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魔人の正体

「ランド君!」

 ランドは『反逆の闇』に向かって構える。

 姿勢は低く自然体、どこから来るのか分からない相手に合わせた前後左右何処からでも対応できる型である

 そんなランドに『反逆の闇』は小ばかにしたように笑った。


「・・他の連中と違って戦士っぽくないなぁ、魔力が高い訳でも無さそうだし・・・よ!!」

 そう言葉を切ると『反逆の闇』は一瞬でランドの前に“いた”。

 だがランドは振り下ろされる右腕を前進してかわす。

「お?」

 更にそのまま袖を掴んで石畳に脳天から垂直に叩き付けた。

 ガコッと重たい音が辺り一面に響き渡る。


「さすがランド君!」

 そばにいたエリィが歓声を上げる。

 しかしその彼女をランドは手で制した。


「まだですエリィさん、このくらいは全く効いていません!」

「え?」


 そうすると脳天を叩きつけられ倒れた『反逆の闇』から笑い声が聞こえた。


「くくく・・ほお、判断が正確で早いな・・道具屋の店長さんだったか?」

「・・・・・・」

「今回は少し楽しめそうだな・・・」

 そう言うと『反逆の闇』はランドの上空に“いた”。

 そのまま爪を振りかぶる『反逆の闇』、しかしランドは振り回してくる爪を今度はバックスッテップでかわし、今度は上段蹴りを顔面に叩き込む。


「ぶお!」

『反逆の闇』は形容し難い音を出して吹っ飛ぶ。

だがランドが『入ったか』と思った矢先、今度は真横に“いた”。


「やあ」

 気が付いた時『反逆の闇』の顔が見えそうになる。


「まずい!」

 いきなりそこにいた事で反射的に“見そうになった自分”をランドは無理やり上体をそらす事で“視線”をそらす。

 おかげで視線の外で何かが光った事は分かったが、“何か”は見ずにすんだ。


「おお、さすがに『石化の眼光』はかわすか・・」

「さすがに何度も拝見しましたから・・ね!」

「ごぶお!」


 ランドは言いながら無理やり捻った上体を更に下半身まで巻き込んで回転、『反逆の闇』の後頭部にあびせ蹴りをくらわせ、『反逆の闇』はもんどり打って石畳の上を転がり倒れた。


