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反撃の呪い

「くそ!」

『反逆の闇』は腹いせにミノマイへ一撃加えたい所ではあったが、“そんな暇”などビタイチ無かった。

 爆発音と同時くらいにランドたちは教会になだれ込んだ。


 ランドは真っ先にミノマイに歩み寄って安否の確認をする。

「ミノマイさん、大丈夫ですか!」

 ミノマイは肩に付けられた傷を抑えながらニッと笑って見せる。


「フフフ、なーに大丈夫ですよ。さすがはサザナミ特製の毒消し、よく効きますね」

 ミノマイのその言葉だけで今この場で彼の身に危険が及んでいた事は察することが出来る。

 ランドはすまなそうに頭を下げた。


「・・すみません、こんな危険な目に遭わせてしまって・・」

 しかしミノマイは笑いながらランドの台詞を手で遮った。

「何をおっしゃる、貴方は私を助けてくれたばかりか償いの機会まで与えてくれたんですよ?これほどの喜びがありますか・・」


 男子三日会わば活目して見よ。

 人間変われば変わるものである。

 数ヶ月でこれほど人格が変わってしまう人も珍しい。


『後で彼には一杯驕ろう』ランドは胸に硬く誓うと、2百年以上も何一つ変わらなかった者に向かい合った。

『反逆の闇』は踏み込まれた瞬間は驚いたようだが、徐々に落ち着きを取り戻したようで、何処までも人を馬鹿にする嘲笑が顔に張り付いていた。


「・・・ミノマイさん、彼が『反逆の闇』で間違いないですね?」

「はい、幻術で教会内部の人間の記憶を操って潜伏していたんです!」

「癇癪玉って事は?」

「はい! ランド様の予想通りです!」

「要因は?」

「聖女の血を吸い赤くなった『聖女の神衣』!」

 端的な言葉のやり取り、それだけで重要な情報のやり取りは済んだ。


「オーケー、ミノマイさん、ありがとう! 後は安全圏まで下がってください!」

 自分の仕事はここまで、後はランドたちの役割である。


 さすがにそこに自分が入る事は足手まといになる事をミノマイは十分に理解していた。


「分かりました。皆さん、ご武運を!」

 ミノマイはそう言い残して戦線を離脱、教会から駆け出して行った。


 ランドはミノマイが教会から出て行ったのを確認すると、腰の剣を抜いて構えた。


「皆さん、プランA開始です!」


 ランドの号令で教会に殺到した戦士たちは全員各々の武器を手に取り構えた。


 その中には毒傷で衰弱した体力がまだ戻りきらないノールを含めた駐在兵士たち、そして冒険者のブランやガルスを含めた戦士たちの合計8人であった。

 その状況に『反逆の闇』から失笑が漏れた。


「プクク・・何だ何だ? この前の戦いで半数以上も動けなくなったのか? それとも戦意を喪失して戦う事を放棄したのかな?」


『反逆の闇』が楽しげに戦士たちを見回すと、そこには今回で三回目となるブランが睨みを聞かせている。


「君も懲りないねぇ。心が折れない馬鹿なのか、実力差も分からない程の馬鹿なのか?」

 その瞬間『反逆の闇』は目の前から消える。


 そして何の前置きも無しにブランの背後に“いた”。


 だけど『反逆の闇』が消えたその瞬間、8人全員が同じ行動を取った。


 「!!何だと」

 全員が背後を見ずに後方に武器を振り回したのだ。

 そして当然その中の一人、ブランの武器が『反逆の闇』の脇腹に突き刺さった。


「ごぶ!」


 勢いのまま『反逆の闇』は吹っ飛んで轟音と共にベンチへと激突した。


「やった! 当たったぞ!」

 ブランは初めての“しっかりした手ごたえ”に感動すら覚えていた。


 プランAの概要は単純だ。


 同士討ちにならないように相手を円陣で囲って『反逆の闇』が『嫌悪の空間』を使ったと同時に背後に武器を振り回す、それだけだ。


