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サンライト日記 ~呪いのアイテムに愛された異世界道具屋~  作者: カタリ
一品目 因果応報の指輪
11/55

日頃の行い

なんだ・・・と?」

 振り返ったミノマイは絶句した。

 そこには数百人に渡る町民たちが殺気だった目で自分たちを取り囲んでいたのだから。

 話は数分前、領事長親子の登場に不穏な空気を感じ取ったリリィは一目散に姉に伝達。

 そこから姉妹は電光石火の如く町中に連絡網をしき、話を聞いた町民が皆集まって来た。

 そしてそれは町民だけではない、町に立ち寄った旅人、冒険者の連中もいた。

 サザナミでクッキーを買った禿げ上がった筋骨隆々の男も睨みを利かせている。

 先頭に立つのは勿論エリィ、リリィの姉妹だ。

 本日のエリィは木の棒ではなく、愛用の大槌を持っていた。

「領事長さん・・細かい事は分からんが、この道具屋がシロなのはあたしら町のもんが一番良く知っている事だ」

「何だ貴様! 町人風情が・・」

「テメーは黙ってろ!!」

 エリィの迫力は凄まじく歴戦の冒険者たちも怯むほどだった。

 当然温室育ちのボンボン貴族に太刀打ちできる訳もない。

 「ひい!」

 短い悲鳴を上げてミノマイは馬車の陰に隠れてしまった。

「その指輪、そいつをランド君が売るつもりも無かった事はあたしら町の者みんなが、店に来た者ならみんな聞いている。『買い取った物じゃないから自分の物じゃない、だから売る事はできない』ってな! お前も聞いたはずだろうが!」

 言われたミノマイはビクつき、町の人々はこぞって頷いた。

 そうこうしていると駐在の中年兵士が台帳を持って領事長の前に歩み出た。

「領事長、これはここ数ヶ月の出来事を記述した報告書です。ご覧いただければ分かる通り、彼は半月ほど前に駐在所に訪れて拾得物としてその指輪を届けようとしていました。もっとも、本人の意思で置いて行った物を落し物とは言わないと追い返しましたが・・」

