築き上げる信頼
ノールたち捜索班の努力は程なくして実を結んだ。
追尾光粉で付けられた足跡は『ある建物』の前で途絶えていた。
恐らくそこが敵の根城であるのはうかがい知れる。
だがその場所を捜索するには問題があった。
当然だが駐在兵士のノールにはある程度の捜査の権限は与えられている。
しかしあくまで『ある程度』であり『全ての』ではない。
例外とされている場所は本国からの捜査令状が発行されない限り踏み入る事が出来ない。
例えば領事館などの国王から位を与えられた貴族連中の自宅や別邸。
兵団の上層部がその辺りと繋がっていて、意図的な『お目こぼし』があったなどの逸話は珍しくも無い。
数ヶ月前に自らの息子を糾弾した領事長は珍しい部類に当たる。
そんな『身分』での特例は珍しくも無いのだが、今回疑惑が上がった場所はそれに付け加えて『信仰』という厄介なプラスがあった。
国王から特別な『身分』を与えられ、尚且つ『信仰』の象徴・・・そこは教会だった。
この町に一つだけある教会はいわゆる『国営』であり、神に使える神聖な職として必然的にあらゆる事柄への免除がなされている。
その為、以前は『国営』の教会は犯罪の温床であったとも言われている。
別の町の話だが、長年同じ場所に赴任していた神父が町の犯罪組織と郊外で活動する山賊の総括を勤めて荒稼ぎをしていたなどの事例もある。
その事で現在『国営』の教会は約半年程で神父赴任の交代制を設けている。
長年その土地に居つく事での犯罪を抑止しようとの試みなのだが、こちらもこちらで長所短所は多々上がっているのが現状だった。
最大の問題は神父がその土地に馴染んだ人間では無い事。
つまり町の人々にとっては毎回のように『余所者』が赴任してくるのだ。
現在のサンライトの老神父も赴任してきたのは最近である。
そう・・・彼は『余所者』なのだ。
捜索には正式な手続きが必須である。
だがそんな事をしている時間的な余裕など無い、満月までは後三日なのだ。
そもそも手続きをしている事が見つかった時点で『反逆の闇』は行動を起こすだろう。
捕らえられたエリィの身が危険だ。
時間も無い、見つかってはいけない、そんな事情から白羽の矢が当たった人物がいた。
現状何の制約も無く教会内部を自由に行動でき、尚且つ事件現場にたまたまいた事で確実に犯人ではないと断言できる人物。
「わ・・私に教会内部を捜索しろと!?」
白羽の矢を当てられた人物はミノマイの顔で驚愕していた。
「そうですミノマイさん、今の所あなた以外に頼める人はいません!」
力強くそう言ってランドは深々と頭を下げる。
そんな彼の行動がミノマイは信じられなかった。
何しろ自分は数ヶ月前、彼に対して極刑を申請した極悪人だ、そんな人物に対して頭を下げてお願いするなど狂気の沙汰だ。
「・・・ランド様・・私は・・数ヶ月前に貴方を八つ当たりで犯罪者に仕立てようとした極悪人 ですよ? 何故そんな者を信用して頭を下げるのですか・・」
それは単なる疑問、改心したミノマイは最近自分の存在意義に付いて悩んでいたのだ。
『自分が許されてはいけない存在』『信用してはいけない存在』と決め付けてしまっていたのだ。
悪人が改心するのは悪い事ではない。
しかしそれは同時に『過去の自分に対する否定』、ミノマイは誰よりも何よりも『自分』を信じていなかった
「・・・私は貴方にとって害悪でしかないはずです・・何ゆえそんな者を信じるのですか?」
自らを信じられないミノマイは暗に言っていたのだ、『自分何かを信じるな』と。
しかしランドの答えはミノマイの予想していない言葉だった。
「・・・エリィさんは貴方の剣を受け取りました」
「え?」
急に脈絡の無い事を言われてミノマイは言葉に詰まる。
