早朝の衝撃 武器屋編
武器屋ソードアイランドは本日休業である。
店を切り盛りする姉妹の姉の方、エリィは昨日夜相当飲んだらしく、昼近くになっても起きる事が出来なかった。
「お姉ちゃーーん!いい加減起きてよーーーーー!」
無遠慮に姉の部屋に侵入した妹リリィは姉を思いっきり揺り起こしに掛かる。
「う~~~~~休みなんだから勘弁して~~~~」
本日絶賛二日酔い中の姉は死にそうな声を絞り出した。
「だ~め!昨日は何処に行ってたのか朝帰りだったし、着替えもしないで寝ちゃうし、それに『魔鉱炉』は自分が見なきゃダメだって言ってたでしょ!」
「う~~~~~」
布団から顔だけ出した姉の顔は真っ青である。
具合が悪いのは一目瞭然だ。
「・・・アタシ・・・いつごろ帰ってきた?」
姉の言葉に妹はきょとんとする。
「覚えてないの? 外が少し明るくなってきたな~って時にランドさんに送られて帰ってきたんだけど?」
「・・・・ランド君に?」
エリィは昨日の記憶を思い出してみる。
確かに彼とは酒場で一緒に飲んでいたのだが・・。
「あ~ダメ、酒場で飲んでた事しか思い出せない・・・」
「もーしっかりしてよ?幾らなんでもそれじゃ色気無さ過ぎよ、お姉ちゃん・・」
「・・・・うっさいわね・・」
妹の言う事は身に染みて分かっている。
町中の人が『男勝り』だの『女を感じない』など不名誉な称号で自分を呼ぶのだから。
しかし、どうしても鍛冶という仕事上どうしてもオシャレなど女性らしい行動を煩わしくなっていく自分がいて、今さら女らしくというのが性に合わないのも事実なのだ。
このままで良いとは自分でも思ってはいないのだが。
「・・・ほんと、女扱いしてくれるの・・・ランド君だけね・・・」
ふらつく頭でも昨日の彼を思い出してちょっと暖かい気持ちになる。
透けて見えたシャツに驚き、不可抗力で見てしまった下着を「見てません!」と慌てて目を逸らす姿。
なんとなーく彼を思い出すと『ちょっとオシャレ頑張ってみようかな?』と思えてくるから不思議だ。
「・・いい加減起きてよね、朝ごはん片付かないから・・」
そう言って妹はパタパタと部屋を出て行った。
「・・・・・不出来な姉で申し訳ない・・」
誰もいないのに呟くエリィ。
さすがに起きなければいけないと思い立ち、布団を勢いよくはがす。勢いをつけないと起きれる気がしなかったからだ。
だがエリィは布団のから現れた自分の姿に絶句した。
「・・・・え? 何コレ・・・・」
普段の彼女はシャツにショーツのみという中々扇情的な格好で寝ている。
『どうせ一人だから』って考えでの格好なのだが、あくまで下着は女性物である。
断じて男性物を好んで履くような習性はない。
にもかかわらず、現在の彼女は明らかな男物、通称柄パンを履いていた。
慌てていつもの衣類に着替えて『それ』を広げてみる。
「な・・・何で男物はいてんの? アタシ・・?」
男物の下着を広げる女性、案外犯罪行為に見えないのは男女の差であろうか?
