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道具の小賢しい使い方

 ランドの答えに始めて『反逆の闇』は口元の笑みを消し無表情になった。

 そして胸元から紫に輝くペンダントを出してみせる。


「・・魅了についてはコレ『糸繰りの泉』だ。予防策を講じた君らには効果無かったがね」

 そこまで言うと『反逆の闇』はフード付きのマントを剥ぎ取った。


 その姿は知らない者が見たら一見滑稽にも見える。

 しかし知っているランドにとっては全く笑えない姿であった。


 鍔付きの帽子を目深に被り、眼鏡と言うよりもゴーグルと形容したほうが良さそうな物を掛けている。

 更には全身いたる所にイヤリング、ネックレス、ベルトにブレスレット、アンクルとおよそこの世で装飾品と呼べる全てを身に付けたような格好である。

 オマケに服装も見た目や実用性を考えてもいない色と形容、ただ妙に赤色が多いのが目に付いた。ある意味数ヶ月前のミノマイと良い勝負である。

「・・石工の瞳、蟲毒爪、飛行の足・・そしてあれは・・『嫌悪の空間』!」

「・・何なのだ、それは?」

 ランドの驚愕の呟きの意味が分からずノールは思わず聞き返した。

「・・『嫌悪の空間』、その名の通り対峙した人物にとって一番いて欲しくない場所に存在する事が出来る魔道具、昔前店長が処分したのを見た事があります・・」

「なに!?ではさっきから奴がいつの間にか背後にいたのは!?」

「・・あの道具のせいです・・」

「!!どれだ!? その『嫌悪の空間』は?」

ノールは名前だけで判断の付かない道具を確認しようとする。しかし・・


「それはね・・・」

「な!!・・・」

 声はノールの足元でした。

 確かにそこは鎧の隙間を狙える絶好の位置、すなわち“最もいて欲しくない所。

 気が付いた時には既にノールの右足に激痛が走っていた。


 「ほうら・・君の足に“今突き立っている”爪がある右腕のこの腕輪、これが君が今とっても知りたがっている『嫌悪の空間』だよ~」


 慌ててノールが足元を振り払うと既にそこにはいない、代わりに耐え難いほどの激痛が刺された傷口からドンドン広がってきた。

 毒が回ってきたのだ。

 「ガアアアアア!」

 「ノールさん!」

 「ダメだねぇ~兵士さんが一般人よりも早くやられちゃうようでは・・ねえ?」

 足を押さえ脂汗を流して憎悪の瞳を向けるノール、しかし『反逆の闇』は嬉しそうに笑う。

 ランドはその間に禿頭の戦士に近付く。

「・・お客さん・・そこの戦士の・・・」

「・・何だ店長!?」

「・・今さらですけど、お名前は?」

 本当に今さらだなと思いつつ、禿頭の戦士はランドに名乗った。

「・・・ガルスだが・・」

 戦士の名を聞くとランドは一つ頷いてガルスに一つの鍵を投げ渡した。

「ガルスさんコレを・・」

「この鍵は?」

「ウチの店の鍵です、何とか僕は時間を稼ぎますので、店から毒消しや石化解除の『石砕きのノミ』をありったけ持って来て下さい」

「店に?」


 ガルスはハス向かいにある現在店内が真っ暗の『サザナミ』を眺めてランドが何を言いたいのかを大体理解していた。

「・・しかし一人で大丈夫なのか?時間稼ぎでよければ俺も・・」

 一般人を戦わせて後方に回ることに戦士として引け目を感じるガルス、しかしランドは首を振って否定した。

「決め手が分からない現状で時間稼ぎが出来るのは武器を使わない僕しかいません」

「・・・・」

 この言葉が何を意味するのかはランドも分かっている。


 あえて悪い言い方をすれば歴戦の戦士に向かって『足手まとい』と言ったも同然だ。

 だがガルスとて経験豊富な歴戦の戦士だ。

 自らの戦力である『武器』が役に立たない今、自分が今『そう』である事の自己分析はできている。

 彼はナリこそゴツくて強面だがガルスは仲間をまとめるリーダー役でもある。

 感情よりも実を優先させる聡明さは持っていた。


「・・仕方ねえ、確かに今の俺たちじゃパシリくらいしかできねぇな・・」

「お願いします、石化はまだしも毒傷は時間が立てば取り返しが付きません・・」