 戦闘においていて欲しくない場所、本能的にそれは死角だ。

 何処の誰の死角に来るか分からないのなら、何処の誰に来ても良いように攻撃したのだった。

 それがたまたまブランの背後だっただけの事。


 『反逆の闇』はベンチの瓦礫の山から這い出す。

 だが表情は驚愕に彩られていた。

彼には信じられない現象だったのだ。

 攻撃が読まれた事ではない、攻撃が“当てられた”事が。


「な・・・何故だ! 何故私に攻撃が!」

『反逆の闇』が改めてブランの獲物を注目すると、それは剣ではなかった。


「ケケケケケ、なかなかやるじゃねぇの旦那。やはり俺と世界征服しようぜ!」


 ブランが持っていたのは一本の木製の杖、その杖の柄に付いた骸骨の飾りがカタカタ音を鳴らして喋っている。

 そんな物、普通の武器ではあり得ない光景だ。

 ブランはそんな骸骨の杖にむしろ楽しそうに返した。


「ああ、その内な!」

「まさか・・呪いの・・武器?」


 一般に呪いの装備は使用者に不幸をもたらす為、装備自体が危うい代物だ。

 本来好んで使うべきではない。

 だがこの時『反逆の闇』は初めて気が付いた。

 全員が護符の付いた呪い避けの皮手袋を嵌めた上で武器を手に持っている事に。


「・・考え方が間違っていたんです」


 ランドは言いながら金ぴかの趣味の悪い剣を『反逆の闇』に突き付けた。

「そ・・それは・・あの夜・・私を傷つけた・・・」

 それはミノマイの恥の象徴、良さそうな装飾をゴテゴテくっ付けた“あの剣”だった。

「・・この剣だけが唯一ダメージを与えられた。最初の内僕らは『金が聖剣として上等なのか?』なんて勘違いしてました・・・でも・・」

 ランドは今度は背中に背負っていたロングソードを引き抜く。


 それは紫色の刀身が輝く一振りの剣。


「その間違いを、この剣が教えてくれました。この『惨殺の裂傷』が・・」

 ランドがそう言うと、紫の剣は不満げに言った。

「だからぁ、レッシィって呼んでってばぁ~」

「あ・・すみません」

 オネエ系の喋る剣にとっては重要な事らしい。


「火は水で、水は火で消える。ならば『聖なる力が効かない者は何者で何なら対抗できるのか?』答えは、聖剣の反対の武器を用意すれば良い」


『反逆の闇』が見渡すと、全員が全員手に持っている武器はとても常人が使いたがるとは思えないような禍々しい武器ばかりだ。

 やたらと突き出た鋲が多い剣だと思えば、それは牙の集まりだったり。

 戦斧だと思って見れば、何やら実用性は無いほど何かで肥大化した穂先の槍だったり。

 顔が書いてある大槌と思えば、本当に顔がある大槌が涎を垂らして睨んでいたり。

 状況だけ切り取ればどちらが魔物か分かった物ではない。


「このミノマイさんの剣はミノマイさんの後悔によって軽く呪いの武器になっていた。それが通じたなら簡単です。呪いの武器で対抗すれば良いだけです」

 そこまで言うとランドは剣の柄で気恥ずかしそうに頭を掻いた。

「・・・幸いな事にちょっと事情がありまして・・最近ウチの店には呪いの武器が溢れかえっていましたからね・・」

他人にとっては馬鹿馬鹿しい諸事情はココでは伏せておく。


 だがこの説明はついぞ二百年以上もの間、他人に与えはしても与えられる事のなかった感覚を『反逆の闇』にジワジワと蘇らせた。

 最後に与えられたのは強者と呼ばれ、一番最初に『聖女の神衣』の生贄とした姉が最後。


 いわゆる『恐怖』を。


 自分をジリジリと囲む8人の全てが自分を傷付けることが出来る。

 それだけの事で『反逆の闇』は冷や汗が止まらなくなった。

 ランドは裂ぱくの気合と共に叫んだ。


「さあ!大切な人を返して頂きます!」

「「「「「オオオオオオオ」」」」」

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