「よっしゃ! いいぞランドさん!」

 駐在のノールや他の無事な連中が歓声を上げる。


 しかしエリィは気が付いていた、ランドの表情がドンドン曇って行っているのを・・。


「ランド君、どうかしたの?押しているように見えるのに・・」

 エリィの疑問にランドは警戒を解かず、汗を拭って答えた。

「手応えが全くありません・・・」

「え・・・」

「何度投げても当てても、まるで布団でも叩いている気分です・・」

 ランドの返答にエリィも蒼白となる。

 ある程度武術を仕える者には理解できるのだ、それが“致命的”である事が。


 達人の中には確かに攻撃を体捌きでしのいで敵を空回りさせる技法も存在する。

 しかしこの『反逆の闇』に限ってはそんな技法など使ってもいない、それどころか見た限り武術的な動きをしている様子もないのだ。

 にもかかわらず手応えが無いと言う事は・・


「・・物理的な力で倒せる類じゃありません・・」


 そのランドの答えは絶望的なもの、つまり現状の戦力ではどうしようもないと言う事だ。


『エリィさん、エリィさん・・』

 ランドは極力声を抑えてエリィに耳打ちをする。

『・・・なによ』

『普通物理的な力が通用しない場合、魔法か聖剣で攻撃するのが一般的ですよね?』

『・・その通りよ、その場合は大概実体が無く精神だけの存在のゴーストなんかだけど』

『・・聖剣が効かないって事は魔法も効果が無いと仮定した方が良さそうです・・』

『・・・・・・・』

『それに恐らくですが彼はゴーストの類ではありません』

『え!?どうしてそんな事が・・』

 エリィが『分かるのか?』を言う前にランドは自分の手を差し出した。

『そうだったら、僕は掴めませんし投げれません。なのにさっき“掴んで投げました”』

『あ!!』

 本来精神体であるゴーストに物理攻撃が効かないのは、そもそも“接触が出来ない”のが前提だ。水や空気を手で掴めない様に。


 ただそうなると別の疑問がある。

『・・じゃあ何で武器は“喰われる”のよ!?』


 そう、物理攻撃が効き目が無くても『素手』が良くて『武器』がダメという理屈が立たないのだ。

『武器って概念がどう影響しているのかは分かりません、ですが僕らは何か根本的なミスをしている気がします』

『根本的なミス・・・だって?』

『はい、何かが“足りないのか”もしくは“間違っているのか”・・』

 エリィはランドの分析に眩暈を覚えた。

 今現在その強敵と目の前で対峙しているのに根本的なミスがあったなど取り返しがつかない。

 そんなエリィにランドは真剣な面持ちで言った。


『いずれ今議論している時間はありません、ここは何とか僕らで時間を稼ぎますからエリィさんはリリィちゃんを連れて逃げて下さい』

『!!』

 エリィは反射的に反論しそうになるが、ランドの真剣な目と妹の名前にグッと口を噤む。

『石化や毒傷は道具で治せます、でもリリィちゃんがさらわれたら終わりです!』

『ランド君・・』

 不安そうなエリィにランドは努めて明るく笑って見せた。

『僕なら心配要りません、生き残るくらいならこなして見せますよ』


「相談は終わったかな?」

「「!!」」

声は耳元でした。


 またしても倒れていると思われた『反逆の闇』は唐突にランドたちの背後に“いた”。

ランドは振り向きもせずに声のした方向に裏拳を放つ。


「ゴブ!」

 妙な声が聞こえた後方にまたしても何かが光った気がした。


「エリィさん、早く!」

「・・・・死ぬんじゃないよ、ランド君!」

 歯を食いしばってエリィは建物に向かって駆け出した。


 ランドが後方を確認してみると既にそこには誰もいない。

 代わりに『反逆の闇』は自分の正面に何事も無かったようにいた。


 ランドは今の敵の行動である程度の予想を立てていた。

『僕は単純に攻撃の反応が遅れるから“見てから攻撃”をしなかっただけだが、二回も同じタイミングで石化の眼光を使った。石化に関しては、あくまで相手の目を“正面”から“直視”させようとしている・・・つまり・・』

 ランドは瞬時に考えをまとめて現在まだ動ける仲間に駐在兵士のノールがいる事を確認して指示を飛ばした。


「ノールさん、それに他の皆も『正面』から『眼』を見てはいけない!」

「・・おや?気が付いたかね・・」

『反逆の闇』は驚くよりもむしろ嬉しそうに呟く。

 改めてランドが周囲を見渡してみると、無事なのは兵士が3人、冒険者が5人の自分を抜いて8名。

 だが使える人員の内訳は4人だった。

 なぜなら冒険者の4人が恐怖に震えて動けなくなっているのだ。


 命の掛かった戦いでの圧倒的な戦力を目の当たりにしたのだから当然ではあるが・・。

 実質戦力はノールを含めた兵士3人と禿頭の戦士が一人のみだった。


 ランドはその4人に向けて自分が今まで収集した情報を告げる。

「石化は一回につき一人ずつ、しかも正面からの条件付、じゃなければ現れた時点で全員石化しています」

「・・・なるほど・・な・・」

 ノールは頷きつつもあのやり取りだけでそこまで分析したランドに感心していた。

 しかしランドが気が付いたのは戦力の分析ではない、もっと本質的な事だった。


「毒傷は右手に仕込んだ掻爪、魅了については分かりませんけどこの人、魔族や吸血鬼じゃない!」

「は? 何を言って・・」

「・・この人は『魔道具使い』ですよ」

「・・・・・・・・・」


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