そんな彼にランドはいつもの笑顔でミノマイの視線をまっすぐに受けて話を続ける。
「僕たち道具屋もエリィさんのような武器屋も人柄をその方の道具で判断します、特にエリィさんは頑固ですからね~」
「人柄・・・ですか?」
ランドは以前ミノマイが所持していた金ぴかの趣味の悪い剣を目で示した。
「それが原因で時々お客と喧嘩になってリリィちゃんに叱られている事もありますけど、エリィさんは気に入らない使い方をしている人から武器を預かる事はしません、絶対に」
「え?でもそれなら何故・・」
ミノマイの剣はあの日エリィに託されている、受け取られているのだ。
ランドは金ぴかの剣を持ち上げて柄の部分を指差した。
「・・処分依頼に持って来た剣、本来ならもう使う事のない道具です。でもこの剣はつたない修繕ですけど目釘を直して細部まで磨かれています」
「・・・それは・・・」
ミノマイはそんな部分を指摘するランドに驚くと同時に少々恥ずかしくなった俯いた。
「・・この剣は私などに関わった為にこんな姿になってしまいました・・。せめて生まれ変わるにしても私が最後にするべき事だと・・・」
ランドは剣をそっと目の前に置いた。
「エリィさんが、彼女が信じた人です。僕は信じますよ?貴方の事を・・」
「・・・ランド様・・・」
気が付いた時、ミノマイは決意の目と共に涙を流していた。
次の日の昼頃、ミノマイは教会内部の捜索を始めていた。
幸いな事に本日は老神父は本国への手紙を申請するために町の郵便所へ出かけている。
10人からなる修道女たちも買出しと称したウインドウショッピングに出かけているのだ。
神に仕える身としては問題のある行動ではあるのだが、『最低限の節度』さえ守っていればうるさくは言わない暗黙の了解がここは敷かれていた。
彼女たちもその辺は了解しているし確実に守っている。
何故ならその『最低限度の節度』を破ると現在の暗黙の了解が反故にされてしまうから。
反対に『最高の節度』を守らせようとする教会では脱走や不義密通などといった教会では厳禁とされる行為に及ぶ者が後を絶たないのだとか。
適度なガス抜きは必要という分かりやすい例である。
変な話だがそのおかげかサンライトの教会は本国でも実は一番『節度ある修道女』だと評判なんだそうだ。
そんな訳で今教会内部は殆どフリー、ミノマイが捜索するには絶好の日和だ。
でも実は捜索範囲はそんなに大きくない。
教会の敷地内部は自分たちが寝泊りする寮と聖堂、さらには台所と塀に囲まれた庭、主立って言えばその四区画に分かれている。
教会内部のどこかに隠れている可能性もあるのだが、そもそも隠れるだけのスペースが少ない。
だが満月の夜まで猶予があるのなら最低でも『石化したエリィ』を隠しておく必要がある。
人型の石像を隠しておける場所などそう多くはないのだ。
実を言うとミノマイも疑う場所は一つしかなかった。
誰もいない事を確認してから素早くその部屋の前に移動する。
そこは常に鍵が掛かっていて、掃除の時でも『絶対に入ってはいけない』と厳命されている、ミノマイが教会に来る少し前に赴任した老神父の部屋のだった。
正直な所、ミノマイも罪悪感は否めない。
思い悩むミノマイは何度と無くその老神父に相談に乗ってもらっていた。
でも現実的に考えて『最近この町に来て、教会の関係者、尚且つ教会内に自分だけの部屋を持っている』なんて一人しかいないのだから・・。
ミノマイは朝のうちに老神父からくすねておいた鍵で扉を開ける。
本日彼は鍵の『窃盗』と『不法侵入』の二つ犯罪を犯している。
その事にミノマイ自身も自覚はあった。
彼は本日二度目の祈りを捧げる。
「神よ、私を許さなく良い、彼らを助けて下さい・・」