報告書には確かにその出来事が記入されている。

兵士長のサインまで入った正式なものだ。

 領事長が報告書を見ていると今度は宝石商の旦那も出てくる。

「私は彼の宝石を鑑定いたしました。買取を提案したのですが・・断られてしまいました。いやいや、数千万は出すって言ったんですけどねぇ」

 旦那は笑いながら頬をかいた。

 その後も町人たちの声は広がっていく。

「そうだ! 大体そんなもん、ランドさんが売るもんか!」

「私など見る事も出来ませんでしたよ?」

「俺もだ、売り物じゃないからって・・。コーヒーうまかったからいいけどよ」

「確かにな、サービスのコーヒーは絶品だったな・・」

 口々にランドを弁護する声が上がる。領事長は黙ってその声を聞き、ミノマイは段々と自分が追い詰められている事を実感していた。

 最後に10歳の少女が歩み出た。

「ランド兄ちゃん、お客は大事だって、いつも言ってるよ?」

「な・・・・な・・・」

 純真な子供のまっすぐな瞳、ミノマイは言葉に詰まってしまう。

「だいたいな」

 エリィは地面に大槌を振り下ろしてミノマイを睨み付けた。

「彼が売るつもりも売ったつもりも無い代物を、何でてめぇが今持っていた?」

「う・・・・」

『盗んだから』そんな事実をこんな大衆の前で明かす訳には行かないミノマイは恐慌状態で領事長に向かって叫んだ。

「パパ! こいつら全員共犯だ! 全員で僕を貶めようとしてるんだ! もう全員死刑に・・」

 とんでもない八つ当たりを叫びだすミノマイ、集まった町人たちに殺気が沸き起こる。

 しかし制裁はミノマイも町人も予想しない方向から入った。

「この大馬鹿者!」

「ぐえええ!」

 ゴキッと鈍い音を立ててミノマイの顔面に拳を入れたのは領事長だった。

 町人たちやランドもあっけに取られる中、ミノマイはもんどり打って車輪に激突した。

「パ・・・・パパ・・なにを・・・」

「バカだバカだとは思っていたが、ここまでバカだったとは・・・」

ミノマイが見上げた父親の顔は怒りと情けなさを混同したような何とも言いがたい顔だ。

「最初に話を聞いた時から“何かをやらかした”とは思っていたが、まさか人様の家に盗みに入り、あげくに逆恨みで私を担ぎ出すとは見下げはてるにも程がある!」

領事長は町人たちの証言と息子の言動で大体の事情を理解していた。

領事長はランドと町民たちに向かって深々と頭を下げた。

「町民の皆様、本日は大変申し訳ありませんでした。特にラインフォードさん・・」

「あ・・はい・・」

 当事者なのに未だに状況の把握ができていないランドは曖昧に返事する。

「詳しく事情聴取すればあのバカが何をやらかしたのか明らかにできると思ったので本日は参った次第でしたが、ご迷惑をお掛け致しました」

「はあ・・」

 領事長自身、最初から息子が悪事を働いた事は予想していたようだ。

ランドに謝罪すると報告書を見せた兵士に向き直る。

「あなたは駐在の兵士の方なのですよね?」

「はい、そうですが・・」

「・・窃盗と虚偽による偽証未遂の現行犯だ。なんならさっきの殺人教唆も付けても良い。連れて行ってくれ・・」

「パパ!!」

 ミノマイの表情は更に青くなった。

味方だと思っていた父が自分を犯罪者として兵士へ引き渡すと言っているのだから。

「そんなパパ! 次期領事長の僕が逮捕拘留だなんて・・」

「黙らんか! 領事を何だと心得ている! 領事長とは支配者ではない、領土の民の代表、まとめ役だぞ! 町民だと言って人を見下す者に勤まるものか!」

パニックになるミノマイを領事長は一喝する。

「・・どの道、自分の息子がこんな事件を起こすようでは私は領事を解任されるだろう、次期も何も無い、わが一族の栄光は私の代で終わりなのだ・・」

「・・・・・・・」

 ついにミノマイは声が出せなくなって、ただ口をパクパクと動かしていた。

 事ここに至り、ようやくミノマイは自分のやらかした軽率さを思い知っていた。

 自分が何も見ていなかった事、領事長の息子だからと次期は自分であると思い込み、自分と父が同じ人間だと、味方だと勝手に解釈していたのだから。

 先ほどの中年の兵士を筆頭に2~3人の兵士がミノマイを取り囲んだ。

 ミノマイは力の抜けた表情で抵抗する気力すら最早なくなっていた。

 幽鬼のように周囲を見渡すと、父は怒りながらも悲しげに自分を見ている。

町人たちは大多数が犯罪者に対して『当然の事』と状況を見ている。

 10歳の女の子は痛ましい物を見るように嫌そうな顔をしている。

 それが今の自分と言う存在の全てであった。

 『因果応報・・・自業自得・・・・か・・・』

 ミノマイは散々父親に教えられた言葉を今さらながら身を持って思い知っていた。




「あの~ちょっと待ってもらえますか?」

 町人観衆の下ミノマイが連行されようとしている状況でランドは兵士たちに声を掛けた。

「・・どうしたランドさん」

「あのう・・彼はいったい何をしたんですか?」

「・・・・・・・・」

 周辺一帯に先ほどとは違う間の抜けた静寂が訪れた。

 大多数の人間が、連行されるミノマイですら思ってしまう。

『何言ってるんだ? コイツ?』

 静寂に耐え切れずエリィはランドに歩み寄る。

「聞いていたでしょうがランド君、コイツは君の家に忍び込んで指輪を盗んだの!」

「はあ・・」

「そんで指輪を手に入れてから不幸が起こったからって、今度は腹いせに君に売り付けられたって嘘を言って巻き込もうとしていたの! コイツは!」

 エリィがミノマイを指差して丁寧に説明する。

 しかしランドは困った顔で頬を掻いた。

「でも、確か窃盗って自分の物を他人に取られた場合に発生する罪状ですよね?」

「・・・・それがどうしたのよ」

「何度も言ってますけど、それ、僕の『所有物』じゃありませんよ?」

 目が点になる、エリィもリリィも町民たちも領事長ですら・・・。

「ランド君・・・あんた・・何言ってるの?」

「いやだって、僕の物じゃないのに持って行かれたからって窃盗にはならないんじゃないかなって・・・」

 ランドは手に持った指輪を弄びながら続ける。

「同時にその事について彼が難癖を付けても、彼の『勘違い』でしょ?」

「「「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」」」

 誰もが誰も、彼の言っている事が理解できなかった。

 そして一番理解できないのは主犯であるミノマイ自身である。

「アンタ・・・・いったい何を・・・?」

 ミノマイの口から出たのは戸惑いの言葉であった。

 自宅に盗みに入って、難癖を付けて自分を犯罪者に、更には死罪にまでしようとした者に対して暗にこう言っているのだ。

『大目に見てあげようよ』と。


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