いじわるなお母さん
すると、わたしの部屋にお母さんが入ってきた。
「さやちゃんったら、またメソメソ泣いて。」
「お母さん?」
お母さんはわたしの側に来て…
「あなたは小学生になったんでしょ。幼稚園の卒園式の時に、小学生になったら泣くのをやめるって言ったのはあなたじゃない。それなのに、メソメソ泣いて。」
「だって…。だって…。」
泣きじゃくるわたしに対して、お母さんはしゃがみこんで、わたしの胸の名札を手に取った。
「紗香ちゃんのこの学校の名札はなんのために付いてるの? 小学生になった証だよね。そんなに泣くなら、この名札を幼稚園の名札に変えちゃうぞ。そうすれば、いくらでも泣いててもいいからね。」
「やだよ…。この名札は渡さないから!!」
「じゃあ、泣くのはおしまい。」
「…わかった…。」
しばらくして、わたしは泣くのをやめた。
「もうメソメソと泣かないよう約束できますか?」
「…うん。」
「ハイ、よろしい。」
そう言うと、お母さんはわたしの頭を撫でてきた。
「もう…。いい子いい子はよしてよ。恥ずかしい。」
「あっ、ゴメン。紗香ちゃんはもう小学生だったね。」
「そうだよ! この名札が目に入らないの!?」
わたしはムキになってお母さんに名札を見せた。
「わかってますよ、鷹見小学校1年 いしかわさん。」
「…もう…。」
いじわるなお母さんだ。
「それじゃ、晩御飯ができたら呼ぶからね。」
そう言って、お母さんは部屋から出ていった。
わたしはベッドの上に寝転び、胸の名札をじっと見つめた。
「ホントに小学1年生になったんだな…。」
そうつぶやいた瞬間、ふと疑問に思った。
「そう言えば、さっきのお母さんの姿、朝に見た格好と一緒だったような。しかも、小さくなったわたしの姿を見ても全然驚いてなかったし。」
「それに、わたしも無意識のうちにお母さんと会話してたし。普通、戸惑ってあたふたするはずなのに。」
「あと、お母さんはわたしが泣いてた理由を聞かずに出ていったけど、なんでかな?」
いろいろ疑問が沸いてきたが、考えるのが面倒になってきた。
「まあいいや、諦めて今の生活に慣れるかな。」
そう思い、わたしはベッドの上で目を閉じた。
そして、そのまま眠ってしまった。