 石化はあくまで石になった状態、治癒アイテム『石砕きノミ』で元に戻せる。

 しかし毒傷の行き着く先は『死』だ、そうなっては手遅れなのだ。

「チッ、分かったよ!後で使用料の請求なんかすんじゃねえぞ!」

 そう言ってガルスは残りの兵士二人、更には怯えて動けなかった冒険者も引き連れて道具屋『サザナミ』へと向かった。

 動けなかった連中も戦闘で無いなら何とか動けるようだ。

 そんな状況を『反逆の闇』はまたニヤニヤと嘲笑を浮かべて見ていた。


「君一人で私とやり合うつもりかい? まあ、確かに確立はそっちが高いけどね・・」

 フードを取ったにも関わらず相変わらず顔は全く分からない、それ所か素性も攻略法もなにもかも。

 だが、ただ一つだけランドに分かる事があった。

「・・さすがにその格好は趣味が悪すぎますよ?」


 それからしばらくの間、ランドは善戦した。

 いて欲しくない所にいる道具、その効果で相手が優位である事は変わらないが、その事がランドの中で一つの攻撃目標になっていたのだ。

 つまり自分にとってイヤな所に必ず現れると思っていればいいのだ。


 背後がガラ空きだと思えば背後、足元がヤバイと思えば足元、繰り出した技の隙だと思った場所に“いる”のだから。


 オマケにもう一つの事にも気が付いていた。

 ランドが今までに加えた攻撃はゆうに百を超えたが、人間であったら致命傷になりそうな攻撃を幾度も繰り返している。

 最初の内は『舐められている』と思ったが、ここに至るまでの相手の動きが余りに素人臭いのだ。

 そもそも『反逆の闇』が行った攻撃は“不意を突く”“操る”“腕を振り回す”それだけである。 

 防御に関しては受身すら“取れていない”。


「・・貴方は武術の経験などは、さほどありませんね?」

「・・・・・・・」

 沈黙はそのまま正解の返答、ランドの言葉に『反逆の闇』は途端に不機嫌な顔になった。

「・・だから・・どうしたと言うのかな? 実質苦労して武術を身につけたであろう戦士どもは、私の前で何も出来ずに無様に転がっている」

 まるで見せ付けるようにアクセサリーの類をジャラジャラ鳴らして両手を広げた。


「魔道具、それさえあれば武術など無用の長物!」

「・・・・・・・」

 何やらランドは自分でも珍しい事に目の前の人物に嫌悪感を抱いた。

「すなわち・・」

「すなわち優れた魔道具を手にした自分は最強だ・・そう言いたい訳ですか・・」

 反逆の闇は自分が言おうとした事をそのまま当てられてムッとする。


「・・なにやら気に入らないようだね、道具屋の店長さん」

「ええ、多少ですが・・」

 ランドは確信した。

 人知を逸した能力と暴力を駆使して蹂躙する目の前の男は戦いに関して“魔道具に全て頼った”素人だ。

 戦いに対する誇りも何も無い、あるのは享楽のみ、言ってみれば便利な道具を手に入れていい気になっているだけ。

 遊びで虫を殺す子供となんら変わりが無い。

『反逆の闇』の言葉は武術を使う者として、そして道具屋としても看過でき無い事だ。


「・・外道・・どころか『幼稚』ですね・・・」

 ランドは睨みを利かせて再び構えを取る、幸いな事にまだ息は上がっていない。

 体格的にスマートなランドではあるが、見た目よりも遥かに体力がある。

 おまけに最小の動きで対戦する技術に長けている事で恐らく、まだ20~30分は戦い続けられると自己分析する。

 だが、『反逆の闇』は再び嫌らしく笑った。

「くくく、そう言えば今までもいたな~、君のように観察力に優れた戦士が私を『幼稚』と称した事が・・」

「・・・・・何が言いたいのですか?」

「いやいや、大抵そう言う輩は『時間稼ぎ』を買って出る事が多かったな~って・・」

「!! だったらどうだと?」


 ランドにとって時間稼ぎがバレている事は予想の範囲内である。

 そもそもあからさまにさっきエリィがこの場を離れているのだ。

 予想されて然るべきである。

 ランドはその事を踏まえても自分がある程度の時間稼ぎを出来る自信があった。

 現に『反逆の闇』の攻撃は素人戦法で、不意さえ突かれなければかわせるレベルだ。


 では、なぜ今その事を言う?


