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過ちの代償

『改心する』この言葉に悪い印象を持つ者は少ないだろう。

 過去の自らの行いを悔い改め、今後の人生を賭けて償う。


 しかし他人にとっては良い事ばかりでも、本人にとっては大事件になりうる。


 なにしろ希薄だった良心が芽生えた事で、今までの自分を自分で否定するようなモノだ。

 それは酔いが冷めるのに少し似ている。

 想像してみて欲しい、泥酔してやらかした記憶が鮮明に残っている状態の朝を。

 そんな感じで今までの自分の醜さ、愚かさ、格好悪さの全てを急に自覚したら?

 今まさにそんな状態の男が一人、夜の教会の聖堂で佇んでいた。

 

「・・・また君か・・ミスターミノマイ・・」


 月光に晒される男に初老の神父は声を掛けた。

 男は生気の無い目で振り返る。


「・・・すみません・・神父様・・、なかなか寝付けなくて・・」

 その男ミノマイは数ヶ月前、町で起こったある事件の為に今までの生活の全てを失った。

 その後は父の計らいもあって、町の教会に見習い修道士として厄介になっているのだ。

 今後神父を目指すとかではなく、更生目的であるが・・。


 領事長の父の目的の通り、周囲の反応を他所に彼の更生は順調に進んでいる。

 しかし、若干『順調過ぎる』事が彼に弊害をもたらしていた。


 今までの自分、『傲慢』と言う名の酒に溺れていた彼は、数ヶ月前の事件で平民であるランドに助けられた事で、アイデンティティの崩壊と共に酔いから覚めた。


 一度覚めてしまうと、今までの自分がやっていた事の全てが『何が良くて』やっていたのかさっぱり分からない。

 そこからはひたすらに後悔の連続である。

 精神的な変化は余り急速に進むのは宜しくない、『更生』なら尚更だ。


 経験上神父はこんな連中を何回か相手にした事があるが、このような急速に反省、後悔をする者は、とにかく極端に行動に出てしまう事が多い事を知っている。


 手にした良心の呵責に耐え切れず、最悪自害にいたるケースすらあるのだ。

 神父は数日ミノマイが夜になると聖堂の十字架の前でただ立っていて祈りも捧げていない事に危険を感じていた。


「・・・・・ミスターミノマイ・・まだ懺悔する気にはならないのかね?」

 それは神父が、ここ最近毎晩言っている事だった。


 自らの罪を告白して神に許しを請う懺悔、教会には懺悔室なんかもあるのに、過去を悔やむミノマイは、まだ一度も利用した事が無い。

 それは十字架に向かって祈らないのと同じ理由からだった。


「・・・神は全てを許してくれる・・・そう神父様は言われました・・」

「・・・その通りだ・・」

「だから私は・・・許されてはいけないんです・・」

「・・・・・・まだ自分自身を許す気にはなれないか・・」

「・・・・・・・・」

 無言はそのまま肯定になる。

 今夜もミノマイは、ただただ十字架を眺めて突っ立っていた。



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