早朝の衝撃 道具屋編
「あ~頭痛い・・・」
本日は日曜日、道具屋サザナミは休日である。
職人街の店は基本的に食堂以外はほぼ休みだ。
その為週に一回土曜日には職人街の連中は酒が多くなる傾向が強い。
ランドもいつものようにカウンターに座っていたエリィと昨夜は一緒に飲んでいたのだが。
「う~ん?酒場でエリィさんと飲んでいた辺りから覚えてないな・・何時帰ってきたんだろう?」
見事に昨夜の記憶を失っていた。
ランドは動く度に痛む頭を抱えながら、『顔を洗ってすっきりしよう』と洗面所に向かう。
水瓶から汲んだ朝の水は冷たい。
しかし二日酔いでぼんやりはっきりしない頭には都合が良く、一気に眠気と一緒にモヤモヤした感じを吹き飛ばしてくれる。
「ふー、冷たい!」
ランドは目を閉じたまま、いつもタオルを下げている所を手探りで探る。
だがタオルが無い、『あ~そうか、昨日洗濯したんだ』昨日洗濯していた事をその時になって思い出した。
何か無いか?と全身をまさぐっていると、ポケットの中に布らしき何かが指に触れた。
『あ!ハンカチがあった、ラッキー!』
さっそくランドは『それ』で顔を拭う。
しかし拭いている内に何かおかしい事に気が付いた。
ハンカチにしては形状がおかしい。
一枚の布状ではなく折り重なって縫いとめられている。
おまけに大きさの違う穴が3つ。
目を開けたランドは手に持っているそれを見て固まった。
ハンカチなどでは断じてない、水色縞々の女物の下着であった。
「・・・カ・・・・コ・・・・・キカ・・・コ・・・コレハ・・・・」
全身の汗腺から冷や汗がダラダラと流れ出し、昨日の二日酔いが一気に抜けて行く。
「何で?何でこんな物を僕は持っているんだ?」
両手で広げた女性下着をマジマジと見る、俯瞰で見ると相当アレな光景ではあるが・・。
そして見ている内にある事実に思い至った。
『この下着・・・見覚えがある・・・』
それは昨日の記憶、呪いの剣のせい(おかげ?)でズボンのベルトを切ってしまって見てしまったアレ、「見てません!」と言いつつ脳裏に焼き付いてしまった記憶・・。
「エリィさんの・・・・下着だ・・・・」
自分の発言で完全に思考停止、硬直どころか石化したような気分に陥る。
ランドは恐慌状態になりそうな自分を命一杯押さえつけて、油の切れたブリキのようにギシギシと部屋に戻ってノートを広げた。
「まて・・・落ち着いて考えてみよう・・冷静に分析してみよう・・・」
ランドは自分に言い聞かせてペンを取る。
ケース1 落し物を拾った場合 この場合は僕に何ら落ち度は無い。本人に返す際に色々大変だけど、そのくらいなら大丈夫だ。
ケース2 彼女の家から持った来た場合 人として終わっている、酔った勢いで彼女の家に忍び込んで失敬したとしたら・・・。
だがそれなら自分が自首すれば良い。
犯罪者の汚名を着ても自分のやらかした事、被害が物だけならまだマシだ。
ノートに書き記す事は自分が罪を償う所まで想定している。
先日の指輪の件でも分かると思われるが、彼はバカ正直な好青年だ。
罪を誤魔化したりする事はどうしても出来ない。
だがそこまで冷静に自分の罪状まで考えて分析しているとドンドンと彼の表情は青ざめて行った。
冷静に考えれば考えるほど、ケース1,2では説明できない事が出てくる。
「・・今持っている『コレ』はエリィさんが昨日はいていた物だ。拾った、盗んだじゃ説明が付かない。昨日一緒に飲んでいた女性の昨日はいてた下着を持っている理由・・・」
ランドのペンを持つ手が震える。
ケース3・・・・・・ランドが手元が定まらない状態でそこまで書いた時、後ろからポンポンと肩を叩かれてビクッとする。
慌てて振り向くとそこにいたのは指輪の化身、バイトのインガ君、彼は含みのある笑顔で言った。
「ヤッちゃったね、店長・・・」
「!!!!!!!!!!!!」
躊躇っていた結論をド直球に言われてランドは激高する。
「な!ななな!なにをおおお!」
興奮するランドを前にインガ君は冷静である。