 ランドはとてつもない嫌な予感に見舞われた。

「いやあ、今までもね、君のような達人であれば私を倒す事は出来なくとも時間を稼ぐ事は出来た輩はいたのさ・・」

『反逆の闇』はそう言いつつ、右腕の『嫌悪の空間』を突き出してこちらに見せる。

「この腕輪、『嫌悪の空間』の事を何処まで知っているのかな?」

「・・・対峙した相手が一番嫌だと思う場所に『存在する』魔道具、そう聞いてますが」

 反逆の闇はランドの答えに更に笑みを強めた。


「そうそう、正解だ。でも、本当に全て分かっているのかな?」

「・・・・・・」

『なんだ?何か見落としてるのか?』

 ランドは『反逆の闇』の言い回しに嫌な予感がする。


「くくく、そんな目をしなくても良い。私は紳士だからね、全部答えてあげるさ」

「?」

 魔道具の特性は言うなれば切り札だ、バレていない事があるなら手の内を不用意に晒す必要はないはずである。むしろ自らに不利となる情報だ。


『今度こそ舐められているのか?』

 ランドの脳裏のそんな“楽観論”が浮かんでしまう。

「ます射程距離だが、だいたい20メートルかな?余り遠距離は動く事ができない」

『情報の開示、戦う相手に自分が不利になる情報を流すのは馬鹿のする事』

「そして実際の機能だが、対戦相手の思考を自動で読み取って、その者が“最もいて欲しくない”場所に送ってくれる」

『相手が馬鹿でないのなら何のためだ?』

「戦闘中であるなら本能的に『ココから攻められたら嫌だな』と思う場所に・・」

「戦闘中なら?」

 ランドは『反逆の闇』の持って回った言い回しに“気が付いてしまった”。


『わざわざ情報を開示する理由は『自分にとって有利に働く事』に決まっている!』


 射程距離を知り、思考を読んで『相手の一番いて欲しくない場所』に送る、そんな情報のせいでランドは反射的に考えてしまった。


 射程距離内で最も『反逆の闇』に“いて欲しくない場所”を。


「そう・・・・“そこだ”・・」

「!! しまった!」

 眼前から掻き消える『反逆の闇』に構わず、ランドは後方にある武器屋の扉を慌てて開け放った。

「店長!?」

「ランド君?」

 そこには護衛の為にリリィと一緒にいてもらったバイトのインガと、突然入ってきたランドに驚く妹と共に逃走しようとしているエリィの姿、の後方上空で右手の爪を振りかぶる『反逆の闇』の下卑た笑い顔が見えた。

 エリィはまだ気が付いていない、間に合わない。


「クソオオオ!間に合ええええ!」


 判断した瞬間、ランドは迷い無く一足飛びにエリィと『反逆の闇』の間に体をねじこんだ。

 次の瞬間、肩から横腹に掛けて激痛が走る。


「ガアアアアアア!」

「!! ランド君!」

 ランドの叫びにエリィは初めて自分が襲われそうであった事、そして自分がかばわれた事に気が付いた。慌てて自分が首に巻いていたタオルでランドの傷口を押さえる。

 だが出血よりも傷口から広がっていく青い色の侵食が深刻であった。

 ドンドンとランドの全身にに焼け付くような痛みが広がっていく。


「グアアアアアアアア!」

「ランド君! しっかりして! 暴れちゃいけない!」

「ほほう、流石に足が速いな店長、君なら間に合うって信じていたよ?」

 目の前の惨状が楽しくて仕方ないようで『反逆の闇』は高らかに笑っていた。


『蟲毒爪』の毒のせいでドンドンとランドの意識は薄れて行く。

「く・・してやられました・・まさかこんな方法で・・・」

「光栄に思ってくれて良いぞ? この方法は相手が『達人』でなくては使わない。いかに君が達人で観察に長けているかの証明だよ?」

「なるほど・・・確かに・・・外道だ・・あなたは・・・・・」

「ランド君!」

「店長!」

「ランドさん!」

 ランドの意識は『反逆の闇』の高笑いを最後に途絶えた。



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