決別の依頼
「え?本当にあのミノマイさん?」
「はい、そうです・・」
その姿にランドとエリィだけでなく、駐在兵士のノールを始めとしたこの町の住人たちはド肝を抜かれていた。
悪趣味の象徴、あいつの真似だけは絶対するなと言われ、巷では見かけたらその日は不幸になると言う都市伝説まであった人物、それが大多数のサンライトの住人たちのミノマイに対する共通の認識であった。
それが現在は色合い的には暗い地味な修道服に身を包んで、髪を短く切りそろえ、勿論装飾品も化粧すらしていない。何処からどう見ても敬虔な修道士そのものの姿である。
余りの変貌にエリィは驚きを隠せずに放心したまま口を開いた。
「な・・何の用だい?・・今更ランド君へのお礼参りか何かか?」
そんなあやふやな質問にミノマイは座り込んだままだが力一杯首を振った。
「とんでもございません! あなた方には、特にランド様にはその節では大変ご迷惑をおかけして・・そればかりかご温情まで戴き・・恩こそあれど、仇討つ意思など微塵もございません!」
・・・ますます全員の目が点になる。
改心した者に対してこの反応は若干失礼ではあるのだが、それも仕方が無い。
数ヶ月前まで町民をゴミ扱いしていた男がいきなり『ランド様』である。
豹変にもほどがある。
「まあ・・・立てますか? 腰抜かしたまま話をするのも余り格好良くありませんし・・」
それからしばらくの間、ミノマイのここ数ヶ月の苦悩が語られた。
最初のうちは今までの彼の所業を知っている事で『本当にコイツ改心したのか?』と疑問を持っている者もいて、エリィもそんな感じだったのだが、聞いているうちに段々と痛々しくて聞いていられなくなってきていた。
「教会に入ってから昨日久しぶりに実家に戻ったのですが・・」
「はあ・・」
「今改めて以前の自分の私物を見てみると、当時の自分がいったい何を考えていたのか全く検討が付かないのです・・」
「・・・・・・例えば?」
「・・・やたらと原色を使い、装飾の多いゴテゴテギラギラした服をかっこいいと思い込んで鏡の前でポーズを取っていたり、全部の指に太い指輪をはめて得意げになったり・・思い出すだけで顔から火が出そうで・・吐き気がして・・・」
苦しそうに語る彼に呼応するかのように周囲で頭を抱えている男性諸君がちらほらと、どうも何か身に覚えがあるようだ。
「・・極めつけは自分専用の馬車・・・、いったいあの時の私は何が良いと思っていたのか・・・。町民たちが馬車を見ているのを『うらやましいだろ?』と得意げになれていた事が信じられません。皆『バカバシャ』を奇異の目で見ていただけなのに・・」
ついにはその場でさめざめと泣き始めてしまった。
別に過去趣味が悪かった事がどうと言うことではない。
だが、彼にとってそれらは『過去の自分の象徴』である。罪深く傲慢であった頃の・・。
『良心』を手に入れた今、それらは精神的に彼を追い詰める物証となってしまったのだ。
そんなミノマイの肩をしゃがみこんだランドはポンポンと優しく叩いた。
「そんなものですよ、マイブームは。覚めちゃうと何だったんだ? って思いますもんね」
過去の悪行を『マイブーム』で括ってしまうランドにミノマイが顔を上げた。
「・・アンタは不幸な事にその年まで覚める切欠が無かっただけさ。あの事件のお陰で眼を覚ますことが出来た・・・それでいいんじゃない?」
前回初めて会った時とは違う優しげな口調でエリィも話す。
「アタシもね~、一時期製作した武器と必殺技の名前を考える事に終始していた頃があったのよね~。今となっては意味不明だわ・・」
「へえ~ちなみにどんな名前だったんですか?」
ドサクサにランドはエリィに探りを入れて見る。
「ん~~やったらと『栄光』とか『英雄』をとかを名前の頭に付けて見たり、どう考えても長ったらしい必殺技を名前だけ考えて、実際の技を全く考えていなかったり・・・・ってこら、言わせんな」
そんなランドとエリィの掛け合いに辺りで笑いが起こる。
そのお陰かミノマイは幾分か気持ちが軽くなったようで、ようやく立ち上がった。
「すみません・・またご温情をいただいてしまって・・」
そう言ってミノマイは両手で剣を握りなおした。
「実は今日は・・その・・武器屋の店長さんに御用がございまして・・」
「アタシ?」
ミノマイは自らを指差すエリィに持っている剣を差し出した。
「この剣を・・貴方に処分していただきたいのです」
「は? このキンピカを?」
差し出された剣は松明の弱い明かりにもギラギラと輝いていた。
「・・この剣は私の愚かさの象徴です。虚栄心で作り上げ、ランド様の助言を傲慢に聞く耳持たず、挙句に他者を傷つけてしまった・・」
エリィはスッと眼を細めた。
『自らの過去に対するケジメって所か・・』
エリィは一息吐くと職人の顔で答えた。
「分かったよミノマイさん。アンタのケジメ・・アタシがきっちり付けてやるよ」
「! ありがとうございます」
エリィにケジメと言われたミノマイは初めて笑顔を見せた。彼女が自分の心情をも理解して仕事を受けてくれた事が理解できたからであった。
しかしその時、異変が生じた。
エリィがミノマイから剣を受け取ろうとした瞬間、急にミノマイが剣を抜いたのだ。
「え?」
余りの対応の違いにエリィは反応が遅れた。
袈裟状にミノマイの剣がエリィに振り下ろされる。
『避けきれない!』エリィが思った瞬間、その間に割り込んだランドがミノマイの右肘に掌底を入れて剣を弾き飛ばし、更にそのまま投げ飛ばした。
しかし地面に叩きつけられてもミノマイは即座に立ち上がった。
「がああああああああ!」
奇声を上げるその姿はさっきとは最早別人、目の焦点も合っていない。
「な、何なの?やっぱりお礼参り?」
尻餅を付いたエリィが素っ頓狂な事を言っていると、後ろからブランの切羽詰った声が飛んできた。
「バカ! 魅了魔法だ! その兄ちゃんは操られている! 道具屋! 気付薬を!」
「ハイ!」
言われたランドは腰に付けた布袋から一つまみの粉を摘んでミノマイの顔に投げつける。
途端にミノマイは奇声を止めて崩れ落ちた。
ランドとエリィは緊張を新たに辺りを見回す。
「ブランさん!魅了魔法が使われたって事は!?」
「ああ・・・」
体格の良い戦士であるブランが歯を食いしばり、大量の汗を拭った。
「おいでなすったぜ・・・魔人が・・・・」
予備知識があった事で予め人員の全てに気付薬を服用させている。
その為魅了魔法は効き難い。
唯一防衛の人員でないミノマイのみ操られた事で効果が照明される形となった。




