アルバイト雇いました
結局ミノマイの罪状は『家宅侵入』のみとなった。
一週間の禁固刑となったのだが、エリィ曰く「ぬるすぎる」だそうだ。
町民の中には『極刑を着せようとしたのだから相応の罰を』との声もあったのだが、止めたのはやはりランドであった。
「もう十分罰を受けているようですし、これ以上の不幸が彼に降りかかるのを見るのは僕にとっても不幸ですよ」と。
当のミノマイはと言うと、自分が上に立っている幻想が崩れ去り、自分が虐げているつもりだった者に汚名を着せようとしてなお慈悲を掛けられた事で、今まで持ってたプライドやエゴがズタズタになったようで、連行の際は一切の表情が無くなっていた。
だが、連行の際にはランドに向かって「申し訳ありませんでした」と弱弱しく言っていたのが印象的であった。
そしてその日の夜、件の指輪は再びランドの手元にあった。
駐在の兵士曰く「落し物じゃ無いのだから君が責任持つべきだ」なんだそうだ。
「どうしたもんかな・・・・」
ランドはカウンターに肘を付いて指輪をコロコロ転がして唸っていた。
「不幸の指輪・・・かどうかは置いといても、高価な指輪である事には変わりないし・・」
ランドにとって『高価』である事は町の道具屋としては良い事ではない、むしろ扱い辛いジャンルになってしまう。
この期に及んで所有権を主張しない彼に『指輪』はいいかげん呆れ返っていた。
「・・正確な名前は不幸の指輪じゃなくて『因果の指輪』だがな・・」
「うわ!」
急に光りながら指輪が話し出してランドは飛び退いて驚いた。
「ゆゆ・・指輪がしゃべった!」
「フー、呪いの掛かった品が横行する世だ。意思を宿し言葉を発する品があっても不思議ではないだろう?」
「・・・いや、喋る一品を扱った事無いですから・・」
大仰な名前の割りに饒舌に話して来る指輪にランドは面食らっていた。
「でも因果って事は、もしかして『因果応報』の?」
「ああ、その通りだ。俺は所有した者の因果を回すのみ、あの貴族も『指輪を手にしたから不幸が訪れた』と思っていたようだ、そしてこれまで指輪を所有したものは皆同じ事を思い、憎悪と共に指輪を他者へと譲渡して来た・・」
「そうでは無い・・と?」
「・・あの貴族の小僧は元々働いていた悪事が多かった、フィアンセに婚約を解消されたのもそれが原因だし、単位を落した事やギャンブルに負けた事など自業自得以外何物でもあるまい?」
「あ~はは、まあ確かにね・・」
「剣の不具合についての君の忠告を『所詮町民の言う事』と無視した事も大きい。悪事を働いた者にそのツケが早く回ってくる・・それだけの事さ・・」
確かに『目釘を直せ』と言われているのに直さなかったも本人のせいだ。
偶然起こった不幸ではない。
「でも、何でそんな事をするんですか?」
「ん?」
「人の因果は勝手に巡るもの、なら早めなくてもそのうち勝手に起こるんでしょ?」
呪いのアイテムに直接『何で』と質問する人間も珍しい。最も呪いのアイテムである指輪が話しかけていること事態珍しいのだが。
指輪は少し考え(たように見える)語りだした。
「何で・・と言われてもな。俺が発生したのは大体200年は昔の事、その時の俺はただの指輪として、婚約指輪として女性に渡された物だった」
「へえ~不幸どころか幸せの象徴だったんだ・・」
「まあな、だけどそのカップルは何か理不尽な理由で引き裂かれる事になったと思う」
指輪の言い回しが妙である事にランドは気が付いた。
「何か・・って分かんないの?自分が生まれた原因なのに?」
「ああ、俺はどうやらその二人の憎悪の結晶らしい。本当なら結ばれて愛の結晶を生み出したかっただろうがな・・・皮肉なものだ」
「・・・・・・」
「恐らく俺は二人の憎悪の対象に報いを受けさせる為に生まれたのだろうよ・・」
「なるほど・・ね」
自分の事なのに他人事のように言う指輪にランドは何を言って良いのか分からなくなる。
「逆に聞いても良いか?」