エリィはマジマジ見ていると刺繍されている名前を見つけて真っ赤になった。
「ラ!ラインフォード!」
それは昨夜一緒に飲んでいた道具屋さんの店長の正式な実名・・・。
「何で?何でアタシ、ランド君のパンツを?」
少しでも冷静になろうと机のメモ用紙に鉛筆で書き出してみる。
ケース1 拾った場合 この場合は自分に落ち度は無い。
正直本人に返すのが恥ずかしいが、その位であれば大した事は無い。洗って帰せば済む事だ。
ケース2 彼の家から持って来た場合 女として、人として終わっている。
しかしまだそれなら何も起こっていない。被害は物の損失だけだろう。
しかし冷静に考えれば考えるほどエリィは顔を赤くして行く。
ケース1,2では説明が出来ない事があるのだ。
「・・そもそも私がランド君のパンツを履いていた説明にはならないのよね・・」
ケース3・・・・・震える手でそこまで書き出した瞬間、ポンポンと後ろから肩を叩かれてビクッとする。
そこにはいつの間に再び部屋に入ってきたのか、ランランと瞳を輝かせる妹リリィが立っていた。
「な・・何?・・リリィ・・」
「ついにやったね!お姉ちゃん!」
「!!!!!!!!!!!!!!」
躊躇っていた結論をド直球で言われてエリィは激高する。
「ナナナナナナナナ!何!何を!」
リリィは「うふ」と実に楽しそうな笑顔を浮かべて、姉が取り落とした鉛筆を拾い、メモ用紙に続きを勝手に書き足す。
「ケース3 ついに二人は情熱的に肉体を・・」
「わあああああああああ!」
姉はそれ以上の執筆を全力で止めた。
「あ~これでランドさんが私のお兄ちゃんか~」
「リリィ!ちょっと待って!ちょっと落ち着こう!」
誰がどう見ても落ち着いていないのは姉の方だ。
妹の方はひたすら嬉しそうである。
「まままま、まだそうと決まった訳じゃないでしょ!? 私が彼の下着を履いていたってだけなんだし!!」
否定材料を言う姉を妹は含みのある笑顔で見た。
「え~?お姉ちゃん、別に男の下着を履く趣味は無いでしょ~」
「・・・趣味って・・」
「そ・れ・に・・」
妹は姉の眉間に指を突きつけた。
「幾ら男勝りって言っても、何にも感じてない男の下着を履くと思う? 自分でも」
「う・・・・・」
妹の言葉は感情論だが正論だ。
確かに自分でも知らない男が使った下着を使うなどありえない、想像だけでも鳥肌が立つ。
恐らく死んでもやらない行為だ。
だけど、もし彼の下着だったら・・・・・。
エリィは何故か真っ赤になって手にある下着を握り締めてしまう。
「それに昨日はいてた方は何処行ったの?」
「!確かに、そう言えば!」
慌てて洗濯籠から部屋の引き出しやらをひっくり返して探してみる。
しかし当然のように見つからない。
エリィも、もう分かっていた。
今この場に無くて、自分が彼の下着を履いていたのなら・・。
「ランドさんのパンツをはいてたんだから、お姉ちゃんの下着は当然ランドさんが知っているはずよね~。履けなくなる位汚れる事が昨夜は・・・・」
「言うな~~~!それ以上言わないで!」
段々言う事が生々しくなっていく妹は何処までも楽しそうである。
エリィの二日酔いは既に吹っ飛んでいた。
*
「ランドさーん、リリィでーす・・、いないのかな?」
道具屋サザナミの裏口、店住まいのランドの生活扉は基本こっち側だ。
店の方は本日休業休業中なのでこちらから尋ねた訳だが。
武器屋姉妹は事実確認の為に直接道具屋を訪れたのだが、リリィは後ろを見て溜息を付いてしまう。
「お姉ちゃん・・何してんの?」
呼ばれたエリィはと言うと、少し離れた塀の陰からチラチラと覗き込んでいる。
明らかに不審者の動きである。
「だってさ・・」
「なによ?」
「仮に・・もし仮によ? 昨晩・・ごにょごにょな事が起こっていたとしたら・・いったいどんな顔でランド君に会えばいいのよ」
そう言う姉の顔は真っ赤っ赤、湯気まで出して目が泳いでいた。
気風が良い、男勝りでカッコイイ、男よりも女の子に人気がある、そんな事を言われている彼女であるが、この手の事にはまるで免疫が無かったりする。
たまにランドに対してしていたおふざけも彼女にとっては一種のポーズだったのだ。
そんな姉の仕草が段々面白くなってきた妹はニンマリ笑った。
「どんな顔って、いいじゃないどんな顔でも。昨夜一番恥ずかしい顔を見られたなら・・」
「!!!!」
「もうこの際、責任取って貰えばぁ~?」
「!!!!!せ・・責任?」
エリィの脳裏に一瞬ウエディングドレスの自分の手を引くタキシード姿のランドが浮かぶ。
幸せそうな自分に彼が顔を近づけたシーンで慌てて首を振った。
「ダメダメダメ! ランド君みたいに良い男がアタシみたいなガサツな女は絶対ダメ! もっと家庭的で可愛い女性じゃないと!」
必死に否定する姉の言葉の中にある本音が見え隠れしてリリィは更に笑みを強めた。
『へえ~、“良い男”ね』




