復讐者の密約
サンライトには数件の宿屋が存在している。
そんな中で安宿と言うほど安くも無く、高級と言えるほど高くも無い、そんな中くらいの料金の宿の二階、戦士ブランはそこの窓から町を見下ろしていた。
道行く人々の中に駐在の兵士や冒険者たちが片目にモノクルのような物を付けて歩き回っている姿が見えた。
何かを探しているだろう事は分かるのだが・・・。
しかし現在の彼にはどうでも良い事に思える。
「2回・・・か・・・」
ブランは覇気の無い表情で思い出していた。
前回の失敗を、そして守る事のできなかった10歳の少女を。
あの日、その子は状況をよく理解していなかったようで、防衛の為に集まったブランたちの事を『パーティに来たお客さんだ』と思っていた。
『ご両親も下手に娘に恐怖を与えないように否定せず努めて笑っていたな・・』
鮮明に思い出されるのは笑顔だった少女の顔、そして血に染まって動かなくなった少女の顔、愛娘にすがり付く両親の嘆きは見ていられないものだった。
「くそ!」
半分以上無くなった自らの剣を床に叩き付る。
石畳に跳ね返ってガランと軽い音を立てた。
そうして再び窓の目を向けたその時、部屋の扉からノックが聞こえた。
「ガルスさんか?悪いけど・・・俺は・・」
「俺は役に立たない・・・かな?」
聞こえてきた声はブランにとって予想しない声。
振り返ると扉から入ってきたのは、やはりブランにとって馴染みのない人物であった。
少年と言っても良いくらいの男の子がそこに立っていた。
「アンタは・・・」
「何回か会って入るんだけど・・印象無いかな?道具屋サザナミでバイトやってるインガって言います」
礼儀正しく頭を下げた少年にランドは興味は無く、視線を外した。
「・・そうか、そのバイトが俺に何か用か?」
言いながらもブランは大体の予想は付いている。
そして予想していた通りの事をインガは言った。
「・・前回の戦闘で動ける人員は少ない、この前より半分以上減っています。使える戦力の補充が出来れば・・・と思いまして・・」
「ハ・・・」
ランドは自嘲気味に鼻で笑う。
「だったら来る場所を間違えているぜ坊や、ここには『使える戦力』なんて一切無い。二回も依頼主を守れなかった使えない男しかな・・・」
ブランが落ち込むのも無理は無かった。
二度の失敗、さらには聖剣すら通用しない化け物、最早ブランは戦士を辞めようかと思うほどに打ちのめされていた。
「・・どうしたって俺の攻撃は奴には通じない、真っ先に石化されたしな・・」
「・・ウチの店長、ラインフォードが『対抗策』を見出したとしてもですかね?」
「・・対抗策だと?」
少し興味を持ったブランはインガから対抗策の詳細を聞く。
だがブランは対抗策に関心はするものの、聞いた後で再び力なく部屋の椅子に座り込んだ。
「そうか・・・流石だな、あの店長。確かにそれだったら対抗できるかもしれない・・」
「そうです、ですから!」
「だが・・それなら俺は必要ないだろう、店長たちだけで十分だろ?」
「・・・・・・」
「俺はなす術も無く石にされちまったんだ、戦力的に足手まといにしかならないだろ・・」
「でも! 店長があの時対応できたのは石化があるって分かっていたからで・・」
インガはフォローしようとするがブランは手を振って否定する。
「・・急だろうと知らなかったんであろうと、対応できなかったのは事実で結果だ。・・悪いが力にはなれんよ・・」
ブランはすっかり自信を失っていた。
そんなブランにインガは叱咤も激励もしない、ただ事実を淡々と伝える。
「・・現状戦力で店長はエリィさんを助ける事はできない・・」
「・・・なんだ? いったい・・」
ブランはインガの急なネガティブ発言に反応してしまう。
「ウチの店長、お人好しがすぎるんだよ。例え犯罪者であっても『恨みの無い者』を殺す事は無いだろうな・・」
「!!ちょっと待て、それは・・」
「・・・・そうだ、アンタなら分かっているはずだ。あんなの生かして置いてはいけないって事がな・・」
聞き様ではやたらと物騒なのにブランはインガの物言いに神妙に頷いた。
「勿論だ・・機会があるなら確実に殺らないと・・あれは改心が出来る『人間』じゃねえ・・」
「店長だって相応の恨みを抱けば可能かもしれない。けどそれは・・」
「・・最愛の者を失った時・・だろうな・・」
一瞬でブランの脳裏に胸を貫かれて血の海に横たわるあの日の少女の姿が、エリィの姿になって浮かび上がった。
「・・・それが出来るのは『あの外道を心底殺したい』と思っている輩だけでしょう?」
「・・・・・・・」
インガの状況説明、それはブランにとって非常に暗い激情を燃え上がらせるには十分なものだった。
『確かにその役目は自分しか出来ない・・いや建前だな・・・・』
怨敵を殺す。確実にだ……。
その目になったブランは今度は力強く立ち上がった。
もう窓の外など見もしない。
「一つ教えてくれるか?」
「何でしょう?」
「君は何故、その事を知っている? 奴を殺せる感情って奴を・・」
そこまでブランが聞くと、インガは今までの笑い顔を潜めて目を見開く。
それはブランと同質の暗い復讐の目であった。
「奴は・・両親の仇ですから・・」
「両親?」
そこまで言うとインガは眩い光と共に全身の形状を変えていく。
驚くブランの目の前で少年は本来の指輪の姿になった。
指輪は宙に浮いた上体のまま話す。
『俺はある村の男から贈られた婚約指輪だった。でも二百年前のある日、ある者によって相手の女の命は奪われた・・・』
「ある者・・? ってまさか奴が?」
『お察しの通り、奴は二百年も前から何らかの魔道具を使って存在している。俺は奴に報いを受けさせる為にその男女の怨念が作り出した呪いのアイテム……皮肉な事に奴に出会った時、ようやく思い出せました』
「・・そうか・・それで『両親の仇』か・・」
ブランは納得した。
確かにそれなら知っているはずだ、その激しい激情を・・。
『店長、ラインフォードは良い奴だ。でも彼にはやらせる訳には行かない・・』
「確かにな・・それは俺たち『失った者』の役目だな・・今度こそ失わせない為に!」
「「俺達が確実に殺す!!」」