「うん?何ですか?」
「何故あのバカ貴族を助けた?」
指輪の光り方が変わったわけではないが、口調で何やら納得が行かない様子は感じ取れた。
「言った通り俺は因果を回すだけ、奴に降りかかった不幸はまさに自業自得。それなのに最後の因果は君の助力によって無かった事になってしまった」
実際には減刑されたのだが、それでも指輪にとって昼間の出来事は不思議な事だった。
「なぜだ?あそこで君が助けなくても誰も何も言わない。むしろ余計な事とすら思われそうであるのに・・・・」
指輪にそう言われると、ランドは真面目な顔になって立ち上がり、窓の外を眺める。
「・・もう何年前になるかな?僕も盗みを働いていた・・」
「は?」
「僕は天涯孤独でね、親の顔も知らない。子供の時には他人の物を盗む事以外食べる術を知らなかったんですよ」
「・・・・・・」
指輪は驚いていた。
まさかこの人の良さそうな店長の過去が浮浪児であったとは。
ランドもこの事を話す顔を見られたくないようで、こちらを見ないように店の隅を指差す。
「その辺りですね、空腹に耐えかねた僕はこの道具屋に盗みに入りました」
「ここに?」
「その辺で盗んだパンに噛り付いている所で前店長に捕まりました」
「・・・・・・・・」
「僕はいよいよ『終わりだ』と思いました。兵士に突き出されて『養成所』送りになると」
「・・養成所・・か」
この国の浮浪児を収容する施設である『養成所』は『浮浪児の更生』と聞こえの良い謳い文句で設立されたが、実際は入ったら最後『8割は成人まで生きられない』で有名だ。
浮浪児一人を収容する度に国から助成金が出るのだが、本人の更生に使われずに私腹を肥やす輩が後を絶たない。
オマケに浮浪児であった事から『収容前に掛かっていた病気のせいで死んだ』として処理しても疑われない。
実際の最大の死因は『餓死』なのだが。
悪名高い領事であると、親のいる子供をさらってまで浮浪児に仕立てる事件まである。
「でも、そんな感じで怯える僕に店長は言ったんだ『食っちまった物はしかたねえ、働いて返しな!』ってね・・。兵士に突き出さないのか? って聞いたら『そんな事してもウチの売り上げにはならんだろ』だってさ」
「・・豪快な店長だこと・・」
指輪がそう言うとようやくランドは顔を上げた。
いつもの笑顔である。
「でも、僕にとっては救いだったんだ。悪いのは盗みを働いた自分、それこそ『因果応報』、それでもあの人は僕を許し、助けてくれた」
「・・・・・」
ランドはそう言うとカウンターの椅子に再び座りなおした。
「僕は人に助けて貰わなきゃ今まで生きて来れなかった、そしてこれからも生きて行けないと思う。そんな情けない人間が『悪人を許さない』何てカッコいい事言えませんよ、それこそ精神的に持たない」
あの時にミノマイを助けたのはあくまで自分の為、ランドは笑顔でそう言い切った。
『不思議な男だ。『指輪』を所有しない事も、自分に害なす者を自分の為と許す事も、200年人間を見て来たが、こんな奴は初めてだな・・』
そうしていると指輪は一際輝きを増して辺りを白一色に塗りつぶした。
「うわあ!」
ランドが堪らず目を瞑ると指輪は一つの提案をした。
「・・店長、一つお願いがあるのだが・・・」
*
「ランドさーん、また二日酔いの薬ちょうだーい」
カランと扉の鐘を鳴らしながらリリィが入ってきた。
どうやらまた姉の方は絶賛二日酔いのようである。
「いらっしゃいませー」
「おや?」
リリィ派は予想とは違う声に驚いて店の奥に目をやる。そこには緑掛かった髪に青い目の12~13才くらいに見える男の子がランドの隣で皿を拭いていた。
「ランドさん、その子は?」
リリィの質問に男の子は自分から頭を下げた。
「初めまして、僕はインガと言います。店長の親戚で、今日からココでバイトする事になりました。宜しくお願いします」
少年はまるで宝石のような青い目を輝かせ、営業スマイルで迎えてくれた。




