詮は人間。私はどんなに攻撃を食らったところで死ぬ事はない! 痛いけどな・・・」


 そう、そこが一番の難点であった。


 神の如き力を与える『聖女の神衣』、与える能力で最も厄介なのは強い力でも不老不死でもない、“驚異的な回復力”だった。

 事実、何度か切りつけたはずの場所は闇色の何かが覗いてはいるものの、血の一滴も出てはいない、しかも徐々に塞がって来ているのだ。

「どの道勝負あったようだな・・」

 再び余裕の笑みを取り戻して『反逆の闇』は含み笑った。

 だが余裕の笑みを浮かべる『反逆の闇』をランドは痛ましい者を見るように見ていた。


「哀れ・・ですね・・」

「なに?」

『反逆の闇』は意味が分からず、笑いを納めた。

「ミノマイさんの情報が確かなら、貴方は元々は人間だったはずです。その服を着ているせいで神にでもなったつもりのようですが・・」

「・・・・」

 ランドは初見の時から『反逆の闇』にある違和感を感じいていた。

「以前の戦いの時にも思いましたが・・貴方は武術が使えない事、道具を使って強者となった事を妙に自慢げに話していましたよね・・」

「・・・それが何だと言うのだ・・」

 徐々に苛立つ『反逆の闇』を正面から見据えて、ランドはハッキリと言った。


「貴方は道具を使っていません、道具に使われているんです・・」


「!!」

『反逆の闇』はランドの言葉に衝撃を受けた。

 それは自分が最も嫌っていた一族の、最も嫌っていた人物に対して、幼少の頃から毎日のように思っていた事だ。

 目の前の自分とつながりも無い男が言ったのだ。


『お前は嫌った姉と何の変わりも無い』と。


 ランドは手に持っていた二つの剣を鞘に収めて地面に置く。

『惨殺の裂傷』は少々不満げに「な~に?アタシは用済み?」などと言う。

「貴方の出番はもう少し後ですから・・」

 そう言ってランドは予め用意していた手甲を片手だけに嵌めた。

 赤銅色のそれは鎧の手の部分なのだが・・。


「前の店長、つまり私の元上司に当たる人が言っていました。“道具は所詮道具・・使う者によっては便利にも不便にも、正義にも悪にもなる。ようは使い方次第だ”と」

「・・・・だから何だ・・」

「例え聖なる物でも使い方次第で悪になる。でも呪いの武具でも正義にも生り得る! そういう事ですよ!」

 ランドは気合と共に手甲を前に突き出して叫んだ。


「今からそれを・・僕が証明しましょう! ダイエット・・・開始!」

「ハア?」

 この場にそぐわないランドの言葉。

 しかし次の瞬間何処からともなく褐色の金属製の何かがバラバラに飛んできた。

「なんだ?いったい・・・」

 バラバラに飛んでくる金属はそれぞれランドの体へとまとわり付いて行く。


 腕に、胸に、肩に、腰に、足に。

 最後に頭部をフルフェイスの兜が装着された時、そこには赤銅色の鎧を装着したランドが佇んでいた。


 それは以前ランド自身がエリィに売却した『強制ダイエットの鎧』、制作会社を潰したと言われる曰く付きの一品だ。


 使用法は簡単、どれでも良いから鎧の一部分を装着して“ダイエット開始”と言うだけだ。

 それだけで本人の理想体重になるまで絶対外れる事はない。「うぐ!」


 オマケに動き辛いばかりか『ウエイトトレーニングの呪い』も掛かっていて、装着した物が苦痛となる重量に変化する。

 つまりは誰が着ても、例え体力に自信のある道具屋店長が着ても重いのだ。

 重圧に耐えるランドのその姿に『反逆の闇』は失笑を隠せなかった。


「ククク・・何だ貴様、まさかその程度の鎧で私の攻撃を防げるとでも思っているのか?」

『蟲毒爪』をチキチキと鳴らして小ばかにする。

 だがランドの答えは『反逆の闇』の予想を覆した。


「防御のつもりはありません・・」

「ん?」

「僕は元々剣術とかの兵器術は不得意なんですよ・・だ・か・ら!」

 言葉を切ってランドは一息で踏み込んだ。


 『反逆の闇』の懐へと。


 「こう、使うんです!」

 ランドの右拳は『反逆の闇』の腹に深々と突き刺さった。


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