怨敵の正体は?
それから空欄の刻印が埋まるまで、つまり2日間、リリィを守る為の準備は経験者であるブランを主軸として突貫で行われた。
その中には彼の仲間である禿頭の戦士を始め、多くの冒険者連中が協力を申し出たのだった。
総勢は20人以上にも上り、さらに駐在兵士もノールを始めたとした多くの者が協力してくれたのだった。
「もっと人数が必要ではないか」との意見も当然上がった。
なにしろ前回は約50人以上の傭兵が集められても惨敗したのだから当然の意見ではあるのだが、それについては経験者のブランが否定した。
「前回の事件での死亡者の大多数は、実は同士討ちによるものだったんだ」
「同士討ち?つまり仲間割れですか?」
「ああ、どうも奴は多数の人間を操る『魅了魔法』か何かを使えるらしい」
魅了魔法、野生のモンスターは大概外敵から逃げる為に本能的に使うらしいが、高位の魔物になると何千人の軍隊すら操り国を滅ぼしたなんて逸話すらある。
更にブランは衝撃的な事実を続けた。
「あと俺は奴に何とか一太刀浴びせたんだけど・・コレを見てくれ」
ブランが腰から取り出したのは一振りの長剣、高そうではないのだが使い込まれた風貌のいわゆる『使いやすそうな剣』である。
しかし鞘から抜くと武器に関して一番目端の利くエリィが息を飲んだ。
その剣は中央部の辺りで折れていたのだ。
「ひどいね・・鋼鉄製の剣が・・」
「いえランド君、ひどいのはそこじゃない・・」
折れている事に驚いたランドだったが、エリィは折れた剣を手に持って刀身を眺めて一筋の冷や汗を流した。
「どうやったらこうなるの? この剣・・折れてない・・・喰われてる」
「は? 喰われた?」
エリィが何を言っているのかランドには分からない、しかしブランは唸った。
「さすがは専門家、刀身を見ただけで分かるか・・」
「・・まあね、硬い物を叩いて折れたなら・・もっと鋭利で綺麗な折れ方をしているはず、でもこの剣の折れ方は・・・」
「・・・うわ・・」
エリィに示された件の断面を見てみると、確かにその折れ方は綺麗ではない。何か歪んだような断面、蝋が熱で溶かされたような状態であった。
その断面を見ながらエリィは顔をしかめる。
「前に一度だけ見た事がある、高位の魔族とかだとダメージを与えようとした武器の方が溶け消える。それが魔力によって『溶解』されたのか、あるいはもっと違う方法で『分解』されたのかは分からないけど、あたしらは総称して『喰われた』と表現している」
ランドはゴクリと喉を鳴らした。
「なんか・・ますます『吸血鬼』っぽいような・・」
「・・・というか、ほぼ間違いないでしょうね。生き血を狙う、普通の武器が通用しない、魅了の魔法が使える、全部高位魔族吸血鬼の特徴だ」
エリィの断定にブランは悔しそうに呻いた。
「くそ!やっぱりそうだったか・・あの時事前に吸血鬼と分かっていれば・・」
「嘆いても仕方ないよブランさん、分かっていても手強い相手だ。今回事前情報があったおかげで特定が出来たんだから・・」
「・・・・・・」
「そのおかげで今回はやりようがある。私にとっては『家族を守る』戦いだけど、あんたにとっては『弔い合戦』なんだろ?」
エリィの言葉は『自分は自分の為にアンタの最悪の過去を利用する、その代わりアンタはアンタで自分らを利用しろ』という乱暴だが、それでも彼女なりの労わりもあった。
「・・そうだな、確かにそうだ!奴はあの娘の仇だ!ぜってえブッ殺してやる!」
「頼むよ、そうすればリリィも守る事が出来るんだから」
「ああ、任せな!そうとなれば準備と行こうぜ!」
「・・相手が吸血鬼だとすると・・・必要なのは武器を『聖剣』にする為の『聖水』と魅了魔法を打ち破る為の『気付薬』だな・・」
エリィは頭の中で必要な物資をまとめてランドに指示を出した。
「ランド君、大量の気付薬を仕入れて! 領収書はウチの店に付けてくれればいいから!」
「わ・・分かりました」
そこまで言うと「良し!次は聖水だ、教会に行くぞ!」と勢い込んでエリィはブランと共に樽を持って出て行った。
恐らくその樽に聖水を入れてくるつもりなのだろう。
確かに古来より高位の魔族、特に吸血鬼ダメージを与える為に剣に聖水を掛けて『聖剣』とするやり方が一般的だ、高位魔族の対策としては間違ってはいない。
だかランドはこの時、根本的な事に疑問を感じていた。
後にランドは激しく後悔する事となる。
『あの時の勘を大事にしておくべきであった』と。
「・・てか、本当に敵は吸血鬼?」




