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サンライト日記 ~呪いのアイテムに愛された異世界道具屋~  作者: カタリ
二品目 目覚める殺戮の剣
19/55

昨夜の調査は恥辱の極み 武器屋編

「お姉ちゃん大丈夫?」

 妹リリィは隣をフラフラと歩く姉を気遣い声を掛けた。


 先ほど酒場でミリンから昨夜の自分の所業を聞いてからずっとこうなのである。

 エリィは顔から火が出る思いであった。


「うう~、まさか昨夜の私がそんな恥ずかしい事をランド君にしていたなんて・・」

「まあいいじゃない、話だと『おあいこ』だったみたいだし」

「!! それがもっと問題なの!」


 自分がランドの肩に寄りかかって甘えていただけでも大変なのに。

 さらにランドに“イイコイイコ”されてたとか・・はっきり言ってエリィの許容範囲を大幅に超えていた。

 残念ながら業務中だったミリンは遠巻きに見ていたせいで会話の全容は分からなかったらしい。

 だがエリィはある意味ホッとしていた。


『これで万が一、自分が人前で甘えた声をランド君に出してたとしたら・・・』エリィの脳裏に安心したようにランドに寄りかかる自分、「しょうがないな」とクシャクシャと頭を撫でてくれるランドの姿が浮かび上がって慌てて首を振った。