姿かたちは少年に見えるが、誕生から二百年は経過している。
人生経験ではランドより遥かに上だ。
「落ち着きなって、お互いに大人の男と女なんだしよ・・・」
「いいい!いいいや!でも!」
「それよりも問題は・・・・」
ミリンはランドが取り落としたノートを拾い上げてケース3の続きを書き足す。
ケース3 事が起こっていた場合α 互いに合意の上
ミリンは書いた文字をペンでポンポンと叩いて示す。
「この場合は何の問題も無い、お付き合いするでも責任取るでもお好きにどうぞ・・って感じだね。あとは店長次第・・」
「せ・・責任・・・・」
ランドの脳裏に一気に純白のウエディングドレスを着たエリィと町の教会で式を挙げて祝福される姿が思い浮かんだ。
「・・・披露宴はやるべきか?いや・・・・」
「その気じゃん」
普通の男なら『責任』の言葉で引いてしまいそうなものだが、真っ赤になりつつも意外と乗り気なランド君、この一瞬で日取りまで考えてしまう。
「問題なのは・・・」
インガが今度はケース3βと銘打って続きを記入する。その字を読んでランドの顔面は赤から一気に青に変色した。
ケース3 事が起こっていた場合β 無理やりだった場合
「む・・無理やり・・・」
「可能性が無いとはいえないんじゃないの?昨日の記憶があれば別だけど・・・」
それが無いから今多いに悩んでいるのだ。
ランドは頭を振って何とか記憶を呼び覚まそうとしてみる。
しかし酒場で一緒に飲んでいた記憶しかない。
仮に、もしも仮に自分が酔った勢いで知り合いの女性を手篭めにしていたとすれば・・
ランドの脳裏に今度は先ほどとは真逆な妄想が浮かんでくる。
『やれやれ・・ようやく潰れたか・・』
現在彼女は薄暗い部屋のベットに横になっている。
恐らく自分では自由に動けないだろう。
酒に強い彼女をこの状態にするのに相当量のアルコールを勧めた。
付き合って飲んでいるのだから自分も相当回っているが、それはまあ仕方が無い。
ほんのり赤くなって少し苦しそうに唸るその姿はシャツとスカートが少しはだけていて、普段男勝りとか言われているとは思えないほど色っぽい。
作業の邪魔だからと巻いているさらし、当然今も巻いている。
ごくりと生唾を飲み込むとおもむろに部屋に準備していた鋏でシャツとさらしを切り裂いて行く。
酔っているせいか手元がおぼつかないのだが、自分の呼吸がドンドン荒くなっていくのが分かる。
「・・・・止めて・・・・だめ・・・・・ランド君・・・」
どうやら少しは意識があるようだ。
自分がこれからどうなるのか・・そのくらいの思考は働いているよう、しかし抵抗する力はないようだ。
何故だろうか・・名前を呼ばれて止めるよう懇願されているのに、止める気が全くしない。
むしろドンドンと興奮が加速していくのが分かる。
邪魔な布を全て切り裂くと弾ける様に飛び出した2つの双球、それは予想通りの、いや予想以上の大きさと艶かしさ。
目にした瞬間に自分の中で何かが切れた。
最早何も考えずに、彼女に飛び掛かっていた。
「ダメ・・・・それだけは・・・・」
「何を言っている!男と差しで飲んだんだ、お前も期待してたんだろ!?」
「そんな・・・いや・・・あああああ・・・・・」
「さ・・・最低だ・・・僕は何て最低な男なんだ・・」
必要の無いリアルな『自分が強姦を働いた妄想』をして落胆する。
すっかり自分が犯罪者だと信じ込んでしまったランド君はフラフラと台所に向かう。
心配になってインガが後から付いて行くと、そこには首筋にナイフを付きたてようとするランド店長の姿、慌ててインガはランドの腕を掴んだ。
「放すんだインガ君!エリィさんにした僕の所業は死んで詫びるしか!」
「まてーーーー!店長!あくまで俺の予想とあんたの妄想だって!」
「彼女の下着を僕が持っているのが何よりもの証拠だろう!」
「だとしても、まだαの可能性もあるだろうが!」
「何を言う!エリィさんのような素敵な女性が僕なんかに目もくれるわけないだろ!」
混乱するランドはこの時自分の本音が零れた事に気が付いていなかった。




