強面のジレンマ
おっちゃんでもねんどろいどを可愛いと思って良いと思う。
道具屋の客層は大まかに言って二種類に分けられる。一つは地元住民、言わずと知れたサンライトの町民の方々だ、昔から馴染みで気心知れている人たちもいる。
先ほどの客層はこの部類に分ける事が出来るだろう。
ではもう一つはと言うと、それは『旅人』である。
この町は都市と都市のほぼ中間地点に存在している事もあって、強力な魔物が比較的大人しい日中の時間帯に、旅人が立ち寄るのだ。
馬車などで荷物を運ぶ商人も武器を携えた傭兵たちも基本は同じ、安全面を考慮すると魔物に対する備えは重要になってくる。
同じ理由から武器屋もそんな客層が多い。
端的に言うと『余所者』相手に商売する機会が多くなるのだ。
当然腕っ節の良さそうな輩も利用する訳で・・
「おう、ここは道具屋か!?」
禿げ上がった頭にドスの効いた目付きと口調、丸太と表現しても遜色ないような腕周り、足回り。バトルアックスを軽々と担いだ屈強な男が来店した。
そんな客にもランドは変わらぬ営業スマイルで対応する。
「いらっしゃいませ、道具屋サザナミへようこそ」
「そうか!それなら薬草を各種揃えてくれ、気付け、毒消し、傷用とか・・」
普通に注文しているだけなのに妙な迫力が出てしまうお客さん。
しかしランドも昨日今日道具屋を始めた訳ではない。この手のお客さんは慣れっこだし、何よりもお金を払うお客さんに怖いか、そうでないかなどは関係がない。
そしてそんなランドだからこそ気が付く事もある。
屈強な男の視線がさっきからチラチラとカウンターの横に陳列している手作り動物クッキーに注がれている事に。
屈強、ゴツイ、厳つい、傭兵・職業戦士としては良い事なのだが、いかんせんこういった連中にとっては『可愛い』は禁句に近い。
別に良いじゃないかと思わなくもないが、彼らにとって、これらを購入する事はプライドに関わる重大事なのだ。
だからと言って嫌いではない。案外こういった連中こそ可愛い物に目が無かったりする。
可愛らしいクッキーに目が行くのはある意味仕方が無いのだ。
ランドはそんな男の心情を敏感に感じ取り、申し訳無さそうな笑顔を作って見せる
「お客様、大変申し訳ありませんが・・薬草はセット料金になっておりまして、こちらのクッキーも同時に購入頂く事になっているのですが・・・」
屈強な男は目を丸くする。あくまで『店の都合』でクッキーが付いて来るという逃げ道を準備したのだ。
渡りに船とばかりに男は曖昧に笑う。
「お・・・おお、そうか、じゃあ仕方ねえな!勝手に入れてくれ」
「すみません、選んで頂いてもよろしいですか?」
「ちっ!しょうがねえな・・・じゃあ、そのクマさ・・・熊と猫と・・リスの奴を・・」
「はい、ありがとうございます!」
クマさんと男が言いかけた事は勿論無視、聞いていないフリが礼儀な事は分かっている。
商品を抱えて退店する男が「また来るぜ・・」と少々恥ずかしげに言った。
こんな細かい気遣いでこの店は旅人たちにも好評でリピーターも多い。
「う~ん、今度は妖精さんとか作ってみるか?」
そういう連中のツボを分かっている店長は新製品の構想を考えていた。