「ああ、もう!」

 一方、姉の奇行がおかしくて仕方ないリリィはさっきから笑いっぱなしである。


「あはははは!お姉ちゃん、結構まんざらでもないんじゃ?」

「それ以上言わない! 次行くよ、次!」

 何とか妄想を振り払って次の目的地を目指す事にした。


 昨夜に自分とランドの間に何があったのか。

 妄想が膨らみすぎて最終的に「私は旅に出る」と身支度を始めたエリィを何とか宥めたリリィ。

 二人はとにかく昨日の即席を洗ってみる事にしたのだ。


 酒場でのミリンの証言では『そう言えば“川辺で花見して飲む”とか言ってたな・・』との事である。

 そんな訳で現在、武器屋姉妹はサンライト町のど真ん中を流れる河川、その中でもこの時期桜が満開になる並木道を歩いていた。

 並木道はこの時期花見客目当ての屋台が立ち並ぶ。

 各々の屋台が独特な良い匂いを当たり一面に漂わせている。

 そんな中、姉妹が近付くと焼きソバの屋台から威勢の良い声が掛かった。


「よう、武器屋シスターズ! 姉ちゃんの相方は“今日は”妹の方かい」


 軽口をたたくのは酒場に息子ショーユ、ミリンの実の兄でこの季節には出店して屋台をやるのが年中行事になっているのだ。


 そんな威勢の良い兄ちゃんの胸倉に鉄板を挟んでエリィは掴みかかった。


「おわあ!なんだなんだ!」

「“今日は?”今日はってどういう事!?」


 目を血走らせ顔を真っ赤にして詰め寄るエリィにショーユは戸惑って妹に助けを求める。

「うおおおい!お宅の姉ちゃんどうしちゃったんだよ!?」

「ちょっと・・人生の岐路に立たされてまして・・」

 困ったように頬を掻きつつリリィは状況説明をする。

 そうすると胸倉をつかまれたまま、ショーユは「ははあ~~ん」としたり顔でエリィを見た。


「なるほど、昨日のはそういう事か・・」

「! 何か知っているのか!!」

 勢い込んで聞くエリィにショーユは「ん」と鉄板の上でジュージュー音を立てている焼きそばを小手で示した。

「50G、お買い上げありがとうございます・・」

「・・・・」

 胸倉を掴まれたまま、ふてぶてしく笑うショーユ。

 それが何を意味しているのか分からない程エリィもお子様ではない。

「く・・・」

 エリィは懐から財布を取り出して焼きソバを一皿購入した。


証言②焼きソバ屋台・ショーユ


「昨夜は夜中まで屋台で焼きソバ売ってたけどな?」

 ショーユは喋りながらも鉄板の上で新たな焼きソバを作っている。

 その手付きは慣れたもので、無理やり買わされたとは言え、エリィも味について文句は無い。


「日が落ちてから大分たってたな・・・・夕刻の鐘が鳴った頃(午後九時)かな? 君とランド君が向こうの方から歩いて来たんだよ、腕を組んで・・」


 ブウッ エリィは堪らずに焼きソバを吐き出した。

 とっさに鉄板に向けない辺りはさすがに彼女も客商売をやっているだけはある。


「う、腕を組んで?」

「ん? おお、なんだい、そんな事も覚えてねーの?」

 ショーユの疑問にエリィは顔から湯気を出して頷く。


 腕を組んで往来を歩く、そんなの行くとこまで行かないと麻痺しない、いわゆるバカップルの行動その物だ。

『アタシ・・そんな恥ずかしい事してたの?』エリィは頭を抱えた。

「ん~分かり易く言うとだ・・・・リリィちゃん」

「はい?」

「ちょっと姉ちゃんと腕を組んでみて?」

「ん?はい・・」


 急に振られても言う通りにリリィはエリィの腕に自分の腕を絡ませてみる。

 しかしショーユは首を振った。

「違う違う、そうじゃなくて両腕を使って・・・・そうそう!」


 指示通りに動くリリィにエリィの体温はドンドン上昇して行く。

 両腕を使って腕を組む、それは普通に組むよりも更に体を密着させる必要がある。

 妹が今やっているコレは“昨日の自分の実演”だ。


「う・・・ええ?」

「んで、リリィちゃん、そこから顔を見上げて目を潤ませて・・・」

 更なるショーユからの指示、エリィはそこで限界であった。

 腕に絡まる妹を無理やり引き剥がした。


「きゃ!」

「ウソでしょ! ウソよね! ねえウソって言って! お願い!」

 再びショーユの胸倉を掴んでガックンガックン揺するエリィ。

「そう、そう、そう言われても、実際見た事実だし・・」

「うきゃあああああああ!」

 耐え切れずに今度は地面を転がりだすエリィ、普段は目にする事の無いエリィの奇行にショーユも驚いていた。


「なんか意外だったな、エリィさんがこうなるとは・・ちょっとおもろい・・」

「でしょお?」

 そんな姉を妹は終始ニヤニヤしながら見ていた。

 一頻り転げまわってから、どうにかこっちの世界に帰って来たエリィは全身土ぼこりで汚れながら再度ショーユに詰め寄る。


「はあ、はあ、それから・・・どうなったの?」

 息を切らせて聞くエリィ、しかし対するショーユは冷静に鉄板を示した。

「お買い上げ・・・」

「ほら50G、いいから続き!」

焼きソバの追加を要請するショーユに対して高速で金を出して続きを促すエリィ、彼女の中に最早余裕など無かった。


「歩いてきた二人はあそこのベンチ、ほら今白髪の爺さんが座ってるあそこ・・」

 小手で示す先には確かに年配の男性が荷物を置いて日向ぼっこをしていた。

「あそこに二人して座ったんだよ、屋台でビール買った後に・・」

「・・・・」

「ん~やっぱり実演した方が早いか・・・二人とも、ちょっとそこのベンチに座りなよ」

 そう言ってショーユは自分たちの近くにある空のベンチに姉妹を促す。もうこの時点でエリィはバリバリに嫌な予感がする。

「・・・まだ何かある訳?」

「なんか・・・ってか、ああリリィちゃんは右隣に座って・・」

 ショーユの指示でリリィはエリィの右隣に腰を下ろした。

「そんでエリィさん、リリィちゃんの肩を持って・・」

「はあ!?」

「ほら、お姉ちゃん・・」

 硬直するエリィだがリリィに促されて、妹の肩を抱きすくめる。

「うん、それでリリィちゃん、姉ちゃんの胸に両手を添えて・・んで顔を見上げて・・」

「んがああああああ!」


 エリィはその時点で堪らずに立ち上がった。


「マジで! マジでアタシそんな事をしたわけ!」


 エリィは最早泣きそうである・・・ってか既に少々涙目だ。


 そんなエリィにショーユは困ったように頭を掻いた。

「この程度でこの反応とは・・・」

 その言葉を聞いて興奮するエリィは動きをピタリと止めた。


『何?今の奥歯に挟まったような言い方・・・』

“この程度”確かにショーユは今そう言った。

 そんな表現はどういった時に使うだろうか?

 程度が低いと判断した時に使うんじゃないか?・・・であるならば・・・・。

「待って・・まさかそれ以上の何かがあった・・・とか?」

「ん!? いや、別にそんな・・・」

 言い淀むショーユの反応でエリィは確証を得た。

「あったのね! 何! 何があったっての!?」

「ん~~、え~~~っと・・・」

「ほら50G! なんなら2~3皿買えばいいの!?」

 最早強要せずとも焼きソバを買うエリィ、彼女の必死さにショーユも根負けした。


「分かった分かった、教えるよ。あったって言うか、聞いたんだけどな・・」

「聞いた?私たちの会話を?」

「ああ、ぶっちゃけ君らの行動が気になって、店ほっぽって横からこっそり覗いてた」

「・・・・・本来ぶっ飛ばすとこだけど、まあいい、それで?」

「そしたらランドさんが『冷えてきましたね・・・』って、んで君が『ん、でもランド君あったかい・・・』って、こう・・彼に体を預けて・・・」

「ばふうう!」

 

 ショーユの寄りかかるような仕草に再びエリィの頭から蒸気が上がった。


「それからランドさんが『でも、そろそろ家帰らないと風邪引きます』って言うと『・・うん、でもまだ離れたくないな・・』って」

「ああああああああ!」

 エリィはもう何が何やら分からなくなって頭を掻き毟る。

 長い綺麗な赤髪がグシャグシャだ。


「そんで『なら、僕の家に来る?』って・・・」


 ピタッ・・・ 頭を抱えたエリィがそのまま硬直した。


「・・・・・・・・ランド君から誘ったの?」

 向こうを向いて顔が見えないエリィは消え入りそうな声で聞く。


「うん、間違いなく。そして君も『うん・・』って」

「・・・・・オッケーしちゃったの?・・・・私?」

「うん、ちょっと迷ってたみたいだけどな・・・・」


 横で聞いていたリリィは口元を押さえて真っ赤になっていた。

「おお~、ランドさんもお姉ちゃんもヤルゥ~~~」

「ったくよ~、今月は俺賭けてなかったんだよな~。ちくしょう、負けたって思って・・・あれ?エリィさん? そんな格好でどこに?」


 急に冷静(を装って)に立ち上がったエリィは、いったい何処から取り出したのか大荷物を背中に背負っていた。


「リリィ、私旅に出るわ・・・。自分という人間を見つめ直す旅に・・・。多分、もう会う事も無いでしょう・・お店の事……お願いね……」

 真剣な顔で町を出て行こうとする姉に妹は後ろからしがみ付いた。


「コラコラコラ! 結果も出て無いのに逃げんじゃないの!」

「放して! 彼からだなんて! 彼から誘われただなんて! それを覚えていないなんて、私!もうダメ! もうランド君を見れない! 町を出るうううう!」


 店の前でワーワー騒ぎ出す姉妹には、いつの間にか人だかりが出来ていた。

 それを他所にショーユは再び焼きソバ調理を始めた。

「青春だねぇ~」

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