お母さんとお買い物2
バスは終点に到着し、席を譲ったおばあさんと別れた。
そして、奥の座席に座っていたお母さんと合流した。
「おばあさんと何を話してたの?」
「さやかの名札を見てね、「お嬢ちゃんは鷹見小?」って言われたの。」
「それで?」
「おばあさんに、「うん。」って言ったら、「やっぱり。孫も鷹見小だから、その名札を見たことがあるよ。」って言われたの。」
「へえ。やっぱり、その名札を見てどこの小学校かわかる人がいるのね。」
「それで、「今度孫に、黄色い名札のいしかわって子に席を譲ってもらったことを話す。」って。」
「完全に紗香ちゃんのこと覚えられちゃったね。」
「まさかだから驚いちゃった。」
すると、お母さんはわたしの目の前にしゃがみこんだ。
「やっぱり、学校の名札を外そうか?」
「なんで?」
「だって、あぶないじゃない。まださっきのおばあさんなら学校・名前が知られても大丈夫だろうけど、怪しい人に知られたら…。」
そう言って、お母さんはわたしの胸の名札を外し始めようとした。
「外さなくていいから。」
わたしは、少し大きな声で叫んだ。
「どうして?」
「だって、今日は1日学校の名札を付けるって決めたんだもん。」
「でも、名札を付けてたら名前が知られちゃうよ。」
「いいもん。付けたいって言ったのはさやかだから。」
「しょうがないわね。」
お母さんはわたしの胸の名札から手を離した。
「それじゃ、名札を付けたままにするからね。」
「はーい♪」
「本当に変わった子なんだから。」
しばらくして、デパートの入り口に到着した。
「さてと、まずは紗香ちゃんの服を見ようか。」
「子供服って何階かな?」
「4階だね。」
「それじゃ、4階に行こ♪」
早速、わたしたちはエスカレーターで4階へ向かった。
4階に到着して、子供服売り場を探し始めた。
だが、探してる最中に急に腹が痛くなってきた。
「お母さん、トイレ行きたくなった…。」
「あら、おなかが痛くなったの?」
「うん…。ちょっと行ってくるね。」
「それじゃ、ここで待ってるからね。」
わたしは、ダッシュでトイレを探し始めた。
しかし、探しても近くでは見つからず、かなり離れた場所まで来てしまった。
「やっと見つけた…。」
なんとか見つけたトイレへ駆け込むが、そこには看板が立っていた。
「トイレ故障のため他の階のトイレをご利用ください、って…。」
なんということだ。
せっかく見つけたトイレなのに、使えないなんて…。
その瞬間、腹痛がピークに達してきた。
「や、やばい…。」
耐えきれないほどの痛みがわたしの腹を突き刺してくる。
「も、もうだめ…。」
結局、耐えられずその場で漏らしてしまった。
「やっ、やっちゃった…。」
その場で立ちすくむわたし。
「お母さんに、怒られる…。ど、どうしよう…。」
しまいに、わたしはその場で泣き出してしまった。
その時、たまたま近くを通り掛かった店員さんがわたしのところまで来てくれた。
「お嬢ちゃん、どうしたの?」
「ふぇっ…。お母さんに…。」
泣いているせいでうまくしゃべれない。
「お母さんに会いたいのかな?」
「ふぇっ…。」
「そう。じゃあ、今から放送でお母さんを呼ぶからね。」
どうやら、店員さんはわたしを迷子と勘違いしてるらしい。
わたしは、違うことを伝えたいのだが、泣いているせいでまともにしゃべれない。
だが、店員さんは店内放送を掛け始めた。
「迷子様のご案内を申し上げます。ピンク色のTシャツに白のスカート、黄色の学校の名札付けた女の子が4階サービスカウンターでお待ちでございます。」
違う、わたしは迷子じゃないのに…。
店員さんの放送後、お母さんがサービスカウンターまでやって来た。
「すいません、たぶんうちの子かと思いますが。」
「お客様、お名前は?」
「石川です。」
「石川様、大丈夫ですね。こちらでお子様がお待ちです。」
そして、10分ぶりのお母さんとの対面。
「紗香ちゃん! なんでトイレに行くだけで迷子になるの?」
「違うよ…。迷子じゃないよ…。」
「違うってどういうことなの?」
わたしは、半泣き状態でお母さんに説明を始めた。
「トイレに行こうとしたら、トイレの入り口に故障の看板が立っていてね。だから、違うトイレに行こうと思ったんだけど…」
「思ったんだけど?」
「我慢できなくて、漏らしちゃったの…。」
「…えっ!?」
「お母さん、漏らして、ごめんなさい…。」
再び泣き始めたわたし。
「迷子じゃなかったのですね。私はてっきりトイレの前で泣いているので、迷子かと思ったのですが。」
「要は、この子がトイレの前で漏らして泣いていたってことみたいです。」
「なるほど。しかしながら、今回はこちらの不手際でお子様に多大なご迷惑をお掛けしましたことを深くお詫び申し上げます。」
「とんでもないです。」
「こちら、お詫びといたしまして…。」
店員さんは、お詫びとしてデパートの商品券をくれた。
「いいんですか?」
「どうぞ、お受け取りください。」
「すいません。」
お母さんは商品券を受け取った。